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暴君ラオ  作者: あーる
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ハチドリ3

 カントの町で3日目の夜、ガルナンがカサゴと会うことが出来たと言ってきた。しかしそれは、ハチドリにとって絶望的な話で終わったようだった。

「カサゴ殿が言うには、すべての長距離船は出航を禁止されて、いつ出せるか分からないとのことでした。何よりもテムチカンの騒動で、北からの船が来ない。今、聖地へ向かうのは無理だと言うことです。」

 ガルナンは申し訳なさそうにそう言った。

「そんな・・・。」

 ハチドリは言葉も出ない。

「ここはテムチカン王都からも近く、警備兵が多く駐在しているとの事です。私のような目立つものはすぐに見つかり、拘束される危険があります。倹約令が出ていて、大道芸も禁止されているようですし、どうもここで商売するのは無理そうですね。

 カサゴ殿はこの町の有力者ですが、表立ってテムチカンに歯向かう事はできない。しかし、裏では王太子ラオ様の支援をしており、彼のために情報を集めているそうです。

 ハチドリ様、我々はこのままではどうすることも出来ません。かくなる上はカサゴ殿に身分を明かし、ラオ様に繋ぎを取ってもらうしかありません。」

 いつも戯けた表情のガルナンが、厳しい顔をしてそう提案してきた。

 

 多分、ここは勇気を持って名乗りを上げるべきなのだろう。しかし、考えるだけで体が震える。

「カサゴと言う男をどこまで信用して良いものか、まだ分からないな。」

 自分でも言い訳でしかないと分かっているが、ついそんなことを言ってしまう。

「そうですか。」

 ガルナンが残念そうにそう言った。もしかしたら呆れられたのかも知れない。他に道は無い事は分かっているが、恐怖が先に立ち動けない。


 決心が付かず3日経った日の事、夜になってもガルナンが帰ってこない。

 ハチドリは不安になりながらも、外へ様子を見に行くことさえ怖いと思った。部屋の中でじっと息を潜めている。

 突然、部屋の扉を強く叩く音がした。

「ここに怪しい奴がいると聞いて来たんだ!早く開けろ!!」

 扉の向こうから怒声が聞こえる。

 ハチドリは恐怖でガタガタ震え、その声に反応することも出来ない。このまま居留守を使っても、力尽くで扉を開けて入って来るだろう。

「僕はもうここまでなのか・・・、ガルナンは逃げ延びてくれるだろうか?」

 そんな絶望が支配する。

 扉を叩く音はますます乱暴に大きくなり、やがて、ハンマーのようなもので扉を破ろうとする音に変わった。それと一緒に「もう逃げられんぞ!」とこちらを威嚇する声も大きくなる。 ハチドリは、寝台の下で頭を抱え小さくなる事しか出来なかった。


 しばらくそのまま動けずにいたが、、ふと外の様子が変わったことに気が付いた。

「なんだ?お前ら!俺たちは王宮の兵士だぞ!!」

 兵士がいきなりそう叫んだかと思うと、外で争うような音がした。

「ここは通させん!」

 ガルナンの叫ぶ声が聞こえた。

「ガルナンが戦っている?」

 ガルナンを援護しなければと、少しだけ勇気を出す。ハチドリは剣を手に恐る恐る扉の方へ向かう。

「ガ、ガルナン、大丈夫か?」

 声が震える。それでも部屋の扉を大きく開いた。

「ハチドリ様!危ない!」

 ガルナンが叫ぶ。その声で何故か冷静になれた。

「僕は大丈夫だ。援護する!。」

 ハチドリはそう言いながら、剣を構えた。当然実戦などしたことは無い。それでも無我夢中で襲って来る連中に斬りかかった。

 

 一人の男が倒れ、他の奴らは逃げて行った。今まで必死で見えていなかったが、ガルナンの他にもう一人男がいた。痩せ型で柔和な顔つきに見えるが、目つきだけがやけに鋭い。服装から言ってテムチカンの人間のようだが、なぜガルナンと一緒にいるのだろう?

「ハチドリ様がご無事で良かった。」

 男は深々と頭を下げながらそう言った。

「僕を誰だかご存知なんですか?」

 旅の間、自分の正体をずっと隠していたので、いきなり名前を呼ばれ警戒する。

「はい、存じ上げております。私はカジキと言いまして、テムチカンの王太子ラオ殿下に仕えている者です。カサゴにガルナン殿を紹介され、逃亡を助けてくれと頼まれました。

 ガルナン殿の名誉のために言っておきますが、私は初めからハチドリ様を存じ上げていました。決して、彼が勝手に貴方様の名前を言ったわけではありません。

 実はラオ殿下が、ジームスカンの宰相クスノキ殿の要請で、ジームスカンへと向かっていたのですが。どうも殿下の到着前にジームスカンにて謀反があったようですね。我々は協力し合えるのでは無いかと、ハチドリ様に会いに来たのですが、まさか襲撃を受けているとは思いませんでした。偶然ですが、間に合ってよかった。」

 カジキは、ホッとした様子でそう言った。

「すみません。僕はジームスカンを出てから、自分でも驚くぐらいに慎重になっています。あなたを信用していいのか判断材料がない。協力し合えるのかどうかよく分からないのです。」

 ハチドリがそう言うと、「結構正直なんですね。警戒されるのはご尤もです。」とカジキが目を丸くしてそう言った。

「ハチドリ様。この方を紹介してくれたカサゴ殿は、とても信頼出来るお方だと思います。その方が親友とも呼べるカジキ殿なら、問題ありません。私は人を見る目だけには自信があります。疑心暗鬼になっているのは仕方ないですが、私を信じていただけませんか?それに、このままでは身動き一つ出来ません。」

 ガルナンの言う事は尤もなのである。ハチドリは自分の臆病さ加減が嫌になる。


 ハチドリは大きな深呼吸を一つして、ガルナンの目をしっかり見つめる。

「分かった。ガルナン、お前を信じる。カジキ殿と言いましたね。僕はラオ殿下とお会いすればいいのですか?」

 カジキに向き直り、決心が付いた事を示した。

 カジキは少し安心したような顔になり、頷いた。

「聖地への船が運行しない今、あなた様が助かる方法はアーギスタンへ行くしかないと思います。失礼ですが、あなた様はあまりにも世間知らず。それに、何があっても負けないと言う気概が感じられません。」

 カジキの言葉に容赦が無い。反論したいが、自分に何の力もない事は自分が分かっている。悔しい気持ちでカジキを睨む。

 カジキは、ハチドリが睨んでいることに気付いたのか、なぜか満足げに頷いた。

「負けず嫌いは悪いことではありませんよ。」

 ニヤリと笑うカジキに、少し恥ずかしくなる。それでも少し落ち着きながらカジキの話を聞くことが出来た。

「ラオ殿下はアーギタスにいるのですね。」

「はい、アーギタス総督で殿下の叔父であるミミズク殿と、今後について話し合っているはずです。」

 カジキはハチドリの少しの変化に、興味を持ったようだ。

「殿下が私に会いたいのは、ジームスカンがテムド王の手に入るのを阻止したい訳ですね。」

 ハチドリは、何となくテムチカンの情勢が見えて来た。


「ハチドリ様、さっきの奴らがまた来るといけません。カジキ殿、どこか隠れるところはないですか?」

 ガルナンが少し焦るようにいて来た。

「そうだ、急がなければ。カサゴの持っている倉庫に一旦隠れる事にしましょう。ハチドリ様には粗末な建物ですみませんが、我慢していただけますか?」

 カジキたちはハチドリを匿ってくれると言う。

「ここに辿り着くまでは野宿さえ経験しました。雨風が凌げるのならありがたい事です。」

 ハチドリは素直に感謝する。

「神経質で気弱な王子と聞いていましたが、なかなか肝の据わったお方じゃないですか。」

 カジキは愉快そうに笑った。そしてすぐに真剣な表情に変わる。

「では急ぎましょう。港のはずれの倉庫なので、少し歩きますが。」

 ハチドリは黙って頷いた。


 案内された倉庫で、カサゴを紹介された。カジキの親友だと聞いていたが、会ってみるとかなりの年寄りで驚く。

「ハチドリと申します。カジキ殿の親友だと聞いていましたが、こんなにお年を召した方だとは・・・すみません、少し驚きました。」

 ハチドリはしどろもどろに、初対面の挨拶を交わす。

「いつ死んでもおかしくない、老ぼれですわい。」

 そう言ってにっこりと笑う姿は、どこから見ても好々爺である。だが、背筋はまっすぐ伸びて、鋭い眼差しをこちらに向けてくる。なるほど、一筋縄ではいかない人物のようだ。

「カサゴは確かにかなりの年齢だが、ここら辺の者は誰も敵わない実力者だ。人の良さそうな顔に騙されると酷い目に遭いますよ。」

 カジキが冗談なのか本気なのか分からない事を言ってくる。ハチドリは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。


「これカジキ、余計なことを言うから、ハチドリ様が怖がっておられるじゃないか。」

 カサゴはジロリとカジキを睨む。カジキは大袈裟に首をすくめ、チラリとこちらに視線を向けニヤリと笑う。

「私がこの港を管理している事は聞いていると思いますがの、私の仕事はそれだけではありませんのじゃ。」

 カサゴが少し真面目な顔をして、自身の本来の役目を教えてくれた。

「確かに表向きは港の管理者でじゃが、本当は私とカジキは先の王ロジュン様の隠密ですのじゃ。陛下は自分が命を狙われていて、それを止める事が出来ないと悟っておったんじゃな。だから、ラオ殿下に未来を託すべく、我らが殿下の助けになるようにと、こうやって裏で動いておりますのじゃ。」

「ジームスカンとテムチカンは、同じような状態だと言えるわけですね。いや、テムチカンの謀反成功に味を占めて、兄を利用してジームスカンを手に入れようと企んでいるのか。」

 ハチドリがそう言うと、カサゴがこちらを向いた。

「ほう、頼りないと聞いていたが、なかなかどうして、冷静に物事を見ておられる。」

 カサゴは実に嬉しそうにそう言った。

 


 







 

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