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暗転、暗転、

 





 五回目の食事から、おそらく既に二十日以上は経過している。一日中暗く、ほぼ意識がない状態なので、厳密な日数は分からない。

 だが、限界まで温存していたエネルギーが尽きかけていることから、そう推測できた。

 俺はあれから、汗を含む排泄をほとんど行っていない。


 とはいえ、いくらエネルギーを節約しようともいつかは枯渇する。

 このまま一切の補給が出来なければ、確実にお陀仏だ。

 このまま現状維持するのでは得策とは言えないだろう。


 あのクソ師匠、まさか忘れてるのか?お前が最後は二週間って言ったくせに。


 なけなしのエネルギーを使って意識を回復し、頭を回す。


 また、変わらなきゃってことか?

 でも、無からエネルギーを作るなんて出来ない...。


 とにかく、なんでもいい。どこからでも。


 なにか...どっか......、



 補給、を.........。




 そこで、今まで細い糸で繋がっていた意識が、完全に途切れた。











 ふと、目を覚ました。


 しばらく、ぼんやりと薄暗い岩盤を眺めながら、出来事を整理する。


 あれ...俺、寝てたのか?たしか、腹が減って、打開策考えてる途中で...。

 でも、変だな。今は腹、減ってない。

 というか久しくないくらい、エネルギーが満ちている。

 無意識下で何か口にしたのだろうか?


「否、お前は空気中の魔素(マナ)をエネルギーに変換したのだ」


 視界の片隅に居たらしい、ドラゴンの姿の師匠が俺の疑問に答える。


 マナ?

 みんなが気持ちよくすごすための思いやり。

 ってそりゃ、マナーやろがい!


 マナってなんだ?


「空気中を漂う物質の一種だ...まあ、と言ってもわからんだろうが。......酸素みたいなものだと思っていれば良い」


 ほえ〜。なんかよく分からんが、栄養になる物質なんだな!マナって!


 という事はつまり空気中のマナを取り込んで、必要な養分に変えたってことだよな?

 なんかそれって、アレみたいだな。光合成。

 あ、でも光合成で使うのは二酸化炭素だから、呼吸のが近いのか?


 いや待て!そんなことより!

 師匠てめえ!二十日以上も放置とはどう言うことだ!

 最後の絶食期間は二週間って言ったの師匠だろ!?


「そのままレベルⅡの訓練に入ったからな」


 レベルⅡ?二週間の絶食期間がレベルMAXじゃないのか?


「それはレベルⅠに過ぎん。レベルⅡは完全なる無期限の絶食」


 はっ??そんなん死んじゃうやん。

 いや、死なんかったけども。

 それは、俺がマナってのを奇跡的にエネルギー変換できたからであって、一歩間違えば死んでいた。


「死ななかったのだから、良いではないか」


 結果論!!

 なんかマジでムカつくな...。だいたい、この修行になんの意味があったんだ?

 こんな危ない橋ばっか渡らせて、大した目的じゃなかったらタダじゃ置かないからな!


「フン、まだ分からんのか。お前は魔素でエネルギーを補完できるようになった。つまりは、飲まず食わずでも生きられる身体になったと言うことだ」


 すげぇぇええええ!!

 俺めっちゃすっげぇえええええ!!

 これから先もし無人島とかで遭難しても、飢餓で死ぬことは無いって事でしょ?金欠の時でも、食費節約できるって事でしょ?

 なんて便利な身体!


 こりゃあいい。命を張った甲斐があったというものだ。辛い修行だったが乗り越えて本当によかった。


「...現金なヤツだ。それに、収穫はそれだけではない、魔素をコントロールできるようになれば、魔術を使えるようにもなるのだ」


 えっ?魔術って手品?俺マジシャンにもなれるの?裏返したトランプの数字当てたり、コインを消したり出したり?

 それって、飲み会で人気者になれるってことなんじゃね??


 手品!ぜひとも習得したい!!


「テジナ…?では無いが、似たようなことはできるだろうな」


 おおう!!魔術でもなんでもいいから早く教えてくれ!


「そう焦るな、まずは基礎となる訓練からだ」


 うんうん。なんでも基礎が大事だからな。


「これより、飢餓訓練レベルⅢに入る」


 へっ?

 キガクンレン......?レベル、Ⅲってまだ続くの?

 Ⅱで終わりじゃ、ないの??


 軽くパニックに陥っている俺の身体の周りを透明の膜が囲む。

 すると急速に息苦しくなった。


「酸素を遮断する結界だ。その中は数分で無酸素空間になる」


 は??何言ってんの?

 知らないのか?酸素ないと人間は死んじゃうんだぜ?


「呼吸などしているようでは、まだまだ下等生物だ。さっさとやめろ」


 いやいや何言ってんのこの人?バカなの?

 呼吸やめろって死ねってことじゃん!

 てか魔術はどうなったんだよ!なんで急に拷問始まっちゃったの??


「ごちゃごちゃうるさい。呼吸などしていては神にはなれんぞ」


 待ってダメだこの人本当に話通じない。

 てか、もうダメだ苦し...。

 なんとか、しなきゃ。いや、今までもなんとかなったんだから、なんとかできるはず...。


 指先がまた、無意識に動き出す。


 呼吸やめるって…、どう言う意味だ。


 最後の酸素でぐるぐると頭をぶん回し、ヒントをかき集める。


 呼吸......酸素......空気......。


 空気中......マナ......酸素......。


『酸素みたいなものだと思っていれば良い』



 マナは酸素みたいなもの!



 ハッと閃いて、思わず息を吸い込む。

 低酸素の空気を吸ってしまい、ぐるりと眼球が回る感覚。


 そして、ブラックアウト。







 俺は再び、目を覚ました。


 もう一度、状況を整理する。

 相変わらず周囲には透明の膜。しかし、あの時のような息苦しさはない。

 というか、完全に呼吸をしていなかった。

 その代わり、体表全体から何かを吸い込んで、それが全身を駆け巡っているのを感じる

 何か、力のような。


 社長に願いを叶えてもらった時の感覚に似ている気がする。

 今まで当たり前に全身を巡っていた血液と違い、ずっと使われていなかった道をこじ開けられたような違和感がある。

 違和感があるからこそ、鮮明に流れを感知できた。


「ようやく起きたか。やっと魔力のコントロールに慣れたようだな」


 いつものごとく闇に紛れている師匠。


 なんかもう、いちいち文句言うのもめんどくさくなってきた。いやムカつくけど。

 ようやくってどれくらい気を失ってたんだ?

 俺的にはついさっきの出来事なんだけど。


「だいたい一月ほど眠っておったぞ」


 一月!?思ったよりかなり長く寝てたな。

 まあそれだけ生命維持に必死だったってことだよな。よかった、生きてて。

 それに魔力?のコントロールができるようになったってことはもう魔術ってやつ使えるんじゃね?


「あくまで生命を維持するための魔力コントロールはできるようになったというだけだ。そう単純では無い。」


 なーんだ。ま、そんな甘くないか。

 マジシャンへの道はまだ長いというわけだ。

 うむ、時間は有限だ。それならサクサク行こう。

 次はどんな修行をするんだ?


「次は、その結界内を真空にする」


 え?それって今の状態となんか変わんの?

 もう俺息しなくても大丈夫だし、なんともないんじゃないか?


「ふむ。ならば実際に体験してみよ。本当になんともなければ次に進む」


 うっし!今度はすぐ終わらせられそうだ。

 一ヶ月も寝こけてたみたいだし、ここで取り返さねば。


 パチンと師匠が指を鳴らすと、結界内は瞬時に真空状態になる。

 俺は大事な事を忘れていた。


 真空ってことは、酸素だけでなく、マナも無くなるという事。



 そして師匠が鬼畜ドラゴンだという事。



 あれ、なんか......くるしい?


 空気中のマナを取り入れて行っていた生命維持が出来なくなり、にわかに苦しさを感じる。

 そっか...マナも無くなんのか...。


 じゃあしゃあない、節約だ。

 断食で学んだ節約を、呼吸に応用する。

 集中して、体内のエネルギーをゆっくり留めるように...


 そう考えた時、口の中で何かが泡立った。

 いや、何かじゃない。唾液だ。

 それどころか、口だけじゃない。

 全身が、フツフツと......


 俺は、よく分かってなかったんだ。


 気圧が下がれば、沸点が下がる。

 真空で大きく沸点が下がった水は、自然に沸騰し、蒸発する。


 人体の約六割が水分だ。それが沸騰するのだから、無事でいられるはずがない。

 つまり、俺がどうなるかって?


 膨らむんだよ!パンッパンにな!!


 つい数分前に覚醒したばかりだと言うのに、再び意識が薄れ出す。


 クソッ、痛え!思考が...まとまんねえ!!

 やば、これ、死......


 一思考を止めるな、魔力も魂もお前の意志に応えるー


 頭に直接響く、師匠の声。


 膨れ上がって曲がらない指がピクリと動く。


 俺の...意志......。


 そんなの......、



 何とかして、生きる以外ない!


 周りは変えられない。なら自分を変えろ!

 適応しろ!真空に!

 苦しい、痛い、泡立つ...なら、鎮まれ。

 元々、この身体に必要なものは、俺が魔力で補ってるんだ。

 だから、俺に従え。

 俺が作った、あるべき姿を維持しろ。


 圧迫感と破裂しそうな恐怖の中、我武者羅に命令する。

 荒ぶった水面を鎮めるように、エネルギーをゆっくりと循環させる。


 時が止まっていると錯覚するほどに、ゆっくりと。


 膨張した身体が徐々に正常なカタチに戻ってゆく。


 あーこれ、修学旅行で行った寺で体験した瞑想みたいだ。

 俺の学年はヤンチャなやつが多すぎて、修学旅行で瞑想させられたんだ。善良な俺としては迷惑な話だし、みんな不平不満をたれていたけど。

 いざやってみると、案外悪くなかった。

 数呼吸の間に一時間がすぎるような、内と外の時間がズレてしまったような、なんとも言えない不思議体験。

 それが結構おもしろかった。


「ふむ...案外早かったな。次へ進むか」


 そう言って師匠が、もう一度指を弾くと体表を覆っていた真空結界が直径五メートルまで広がり、弾ける。



 刹那、凄まじい圧力に襲われる。



 押し寄せる大気と共に、膨大な量の魔素が体内に入ってくる。

 例のごとくスローモーションに突入し、思った。


 結局、コレか。


 クソ師匠、いつか絶対討伐する。



 爆ぜる。




 俺の意識は、何度目かも分からない暗転を迎えた。





「安心せよ。できるまで何度でも繰り返すのが訓練だ」






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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