表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/56

ダイジなモノ

 






 その日俺は、かつてないほどの不安に苛まれてた。



 飢餓訓練を終えた頃、俺はもう首が据わっていた。

 いや、首が据わってしまうほど、試練をクリアするのに時間を要した。


 それから俺達は、一旦修行を中断して、はいはいの練習に励んだ。


 おい、今バカにした奴、はいはいをナメてはいけない。

 はいはいができるようになれば、自分で動き回ることができる。今まで自分では何もできず、師匠の言いなり、されるがままだったが、はいはいを習得すれば、近場なら探索することもできる。

 逃走や脱出にはまだ心許ないが。


 それに、どうやら次の修行にも必要らしい。


 そんなわけで、俺は爆速ではいはいを習得し、壁に掴まってたっちの練習まで始めたのだった。


 そして五秒くらいならたっちできるようになったある日、ふと気になった。

 そう、自分の容姿はどんなだろうかと。

 同時に、はいはいの練習中から少しずつ募っていた、違和感の真実を確かめねばと。


 好奇心と不安を解消するため、俺は少し足を伸ばして地底湖までやってきた。


 地底湖の真上の岩盤には、青白い光を発する鉱石がびっしり埋まっていてとても明るい。

 地底湖はその光を反射して、水面が鏡のようになっていた。


 まずは四つん這いのまま、畔から自分の顔を湖面に写す。


 おぅ...これが俺のニューフェイス。

 すんごい美形だ。


 肌も髪もやや色素が薄く、どこか儚げで、明るい茶髪と若葉色の瞳が、なんだか妖精みたいだ。

 ツンと小さな鼻に、薄く形のいい唇。

 長いまつ毛に縁取られた、くりくりのアーモンド型の目。


 確かにこれは社長、だいぶ奮発してくれたな。

 こりゃあ、将来有望だ。


 いやいや、ナルシストみたいに見えるかもしれないけど。

 この外見は自分であって自分でないようなものだからね?

 他人の赤ちゃん見てるような気分なの!

 客観的に見てしまうわけだから、綺麗だったら素直に綺麗って言っちゃうのよ!


 ...と、言い訳はこの辺にして。

 今はもっと重要な任務がある...。

 早く確認して、不安を払わねば。


 俺は、丁度いい岩の近くまではいはいした。

 これまで、一度も自分で着脱をした事がない産着を、苦戦しながらもなんとか脱いだ。

 少し怖くて、下を見ないようにする。


 生まれ変わってから、俺は汗を除けば一度も排泄をしていない。だから今まで、それを確認する機会が特に無かった。


 首が据わって動き回るようになってから、なんとなく違和感があった。


 ん?アレ?なんか...え、いや、あるよね?


 そんな自問自答を繰り返し、今日やっと、この地底湖に辿り着いたのだ。

 いざ!確認せねば!

 覚悟を決めて岩に掴まり、立ち上がる。

 パッと手を離し、湖に映る自分の身体を素早く確認する。

 すぐに姿勢を保てなくなって、ぺたんと転んだ。


 立ち上がることが出来ない。痛いとか筋力の問題とかじゃなく、精神的な理由で。



 無い.........無い無い無い無い、


 無い!!!!


 そんな...俺の大事な、ムスコ...


 マイサンが、ドーターになってるっっ!!


 女の子の...なんて、初めてあんなハッキリ見たわ!赤ちゃんな上に自分のだけど!!

 いや、待ってよ??なんで?

 なんで俺、女の子になっちゃってんの?

 えっ、ムスコって成長過程で徐々に生えてくるものだったりする?

 今は女の子に見えるだけで、これからちゃんと立派な男児が生えて来たりする?


 う、うん。ぜ、前世でもそうだったかも...。


「何を言っておる?お前は女だろう」


 いつの間にか背後にいた師匠が、空気を読まずに俺の希望をバッサリと絶つ。


 くっそぉ!やっぱ女なのかよ!!

 おぉい!社長ーー!!出てこい!!

 なんで俺女の子になっちゃってんすか!?

 こんなん!聞いてませんよ!!


 ーおや、可愛い女の子になりたいと願ったのはお前ではないですかー


 声が聞こえた刹那、地底湖が黄金に輝いて、そこからせり上がり式に社長登場!......派手だ。


 いやいや!俺そんな事一言も......、



『だから、その...可愛い女の子に......』

『ああ、なるほど。分かりました』




 ............アレか。


 って結局社長の早とちりじゃないですか!

 早く男に戻してください!


「えー。いいじゃないですか、きっと美少女に成長しますよ。モテること間違いなし」


 モテるって男にでしょーが!!

 男にいくらモテたって全然嬉しくないんですよ!

 あれは、可愛い女の子にモテモテになりたいって言いたかったんです!

 可愛い女の子になって男にモテモテってどんな嫌がらせですか! 俺は健全な男子ですよ!

 薔薇色の人生って、そう言う意味じゃねーよ!


 泣き叫んで地団駄をふむ。


 ムスコ!ムスコを返してください!こんなの納得出来ない!!


「それはできません」


 ぴしゃり、と即座に跳ね除けられる。

 そんな...なんでですか?


「我々、神はそう簡単に人に干渉する訳にはいかないのです。今こうしてお前に会っているのも結構ギリギリなんですよ」


 そんな、じゃあ...俺は一生女のままなのか?


 別に女性を軽んじているわけでも、嫌ってるわけでもない。

 どっちかと言えば、そりゃあ好きだ。

 でも自分がなりたいかと言われると別問題。

 ずっと男性として生きてきたのだ。いきなり女の子になったと言われても、そう簡単に受け入れられない。


 俺は脱力したように、地面に蹲る。


 はあ、これから俺は女として生きていくのか。男と結婚...とかは絶対ムリだし、ずっとひとりか。

 いや、でも、女同士という手も...相手にして貰えるかなぁ...。

 とにかく、養うにしろ、ひとりで生きるにしろ、職は大事だよな...。

 あー、でもなー。なーんか、やる気出ないんだよなー。タマ無いからかな?

 あーあ、モチベーションがなー。


「......しかたありませんね。分かりました。お前が私に勝てるようになったら、特別に男にしてあげますよ」


 なにっ?本当か!?

 ガバッと状態を起こして、社長を見る。


「ええ。そのためにも、まずは修行をクリアして、良い神になりなさい」


 萎えまくっていた気持ちが一気に回復する。

 これは、今まで以上に気合いを入れて取り組まなければ。


「私に挑みたければ、そこの龍くらい倒せなくては、話になりませんからね」


 よっしゃ!絶対アイツ討伐すっぞー!元々私怨から殺るつもりだったが、これでタテマエもできた。

 つまり師匠を倒せば、社長に挑戦できるってコトだろ?上等じゃねーか!


「愚か者め...」

「まあまあ、やる気になったのだから良いではありませんか」


 そうと決まれば早速修行だ!

 師匠ー!早く次の修行始めてくれー!


「殺そうとしている相手にこうも堂々と教えを乞うとは...図太い奴だな」


 別にいいじゃん!細かいこと言うなよ!

 はいはいもマスターしたし、どうせそろそろ修行再開するつもりだったんだろ?


「フン。まあ良い、望み通り修行を再開する」


 人型になった師匠が、俺に素早く産着を着せ、首根っこを掴む。

 首が締まらないように、襟を引っ張っていると、一瞬で景色が変わった。

 そのままポイッと地面に落とされる。


 いてて...アレ?どこここ?社長は?

 今までいた硬い岩盤ではなく、ちょっと土っぽく、触ると手についた。


「ここはデーモンアントの巣だ」


 何そのヤバそうな名前。なんでそんなとこに来たのか、ちょっと聞きたくないんだけど。


「ここで戦闘訓練を行う」


 はいバカー!はいはいしか出来ない赤ん坊がどうやって戦うんですかー!


「戦うばかりが戦闘ではない。せっかく動けるようなったのだ、逃げ回れば良い」


 はいやっぱりバカー!はいはいの機動力を過信しすぎですー!

 はいはいで逃げれるとしたら亀くらいだ。

 もちろん頭にデーモンとかついてない普通の亀な!

 今回は蟻なんだろうけど、結構厄介だと思うよ?蟻には強い酸吐いたり、猛毒持ってるやつもいるって聞くぞ?名前にデーモンとか入ってるし、絶対そう言うタイプのヤバいやつだ...。


「これをやる」


 そう言って師匠は、銀色の小さなリングを取り出し、俺の腕にはめた。

 精緻な模様が刻まれた美しいブレスレットだ。

 何これ、御守り?もしかして、サバイバルグッズとか?


「魔力を封じる腕輪だ。これをつけていれば魔力による補助が一切出来なくなる」


 なんだその足引っ張りまくる腕輪!最悪じゃん!

 ......何これ全然外れないんだけど!最悪じゃん!!


「まずは、魔力に頼らず体力をつけろ」


 まずはって!普通そういう時って軽いランニングとかから始めない?まあ俺今走れないけど!走れないからこそって言うかね?死んじゃうから!


「もう良いかなと思ったら迎えに来るから」


 何そのフワッとした基準!ってか、待って、こんなとこに俺ひとり置いてくつもり?

 あっ!ちょっと待って!死んじゃうってば!!


 無常にも師匠はあっさりと消えてしまった。


 鬼畜!ひとでなし!脳筋トカゲ!!


 あぅあぅと抗議の声をあげていると、背後でシーッと音がした。同時に気配を感じる。

 いや 、背後だけじゃない。薄暗闇の中無数に光る真っ赤な点。


 囲まれてる。


 それは点ではなく目。皆、獲物を観察していた。

 その内のひとつが、ゆっくりとこちらに近づいて来る。


 硬い表皮が擦れる音を立てながら現れたのは、



 体長十メートルはあろうかと言う巨大な蟻だった。





 でっ、でかすぎぃーー!!!!




 こうして、第二の地獄が幕を開けた。





こんな下ネタ回ですみません( ˊᵕˋ ;)


誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://twitter.com/tamaki_Showsets
― 新着の感想 ―
[一言] TS判明、戦闘訓練もとい、はいはいの訓練に蟻の巣へ。服を着せてくれたのは師匠の優しさなのですかね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ