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暴君ラオ  作者: あーる
25/57

タージルハンの乱10

 トルガの制圧を終え、ラオたちはタージルハンの王都に凱旋した。


 町中の人々が、トルガ制圧の知らせに喜び、歓喜の声で出迎えてくれた。

 隣のオニヤンマに促され、ラオは通りに集まった群衆に手を振って応える。

「カワウソ様を助けてくれてありがとうございます。」

「王を誑かした、カマキリに鉄槌を下してくれた。万歳!」

 通りの人々が、ラオに感謝を示し口々に褒め称える。

 ラオが思っていたより、カワウソは王として慕われていたのかも知れない。

 

 王宮の正門の前には、クワガタを始めとしたタージルハンの臣下たちが出迎えてくれた。

「殿下、無事にカマキリの身柄を押さえました事、感謝いたします。」

「出迎えご苦労である。」

 クワガタの感謝の言葉に、軽く頷き応える。

 一同は、皆の歓声に見送られ王宮の中へと進んで行った。


 討伐軍が帰還した後の王宮では、国中の臣下たちを集めて毎日のように会議が執り行われた。ラオも、いつもは賓客を持て成す為の大広間に案内され、連日の話し合いに参加する。

「帰って来て休む暇もなく、会議が続きまして申し訳ございません。お疲れの事とは存じますが、早急にこの国の行く末を考えなければいけませんので。」

 クワガタはそう言って深く頭を下げた。

「構わない。今は大変な時期なのだ。」

 ラオはそう言って、オニヤンマと共にトルガの町とその周りにある村々について報告した。カマキリの領地運営がいかに杜撰であったのか、雇われた傭兵たちの傍若無人な行いなどを詳しく説明する。


「では、カマキリたちの処分はどの様にするのが妥当だとお考えですか?」

 クワガタがラオに判断を委ねようとするが、ラオは首を横に振る。

「はっきり言って、俺はこの国の内情までは分からない。俺としては、あくまでもタージルハンからの要請に応えただけだと思っている。ただ、カマキリや傭兵の上層部にいた者たちの処刑は免れない事ぐらいは理解できる。俺の判断が必要と言うのなら、そうしてくれても構わないが・・・。」

 ラオの煮え切らない言い回しに、クワガタが一瞬不満そうな表情を見せた。

「殿下が王に即位していただき、勅令を出していただければ・・・、」

「俺は今はまだ、王に即位する気はない。」

 ラオはカマキリの言葉を遮り、はっきりとそう言った。

 クワガタをはじめ家臣たちは、ラオが王になることが決まっていると思っていたので、皆驚いた様にラオの顔を見た。


 王座を勧められてから、ラオなりに色々考えてみた。確かに凱旋を喜ぶ民たちは、このまま王に即位しても、反対しないだろう。しかし、今はその時では無いとそう思った。何よりラオはすぐにでもジームスカンへと向かわなくてはいけないのだ。

 王座を手に入れて、後の事はクワガタに託すのも良いかも知れないが、即位してすぐにいなくなる王を見て、民たちはどう思うだろう。事情を話したら一応の理解は得られると思う。だがそれは本当に納得できたと言えるのか。そう思うと、即位する事に迷いが出る。それならば、今はこの国の内情に必要以上に踏み込むべきでは無いと、判断した。


「この国の王になっていただけると思っていましたが・・・。」

 クワガタの顔は少し悔しそうだった。

「今すぐに、期待に応えられなくて済まない。でも、俺はすぐにでもジームスカンへ向かう必要があるのだ。もう少し、王に即位する事は待って頂けないだろうか。」

 クワガタの目が光る。

「王になっていただけるのは間違いないが、今はその時でないと。」

 体をぐっと前に押し出して、聞いてきた。

「そうだな。もう少し時期をみよう。その間にカワウソ殿が回復するかも知れないし。俺がジームスカンから帰るまで待っていてくれないか。

 でも・・・、そうだな、今は王の勤めをできないカワウソ殿に変わり、俺が王の代理という事にしよう。諸君いかがかな?」

 会議に参加した人たちの目を一人ずつ見ながら、確認をとった。ラオの提案に反対する者は誰もいなかった。

 ラオは皆の顔を満足げに見やり、「その上で・・、」と自分の考えを述べる。

「カワウソ殿が回復するか、俺が帰るまで、クワガタ殿を執政官として任命し、この国の政を一任しようと思う。」

 それを聞いた皆は、拍手でそれに賛成してくれた。


「とりあえずの落とし所としては、お見事でした。」

 後でヒツジグモがそう誉めてくれた。

「今の俺には何も出来ないからな。無責任な事はしたくない。」

 ラオはそう言いながら、少し照れ臭そうに笑った。

「では、そろそろジームスカンまで行くとしますか。」

 カジキも笑う。

「そうだな、準備が整い次第出発しよう。」

 皆は旅の準備を大急ぎで整える事にした。






「何故、王に即位する事を躊躇ったのですの?」

 メノウが不思議そうに聞く。甘ったるい声がラオの耳を擽る。

 二人は語り合いながら、朝食を食べている。テーブルには粥と卵料理、魚の干物などの簡単な料理の他に。季節の果物が載っている。

 食卓を前にして今日が最後になるかも知れないと。食べる暇も惜しみながら二人は話に夢中になっている。

「焦る必要も無かったからな。あの時はテムドを倒すことが第一で、他を考える余裕もなかった。迷いがあるうちは、とても即位なんて出来なかったさ。」

 メノウの素朴な疑問にラオが答える。それを聞いたメノウはコロコロと笑う。

「本当ですの?私は皇帝になられてからの主上しか知りませんから、そんな迷いがあったなんて想像も出来ませんわ。」

「おいおい、俺だって経験不足を悔しがった若い時期はあったんだぜ。あの時は、周りのみんなに助けられた。それなのに。なんでこんなに人を疑う事になったんだろうな。」

 ラオは自虐的に笑う。

「大人になるのも、詰まらないものですのね。」

 メノウは小さく溜息をつく。


「トルガの町はどうしてそんなに呆気なく制圧できたのです?」

 メノウの質問は続く。

「カマキリが防衛に何の興味が無かったからだろうな。奴は本当にケチくさい奴で、タージルハンの街にいたゴロツキの集団を安く雇ったんだ。それが後宮にいたアナグマと傭兵隊長のヒキガエルってわけだ。元々乱暴なだけでちゃんと訓練もしていないのだから、正規に訓練された軍隊に太刀打ちできる訳ないんだ。

 それでも、少人数のガルド砦なら落とせるとでも思ったのかな。俺の初陣の相手は本当にお粗末な奴らだったよ。ある意味練習台になってくれて、良かったのかも知れないけどな。

 まぁ、農民たちが俺の言葉を信じてくれたのが、一番大きかったのは間違いない。」

 ラオが懐かしそうに当時を振り返る。


「そういえば、アカホシ殿は農民たちをどうやって説得したんですの?主上の『守る』と言う言葉で納得はしていたみたいですけど?」

 メノウはいつも妙なところが気になる様だ。

「なぜ?それが気になるんだ?」

 ラオの質問に、「農民たちが他に何も要求しなかったのが、なんだか不思議なんです。」とキョトンとした顔で答える。

「あの農民たちは、元々トルガの町に従属する事に不満は無かったんだ。ただ、カマキリが領主になってからの重すぎる税や、ヒキガエルを始めとする傭兵たちの傍若無人さには、泣かされて来た。そして無理やり従軍させられた事への怒りは凄まじいものがあったよ。

 アカホシは彼らの話をただ黙って聞いてやり、元々の権利を守ると言っただけなのさ。」

 ラオは、アカホシがあの時言っていた言葉を思い出す。


「彼らは、税を納める事に不満がある訳では無いのです。税を納める事によって、守られている事もよく理解している。カマキリのやり方が、あまりにも常軌を逸して負担の大きい事に腹を立てていた訳です。だから、彼らの言い分をしっかり聞きながら、物事を決めていく事を約束しただけです。クワガタ殿もそれはよく分かっていらっしゃる。だから、あの農民たちにもう不満はないはずですよ。」

 アカホシの言葉は、支配する者とされる者の信頼関係を言っている様な気がした。

「アカホシの言葉はずっと覚えていて、実行しようと頑張ったはずなんだけど、うまくいかないのが世の常だよな。」

 ラオは苦笑いする。


「昼前には東海将軍が来ると思っていたが、オニヤンマが頑張っている様だな。」

 侍女が持ってきた報告を見ながら、ラオは意外そうな顔をした。

「かなりのお歳の上に、今年の春ぐらいから大病を患っていると聞いていますわ。」

 関心があるのか無いのか、メノウが上の空で相槌を打つ。

「自分の命はそんなに長くはないと、だから最後まで俺のために戦うと言っていた。全く、さっさと東海将軍の所に行けば良いのもを、忠義心が強いのも困ったものだ。」

 ラオは軽く溜め息を吐く。

「ガルドの砦から、ずっと主上の臣下であることに誇りを持っておられたのでしょう。不謹慎な言い方かも知れませんが、主上の話をもっと聞いていたいので、私には有り難いですわ。」

 ニッコリと微笑みメノウは言った。

 ラオは悲しそうに「そうだな、南海将軍オニヤンマには感謝しよう。」と微笑んだ。


 






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