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暴君ラオ  作者: あーる
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アーギタス・ミミズクとの再会4

 スイギュウの話では、アカザルがこの町に派遣されて来たのは1年ほど前のことらしい。時期的に、テムドの王位簒奪が成功した直後で、取り巻き達が自分たちの取り分を奪い合っていた頃だろう。それにしても、こんな辺境の町にまで彼らの手が伸びている事に驚いた。


スイギュウと話してみて分かった事だが、彼は不器用なまでに実直で正義感が強い。家族を養うため警備兵になったのは良いが、アカザルが来てから奴の非道な行いの片棒を担がされている事が、我慢が出来なくなってきたらしい。彼の人柄が町の人にも好意的に受け取られ、お互い仲良く暮らしていたはずなのに、その信頼を全て失ってしまう事にも悔しさを感じている様に見えた。

 ラオ自身少し話しただけだが、彼の真剣さに心打たれた。それだけに無闇に突き進む事への危険性を心配した。


「実はそなたの義父上が随分心配していてな。なんでも、反乱も辞さない所まで追い込まれているとか。悪いことは言わない、少人数で反乱を企ててもうまくいくことは無い。それどころか、そなたの家族や故郷の村さえも罰を受ける事になる。考え直した方が良い。」

 ラオは、反乱を止める様に説得する。

「俺には、そんな力がないと・・・。」

 スイギュウは、悔しそうに俯いた。

 その様子を見てオニヤンマが、「人にはそれぞれ役割というものがあるもんで、俺はスイギュウ殿に力が無いとは思わん」と諭す。

 ヒツジグモが、ここに来た目的を詳しく説明する。

「我らが身分にを隠して、貴君に会いに来たのには訳がある。もうしばらくスイギュウ殿には、アカザルの忠実な家来として過ごしていただきたい。その様にアカザルを油断させておいて、その裏で今の体制に不満を持つ者たちを集めて欲しいのだ。

 我々はアーギタス総督のミミズク殿を助けるべく、一緒に戦う者を探している。我らはこれからアーギタスへ向かう事になる。そんな我らと連絡を密にして、アカザルはもちろん王宮のテムドまでも倒そうと志を同じにした仲間が欲しい。どうか、我々に力を貸していただきたい。」

 急な申し出に、スイギュウはかなり驚いた様だった。しばらく考え込んだ後、自分たちの会合の話を教えてくれた。

 「実は、毎晩仲間たちとアカザルへの反乱の計画を立てるべく、話し合いをしているのです。今日の会合にぜひ参加して頂きたい。」

 ラオは、スイギュウの申し出を快諾する。


 その日は、スイギュウの家で夕飯をご馳走になり、夜の会合の時間まで過ごす事にした。

 タマネギとほんの少しの肉の切れ端が入ったスープと、粟などの雑穀を混ぜ込んで作られた餅、ヤモリが送ってきたと言う野菜を使った漬物、それから、米を発酵させた弱い白酒が出てきた。

「こんな、質素な食事しかありませんが・・・。」

 セキレイは恐縮する。

「いきなり訪れた俺たちが悪いのだ。そんな無礼な我々に心からのもてなしをしてくれる。いくら感謝しても足りないぐらいだ。」

 ラオは本気でそう思ったしそう言った。

「そう言っていただけると、本当に嬉しいです。」

 ラオの言葉を信じてくれたのか、セキレイの緊張感がほぐれていくのが分かった。

 街の警備隊長ですら満足できる食料が確保できないと言うことは、他の町の人たちは何を食べて生きているんだろう。この町と周辺の村々の困窮を目の当たりにして、ただただ怒りが湧いてくる。

 ラオとセキレイの会話を、ヒバリが不思議そうな顔で聞いていた。

「お兄ちゃんは、父ちゃんのお友達じゃ無かったの?だから会いに来たんじゃないの?」

「これ!殿下に失礼なことを言うもんじゃありません。」

 スイギュウが慌てたように、子供を叱る。ラオは思わず声を上げて笑いながら答える。

「君の父ちゃんはすごく良い人だからね。これから大事なお友達になって欲しくて、会いに来たんだよ。」

 スイギュウが、「子供の戯言に、そんな恐れ多いことを。」と狼狽える。

「俺は本気だぞ?」

 ラオが真顔になってそう返した。

「ハハハッ。スイギュウ殿、殿下はそう言うお方なのだ。だから俺たちもいつの間にか、殿下の力になりたいと本気で思える。それがとても誇りに感じるのだ。」

 オニヤンマが愉快そうに笑いそう言った。


 会合の時間が近付き、ラオたちは町外れの倉庫のようなところへ案内された。中に入ると、10人ぐらいの人が集まっている。勇ましい格好の男の中で、一人だけ女の姿があった。それはラオの知る顔で、まさかこんなところで会えるとは思わず驚いた。

「叔母上!なぜこんな所に!」

 それは叔母のシンジュであった。この男勝りの叔母はガジュマルの末っ子の娘で、ラオが5歳ぐらいの時に嫁に行くのを嫌がり、家を飛び出してそのまま南大陸を旅をしていると聞いている。今は35歳ぐらいにはになっているはずだが、10歳ぐらいは若く見える。

 何年かに一度、ガジュマルに連れられて王宮へ挨拶に来ていたが、いつも、男のような袖の短い着物を着て、裾の窄まった袴を履いている。腰には剣まで挿していて、まるで武人のような出で立ちであった。なんでも、旅先では用心棒として働くことも多いらしい。

「嫁に行って落ち着いて欲しかったのに。腕が確かな分始末に負えない。」

 父親であるガジュマルがよくぼやいていたのを思い出す。

 ロジュンが、そんなに強いのならテムチタン軍の隊を一つ任せたいと打診したこともあったが、「自由に旅がしたい。」と言って断られた事もある。

 今でも、袖からチラリと見える腕には筋肉がしっかりついており、鍛錬されている事が分かる。ラオは他にこんなに勇ましい女性を見た事がない。


 シンジュもラオに気が付いたのか驚きの表情を見せ、そして優しい笑顔で話しかけて来た。

「坊や!久しぶりだな。兄さんからお前のことを迎えに行ってくれと頼まれて、タージルハンへ向かおうとしてたんだよ。まさかここで会うとはな。」

 彼女は昔からラオのことを「坊や」と呼ぶ。

「本当に、こんなところでお会い出来るなんて、なんと言う偶然!相変わらず元気そうで何よりです。南の蛮族の地へ旅してると聞いてましたが、いつ戻られたのですか?」

 なんだかんだ、ラオはこの豪快な叔母が大好きである。

「陛下のことは私も悔しくてね。なんとか君の力になりたいと、兄さんとは連絡を取り合っていたのさ。君がタージルハンで初陣を飾った話は聞いているよ。上手くやったみたいで、兄さんと一緒にお大喜びさ。

 それで、君に連絡をとって会おうとしてたのに、君がなかなか来ないもんだから、兄さんが痺れを切らしてね、私がタージルハンまで迎えに行く事になったんだ。で、途中でここの人たちと知り合って、相談に乗っていたという訳さ。でもまさか、ここで坊やに会えるとは思ってなかった。」

 シンジュは白い歯を見せながら笑う。

「アカザルへの反乱の相談ですね。」

 ラオは少し声を顰めて言う。

「そうそう、それはあまりにも無謀だと思うから、アーギタスと同時に行動する方が良いのでは無いかと、言っていたんだよ。」

 シンジュもラオと同じことを考えていたらしい。

「俺もそう思います。スイギュウそう言うことだ。俺は人を集めながらアーギタスへ行く。それを待ってくれないか。連絡は密にするから、一斉に立ち上がる方が何ごともうまく行くと思う。」

 ラオはスイギュウに向き直って、改めてそう訴えた。


「まさか、シンジュさんがラオ殿下とご親戚だとは知りませんでした。」

 スイギュウは驚きが隠せない。

 他の連中も同じ様に驚いたが、それよりも王太子のラオがこの場所にいることの方が、よっぽど衝撃的だったようだ。

「タージルハンからアーギタスへ向かっているとは聞いていましたが、まさかこんな場所で会う事になるとは。」

 皆、混乱してラオにどう接して良いのか分からないようだった。すっかり恐縮してしまっている。

「俺は、まだ何の経験もない若造だ。そんなに畏まる必要はない。叔母上もまだ俺を認めてくれずに『坊や』と呼んでるぐらいだ。」

 ラオはその場の空気を和ませようとするが、なかなかそう言う訳にも行かないらしい。

「畏まるなと言っても無理に決まっているだろう?それよりも、これからどうすれば良いのか、ちゃんと説明しなさい。」

 シンジュは苦笑いを浮かべてそう促して来た。


 ラオは、改めて自分の考えを説明する。

「すでにマーマタンとタージルハンは俺に付いてくれた。俺はこれから、アーギタスで叔父上と合流する。その後、ジームスカンまでも出向くつもりだ。ジームスカンもテムチカンからの無茶な要求に腹を据えかねていると聞く。彼らも味方にできれば、完全に奴らを包囲できる。そうすればテムドのいる王宮を落とすことも難しくないはずだ。この町にいるアカザルも元はテムドの取り巻きが送って来たんだ。俺は根本にいる奴らを倒さなければ意味がないと思う。

 テムドたちのような、民から搾取して自分達だけ潤うような国家がうまく行く訳がない。俺は、民を幸せにする気のない奴らにテムチカンをメチャクチャにされることが我慢ができない。どうか、俺に力を貸してはくれないか。」

 ラオはそう言って皆に頭を下げる。皆は驚き感動したようだ。

「殿下ともあろうお方がこんなに深く頭を下げるなんて。殿下に従います。殿下の王座を奪還するお手伝いをさせてください。」

 ラオの言葉に感銘を受けたのか、皆が忠誠を誓ってくれた。

「ありがとう。俺は絶対にこの国と国民と守ると誓う。」

 ラオは破顔して、そう言い切った。

 






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