迷宮最下層
親方!空からリザードマンが!
突然降ってきたリザードマンから服を巻き上げた俺は、せっせと身につけていく。
白いワイシャツに、柔らかいブラウンのスラックス、どっちもさすがにダボダボだが、十分清潔だし裸よりマシだ。シャツの袖とズボンの裾をくるくると折り曲げる。
ウエストをどうしようか迷っていると、リザードマンが紐を貸してくれた。
気が利く。多分良い人だな。
青い鱗のゴツい身体に、イカつい恐竜顔だけど、金色の瞳はどことなく優しそうだ。
服装も清潔感あるし、紳士って感じだな!
「ええ...と、服、ありがとうございました、えと...」
「ビリウスです」
「ありがとうございます、ビリウスさん...あ俺、マサキって言います」
「どういたしまして、マサキさん」
ビリウスと名乗るリザードマンが手を差し出す。
おお、シェイクハンドか。
この世界に来て、こんな社交的な人は初めてだ。
「あっ呼び捨てで大丈夫です」
「ではマサキと。...早速で悪いのですが分かる範囲で現況を教えて頂けますか?」
「あっ、はい」
各々、岩に腰掛け、話を始める。
今までの経緯全てを話すのはちょっと面倒なので、ここで修行をしていて師匠とはぐれた事にした。
「それで、迷っていた所にビリウスさんが落ちてきて...咄嗟に受け止めたんです」
まあ、詳しくは中層から声が聞こえて駆けつけた訳だが、何となくぼかして置く。
「では、マサキは命の恩人だったのですね。助けて頂き、感謝します」
「いやぁ、そんな大層なものでは...」
何かお礼とか言われたの久々すぎて、どうして良いかわかんない。こっちに来てから、ワガママなおっさん共に振り回されっぱなしだったからな...。
「そういえば、ここがどこか分かりますか?」
え?...ああ!肝心の現在地を言ってませんでした。
「ここはメロフィエーモ大迷宮の最下層です」
いやはや!俺って意外とうっかりさん!
位置情報を伝えそびれるなんて!
...アレ?何かめっちゃポカンとしてる...。
俺、変なこと言ったか?
「さ、最下層...?」
「はい。ここ、最下層。」
一拍置いて、
「ええええええええええええええええ!!」
ビリウスは雄叫びをあげた。
ひとしきり驚いて、少し冷静になったビリウスは、今度は状況を整理するかのごとく黙り込んでしまった。
......もしかして、最下層って常識的にヤバい場所なのか?
確かに、俺以外の人間を見たこと無いけど...
え、じゃあ平然とここにいる俺って、相当怪しい奴なんじゃ...。
いつの間にか訝しげにこちらを見ていたビリウスにハッとして、質問責めを食らう前にと立ち上がる。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「え...?」
驚いて岩からずり落ちていたビリウスを起こし、さかさか歩き出す。
「あ、あの!...どこへ行かれるんですか?」
「地上です」
「え!道がわかるんですか!?」
「はあ、ある程度は」
ビリウスが落ちて来た穴からジャンプで登るのが早いのだが、何かまた色々面倒な事になりそうだし、大人しく一般的なルートを登ることにする。
「こっちです」
「そっ、そんな不用意に進んで大丈夫なんですか?」
「え?ああ、俺が...」
俺が威圧してれば大抵の魔物は襲って来ないので!...って言うと多分またアレなので。
「アサヒ」
さっきから何故か完全に気配を消している、真っ白な狼を呼ぶ。
どうしたんだ?何か拗ねてる?
するりと俺の影から現れたデカい狼は、嬉しそうに俺に擦り寄ってくる。愛いヤツめ...。
ちなみにどれくらいデカいかと言うと、普通に立ってて二メートル近くあるってな具合。
出会った時は柴犬くらいの大きさだったのに、大きくなったなあ。
柔らかな毛並みにそって、頬を撫でる。
「この子が警戒しててくれれば、ほとんどの魔物は襲って来ないので」
「なるほど...確かに、その狼にはそうそう手が出せないでしょうね」
「ええ。強い子ですからね」
というわけでよろしくな!と、アサヒの透き通る青い瞳を見つめる。アサヒは尻尾をブンブン振って頷いた。
「アサヒくんは、なんて種族なんですか?」
「それが...俺も知らなくて」
アホ師匠にも聞いてみたが、知らんと言っていた。
でもまあ、あのドラゴン...適当だからな。
「私も初めて見る種族です...牙狼族にしては大きいですし...不思議な子ですね」
動物じゃないんだろうけど、魔物ともちょっと違うし...実は性別すらよく分からない。
まあ、考えてもどうせ分からないので気にしない事にしている。
可愛いからおっけー!
「不思議と言えば...マサキは人間なのに、とても龍語がお上手ですね」
「えっ!あ、ああ...師匠が、その、龍語をよく喋ってまして...小さい頃から、一緒だったので...!」
ちょっとシドモドしながらも、なんとか答える。
「そうだったんですね。ではお師匠はもしかしてリザードマンですか?」
「あっ、はい!そんな感じです!」
ドラゴンです!とは言えんしな。
よし!この話題はこれ以上聞かれるとまずい!墓穴掘りそう!
という訳で別の話題にゴー!
「...そういえば!ビリウスさんは冒険者なんですか?」
「はい、そうですよ。...というかここには冒険者以外ほとんど来ませんね」
ビリウスが苦笑した。
...あのおっさん、常識とか全然教えてくれなかったもんな。
「あはは、小さい頃から修行に明け暮れていたせいか...どうも常識がなくて...」
「いえ、失礼しました。何か、目指すものがあるのですか...?」
目指すもの...。
その言葉に、俺はグッと拳を握りしめる。
「はい...どうしても超えたい奴がいて...」
......そう。俺は誓ったのだ。
必ずアイツを超えて...大切なものを取り戻す。
そのためなら、どんなに辛い試練だって乗り越えてみせる...。
あれはまだ、アサヒに出会う前だったな......
あの日俺は、嫌な予感がして、地底湖を覗いたのだ。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!