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暴君ラオ  作者: あーる
35/56

ハチドリ2

 次の日、ハチドリはジームスカンからカントまでのことを詳しく教えてくれた。


 その日はいつも通りで、何の変哲もない穏やかな1日が始まると信じて疑う事も無かった。朝からソテツに剣の稽古をつけてもらい、午後はガルナンに北大陸においての帝国の役目の話を講義して貰おうと約束をしていた。

 昼食が終わり、ガルナンの講義を自室で待っていると、部屋の外からドタバタと足音が聞こえる。やがて部屋の扉が大きく開かれ、慌てた様子のガルナンが入って来た。

「王が・・・、タチバナ王がバンブー様の家来によって何処かに連れ去られてしまいました。午後の執務の為に部屋で一人になった所を狙われたようです。テムチカンから兵を呼んでいたらしく、王宮はバンブー様によってほとんどが制圧されています。」

 はあはあと息を切らしながら、ガルナンは状況を伝えてくれた。

 

 あまりに突然の事で、ハチドリには何が何だか分からない。

「・・・僕はどうすれば良いのだ。」

 かろうじてそれだけを言うことが出来た。

「私たちに対抗する手段がありません。バンブー様は貴方様を生かしておくとも思えませんので、一刻も早くここから逃れましょう。」

 普段はどこか飄々としているガルナンがこんなに慌てているのを、初めて見た。それだけ事態は深刻と言うことなのだろう。

 部屋を出ると、いつも父王の護衛をしているソテツが待っていた。

「私が油断したばかりに、王がどこかへ・・・。」

 ソテツは悔しそうに言葉を詰まらせ、「ハチドリ様だけでもお逃げください。」と言った。

「待って。僕にはまだ何が何だか・・・。」

 ハチドリは未だ混乱している。

「説明している時間もないのです。ジームスカンの王都から脱出出来るようにご案内いたしますので、ついて来てください。」

 ソテツは有無を言わさぬ勢いで、ハチドリを急かした。


 ソテツに案内されるまま、王宮の地下まで辿り着く。

 ここには古くから牢があると、噂には聞いていた。先祖に大変荒々しい王がいたらしく、自分に刃向かう者を片っ端からこの牢に閉じ込めたと言う話である。

「本当に、牢があったんだ。」

 ただの昔話だと思っていたので、本当に牢が存在しているとは思わなかった。しばらく呆然とその光景見てたが、ソテツに先を促され地下牢の奥にある小さな扉へと進んで行く。

「ここで亡くなった囚人たちは、この扉から外に出され近くの森に掘られた大穴へ放り込まれたと聞いています。その穴はもう埋められてありませんが、無実の罪でここに放り込まれた者も多く、彼らの無念がここに渦巻いているようにも感じますな。」

 ソテツは悲しそうな顔をしてそう説明してくれた。


 扉を出るとそこは細長い隧道になっていて、松明を向けると長い登り坂が伸びていることが分かる。しばらく歩くとまた扉があり、その扉を出ると、そこはもう鬱蒼とした森の中だった。

「ここはもう城外になります。さっき言った大穴はこの森のもっと奥深くにあったそうですよ。」

 ソテツはそう言いながら、小さな袋を持たせてくれた。

「急な事であまり大した準備はできませんでしたが、ここに幾らかの銀貨を入れてあります。大変辛い旅になるやもしれませんが、アーギタスかカントへ辿り着けば何とかなると思います。どうか、ご無事で。」

 ソテツはそう言い残して、そのまま扉の向こうへと戻って行った。


「ソテツは大丈夫なのだろうか?」

 ハチドリは心配になる。」

「ソテツ殿は、このままバンブー様に従うふりをしてクスノキ様の帰りを待つと言っておられました。ハチドリ様、我々も急いでここから離れましょう。」

 ガルナンにそう言われ、二人は森の中を歩き出した。


 二人は黙々と歩き、夕方近くに森の南端までたどり着いた。ガルナンが用意していた服に着替え森を出る。そのままアーギタスへ向かおうとするが、南の方は厳戒態勢を敷かれているらしく、警備が厳しくてこれ以上進むのは危険だった。

「アーギタスのミミズク殿は人情に厚く、かなりの遣り手だと聞いてます。彼は王とも懇意でございましたから、バンブー様が警戒しているのでしょう。」

 ガルナンがため息をつきながらそう言った。

「ソテツはカントでも良いようなことを言っていたが。」

 ハチドリがそう言うと、「そうですね。では西へ向かうとしましょう。」と、二人はまた森の中へ戻っていった。


 最初の町に着くまでは、森の中で野宿するような日々が続く。王宮で何の苦労も無く育って来たハチドリにとって、それは不便できつい毎日だったが、不思議と嫌だとは思わなかった。

 確かに夜の森は、何か分からない動物の鳴き声がしたり、地面が濡れていたり石だらけだったりと、とても安心して眠れるような場所ではなかったが、それでも窮屈な王宮での生活に比べると自分が自由になれた気がして、その解放感の喜びの方が大きかった。


 5日ぐらい野宿が続き、二人はやっと小さな町にたどり着く。そこはもうテムチカン領内で、リダと言う名の宿場町だ、

 国境近くのこの町は、ジームスカンからの商人なども多く、二人は難なく町に入り込むことが出来た。しかし北大陸出身のガルナンはそのままでは目立つ。

 そこで彼は、大きな帽子を目深にかぶり顔を隠し旅芸人を装い、小さな竪琴を弾きながら路上で歌を歌い出した。何でも、北大陸の民謡らしく、道行く人々が興味深くガルナンの歌を聴いて行く。そして彼は、当たり前のように見物客から金を貰った。

 確かにこの先、いくら金があてもいいぐらいだが、何もわざと目立つ事もないだろうにと、ハチドリは腹が立つ。

 ガルナンの大胆な作戦に、不安を訴えたが、「旅芸人なら、派手な格好をしていてもおかしくは無いでしょうよ。」と不敵に笑い返された。

 確かに、ガルナンを不審に思う者は居なかったが、ハチドリは気が気ではない。


 何日かすると、路上で歌うガルナンに接触して来るものが現れた。どうも、今のテムチカンの王に不満を持っていて、何かしらの情報を集めているらしかった。

 彼らはハチドリたちがジームスカンから来たと知ると、カントへ安全に行く為の情報と引き換えに、ジームスカンの情報を欲しがった。まだバンブーの謀反のことは知らないらしい。ただ、異変がある事は気づいているようだった。

 ハチドリは、自分たちは旅芸人で王宮にもよく呼ばれていたと嘘をついた。そして用心しながらも情報を渡す。どこまで情報を掴んでいるのか、彼らはバンブーのことを詳しく聞きたがっていた。しかし、どこまで話して良いものかと、ハチドリは思案する。逃亡生活の中で疑り深くなっているのだ。

 結局、バンブーの謀反を仄めかすに留め、タチバナ王が拐われた事は隠すことにした。


 リダの町で仕入れた情報を元に、いくつかの町を経てカントへ向かう。ガルナンの歌はどこか神秘的で珍しく、どの町でも評判を呼んだ。一度、町の町長から呼び出され、そこで歌を披露する事になったことがある。ハチドリは罠かも知れないから辞退しろと言ったが、ガルナンは気にしていないようで、多くの褒美をもらい笑いながら帰ってきた。

「あなたがこんなに大胆な人だとは思わなかった。」

 ハチドリが、半ば呆れたようにそう言ったが、「人は生きるためには何でもするのです。」と軽くかわされた。


「ところで、本当に聖地へ向かっていいのですか?」

 ガルナンが珍しく真面目な顔をして聞いてきた。

 ハチドリは、幼い頃から聖地に対して並々ならぬ憧れを持っていた。しかし自身の身分から、その憧れを自分の胸に押し込んできたのだ。テムチカンの王太子ラオが聖地へ留学したと聞いた時は、地団駄を踏むように悔しく思ったものだ。

 カントから聖地へ向かう船があると聞いてから、諦めていた夢が抑えきれなくなった。もしかしたらそれは現実逃避なのかも知れないとも思いつつ、どうしても聖地をこの目で見たいと思った。

「ああ、兄は僕を見つけ次第殺そうとするだろう。もうジームスカンへは帰れない。それに、逃亡中のこの生活は、不便だけど自由で楽しんだ。僕は王族に相応しく無いんだって痛感したよ。

 聖地では身分は関係なく、ただ学問だけに打ち込める環境があると聞く。僕はそれに憧れるんだ。」

 これも、ハチドリの本心である。

「バンブー様が王になると、国民たちはたちまち困窮することになるでしょう。それなのに戦うことを選ばないのですね。」

 ガルナンは少し怒っているようだ。

「僕は兄上が怖いんだ。とても戦うなんて出来ない。例え兄上に勝てたとしても、国を治める勇気も無い。僕は臆病者で卑怯者なんだ。とても王の器では無い。ただただ怖いんだよ。」

 我ながら本当に情けないと思う。しかしバンブーに立ち向かうと思っただけで、足が震えて堪らなくなる。

 ガルナンはそんなハチドリを憐れむように見て言った。

「分かりました。とにかくカントへと急ぎましょう。」


 リダの町で教えてもらった情報は正確で、二人は苦労する事なくカントの町へたどり着いた。

「テムチカンは、ロジュン様が崩御なされてから混乱していると聞きますが、ここカトンの町は比較的穏やかだと聞きます。港湾を管理するカサゴと言う人物の力が強く、テムド様も易々と手出し出来ないそうですね。そのカサゴに繋ぎを取ることが出来れば、聖地へ向かう船に乗ることが出来るかも知れません。」

 ガルナンの言う通り、カントの町は今まで見てきた町より活気があり、人々が自由に商売をしているように見える。

 それでも、テムチカンの兵らしき者があちらこちらで辺りを見回っている。ハチドリが王宮を逃げ出した事などは特に連絡が来ているはずだ。ハチドリはガルナンに情報収集を任せ、自分はなるべく宿から出ないように用心した。

 自分でも不甲斐なさに悲しくもなるが、それでも怖くて町の外に出ることが出来なかったのだ。





 

 

 



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