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暴君ラオ  作者: あーる
18/20

タージルハンの乱3

 扉から20人ほどの男達が出てきた。各々剣を構えているが、とても後宮を警護する者とは思えない。まるで街のゴロツキの様なその姿に、ラオはタージルハンがいつ崩壊してもおかしく無い事を悟った。。

 カジキとヒツジグモがラオを守ろうと前に出ようとしたが、ラオはそれを制止した。

「俺は大丈夫だ。足手纏いにはならない。一緒に戦うぞ。」

 それを聞いたアナグマはニヤニヤと嫌な笑い方をしてきた。

「苦労知らずのおぼっちゃまがイキがるもんじゃないぜ?」

「クワガタ殿!ここは我らに任せて。カワウソ殿とこの腑抜けになっている連中を頼みます。」

 煽ってくるアナグマを無視してクワガタに指示を出し、ラオは剣を構えた。

「お前!バカにしているのか!!」

 アナグマが怒鳴り散らかすが、ラオは自分が思っている以上に冷静だった。


 ラオが先頭に立ち、後ろでカジキとマーマタンの使者、連れて来た護衛達が、いつでも飛び出せる様に剣を構えてる。しかし、相手の方が数は多い。しかもずいぶん喧嘩慣れしているような雰囲気を出して来ている。

(構うものか。こちらは戦うだけだ。)

 ラオは、無我夢中で向かって来る奴らに応戦した。


 前方やや右から、上段から剣を構えた男がラオに切り掛かってくる。ラオは少ない歩数でそれを避けると、自分の剣を左から上に向かい払う。相手は剣を落としよろける。ラオがすかさず相手を足払いし踏みつけ戦意を削いだ。その隙をつく様に別の男が切り掛かってきた。一瞬ヒヤリとしたが、ニシカゼが素早く駆け寄り男を蹴り倒した。

「殿下!油断なさらずに!」

 ニシカゼが叫ぶ。

「済まぬ。」

 ラオは気持ちを引き締めなおし、向かって来る者達を薙ぎ払いながらアナグマの方へ近付いて行く。

(カワセミの剣術は、かなり実践的だったんだな。幼い頃、辛くて泣きながら教えてもらったが、感謝しなければなるまい。)

 ラオは、目の前に来る敵をねじ伏せながらそんな事を考えて苦笑いした。

 相手の攻撃に自然と体が動いて反撃している。ラオはただただ夢中で剣を振りながらも、倒れて行く敵を不思議な気持ちで眺めながら進んだ。


 大方の者が倒れ、後はアナグマだけとなった。

 アナグマは腰を抜かしワナワナと震えている。彼自身に戦う力は無さそうだ。後ろを振り返ると、あれだけいた連中は、全て動けない様に拘束されている。

 ここでようやく安心し、ラオはニコリと笑い味方の護衛達を賞賛した。

「さすが、厳しい砂漠で鍛えられている事はある。みんなすごい腕前だ。」

 そしてアナグマに向き直る。ラオの顔はもう笑っていない。

「さて、王がなぜこうなったのか詳しく聞くとしよう。」

 自分でも驚くほど冷酷な声を出し、アナグマを睨みつけた。

「ヒィー!すみません。」

 今までの威勢は何処へ行ったのか、アナグマは卑屈なまでにひれ伏した。


「俺は・・・、そうだ俺は頼まれたんだ。カマキリに!」

 アナグマが焦りながらそう言うと、カジキが何か気付いたのか、「黒幕が逃げる!直ちに街の門を閉鎖してもらえ!」と護衛達に叫んだ。

「カマキリとは誰だ?」

 ラオは厳しく尋問を続ける。

「いや・・・、王家の遠い親戚筋に当たる貴族でね・・・、権力への執着が凄まじいもんでヤマネコ様に嫌われ、しばらく王宮から遠ざかっていたんですよ。ヤマネコ様には敵わなかったんですが、代替わりをしたカワウソ様に取り入ることに成功しまして・・・、それで街のゴロツキだった俺を、宦官として後宮に引き入れたんで。それで・・・、まあカワウソ様を骨抜きにして使い物にならない様にしてくれと。」

 アナグマに忠誠心というものは無いのか、聞いていない事までペラペラとよく喋る。


「どうもカマキリは、テムチカンのウミネコという奴と繋がっているって話でさぁ。」

 聞き捨てならないことを聞いた。ラオは頭から血の気が引くのを感じる。

「ウミネコは確か・・・、テムド叔父の取り巻きの一人だな。何を考えているんだ!」

 ラオの叫びにカジキが応える。

「殿下!奴らは何も考えていませんよ!ただ、ただ己の私腹を肥やすことしか考えていないんだ!」

 ラオは頭がクラクラしてきた。それはこの部屋の悪臭だけが理由では無さそうである。

「テムド叔父も・・・、父上への恨みだけで奴らに利用されたのだろうな・・・。急がなければ・・・、肥大した欲に塗れたアイツらにテムチカンまでも乗っ取られるかも知れん。本当にそれは・・・、叔父上の望むことなのか?」

 ラオは少なからず混乱した。


 後宮を制圧した日の夜、改めてクワガタと対談することになり、ラオ達は比較的小さな客間に通された。今回は衛兵隊長も話し合いの席に参加している。

「カマキリの他に何名かの臣下達が、殿下が後宮へ向かっている間に王宮を離れたとのことです。この街にある奴らの屋敷にも見に行かせましたが、すでに領地へ戻ったと使用人達が言ってました。カマキリの領地は南西に馬で1日の所にあるトルガの町です。」

 隊長の報告に、クワガタは悔しそうに項垂れた。

「ウミネコがタージルハンにちょっかいを出しているのは、テムド叔父も知っているのだろうなぁ。アイツらは弱者から搾取する事しか頭にない。そんな事をするとやがて歪みが生まれ、自分達も立ち行かなくなる事がなぜ分からんのだ。」

 ラオは、テムド達の考え無しの行動に呆れてしまっていた。

「陛下はロジュン様の近くでしっかりと見ておられたのですな。ロジュン様もいつもそう仰られていた。テムド殿にはそれが分からないのでしょう。お母上の復讐をすることだけで生きて来られた。」

 カジキはテムドを憐れむようにそう言った。

「まあ、今はそれを言っても仕方ない事かも知れないな。衛兵隊長、今のトルガの様子はどうなのだ?」

 ラオは気を取り直す様に、隊長にトルガの町の事を聞いた。

「あの町は昔、カマキリ殿の先祖が王家より任された土地でございます。彼らの本拠地故、なかなか内部が分からない。町の様子を調べさせておりますが、もう少し時間がかかりそうですね。

 ただ、ここを出て行く時のカマキリ殿は、切羽詰まったような顔をして慌ててたらしいです。タージルハンの屋敷も出払ったとなると・・・、自暴自棄になって、こちらに向かって挙兵する事も考えられます。」

「カマキリとやらはそんなに好戦的な御仁なんですか?」

 ヒツジグモがクワガタに質問する。

「そうですね。普段は気が弱く、相手の立場が上だと分かるとすぐに尻尾を振る様な人です。ですが、一度怒り出すと、喚き散らして手がつけられなくなる様な一面もありますね。なんにせよ。後先考えて行動する様な人物ではありませんね。

 彼奴は自分が得になる事に貪欲な男です。テムド様の取り巻きにいい様に使われているとも知らずに、調子に乗っていたのでしょうな。。」

 よっぽど嫌いなのだろう。クワガタはカマキリの事を辛辣に評した。


「カジキ。俺はウミネコと話したことは殆どないが、カマキリが挙兵するとしたら援軍を出すと思うか?」

 ラオはカジキに意見を求めた。

「彼は戦さに関してはまるで素人です。それに困った相手に手を差し伸べる様な、そんな優しさがあると思えない。援軍か来るとは考えられないと思います。

 ただ、殿下がタージルハンの軍勢に参加するとなると・・・、流石に邪魔してくる可能性はありますね。」

「俺も参戦する事が決まっている様な口ぶりだな。」

 ラオが苦笑いする。

「違うんですか?」

 カジキとヒツジグモが同時にそう聞き返したので、ラオは大笑いした。確かにラオの性格上参加しないという選択は無い。

「相手がどう出るかはさて置き、カマキリをこのままにしておく訳にはいかないだろうな。クワガタ殿、トルガの様子が分かり次第動けるように考えましょう。」

「分かりました。合わせて我が王の事も相談に乗っていただけるとありがたいです。」

 クワガタがラオの目を真っ直ぐに見つめてきた。


「カワウソ様は・・・、もう回復は望めないかも知れません。」

 カジキが難しい顔でそう言った。

「かくなる上は・・・、ラオ殿下にカマキリを討って頂き、そのままタージルハン王として即位して頂きたいと存じます。」

 ラオは思い掛け無い申し出に驚いた。。

「俺に、王座を簒奪せよと?」

 場馴れしているはずのカジキとヒツジグモも、口をあんぐりさせて固まってしまった。

「何の冗談です。」

 ラオが笑おうとしたが、クワガタの目は笑っていない。

「私は本気です。」

 ラオは、ごくりと唾を飲み込んだ。


「カワウソ殿がもう王の使命を果たせないと言うのなら、クワガタ殿が代わりに王となれば良いのではないのですか?来たばかりでこの国のことを何も知らない俺が王になるのは筋違いだ。」

 ラオは王になる事を固辞しようと反論したが、クワガタは引き下がらない。

「私は臣下の一人でしかありません。いくら私が権限を持っているとは言え、私が王座に座る事はあり得ない。私が王になれば今以上に臣下達の軋轢を生むでしょう。

 殿下は追われているとは言えテムチカンの王子で、後宮からあのゴロつきのような宦官達を追い出し、カワウソ様を救い出した立役者です。昼の出来事は噂になってもう街中の者に知れ渡り、ラオ様を称賛する声に溢れている。権威と実績のある殿下が、王となる事を反対する者はいないはずです。」

 クワガタの熱意に圧倒される。しかしラオには、やらなければなら無い事があるのだ。

「期待される事はありがたいが、俺はここに留まる訳にはいかないのだ。」

 ラオがそういうと、クワガタはニコリと笑った。

「ですから、私を宰相から執政官に任命して頂きたい。私は王の肩書よりも実の方が欲しいのです。今の私では国を動かすのも限界がある。ですから、殿下からのお墨付きが欲しいのです。」

 クワガタの本音をを聞いて、ラオはそう言うことかと合点がいった。クワガタにこの国の全権を委ねるのは問題無さそうに思えるし、ラオにも自分の拠点が出来ることは悪い話では無い。ラオは心が揺れた。

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