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暴君ラオ  作者: あーる
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アーギタス・ミミズクとの再会3

 タージルハンを出て5日目の夜、ラオ達は今日も名前もない様な小さな農村に野営地を張った。  

 その村は、村人達が明らかにこちらに好意がある事が分かった。夜には村長に夕食に招待され、大歓迎を受ける。村長はヤモリと名乗った。

 この村もあまり余裕がある様には見えないが、出来るだけの心尽くしなのだろう。近くの森で獲れた猪の肉や、村で育てている野菜などで作られた料理が食卓に並んでいる。

 

 ヤモリが何か嘆願したい事があってラオ達を持て成している事は、最初からなんとなく分かった。

 昔のラオなら、下心を持って我らを歓迎していると、とっくに興醒めている事だろう。だが、今のラオには分かる。ヤモリにとって一世一代の大勝負のつもりで、なんとかラオに取り入りたいのであろう。それだけ彼らは必死なのだ。そう思うと、額に汗をかいて慣れないお世辞を不器用に並べるヤモリにも、どこか好感を持てる。

「村長、俺に何か頼みたい事があるのだろう?これだけ歓迎をしてもらったんだ。遠慮なく申してみよ。」

 結局自分から相手の悩みを聞く事にした。

 

 最初は、本当に良いのかと遠慮しているヤモリだったが、「そのために俺を持て成しているのだろう?」とラオに言われ、決心した様に話し出した。

「実は、殿下に会っていただきたい人物がおりまして、私の娘婿なのですが、名前をスイギュウと申します。少し離れたローギと言う小さな町で、警備隊長をしております。」

「ずいぶんたくましそうな名前だな。辺境の町とは言え、其奴は歴としたテムチカンの兵士だろう?それが俺に何の用なんだ?まさか、俺を捕まえて手柄にでもしようと言うのか?」

 ラオは訝しく思い、素直にそう聞いた。村長は顔を青ざめて、「滅相もございません。」と平伏した。

「どうもローギの町長に対して思う所があるようで、一度会ってスイギュウの話を聞いていただきたいのです。」

「どう言う事だ?」

 ラオは理由を聞いた。

 ヤモリはスイギュウの生い立ちから、彼が何をしようとしているのか教えてくれた。

「スイギュウは元々この村の出身でして、幼い頃に両親を流行病で亡くして以来、私が親代わりとして面倒を見ておりました。、私の二番目の娘とは子供の頃から仲が良く、ごく自然に夫婦となり、二人は村の畑仕事を手伝いながら、慎ましく暮らしてました。

 ですがご覧の通り、この村はあまり裕福とは言えない小さな村です。力自慢だったスイギュウは、子供が生まれたのをきっかけに警備兵として働くことを決め、家族で近くの町ローギへと移り住む事になりました。」

「子供の頃から随分苦労していたんだな。」

 スイギュウのような生い立ちの話を聞くと、なぜか妙な罪悪感に苛まれる。子供の頃から豪華な王宮で育ったのは、ラオの責任では無い。分かっているが、どうしても自分が搾取して来た側である事に、申し訳なさを感じてしまう。


 ヤモリは話を続ける。

「ローギの町の町長は、テムド様の取り巻きの一人ヤシガニの遠い親戚で、アカザルと申します。この男が、町の人間や周囲の農民からの搾取がとにかく酷いのです。

 スイギュウは農民からの税の取り立てを命じられるのですが、自分も農村の出身で彼らがどれだけ困っているのか知っていて、とても辛いと嘆いておりました。もともと正義感の強い子でして、我慢も限界になりアカザルを討つことを決意していた矢先に、殿下のご訪問を受けた次第です。どうか、我が娘婿の力になって頂きたいのです。」

 村長は床に頭を擦り付ける様に低頭して、頼み込んで来た。

「・・・とりあえず、ローギに行ってスイギュウとやらに会ってみよう。」

 ラオはしばらく考えた後、村長の頭を上げさせてそう言った。

「小さな町だとしても、テムチカン王宮から指名された町長を討つのは大罪である。スイギュウやその家族だけではなく、この村にもどんな罰が下されるか判らない。申し訳ないが、今の俺にそれを庇うだけの力は無い。

 俺は今、アーギタスへ向かおうとしている。そこを治める叔父上が兵を集めていて、それに合流するつもりだ。今すぐにアカザルの暴挙を止めることは出来ないが、共に戦う事で良い方向に持っていく事は出来るかも知れない。」

「それで充分でございます。殿下に希望を託せるのなら、こんなに力強いものはございません。」

 ラオの提案に、村長は感激した様に喜んだ。


 次の日の朝、誰にも怪しまれないようにと、少人数でスイギュウを訪ねる事にした。ラオとヒツジグモ、そしてオニヤンマの3人である。

 ローギの町まではとても近く、馬を走らせ1時間ぐらいで着いた。町に城壁は無く、ただ入り口に「ローギ」と立て看板があるだけの、本当に小さな町だった。

「町というより、村に近いな。」

 ラオはそんな感想を抱きながら、町の中に入って行った。中に入るとすぐに大きく立派な屋敷が確認出来る。その周りにある小さく古びた家々との差に、なんとも言えない嫌な気分になる。

「あれがアカザルの屋敷なのか?この屋敷を見ているだけでも、どれだけ好き勝手しているか分かるな。」

 ラオが苦々しくそう言った。


 ヤモリに教えて貰った目印を頼りスイギュウの家を探す。

 小さな商店がいくつかと、酒場がひとつある短い通りを少し奥まった所にスイギュウの家はあった。警備隊長の家だと聞いていたが、思っている以上に粗末な建物で驚いた。

「警備隊長の家だと言うのに、この町では町長の屋敷だけ立派なんですね。」

 ヒツジグモが顔を曇らせる。

「トルガでのカマキリの行いが可愛く見えてきますな。」

 あまりの酷さに、オニヤンマも呆然とする。

「とにかく、スイギュウと話をしよう。」

 ラオはそう言って、玄関に付けてある呼び鈴を叩いた。


 ガンゴンガンゴンと、思いもかけない大きな音がしてしばらく待つと、スイギュウの妻と思われる一人の女性がそっと扉を開けてきた。

 女性はこの地方の服装なのか、真ん中に穴が空いた白い布に首を通し、色取り取りの綺麗な組紐を帯のように腰に巻いて、膝丈のワンピースのように着ていた。黒い髪を一つに結い上げて木製のかんざしをしている。化粧気のないその顔は少し疲れている様にも見えた。


 彼女は不安そうな顔で「どちら様でしょうか。」と聞いてきた。

「こちらはローギ警備隊長スイギュウ様のお宅でしょうか?ヤモリ殿の頼みで、スイギュウ殿の話を聞きにきました。そして、こちらはテムチカンの王太子、ラオ様でございます。」

 ヒツジグモが慇懃に挨拶をする。女性は明らかに不審がる様な素振りで、「何かのお間違いでは?」と眉間に皺を寄せてそう言った。

「疑うのは仕方ない。ヒツジグモ、こちらの方にヤモリ殿から預かった印をお見せしろ。」

 ヒツジグモが、木製のビーズで出来た首飾りを見せる。女性は、一瞬驚いた様な顔をしたが、やがて安心したかの様に微笑んだ。

「確かにこれは亡くなった母の首飾りです。父が貴方様に託したので間違いない様です。疑ってしまいまして、申し訳ありません。私はヤモリの娘でスイギュウの妻であるセキレイと申します。狭くてむさ苦しい所でございますが、どうぞお入りください。」

 セキレイが恭しく頭を下げ、ラオたちを家の中に迎え入れてくれた。


 入り口をくぐると、すぐそこは土間になっていて、水瓶とかまどだけの簡素な台所と食卓があった。食卓の椅子に5歳ぐらいの小さな女の子が座っている。

「娘のヒバリです。」

 セキレイが簡単に紹介してくれた。ヒバリはおかっぱ頭で母親と同じ様な服装をしている。大きな目を見開いて不思議そうにラオたちを見つめて来た。

「ヒバリ、この人たちはね、父ちゃんに大切なお話があって来られたのよ。ご挨拶しなさい。」

 セキレイが優しい声で挨拶を促した。

「こんにちは、よろしくね。」

「おお、こちらこそよろしくな。」

 舌足らずに挨拶する姿が可愛らしく、ラオの顔も思わず綻んだ。


 セキレイによると、スイギュウは今勤務中で夕方には帰るらしい。ラオたちはスイギュウの家で帰りを待つ事にした。

 待っている間、ヒツジグモがヒバリ相手に楽しげに遊んでいる。

「こんなに子供好きだとは意外だな。」

 ラオは揶揄う様に言うと、「故郷に残してきた家族を思い出したんですよ。」と笑った。

「そうか・・・、早く戻れるように頑張らないといけないな。」

 ラオは少ししんみりした気持ちになる。

「ええ、でも家族はラオ殿下についていく俺のことを、誇りに思ってくれてます。早く帰りたいのは山々ですが、中途半端な働きでは、かえって嫁に怒られてしまいます。」

 ヒツジグモはそう言うと豪快に笑った。

 

 夕方、疲れた顔をしたスイギュウが帰ってきた。ほんの少し茶色がかった黒髪を短く刈り込み、太い眉毛に思いのほか可愛らしいまん丸の目、オニヤンマと変わらないほど背が高く、警備隊長と言うだけあって筋肉質の見事な体つきである。粗末な着物を着て、腰には長い剣を指している。いかにも武人と言う勇ましさを感じる様な男であった。

 最初、スイギュウは、ラオたちが自分を陥れようとしているのでは無いかと疑っていたようだ。ラオ自身、自分の身分を証明できるものは待ってい無い。ただ、ヒツジグモが主人から預かった書簡を持っていた。その書簡にはマーマタン族長の紋が入った封印がしてある。

「大事な書簡故、中身は見せられぬがこの封印の紋が我らの身の証明にはならぬか?」

 ヒツジグモがそう言って、書簡を見せる。

 マーマタン族長の紋に見覚えがあったのか、スイギュウは顔を青くして無礼を詫び、床に頭を押し付ける様に平伏した。

「大変申し訳ありませんでした。まさか殿下直々に我が家を訪ねるとは思えずに、疑ってしまいました。」

「それは無理もない。気にするな。自身の証明が出来ない俺が悪いのだ。」

 ラオは笑いながらスイギュウの頭を上げさせて、スイギュウに会いに来た理由を話だした。



 


 

 


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