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暴君ラオ  作者: あーる
23/57

タージルハンの乱8

 正門の前には誰も居らず、辺りは静まり返っていた。城壁の向こうから何も聞こえず、静寂だけがラオ達を出迎えた。 

 当たり前の話だが、正門はしっかりと閉ざされ中からかんぬきがかけられている様だった。ただ、普通ならいる筈の門兵が見当たらない。

「やけに静かだな。何か罠でもあるのでは無いか?」

 不審がるラオの言葉を聞いて、歩兵の一人が門に近づき様子を伺った。

「門の向こうにも誰もいなさそうですね。」 

 歩兵達の報告に、「どうしますか?」とムササビが聞いてきた。ラオは暫く考え込んだが、悩んでも仕方がないと言う結論に達した。

「良いだろう。このまま強引に門を突き破るぞ!もしかしたら、村々の松明に気が付いて、敵兵も慌てているのかも知れない。」

「確かにそれはありますね。では、このまま門を破りましょう。」

 ラオの憶測に、ムササビは納得する。

「うむ!では早速準備に取り掛かってくれ!」

 ラオが歩兵達にそう命令を下した。

「ハハっ」

 歩兵達は一礼をして、破城槌の準備を始めた。


 歩兵達は手分けをして、持って来た何本かの丸太にロープを結び付けた。手慣れているのか、あっという間に簡易的な破城槌が出来上がり、門の前に設置した。何人かが手頃な石を持ってきて、器用に先端部分に括りつけ、門を打ち破る為に強度を上げていく。

「なんと言う手際の良さ!日頃からしっかり訓練されているのが分かるな。」

 ラオが感心した様に呟く。

「タージルハンは、南からの侵略とずっと戦って来た歴史がありますからね。普段の訓練を疎かにすることは出来ないのですよ。少しの油断がタージルハンの終焉に繋がりかねない。それは即ちテムチカンの危機でもあるのです。」

 ムササビの言葉が胸に響く。

「なるほど、我がテムチカンはこの国に守られていたとと言う訳だな。それだけでも、今俺がここにいる意味があると言うものだ。」

 この戦いは絶対に負ける訳にはいかない。ラオは心からそう誓う。

 

 ラオは準備が出来たことをを確認し、今一度目を瞑り大きく息を吸い込んだ。

「やれ!!」

 ラオが大きな声でで号令を出したすぐ後、城門に丸太がぶつかり大きな音が鳴り響く。

(もう後には引けない)

 何とも言えない高揚感がラオを支配する。自分の中にあるのは勇気なのか戦いへの恐怖なのか、自分でもよく判らなくなって来た。一緒に戦ってくれる兵達と共に、今は突き進んでいくしか無いのだ。


 城門は見た目よりも頑丈な造りになっていた。10回程丸太を打ち付けても、なかなか打ち破ることが出来ない。出鼻を挫かれた様な気持ちになり、ラオは焦る。しかし横を見るとムササビは平然と落ち着いている。

「城門が頑丈なのは当たり前の事です。でも、見て下さい。少し隙間が空いてきました。」

 彼の指差す方を見てみると、なるほど人間の拳ぐらいの隙間が見える。

「後2回ほど打ちつければ、人の頭程になりましょう。後は彼に閂を叩き切って貰います。」

 そう言うムササビの後ろから、大きな斧を持った男が現れた。いかにも力が強そうな大男である。

「なるほど、門を打ち破るのはそう言う手順があるのだな。いや、勉強になる。」

 ラオは素直に感心し、自分の焦りを恥じた。総大将と言うものは、どんな状況においても絶対に慌ててはいけないのだ。総大将が不安になると、それは他の兵士にも伝わる。今回は、経験豊かな者達の落ち着いた行動で助かっているが、この先は自分が誰よりもズシリと構えていなければいけない。でなければ勝てる戦も勝てなくなってしまう。

「俺は今、ここの皆によって成長させて貰っているのだな。ありがたいことだ。」

 ラオは、横にいるカジキにだけ聞こえるようにそう言った。

「それは、皆が殿下なら未来を託したいと思うからです。殿下なら、何か成し遂げてくれる様な希望が持てる。だからお若い殿下の為に、自分たちの経験を惜しみなく伝えたいと思うのです。少なくても、俺はそう思っていいます。」

 カジキの言葉がありがたい。ラオはカジキの目しっかり見つめ、力強く頷いた。


 斧を持った兵がゆっくりと、城門の隙間に近づいた。

 彼は大きく斧を振り上げた。ガンっと大きな音が響く。また振り上げる。またガンっと響く。

 みんなが息を殺しながら静かに大男の動きを見つめている。

 4回目の斧が振り下ろされた時、ベシッと音が変わり閂に使われていた丸太が大きな音を立てて崩れ落ちた。横に控えていた歩兵達が、素早く丸太を退かし門を大きく開けた。

「門が開いた!さあ、突撃だー!」

 ラオが間髪入れずに号令を出し、城内へと走り出した。

「ウオォォォォー!!」

 凄まじい怒号のような叫び声共に、兵士たちもラオにつづき城内へ雪崩れ込んだ。


 正門の近くに居た人々が、恐れる様にラオ達を見つめて来る。しかし何かおかしい。人々は町の向こう側とこちらを交互に見ながら、混乱しているようだ。よく見ると、町の奥で何かが燃えている。オニヤンマ達が敵に見つかり、一足早く戦闘になっていたようだ。

「なるほど、こっちに人がいない訳だな。」

 ラオは正門の静けさに納得する。

「この様子ではまだ中に入れていなさそうですね。まずが裏門へ向かいオニヤンマ殿を援護しましょう。」

「そうだな。では町の民達に家の中に入る様に促しながら、裏門へ急ごう。」

 ラオは、ムササビの進言を素直に聞き入れた。


 町の中心らしい広場に来たところで、ラオが民達に大声で呼びかけた。

「我はテムチカンの王ロジュンの息子なり!タージルハン宰相のクワガタ殿の要請にて、逆賊カマキリの討伐に来た!町民に危害を加えるつもりは無い!それぞれ家の中に入って、カマキリ討伐終了の合図があるまで待っていてくれ!」

 そして、何人かの兵士が伝令となって、馬を走らせながら町中を走りラオの言葉を伝えまわった。

 裏門の騒ぎを見ていた人々が慌てて家の中に戻る。家の中から息を殺し、こちらの様子をじっと見ているのが分かった。これから何が起こるのか不安で仕様がないと言うところだろうか。

「そりゃ、いきなり町に踏み込まれたら、怖いよな。」

 ラオが苦笑いする。

「早く、カマキリと決着つけて、町の人々を安心させてあげないといけませんね。」

 カジキも苦笑いでラオに応えた。


 大通りを進んで行くと緩い曲がり角になっていて、そこから裏門が見えた。燃えていると思ったのは、城壁に灯された松明の灯りだったらしい。門はまだ開いておらず、城壁の上から矢を射る兵士の姿が見えた。

(これはヤバいかも知れない)

 ラオは背中に嫌な汗が流れるのを感じたが、それを顔に出すことも無く、「オニヤンマ隊を援護するぞ!俺に続け!」と兵士たちを鼓舞した。

 ラオの声が聞こえたのか、門の入り口近くにいた兵士たちがこちらに気付き、襲いかかってきた。

「構えろ!弓矢隊は城壁の上を狙え!」

 ラオは叫ぶ様に命令を下し、自らは馬で何人かを蹴散らした後、馬を降り剣で戦った。

 最初の何人かを切り捨てると、敵は早くも戦意喪失したらしく。じっとこちらの様子を伺っているだけになった。

 やがて後方から城壁目掛けて矢が雨の様に飛ぶ。弓兵の腕は確かなようで、城壁の兵達は次々と倒れ込む。

 中にはこちらを目掛けて矢を入ろうとする者もいた。しかしそれもすぐに諦めたらしく、みんな両手をあげてこちらに降参の意思を示した。


「なんなんだ?」

 あまりにも早く降参して来た敵に、ラオは混乱する。

「やはり、かなり急ごしらえの軍隊みたいですね。弓矢の訓練もしていないみたいだし、統率も取れていない。・・・というか、指令を出している者もいないみたいですね。」

 ムササビも信じられないと行った表情で、敵軍を眺めていた。


 ボーッと所在無さげに立っている敵兵を尻目に、ラオは裏門へと急ぐ。兵士たちが閂をはずし裏門を開放した。門が開くと少し下がった所で、見事な隊列を組んだ軍団がそこに居た。オニヤンマの方に参加していた、ヒツジグモとニシカゼの姿も見える。

 オニヤンマもラオの姿を確認したのであろう、急いで馬を降りこちらへ走ってくる。

「殿下、ご無事で何より。町の兵士は鎮圧されたのですね。」

 オニヤンマはラオの無事を喜んでくれた。

「其方達が敵を惹きつけてくれたからな。全く危なげなくここまで来れた。敵に矢を撃たれていたが、そちらの被害はどうなんだ。」

「負傷者が十数名出ましたが、死者はいません。」

「それは、良かった。」

 オニヤンマの報告に、ラオは安堵する。


「オニヤンマ殿、ワザと目立つ様にして敵の目を向けさせましたね。」

 ムササビが流石だと感心する。

「そうなのか?それなら早く言ってくれれば良いのに。」

 ラオが驚いた。

「裏門へ行く途中で、二つの城門を破るのは合理的では無いと思ったんですよ。それならこちらに敵兵を引きつけて、殿下に門を開けてもらう方が早いだろうって思いましてね。」

 オニヤンマは事も無げににそう言った。

「俺も同じ事を考えるとは思わなかったのか?」

 尚も質問すると、「殿下なら、真正面から城門を破ると信じてましたよ。」とニヤリと笑った。

 確かに、こちらに敵を引き付けると言う発想はラオには思いつか無かった。これが経験の差と言うものかと、少し悔しくなる。

 顔に出ていたのか、オニヤンマが諭す様に言って来た。

「これが、何度も死線を掻い潜って来た者の勘と言うものです。殿下はこれが初陣です。こう言った経験が殿下を成長させるのです。でも、悔しいという気持ちは大切だと思いますよ。それが無い者に軍を治める総大将は務まりません。あなたは立派な総大将ですよ。俺が命をかけてでも付いて行きたいと思わせてくれる。」

 彼の言葉は心に刺さる。確かにこの戦いで何度も感じた経験不足が悔しいという感情は、自分を向上させる為に必要なものなのかも知れない。自分を高める為にもっと貪欲でありたいと願うラオであった。

 


 

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