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暴君ラオ  作者: あーる
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アーギタス・ミミズクとの再会6

 ラオとオニヤンマそしてマーマタンの3人は総督府の中の客室に宿泊する事になり、他の兵士たちは、総督府の裏にある兵舎で寝泊まりさせてもらえる事になった。

「我々まで、総督府に泊めていただけるなんて、他の兵士達も寝台のある快適な宿舎に泊まれると喜んでいました。」

 オニヤンマが恐縮するように謝礼した。

「可愛い甥っ子が世話になっているのに当たり前のことではないか。それにこれから一緒に戦う仲間でもある。あなた達はもう我ら家族も同然。遠慮は無しで頼む。」

 ミミズクはオニヤンマの肩を叩きながらそう笑った。

「オニヤンマ殿は根っからの武将でいらっしゃる。部下のことをどれだけ気にかけていて信頼されているか、短い旅の道中だったが、それがよく分かりましたよ。」

 いつもは人をあまり褒めないシンジュが、珍しくオニヤンマを絶賛する。

「随分オニヤンマのことを買っているのですね。そんなに人を褒める叔母上を初めて見た気がします。」

 ラオは本気で驚いた。

「私をなんだと思っているのさ。」

 シンジュが心外だとばかりに抗議する。なんとなくユーモラスなその姿に皆が微笑んだ。この人は本当に自分の心に素直なのだ。


 昼近くになり、クスノキが目を覚ましたと聞いて、ミミズクと共にクスノキがいる部屋へと向かった。

 扉を開けると、寝台の上で一点を見つめボーッとしているクスノキの姿があった。脚やら肋骨やら何箇所も骨折して、まだ起き上がることも出来無いそうだ。ジームスカンを出る時にかなり辛い思いをしたらしく、最初の頃は話すことも儘ならなかったらしい。最近はやっと少しの時間なら話を出来るようになって来たと、世話をしているオニキスが教えてくれた。

「クスノキ殿、ラオだ。話ができそうか?」

 ラオが優しく問いかけると、ラオがそばにいる事に気がついたようだ。それでもなんだか夢現ゆめうつと言った感じで、目の焦点が合っていない。

「で・・んか?」

 なかなか言葉が出てこないのか、それだけを言ってまた黙ってしまった。

「辛い思いをしたようだな。遅くなって申し訳なかった。」

 ラオがクスノキの手を取って、頭を下げた。クスノキはやっと意識がはっきりして来たのか、今度はしっかりラオを見て、「・・・またお会い出来て・・・本当に良かった。」と力無く微笑んだ。

「タチバナ王が、・・・王が奴らに拐われてしまいました。」

 クスノキが悔しそうに涙ぐむ。

「俺が一緒に行っていれば、本当にすまない。」

 クスノキに釣られて、ラオも思わず涙ぐむ。

「いいえ、一緒に来られていたなら、殿下は今頃もう・・・。私一人で本当に良かったのです。奴らはそれほど素早く行動を起こしました。」

 クスノキはジームスカンでの出来事を詳細に語ってくれた。


「私が帰郷した時には、既に王はどこかへ連れ去られた後でした。私は王宮に着くなり訳も分からず捉えられて、しばらく王宮の地下にある牢に監禁されていたのです。

 いきなり独房に入れられ、外の情報が何も入ってこない。不潔な地下牢で食事も満足に取れない状況で、ひと月近くはそこにいたと思います。

 私はこのまま死んでいくのだと、そんなことをぼんやり考え始めた頃、突然タチバナ王の護衛をしていたソテツに助けられました。

 彼はバンブー様に従うような素振りをしながら、王を助ける方法を模索しておりました。しかし、王はもう生きておられないかも知れないと彼は悲しそうに言っていました。」

 クスノキが目に涙を溜めて、悔しそうにそう言った。

「そのソテツとやらは一緒に逃げたのではないのか?その者は何処にいる?」

 ミミズクはクスノキがたった一人でここに辿り着いたと言っていた。

「ソテツの他にも3名の兵士が一緒にいました。逃げる時に敵に見つかって、ソテツは私を庇うように敵の前に立ちはだかりました。彼は、『自分は戦うことが出来ても国の政は分からない、ジームスカンを取り戻してくれ。』と言いながら私を逃がしてくれました。私たちはその後も追手からなんとか逃げ切ろうとしましたが、一人また一人と私を庇うように仲間が倒れていきました。そしてなんとか私はアーギタスの城門の前まで、辿り着くことが出来ました。

 私のために命を投げ出してくれた仲間達の無念が・・・、本当に何も出来なかった自分が悔しいです。」

 クスノキはとうとう声を上げて泣き出してしまった。

「そんな大怪我をして、死に物狂いでここにたどり着いたんだな。クスノキ殿、よく頑張った。よく生きてここまで来てくれた。」

 ラオも思わず貰い泣きをする。


「クスノキ殿は城門で倒れているところを門兵が見つけてな、街の病院へ運ばれて、そこで3日間意識が無かったのだ。大変な怪我をしているし、かなり危ないと思われたが、4日目の朝に目を覚まされた。

 服装でジームスカンの人間だとは分かっていたので、事情を聞くために外交官に面会させたら、彼がクスノキ殿を知っていてな。それで俺に連絡が来て、ジームスカンで何が起こっているかが分かったと言うことさ。」

 ミミズクは、クスノキがアーギタスにたどり着いた時の話を教えてくれた。

「バンブーは何故王位につかないのだ?タチバナ王を亡き者にしたとしても、何とでも理由をつけられるだろう?さっさと即位して内外に公表すればいいものを。」

 ラオは、バンブーが何を考えているのか理解できない。

「多分、ヤシガニが停めているのだろうな。バンブーは国民から圧倒的に人気がない。だからタチバナ王がまだ生きていると皆に思わせた方がやりやすいと思っているのだろう。」

 胸糞悪い話だと、ミミズクが苦い顔をする。

「一刻も早くジームスカンへ赴き、バンブーを断罪するべきではないですか?」

 聞いているだけで腹が立つ。

「そんなに簡単なものじゃないのだよ。我々他国の者が勝手にジームスカンへ押し入ることは出来ないんだ。そこには大義名分が必要なんだ。

 クスノキ殿はまだ寝台から出ることも儘ならない。だからもう少し慎重にことを進めようと思う。」

 ミミズクはその大義名分を探す為に、ジームスカンへ間者を送っていると言った。


 ラオは、タチバナにもう一人息子がいた事を思い出す。確かラオとそんなに歳が変わらなかったはずだ。

「確かタチバナ王にはまだ息子がいたはずでは?彼は無事なのか?」

 クスノキは大きく頷いた。

「ハチドリ様のことですね。バンブー様と違い優しく内向的な性格で、タチバナ様によく似ておられる。彼が今何処にいるのかはよく分かっておりませんが、ソテツが言うには、いち早く逃げる事が出来た様です。

 バンブー様を恐れて、皆彼の言いなりの様に見えますが、ジームスカンにも忠義心の熱い人間がたくさんおります。私を逃がしてくれたソテツ達もそうですが、バンブー様に対抗しようとする者はまだまだいるはずです。」

 彼自身それを強く信じたいのかも知れない。僅かであるが、彼の目に力が戻ってきた様に見えた。

「では、まずハチドリ殿を先に見つけ出す事が先決だな。そしてハチドリ殿をうまく担ぎ出して、バンブーとその裏に隠れて動くヤシガニの悪事を暴く事にしよう。」

 ミミズクは何か考えが浮かんだようで、一人頷きそう言った。

「ハチドリ殿にジームスカンを取り戻させるというわけですね。」

 ラオは純粋にそう思っていたが、ミミズクはまだ先を考えているらしかった。

「ラオ。これはな、お前とテムドの戦争でもあるのだよ。」

 ミミズクは真剣な目でラオを見つめてきた。

「どう言う事ですか?」

 ラオには何故そうなるのか分からなかった。


 ミミズクがまるで講義でもしている様な口振りで、ラオになぜそう言えるのかを説明し出した。

「バンブーの背後にいるのはテムドの取り巻きのヤシガニだぞ。」

 それは分かっている。

「我らがジームスカンの問題に介入すると言うことは、テムドと戦うことに他ならない。しかも、正義がどちらにあるか、全てのものに分からせようとする戦いでもあるのだ。この戦いはある意味、お前がテムチカンを奪い返せるかどうかが決まる戦いだと言っても過言では無い。

 俺たちはもちろんお前を全力で助ける。でもな、お前の覚悟が一番大事なんだ。これからは綺麗事だけじゃ済まされない、選択を迫られる事もたくさんあるだろう。それでもやり抜くと言うお前の覚悟も試されるわけだ。」

 ミミズクの話に思わず唾をごくりと鳴らす。しかし、もう後戻りなど出来るはずも無い。ロジュンの無念の死を聞かされてから、これは決まっていた事なのだ。


「叔父上、俺の覚悟はとっくに出来ている。タージルハンでの経験で、世の中が綺麗事だけじゃ無いことも分かってきたつもりだ。俺は必ずテムドを倒し、この大陸の安寧を誓う。私の力になって下さい。」

 ラオの覚悟をしっかりと受け止めたのか、ミミズクはラオの肩を軽く叩きながら微笑んだ。

「本当に成長したんだな。今のお前は己の責任をしっかり受け止めて、皆を導こうとする意志を感じる。なあ、シンジュ。」

 ミミズクはそこまで言って、ラオの前にひざまづく。

 シンジュが頷き、同じように片膝をつき二人してラオに臣下の礼を取った。

「私たち兄妹は、如何なる時も殿下に忠誠を誓います。我々の心を受け取って頂き、あなたの臣下となることをお許し下さい。」

 二人は声を揃えて誓いを立てて、そのまま深く頭を下げた。

 ラオは突然のことに驚き、嬉しさと共に寂しさも感じていた。今までは無邪気にこの愉快な叔父と叔母に甘えていられた。けれど、これからはそうはいかない。ラオはこの二人に対して明確な責任が生まれたのだ。






 


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