プロローグ
昔々、あるところに、ニンゲンという名前のとても恐ろしい生物がおりました。
ニンゲンは森を荒らし、我らの同胞を捕まえて細胞レベルに至る実験を繰り返し、ついには食料として管理していました。
やがて、この星にニンゲンが来なかった場所はなくなり、星全体が汚染されて行きます。
ニンゲンに支配されていた我々は、それを黙ってみていることしかできませんでした。
しかし、そこに救世主が現れたのです。
その名はリアム。後にこの国の国王となられるお方です。彼はリスの獣人で、消して強いとは言えませんでした。けれど、彼には仲間がいます。野を進み、山を越え谷を越え、仲間と共にたくさんの苦難に打ち勝っていきました。
その頃、獣人という種族は影の者で、隠れて過ごさなくてはなりませんでした。差別の歴史が色濃く残るこの世界に、彼らは知恵と、勇気と、優しさで立ち向かったのです。
それが我々にとって、どれほど救いとなったことでしょう。どれほど勇気を与えたことでしょう。
とにかく、我らは一丸となって戦い、悪しきニンゲンに勝ったのでした。
そうして悪の時代は幕を引き、平和な世界が訪れました。めでたしめでたし。
…………よくある寝物語である。
この世界の子供たちは、寝る前にこれを聞かされて育つのだ。
そうして、自分達が食べてきた人間の肉を躊躇なく口にし、自分たちが人間と同じ道をたどっているのに気づかず発展していく。
今となっては、立場は逆転した。しかし、人間にもうそんな力はない。なぜなら、人間は武器を纏っていただけで実際はとても脆いのである。屈強な肉体と武器を持った獣人に勝てるわけがない。
「もしかしたら、なんて馬鹿みたいね」
さて、この世界の子供たち……それはもちろん、人間の子供も含まれる。
違うのはそれの指す意味合いだ。
獣人の子にとっては華々しいヒーローの話。
人間の子にとっては苦い戒めの話。
彼らは幼いころから、獣人の恐ろしさと惹きつけてやまない魅力を知っている。
これは、そんな世界に生まれた一人の獣人と一人の人間の話。
とくとご覧あれ。