公爵家の御令嬢は帽子がお好き?
「第5回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
「お嬢様、お届け物です」
「あら、そうなの?」
私はフロリアーヌ・ポートリエ。
ジルヴェール王立学院の学生ですが、冬期休暇中のため自宅へ戻っておりますの。
優雅にティータイムを楽しんでおりましたのよ。
届け物?
あの円筒形の箱は……ハットボックスよね?
「ルシアン様からです」
「まあ!」
兄のルシアンは近衛騎士団に所属しております。
この国の第二王子殿下の側近で、私が敬愛してやまない麗しのお兄さまですわ。
もちろん、直接伝えたしたことはありませんけれど。
まあ、なんて素敵な帽子!
淡いピンク色のつば広の帽子に、大小様々な可憐なお花が飾られていて、レースとリボンが揺れているのよ。
これってシルクフラワーよね?まるで本物と見紛う程の美しさだわ。
あら。箱の中に封筒が?見覚えのある筆跡、お兄さまのものね?
親愛なるリアーヌ
似合いそうな帽子を見つけたので贈るよ
一緒に散歩に出掛けよう
お目かしをした可愛い君に、早く会いたいよ
ルシアン
「まあ、お兄さまったら」
私は由緒正しいポートリエ公爵家の令嬢ですから、どんな時でも冷静で在らねばなりません。
例え目の前の帽子に心を鷲掴みされていても、それがお母様が誂えて下さったドレスにピッタリだとしても、散歩の誘いにワクワクしていてもです!
「やあ、リアーヌ。今日もなんて愛らしいんだ!」
突然部屋に入って来たのはその兄です。
「どうしてこちらに?お仕事では?」
「君が贈り物を受け取って喜ぶ顔を見ようと思ってね。驚いた顔も見られて嬉しいよ」
意地悪ですわ!
でも、ここで大騒ぎしては、令嬢としてはしたない振る舞い。
ああ、そんなことより、早くこの帽子を被ってみたい!
あら、お兄さまったら、どうしたのかしら?そんなに見つめて。
もしかして、私の顔にまた何か付いている?
「大丈夫だよ、リアーヌ。とっても可愛いから」
「?」
「さあ、もう部屋に下がったらどうだい?」
「……はい。では、そうさせて頂きます」
はぅ。頂いた帽子を被って、お部屋までスキップして戻りたいところだけれど……。ぐっと堪えて、冷静に!
ゆっくりと完璧に美しく見えるように歩きますわ。
「はーーーぁ。なんだよ、アレ。可愛い過ぎるだろ!天使か?」
「ええ、ええ。フロリアーヌお嬢様はまさに天使ですわ!」
「見ただろ、マーサ。扉が閉まる寸前、リアーヌは帽子を被ったぞ」
「そうですわね、坊っちゃま。ですが、箱とお手紙はお忘れのようですけれど?」
「天使なのだ。そこは許せ」
昨年、「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」に参加した作品
『公爵家の御令嬢は常にポーカーフェイスです。』の続編のような感じです。
よろしければそちらもどうぞ。