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【完結短編】私の王子様は「婚約破棄してやる!」が口癖です。

作者: かのん

 私が私の王子様と出会ったのは十歳の時。


 お互いに侯爵家ということでつり合いも取れていて、年も近い事もあって、私とランドン様の婚約は十歳の時に早々に決められた。


 最初に出会った時には、天使かな?と思うほどに、ランドン様は可愛らしかった。


 エメラルドの瞳に、金色の髪。


 大きな瞳はきらきらと輝いていて、なんて可愛らしいんだろうって思ったわ。


「リリス。僕と君は婚約者なんだって。」


 可愛らしいランドン様はそう言うと、シロツメクサの花で花冠を作って私の頭に乗せて言った。


「僕はきっと君を幸せにするからね?」


 本当に可愛らしくって、私は何て幸せなのかしらって思ったの。でもね、私少々性格がひねくれているから、つい、好きな子はいじめたくなってしまうの。


「ええ。私をすごく幸せにしてくださいな。」


 我慢しようと思ったのだけれど、ランドン様が可愛くて可愛くて仕方なくて、ついつい悪戯をしたりちょっとからかったりしていくうちに、ランドン様には妙な口癖ができてしまったのよねぇ。


「リリス!今度こそ、婚約破棄するからね!」


 ぷくぅっと頬を膨らまして、怒った瞳で私を睨みつける姿がまた可愛らしくって、もう嫌になっちゃう。


「まぁまぁ、そんなことをおっしゃらないでランドン様。」


 自分でも面倒な性格だって分かるけれど、でも仕方がないと思うの。だって、私の王子様が怒った顔も不貞腐れた顔も、全部が全部、可愛らしいのが悪いのだわ。


「歴史のテストで手を抜いたでしょう!?僕がそれで勝って、嬉しいと思うと思うの!?」


 ぷんすかぷん!という効果音が聞こえそうだなと思う。


 そして、ぷんすかぷん!と怒るランドン様がまた可愛らしくって、可愛らしくって、自分の性格がどんどんとひねくれていくのを感じています。


◇◇◇


 私の可愛らしい王子様は、十六歳になっても、そのまま可愛らしい。


「リリス!今度という今度は許さないよ!婚約破棄してもいいの!?」


 十六歳なのに、身長があまり伸びなくて、やっと先日私より一センチほど背の高くなったランドン様は、未だにぷんすかぷん!という効果音が良く似合う可愛らしい人だ。


 私はにっこりとほほ笑みを浮かべると、こてんと首を傾げた。


「何をそんなに怒っておりますの?」


「うっ!?」


 私は自分の容姿にかなりの自信があります。はちみつ色のふんわりとした髪の毛に、青色の空のような瞳。ランドン様は口には出さないけれど、この容姿がとても好みのようで、こうして小首をかしげると、いつも顔を真っ赤にされます。


 まぁ、可愛さで言ったら、もちろんランドン様の方が遥かに可愛らしいのですけれど。


「ご、ごまかされないからね!リリス、昨日のお茶会で僕の事を第二王子殿下に・・・もう!可愛らしい人だって恥ずかしい話をしたそうじゃないか!ダメだよ!二人っきりの時は・・まだいいけれど、まだね。でも第二王子殿下に言うのは、やめてくれよ!恥ずかしいから!頼むから!もう言わないって約束してくれないと、婚約破棄するからね!」


 顔を真っ赤に染め上げて恥らいながらそう言う姿がまた可愛らしい。


 第二王子殿下のアレクシス様は私の良き理解者であり、ランドン様の可愛らしさをいくら語っても、同意して頷いてくれる優しいお方だ。


 ランドン様はとても優秀なのでアレクシス様の側近として期待されている。


 ちなみに、何故私とアレクシス様が仲が良いかというと、アレクシス様の婚約者であるミューリー様と私がお友達だと言うこともある。


 私はランドン様が可愛い。


 アレクシス様はミューリー様が可愛い。


 そして私達二人は、少々性格が歪んでおり、だからこそ、気が合うのだ。


 私は潤んだ瞳でランドン様を見上げると言った。


「分かりました。出来るだけ、控えますね?」


 そう言うと、ほっとしたようにランドン様は息をついた。


「お願いだよ。もう。本当にさ・・・僕だって男なんだからね。」


 ぷんすかぷん。とやはり効果音が良く似合う。


 何でこんなに可愛いのだろうかと、私はそう思いながら、あぁそうだと気になっていたことを口に出した。


「ランドン様、話は変わるのですが、最近『私はヒロインなのよ!ランドンは貴方を嫌っているの!近づかないでちょうだい!』とかいう変わった令嬢がいるのですが、知っていますか?」


「え?何それ。怖いんだけれど。」


 ランドン様がどん引いた顔をなさっている。その顔もまた可愛らしいのだから罪だと思う。


◇◇◇


「いい加減にしなさい!悪役令嬢!」


 中庭の噴水の前で突然そう言われた私は、どうしたものかと戸惑ってしまいます。


「私はアリス!このお話のヒロインなのよ。悪役令嬢である貴方になんて負けないんだからね!」


 意味の分からない言葉を並び立てられて、私はどうしたものかしらとやはり思う。


 突然大きな声で怒鳴り始めたかと思うと、私を指差しながら説教でもしているかのような様子で話を進めていく彼女に、私はとりあえず言った。


「あの、言っている意味が分からないのです。」


「あー!もう本当に貴方馬鹿なの?さっきから言っているでしょう。私はヒロイン。貴方は悪役令嬢。私はね、ランドンを貴方から救い出す救世主なのよ!」


 さらに意味の分からない言葉を言われて、私は少しだけ考えるとやはり理解できずに首を傾げてしまう。


「えっと、ヒロイン?様?私は、悪役令嬢ではなく侯爵令嬢なのだけれど、悪役というのは、何の位なのかしら?」


「違うわ!私の名前はアリスよ!」


「えぇぇ?ヒロイン様はお名前ではないのね。アリス様というお名前なのね?」


「そうよ!そして貴方は悪役令嬢!つまり、悪い女ってことよ。」


「悪い女、ですか?」


「そうよ!」


 両手を腰に当てて堂々とそう言ったアリスに、私は何が言いたいのか分からないままに、けれども頷いた。


「そうですね。確かに私は、悪い女かもしれません。」


「ふふん!自覚はしていたのね!そうよ!貴方は悪い女。ランドンをいじめる最低最悪な女なのよ!」


 赤の他人にそんなことを言われるとは思わず、私は顔を歪めた。


 確かに、ランドン様がとてもとても可愛らしくって、つい悪戯をしたり、怒らせたりという事はあった。もしかしたら私自身が思っていた以上にそれは、最低最悪な行為だったのかもしれない。


 そう思うと、少しだけ悲しくなった。


 ランドン様が可愛くてやめられなかった自分の性格の悪さを指摘されている。


 もしかしたらアリスはランドン様に何かを聞いて、そしてランドン様を助けようとして私にこんなことを言いに来たのだろうか。


 先日話をした時には、彼女の事は知らないと言っていたけれど、それは嘘だったのだろうか。

 

 本当は私の事が嫌で、嫌で、アリスに話をしていたのだろうか。


 不安に思い出すと自分の気持ちがどんどんと悪い方向へと流れていく。


 あぁどうしよう。次に婚約破棄を言い渡された時、それが心からのランドン様の願いだったら。

 

 私は、一体どうしたらいいのだろう。


 そう思った時だった。


 アリスはにやりと笑うと、自分から噴水の中に飛び込んだ。


「きゃぁぁあ!酷いです。リリス様!私が何をしたと言うのですか!」


 自ら噴水に飛び込むと言う奇行を目にして、思わず目を丸くして固まっていると、そこに思いがけない人が現れた。


「どうしたんだ?」


 そこには、私の可愛い王子様がいた。


「ランドン様ぁぁぁぁ」


 アリスは潤んだ瞳でランドン様に抱き着くと、私の方を見てにやりと笑いました。


 これはあれです。この状況だと明らかに私がアリスを突き飛ばしたと思われた事でしょう。


 そして、悪い女の私はきっとランドン様には信じてもらえない。


 私は怖くなって体がガタガタと震えました。


 けれど、聞こえてきた言葉に思わず目を丸くしてしまいます。


「うぇっ。ちょっと失礼だけれど引っ付かないでくれ。君は誰だ?令嬢が男性に軽々しく触れるものではない。」


 ランドン様は嫌悪感を露わにした顔でアリスと距離を取ると、ハンカチを取り出してアリスへと手渡した。


「とにかく、君は早く着替えた方がいい。侍女は?」


「え?ら・・ランドン様。私、リリス様に突き飛ばされたんですよ?」


「は?・・・君は何を言っているんだ。」


 ランドン様は私の方へと歩み寄ると、私の顔を覗き込んで驚いたような表情を浮かべると、アリスの方を睨みつけた。


「君、リリスに何をしたんだ?」


「え?ち、違います!私が、リリス様に突き飛ばされてこんなずぶ濡れになったんです!」


「はぁ?リリスがそんなことをするわけがないだろう。リリス。大丈夫かい?もしかして君がこの間言っていたのはこの令嬢の事かな?」


 この後、婚約破棄のことを言われるのだろうかと思うと、悲しくなってきて、本当に婚約破棄されたらどうしようかと不安が募ってくる。


「あ・・・」


 次の瞬間、堪えきれずに涙が流れてしまい、私はそれを隠すようにうつむいてしまう。


「リリス!リリス!どうしたんだ!?あぁもう!ほら、とにかく場所を移そう。」


「え?っきゃっ!」


 体を軽々と抱き上げられ、私はランドン様にしがみついた。


 その様子をアリスは呆然とした顔で見つめてくる。


「ランドン様!そ、その女は悪役令嬢ですよ!」


「君は一体何なんだ!リリスが泣いているんだぞ!君にはあとで詳しく話を聞くからな!」


 ランドン様は私を抱きかかえたまま歩き出しました。私は何が何だかわからないけれど、自分をしっかりと支えてくれるランドン様が、初めて、可愛いのではなく、とても頼もしくかっこよく見えて、胸がいつも以上に高鳴りました。


 私は婚約破棄されるのが怖くて、つい、ランドン様の胸に頭をもたげてしまいます。


「・・・リリス。あまり、可愛らしい事をしないでくれ。」


「え?」


 言葉の意味は分からなかったのですが、ランドン様の肌がいつもよりも赤みをおびえて見えました。


◇◇◇


 意味が分からない。


 ヒロインは私のはずなのに、どうしてずぶ濡れの私を放置して、悪役令嬢のリリスを抱き上げて去っていくのよ!


 私は噛みながら地団太を踏んだ。


 せっかくの洋服はずぶ濡れで重たいし、化粧も崩れてしまった。


 本当ならばランドンが私の事を抱き上げて医務室へと連れて行ってくれるはずなのに、どこかへ行ってしまうし最悪である。


 思わずランドンから手渡されたハンカチを地面に投げ捨て、大きくため息をついた。


「ふふふ。ぬれねずみちゃん。一体どうしたんだい?」


 すると後ろから声を掛けられて私は思わずびくりとした。


 そこには、攻略対象者であるアレクシス第二王子がおり、私はしまったと思いながら、猫をかぶり直す。


「え?えーっと・・・その、実は、ランドン様の婚約者のリリス様に、私の婚約者に近づくなと突き飛ばされてしまって・・・」


「そうなのかい?あぁ、だから、そんなにずぶ濡れなんだね。」


 アレクシスは私の方へと歩み寄ると、濡れた髪の毛を優しくハンカチで拭いてくれる。


 アレクシスは攻略が難しく、しかもバッドエンドの場合は幽閉という恐ろしい展開が待っているので、一番攻略がしやすそうなランドンを狙っていた。


 けれど、私の方を優しい瞳で見つめてくれるのが嬉しくって、アレクシスの攻略に変更しようかなと思ってしまう。


 それにこんなに優しくしてくれるのだから、もしかしたら行けるかもしれない。


「私・・リリス様に嫌われてしまったようです。」


 潤んだ瞳でそう言うと、アレクシスは困ったように微笑みを浮かべて、私を王族用の休憩室へと連れて行ってくれた。


 しかも代わりのドレスまでプレゼントしてくれた。


 なんだ、アレクシスちょろいじゃないと私は思い、ランドンから狙いをアレクシスに変更することを決めた。



 アレクシスは綺麗なドレスに身を包み、満足げに笑うアリスを見て苦笑を浮かべた。


「何とも分かりやすい女だなぁ。さぁ、ちゃんと私の友人を傷つけた罰は受けてもらわないとね。でも面白そうだから、しばらくは泳がせてみるかな。」


◇◇◇


 ランドンはリリスを学園内にある休憩室へと運ぶと、椅子へとリリスを降ろして、その前に跪いた。


「リリス。一体どうしたんだい?」


 リリスは瞳を真っ赤にすると、ぽろぽろと涙をこぼした。


 リリスの鳴いている所を見た事が無かったランドンは焦り、指でリリスの涙をすくい上げると言った。


「あの令嬢が君に酷い事をしたんだね?大丈夫だよ。僕が守ってあげるから、心配しないで。だから、お願いだから涙を止めて。リリスが泣いたら、僕は辛くて仕方がないんだ。」


「・・・守って・・・くれるのですか?」


 驚いたようなリリスの言葉に、ランドンは何故そんな顔をするのだろうかと思いながら頷いた。


「もちろん。だってリリスは僕の大切な婚約者だよ。守るに決まっているだろう?」


「でも・・・婚約破棄は?しないのですか?いつもみたいに・・・婚約破棄をするって言わないのですか?」


「え?」


 ランドンは困ったように頭を掻くと、顔を少し赤らめて言った。


「しないよ。・・・あぁもう。その・・・僕が婚約破棄をするって口癖になったのは、リリスのせいなんだよ。覚えていないの?」


「え?」

 

 こてんと首を傾げると、いつものようにランドンは「うっ」と小さく声を漏らしてから、言った。


「婚約破棄をするって言ったら、リリスはあの手この手でそれを覆すし、それを面白がって楽しそうにしてたから、その・・・僕もつい、君が喜ぶならいいかなって・・・・」


「え?」


「僕だって馬鹿じゃないよ。君は・・・僕が困っている顔とか、悔しそうにする顔とか・・そういう顔、好きでしょう?」


 ばれていたのかとリリスが目を丸くすると、ランドンはばつが悪そうに言った。


「それで、僕も・・・君に悪戯されたりするのが、嫌いじゃない。」


 お互いの顔を二人は見合わせると、お互いに顔を赤く染めて言った。


 なんだかんだで、似た者同士の二人である。



 あの日以来、私とランドン様はお互いにどう思っているのか言葉にするようになった。まだまだ言葉の足りない私達だけれど、以前よりも心が近くなったような気がする。


 ただ、私達にとって「婚約破棄する」というのは愛情表現の一つのようになって、未だに二人きりの時によくそうしたやり取りをしている。


 そう。そしてあの日以来、自称ヒロインとかいうアリスは、アレクシス様にぴったりと引っ付くようになった。アレクシス様は面白いおもちゃを得たとばかりにからかったり、やゆったりしているが、アリスは何を勘違いしているのかとても嬉しそうににこにこしているので気持ちが悪い。


 けれど、その日、教室の真ん中で、アリスは言ってはいけない一言を言ってしまった。


「アレクシス様ぁ。ミューリー様が私をいじめるんですぅ。」


 教室の温度が一気に十度は下がった。


 皆が何故その名を出したのだとアリスを凝視し、突然、アレクシス様が冷たい瞳に変わったのを見たアリスは驚いたように目を丸くした。


「あ・・・アレクシス様ぁ?」


 未だに猫なで声をやめないあたりが空気が読めない証拠だろう。


 アレクシス様は冷ややかな眼差しで、傍に控えていた護衛の騎士に言った。


「もういい。連れて行け。」


「え?」


「ここまで泳がせてみたけれど、これ以上何かが出てきそうにはないから、もういい。」


「へ?」


「あぁ、でも君のおかげで君の実家の男爵家が横領をしている手がかりを掴めたことはよかったよ。ありがとう。だが、以前私の友人を陥れようとしたことと、私の婚約者であるミューリーの名を出したことはあまり感心しないな。」


 静かな口調でアレクシス様はそう言うと、にっこりと冷ややかな笑みを浮かべた。


「さぁ、私の騎士達と話をしてきてくれ。嬉しいだろう?君の好きな、イケメンの男がたくさんだぞ?」


「え・・・」


「ふふふ。影で言っていたじゃないか。イケメン最高って。ふふふ。」


「あ・・あ・あ・・あれくしすさまぁ?」


 アリスは涙目になっていたが、問答無用で騎士達に連れて行かれた。


「皆には迷惑をかけたね。」


 爽やかな笑顔で皆に声を掛けたアレクシス様ではあったが、その瞳は笑っていない。


「ミューリー嬢の名前を出したのが運のつきだったね。」


 ランドン様が小さな声で私に耳打ちしました。


「そうですね。」


「彼女の家は横領だけじゃなくて、他にもいろいろしていたようだよ。後、彼女自身も最近ミューリー嬢の傍をうろちょろし始めていたからね。」


「あぁ・・そうなんですか。でも、結局、ヒロインってなんだったのかしら?」


「さぁ。でも見張りによると、一人の時にもよく言っていたらしいよ。怖いよね。」


「ええ。本当に。」


 アリスはその後学園を退学され、辺境の修道院へと送られたそうです。なんでも、ミューリー様を襲う計画なんてものを立てていたらしく、彼女の言うヒロインというものは、なんと恐ろしい存在だろうかと背筋が寒くなりました。


◇◇◇


「もう!リリス!今日という今日は許せない!婚約破棄してやる!」


 ぎゅーぎゅっと私の事を抱きしめながらそう言う、可愛らしい私の王子様は、顔を真っ赤に染めながら言った。


「まぁ。そんなこと言わないで。どうされたのです?」


 ランドン様の腕の中はとても心地良くて、ずっと抱きしめられていたいと思う私ははしたないでしょうか。


「リリス。正直に言ってね。」


「はい。」


「どうしてそんなに僕ばかり君に夢中にさせるの?!僕はこれ以上君を好きになったら、頭がおかしくなりそうだ。」


「まぁ。」


 私はクスクスと笑いながら、ランドン様の頭に手を伸ばしてよしよしと撫でてあげました。


「頭がおかしくなったら大変ですね。ふふふ。」


「あぁもう君ってどうしてそんなに可愛いんだ!」


「いえ、可愛らしいのはランドン様のほうではないでしょうか?」


「僕は男だよ!可愛くなんてない!」


 いえいえ、未だに見た目も心も天使のように可愛らしいと私は思います。私は少し考えてからにっこりとほほ笑みを浮かべて言った。


「ふふふ。なら、婚約破棄しましょうか?」


「え?」


 一瞬にして、ランドン様の顔色が青ざめていきます。


 そんな顔すら可愛いのですから、もうどうしようもありません。


「これ以上私を好きになるのが嫌なのでしょう?なら、婚約破棄いたしましょう?」


 ぷるぷると微かにランドン様が震えています。


 何て可愛らしいのでしょうか。まるで捨てられた子犬のよう。


「だ・・・ダメだ。」


 けれど、どうしたことでしょうか。一瞬にして捨てられた子犬の表情から、瞳に熱を宿して凛々しい表情をなさいます。


「リリス・・・冗談でも、そんな事を言わないで。」


「え?」


「いや、僕が悪かった。もう、この口癖はやめる。」


「えぇ?・・私、その口癖好きですのに。」


「うん。知ってる。けど、二度と君の口から婚約破棄とは聞きたくないから。」


「えぇ?」


「ふふふ。それとも、婚約破棄出来ないようにしておこうか?」


 にこりと怪しげな微笑みを浮かべると、ランドン様は私の頬を指先で撫で、私の頬に口づけを落とされました。


 ちゅっとリップ音を鳴らして、キスされたと気づいた私は顔を真っ赤にしてしまいます。


「ららららら、ランドン様!」


「真っ赤。可愛いなぁ。」


 可愛いのはランドン様の方なのに、この日ばかりはランドン様が狼に見えました。


「もう!もう!ダメですよ!」


「あぁ、可愛い。これからは、僕の方が君を泣かせることになるだろうから、覚悟してね?」


「え?」


 どういう意味でしょうか。私、意地悪をされるのでしょうか。そう不安に思うと、ランドン様が私のつむじにキスをします。


「大丈夫。君の嫌がることは・・・・たぶんしないからね。」


「えぇぇ?」


 多少不安になりますが大丈夫です。ランドン様は約束してくれたもの。


 シロツメクサの花冠をくれたあの日。


『僕はきっと君を幸せにするからね?』


 あの日の約束は、きっと変わる事はないでしょう。



楽しんでいただけたら幸いです。


【連載版】王城務めの公爵令嬢は、社畜だけど負けません

〜第二王子に溺愛される!?私は魔法陣射影師です!〜

を連載中でございます。よければこちらっも読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします(●´ω`●)

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