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暴君ラオ  作者: あーる
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マーマタン3

 会議が終わった後、ラオは一人残るように求められた。

「俺たちも一緒にいてはいけませんか?」

 セキバがそう言ったが、アケボノは首を横に振り静かに言った。

「まずは殿下一人に聞いて頂きたい。その後どうするかは殿下がお決めになる事。」

 そう言われるとセキバも引き下がらずにいられない。不安そうにラオを見て、「わかりました」と言いカワセミ達と自室へと帰って行った。


 広い部屋に、アケボノと二人だけになった。

「そんなに怯えないで頂きたい。」

 緊張で顔が強張っているのが分かるのか、アケボノは笑いながらそう言った。昨日も見たあの優しい笑顔だ。

「テムド殿の謀反の少し前、カジキ殿がロジュン様の手紙を渡してくれた。カジキ殿はその後、暇を出されたそうですな。」

「はい、それはカジキより聞いています。手紙の内容は交易の話だと思っていたと。」

 昨日、カジキはそんな話をしていた。

「彼は本当に信頼のおける人物ですな。」とアケボノは目を細めて頷き、手紙をそのまま見せてきた。

「ロジュン様の本音が書いてあると思います。王が何に悔やみ、何を恐れたのか・・・、ロジュン様は普段より決して弱音を吐かぬお方、息子である殿下にはかなり衝撃的かも知れませぬな。それでも、これを読んで頂きたいと思う。ロジュン様があなたに何を託したかったのかが分かると思います。」

 ラオは、アケボノより手紙を受け取った。そこにはアケボノへの定形的な挨拶の後、ラオが今まで知らなかった父の苦悩が書かれていた。


「・・・王太子としての教育をする為、父は母親から幼き私を引き離した。母はそんな父を深く恨んでいたようだ。そして、傲慢な父に従順な私のことも同じように疎んじていた。私は母親から優しい言葉をかけられた記憶はない。

 そんな母は、父に腹いせでもするように手元に残されたテムドを溺愛し、なんでも欲しいものを与えていた。テムドに対し、私を追いやり王座へ着くように唆すようなこともしていたようだ。


 そんある日、私の食事に毒が入っていたという事件があった。普段の言動から父は母を疑った。 

 誰が毒を入れたかは未だ分かっていない。父にとって誰が犯人かは重要なことでは無かったらしい。その頃すっかり冷え切っていた母との関係を断ち切るのに、絶好の好機だと考えていた節もある。とにかく、母とテムドは王宮を追放された。

 最後の夜、母が私に言った恨み言は今でも忘れられない。結局母は、父と私に恨みを残したまま、3年後に亡くなった。だから、テムドが私を本気で恨んでいても何も不思議ではないのだ。


 父王が死に、王に即位した私はテムドを王宮に呼び戻した。

 ガジュマルは『今更、そんな事をしてもテムド殿の恨みは消えますまい。この国の憂い事となるかも知れません。』と反対してきた。しかし私は、テムドに対して拭いきれない負い目を感じていたのだ。当時のテムドは18歳になっていてもう子供では無く、私に対して臣下の礼をしてきた。

 やはり私たちは兄弟なのだと心から感動し嬉しかった。そして、テムドの多少の我儘は目を瞑っていた。それでテムドが増長しこの国に災いをなすと分かってはいたが、私の罪悪感の方が大きかった。


 テムドの周りの連中は、テムドを煽てて利用する事しか考えない。テムドにはそれが分からないのだ。奴らは私の事も懐柔できると近づいて来た。そして、私が懐柔出来そうに無いと分かると、今度はラジョを王太子妃に据えようとして来た。しかし、ラオはそれを跳ね除けた。

 連中はは自分たちの意に反するラオの命を狙うだろう。ラオ達の命を守る為、彼らを聖地へと留学させたのは、良い判断だったと思う。


 幼くして母親を亡くしたラオにとって、リンドウやガジュマル殿の存在は大きかった。彼らはラオに愛情と厳しさを持ってしっかり育ててくれた。

 ラオは自分の意見をはっきり持っている。そして、理想の王となる為にどうすれば良いのか判っている。本当に勇敢で優しい子に育ててくれた。彼らにはいくら感謝しても足りぬ。

 私も、ラオに未来を託したいと思う。


 ラオが手を出せない所に行ったとすると、連中は私の命を狙うだろう。テムドは決して私の事許を許さない。ずっと、母の仇討ちの機会を伺っていたのだ。私も、彼らに対抗する事に疲れてしまった。

 アケボノ殿、私に何かあった後のラオの力になって頂きたい。昔、義兄弟の契りを結んだ其方にしか頼めぬ。どうか、愚かな私の最後の頼みを聞いて欲しい。


 最後に、ラオに伝えてくれ。

 私は本当は情けない父親なのだ。全てをお前にに背負わせて死んでいく父を許してくれ。でも、お前には真っ直ぐ前を向ける強さがある。そしてお前を愛する仲間も沢山いる。どうかテムチカンの未来を頼む。」


 ラオは涙でグシャグシャになりながら、手紙を読んだ。

「ロジュン様は決して強いだけの男では無かったし、色々な葛藤を抱えながら生きて来た。そしてあなたに希望を託したいと願っていた。ロジュン様の気持ちが伝わりましたかな?」

 アケボノは優しく聞いてきた。

「はい・・・、でも、俺がラジョを選んでいたら父上は死なずに済んだのかと思うと苦しくて・・・。」

 ラジョを選ぶことなど決して出来ないと思いながらも、そんな事を考えてしまう。

「ロジュン様が、テムド殿の娘を選び腑抜けになった殿下を見て喜ぶとでも?あなたがアゲハ様を選んだ時にも、儂に手紙が来ました。そこには良い娘を選んだと喜びの言葉が書かれておりました。気の強そうな良い目をしているとね。

 それに、テムド殿の傀儡になる様な貴方ではない筈だ。遅かれ早かれこうなるのは仕方が無い事なのかも知れませんな。もう、テムド殿とそれを取り巻く連中はロジュン様の手に負えるものでは無くなってしまった。だから、貴方に希望を託すことしか出来なかったのです。」

 アケボノの言葉が胸に刺さる。

「分かりました。俺は俺の出来る事は何でもしたい。テムド達の圧政を1日も早く止めさせて、この大陸に平和をもたらしたい。それが父の願いなのですね。アケボノ殿、どうか俺に力を貸して頂きたい。」

 ラオは改めて心に誓い、アケボノへ協力を要請した。

 アケボノは心から満足そうに、「承りましょうぞ。」と力強く言ってくれた。


 最初の行き先として、助けを求めて来たジームスカンへと向かう事にした。マーマタンからテムチカンを挟む形で反対側にあるジームスカンには、2ヶ月以上の日数が掛かる。

「ジームスカンに行く前に、タージルハンに寄ってみてはいかがですかな?」

 アケボノがそう提案してきた。

「先代の王ヤマネコとロジュン様、そして私は義兄弟の契りを交わした仲でしてな。代替わりしてから疎遠にはなっておりますが、行ってみる価値はあるかと思います。」

「通り道でもありますし、タージルハンの協力が貰えれば色々動きやすくなりそうですね。ただ今の王である、カワウソ様はあまり良い評判を聞かない。そこが少し心配ですね。」

 カジキが難しい顔をした。

「とにかく、行ってみなくては分からない。今はどんな手を使っても味方を増やしたい。」

 ラオがそう言うと、「それもそうですね。まずは行ってみましょう。」とカジキは了承した。


 ジームスカンへ行く手順を話し合っている時、ミカヅキが思いもかけない提案をしてきた。

「私の方からも人を出す事にいたそう。」

「良いのですか?貴殿は否定的な意見が多かったので、私への協力には消極的だと思っていたのですが?」

 まさかの提案に、ラオは驚いた。ミカヅキは苦笑いをしながら答える。

「申し訳ないが、若い王太子に何が出来るかと思いまして。しかし、話し合いでの殿下の決心を聞いてこちらも覚悟が決まりました。」

「しかし、協力していただけると言いながら、あまり乗り気には感じられませんでした。」

 少し失礼な言い方だとも思ったが、ミカヅキの本心が知りたくなった。

「それはそうです。私はテムチカンの商人と良好な取引が出来ているのですから、下手にテムチカンとやり合いたくは無い。ただ、私が取引している商人は政治とはあまり関わり合いのない人物ばかりです。彼らも、テムド殿の取り巻きばかりが良い思いをするような、今の状態を良くは思っていないでしょう。それならば、殿下に協力する方がこちらの利益になると思ったのです。」

 正直な男だと思った。好き嫌いは別にして、信用しても良いかも知れない。ラオはミカヅキの申し出に感謝して受け入れる事にした。

「それなら私も人を出しましょう。族長を担う御三家共同で動くと言うことは、マーマタン全体がラオ殿下側に付くと言う、意思表示となります。それは周囲の国々に多大な影響を与える事になるでしょう。」

 リュウセイもそう言って協力を申し出てくれた。

「マーマタン全体が後ろ盾になってくれるのは心強い。殿下、これはすごい事ですよ。」

 ずっと緊張していたカワセミも、少しホッとしたようだ。

「そうだな。本当に有難い。マーマタンの皆様方には本当に感謝する。」

 ラオは改めて、皆に頭を下げて感謝した。アケボノが王太子が無闇に頭を下げるものじゃないと嗜めたが、ラオは首を振りながら、「今の俺は何の力も無い。そんな俺を助けてくれるのだから、素直な気持ちで頭を下げたいんだ。」と言った。

「殿下らしいですね。世話になる人に素直に頭を下げられる。殿下の誇りはそう言うものに左右されないのです。だから、私たちは殿下を助けたいと本気で思える。」

 カワセミはそう言ってマーマタンの家長達に笑いかけた。

「なるほど。本当の王者というのはそういうものなのかも知れませぬな。」

 アケボノも納得したように笑った。



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