表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴君ラオ  作者: あーる
30/56

アーギタス・ミミズクとの再会5

 アーギタスは南の大陸の東の端に位置し、東の外界に繋がる大きな湾に面した港町である。陸路ではタージルハンとジームスカンとの交易の中心に位置し、海路では蛮族の中でも友好的な国と交易をして、南の珍しい品々をテムチカンもたらしている。目の前の湾には海流の影響なのか漁獲量も多く、周りの土地ではサトウキビを栽培している。そんな産業的にも防衛的にも大変重要なアーギタスは、テムチカンの最重要都市の一つになっていた。 

 そんな魅力溢れるアーギタスは、テムドの取り巻き達にとっても喉から手が出るほど欲しい都市ではあるが、ロジュンからかなり優遇された自治権を与えられ、王宮と言えども簡単に口出し出来ない。


 15年前、ロジュンはガジュマルの息子でラオの叔父にもあたるミミズクに、アーギタスの総督として全権を与えた。彼はロジュンの期待に応え、見事にその役目を果たしていた。

 テムドの取り巻き達は、なんとかミミズクを失脚させアーギタスを我が物にしようと、色々画策していた様だが、ミミズクの人望が厚くなかなか手出し出来ないでいた。テムドが王座を簒奪した後もそれは変わらず、ミミズクはアーギタスの街をなんとか守り抜いている。


 ラオたちはローギを出てからも兵力を集め、ひと月半かけてアーギタスに辿り着く。お陰で最初100人余りだった兵が、1000人以上の軍団に膨れ上がった。他にもラオとアーギタスに協力を約束してくれた町が何箇所もあった。今のテムチカンのやり方に怒りを感じている人間がいかに多いのかと、改めて考えさせられる。

 最初こそ不安だったラオも、今では自信に満ちて意気揚々とアーギタスまで来ることが出来た。


「やっとアーギタスの街まで来たな。叔父上が待っている。」

 ラオがアーギタスの城門を前に微笑んだ。

「兄さんが、ラオがなかなか来ないってヤキモキしてたわよ。」

 シンジュはそう言って、早く総督府へ行こうと急かす。

「思っていた以上に立派な街ですな。タージルハンの王都より大きい。」

 オニヤンマが驚いた様に辺りをキョロキョロする。

「本当に噂以上の賑わいだ!湾を挟んで山脈が見える。あれがラジャル半島ですね。いや、絶景だ。」

 アカホシも感動の声を上げた。

「本当に風光明媚な良い街だな。叔父上がいつも自慢していたのが分かる。早速、総督府の叔父上を訪ねる事にしよう。」

 一行は華やかな街の様子をしばし見学した後、総督府へと進んだ。


 街の中心に大きな広場があり、そこから何本もの幅の広い通りが放射状に伸びている。それぞれの通りには所狭しと商店が立ち並び、大陸中の地域から人が集まっているのか、色々な民族衣装を着た老若男女が元気よく歩いている。

「すごい活気だな。」

 ラオが驚いたように呟いた。

「ミミズク殿が、いかに大した人物なのがよく分かりますな。」

 ヒツジグモも横で大きく頷いた。


 広場から北に伸びるひときわ広い通りの奥に総督府が見えた。王宮の様な華美な装飾は一切なく、質実剛健なミミズクの性格を表す様に、ただただ大きくて立派な建物である。

 アーギタスの行政は全てこの総督府で行われており、多くの役人が働いているとのことだ。

 門兵にここに来た目的を告げ、ミミズクへの取り次ぎを頼む。門兵はあらかじめ聞いていたのか、すぐにラオたちを迎え入れた。総督府の一階にある長い廊下を進むと貴賓室があり、一行は部屋に通された。

 貴賓室で出されたお菓子を食べながらしばらく待つと、扉が大きく開かれミミズクが現れた。

「ラオ!!久しぶりじゃないか。会いたかったぞ!!」

 彼は興奮気味に近づき、ラオを抱きしめた。

「叔父上、遅くなって申し訳ありません。俺も会いたかった。」

 ラオも満面の笑顔でミミズクとの再会を喜んだ。

「殿下、お久しぶりです。」

 ミミズクの後ろから、元気な声が聞こえた。扉の方を見ると、ミミズクの妻のオニキスと15歳ぐらいの少年が立っている。声を出したのは少年らしかった。

「オニキス、お久しぶりです。この子は・・・、もしかして、シャチか?やっぱりそうだ!久しぶりだな。前に会った時はまだ俺の肩ぐらいだったのに、もう俺と同じぐらいの背の高さじゃないか。」

 久しぶりの従兄弟との再会に頬が綻ぶ。

「前に会った時は、僕はまだ10歳でしたよ。今は成長期ですからね。もうすぐ殿下を追い越すかも知れませんね。」

 シャチがそう言って笑う。

「相変わらず口が達者だな。祖父殿も、お前に会いたいだろうに、テムドを討伐したら、テムチカンでガジュマル一族が会えると良いのにな。」

 懐かしい顔を見て、急に老け込んだ様に見えた祖父を思い出し、少し感傷的になる。

「父上の近況はカワセミからの手紙で読んだ。陛下がお亡くなりになった時は本当に意気消沈していた様だが、最近のラオの活躍に活力が漲っておるらしい。俺もタージルハンでの活躍を聞いて嬉しい限りだよ。」

ミミズクが誇らしげにラオを讃える。

「ここにいる、オニヤンマをはじめタージルハンの人々が、俺のことを信頼してくれたから出来たことです。マーマタンの御三家からも本当に世話になっている。ヒツジグモ、ニシカゼ、アカホシとそれぞれ本当に信頼できる人を俺に付けてくれた。これも父上の人徳のお陰だと、亡き父に感謝しています。俺は本当に幸せ者だ。ですから絶対にテムドを討ち、これらの方々に恩返しをして行きたいと心から願っております。」

「本当にありがたい事だな。確かにこれはロジュン陛下の人徳でもあるのだが、それを裏切ら無い、お前の一生懸命な正直さによるものだと思う。本当に逞しくなったな。」

 ミミズクは目を細めて、心からラオの成長を喜んでくれている様だった。

 

「ここに来るまでに、我々も協力者を募ることが出来ました。」

 ラオが道中で集まった兵力について報告した。

「その者たちは良い兵力になってくれそうだな。」

 ミミズクが満足そうに頷く。

「はい。その後もいろんな村で共に戦うと言ってくれる人々に会いました。でも、俺よりも叔母上に仁義を感じている人が多かったですけどね。

 叔母上は本当に大陸中を旅して、いろんな人に出会っているのです。どこに行っても顔見知りがいて、『あの時はどうもありがとうございました』なんて感謝されてましたもの。」

 ラオがそう言うと、ミミズクは複雑そうな顔をして苦笑いをした。

「男勝りというか、無鉄砲というか。本当に勇敢な武人として妹を誇りに思うが・・・、やはり兄としては心配でしょうがないよ。父上はもう諦めていると言うか、こいつのことは娘では無く息子として扱うなんて言っておられたが・・・。」

「私は女だとか男だとか意識したことは無い。ただ自由に生きていたかっただけだ。でも、それを許してくれている父上には感謝しているよ。」

 シンジュは、ボヤくミミズクの肩を叩きながら歯を見せて笑う。


「いつぐらいに行動を起こされるおつもりですか?我らはジームスカンへも行かねばなりません。宰相のクスノキ殿が首を長くして待っている。」

 お互いの近況を一通り話し合った後、ラオがミミズクに質問した。

「そのクスノキ殿は、3ヶ月ほど前に我々に助けを求めてここに来た。来た時は大怪我で酷い状態だったが、何とか一命は取り留めて、今はこの総督府で匿っている。

 ジームスカンは、もうダメかも知れない。息子のバンブーによって、王のタチバナ殿が監禁されているらしい。多分、もう生きてはおるまい。」

 ミミズクが難しい顔をしてそう言った。

「なんですって!?クスノキ殿は最初マーマタンに助けを求めて来たのに・・・。俺がグズグズしているうちに何かあったのですか?」

 ラオは驚き、血の気がひいた。

「そうではない。クスノキ殿がマーマタンから帰った時にはもう手遅れだった。結果論だが、タージルハンで足止めされて良かったと思う。あのままジームスカンへ行けば、騒動に巻き込まれていたのかも知れない。

 タチバナ王はもうかなりのご高齢で、バンブーが後を継ぐことは決まっていた。そのまま何事もなく代替わりをすると思われていたが、テムチカンのヤシガニがバンブーをそそのかして来たらしい。

 タチバナ殿は、神経質な所があり弱々しい印象を受けるが、なかなか筋の通った心根の強いお方でな。俺も何度か面会した事があるが、商売の交渉にしてもお互い納得いくまでしっかりを交渉する、粘り強い人でもある。仕事に真面目なんだな。

 それに対して、バンブーは快楽的で真面目に公務に就きたがらない。タチバナ殿も手を焼いていると聞いた事があった。そう言う人だから、ヤシガニの耳触りの良い讒言を鵜呑みにしてしまったのだろうな。」

 ミミズクがジームスカンの現状を教えてくれた。それにしてもそんな大事件があれば、タージルハンにも話が聞こえて来そうなものだが、ラオは何も聞いていなかった。

「もとよりジームスカンの外には知らせていない話だからな。我らもクスノキ殿を保護していなければ、知らなかっただろう。

 クスノキ殿の怪我はかなり酷いもので、ここに来れたのも奇跡のようだった。今も薬を使って日の半分は寝て過ごしている。明日、目が覚めた時に詳しく聞くが良い。」

 ミミズクは深刻そうな顔でそう言った。

「叔父上がテムドに反旗を翻そうとするのは、クスノキ殿の一件があったからですね。」

 慎重なミミズクが思い切った方法をとった事に合点が言った。 あのガジュマルの血を引くだけあって、正義感が強いのだ。

「それもあるが、やはりお前のタージルハンでの活躍が、一番俺の背中を押してくれたよ。」

 ミミズクはそう言って静かに笑った。ラオは、尊敬する叔父に認められたような気がして、素直に嬉しいと感じた。













 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ