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神様候補の異世界冒険記-転生したら最強美少女-  作者: 田巻
伯爵様と妖精の国
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モグラ叩き







 母は、王族の血を引いていた。

 父は、母にふさわしい結婚相手なのだそうだ。

 二人は仲が悪い訳では無い。もしろ良好で、まるで友人のようだと思う。

 母は明るく、自由な人で、父は無口だが、とても優しい。

 私達は、仲のいい家族だと思う。

 だけど、父も母も、互いに友愛以上の感情を向けることはなかった。

 母には日課があった。

 屋敷の西側のバルコニーから、遠くを眺めながら、ハープを演奏する。

 その表情はあまりにも愛に満ちあふれていて、女神のようであり、純粋な少女のようにも見える。

 私にも、父にも向けることの無い顔だ。

 私はそんな母をいつもこっそり覗いていたが、一度だけ見つかってしまったことがあった。

 私の立てた物音に、母は一瞬期待したような顔を見せ、私を見つけると苦笑した。

 母は慈愛に満ちた表情で手招きし、私を膝に乗せてハープを弾いた。


「あなたは、愛する人と一緒になりなさい」


 母がそう言ったのは、たった一度きりだったが、私の頭からその言葉が離れることはなかった。

 私は、父を愛していないのかと、母に訪ねた。


「そうね...家族としては、大切に思ってるわ」


 母の言ったことが、なんとなく分かるようになったのは、もう少し大きくなってから。

 私には、たまに、短い時間だけ会える兄がいた。

 兄は、屋敷には住んでおらず、離れの小さな建物で、三月に一度、母と私と兄の三人で、一刻だけ一緒に過ごす習慣があった。

 私は、強くて優しい兄が大好きで、ずっと一緒にいたいと何度も願ったが、兄が一緒に暮らすことは許されていなかった。

 髪と瞳の色が、母にそっくりな兄には、私とは別の父親がいるのだそうだ。

 普段は父親と、人里から離れた西の森の奥深くで、狩りをしながら暮らしているらしい。

 兄から父親の話を聞く母は、この上なく幸せそうで、あまりにも寂しい目をしていた。

 これもまた、私達には見せない顔。

 彼の父親こそ、母が愛する人なのだと分かった時には、もう兄に会うことさえ許されなくなっていた。


 結婚相手も、会う人さえ、周りに決められるなんて、ここはなんて不自由な所だろう...。




 マサキ達が、海底にいた頃、ビリウス、ライ、シアン、アゼルミリアの四人は、エテロペの森の奥地を探索していた。

 調査のため、森に入って、今日で五日目だ。

 森の奥地までやってきたが、ちょこちょこと魔物に遭遇するだけで、大きな異変は見られなかった。


「少し数は多いが、魔物もここらに生息する奴らだな」

「植物を含め、生態系に大きな異常はなさそうですね」


 討伐依頼を多くこなすライは、魔獣の生息地に詳しく、ビリウスは素材となりうる生物の生態について造詣が深い。

 異変があれば、目敏く気付く。

 魔物にも、草食や肉食と色々いるが、魔物の数が増加している割に、動物も植物も、食い荒らされた様子がない。

 それが逆に、異常なことだった。


「なぜ、魔物たちは森の外へ...?」


 この森の状況を見るに、食べ物に困窮していたとは考えにくい。

 その上、今まで遭遇した魔物は、ほとんどが、進行方向から襲いかかってきた。

 つまり、奥から外へと移動している魔物とばかり遭遇しているということだ。

 もしかすると、最近、人里に魔物が多く出現する原因と、関係があるのかもしれない。


「とりあえず、ここら一帯を調べたら、街へ引き返そう」


 今日はもう五日目だ。食料の関係もあり、これ以上先に進むのは得策では無さそうだ。

 ライの提案に皆頷いて、各自、本日の調査を開始した。

 ここは森の中でも、草木が少なく、硬い地面や岩が、所々むき出しになっている。

 最近カッツェヘルンを騒がせているのは、土属性の魔力を持つ魔物がほとんどだ。

 エテロペの森でる土系統の魔物が発生、生息するとすればここだろう。

 この場所は、今回の調査の目的地と言える。

 思った通り、そこかしこに多数の魔物が生息している痕跡が見られる。

 いつ襲いかかられてもいいように、四人とも警戒を強めていた。


「...ここ、こんな大きな岩山あったかしら」


 アゼルミリアが首を傾げる。彼女もこの森の地形にはそこそこ詳しく、目の前に現れた大きな岩山に違和感を覚えていた。

 しかし、広大な森を完全に把握しているわけではないので、確実になかったとは言いきれない。


「うーん...」

「どうかしたのですか?」

「ええ、ちょっとそこの岩山が...」


 シアンに岩山を見せようとしたその時、地面からボコッと何かが飛び出した。

 カラカラ、キュリと独特の金属音を立てるその円錐型の角は、鉄色の冷たい質感で、鋭く尖っている。


「ドリルヘッドモウル...!」


 硬い地面がボコボコと盛り上がり、次々とドリルヘッドモウルが顔を出す。

 地上に顔を出しているものだけでも、その数二十匹あまり。


「厄介なのに出くわしたな...」


 ドリルヘッドモウルは、硬く鋭い角を高速で回転させ、地中を掘って自由に進むことができる。そのためどこから攻撃してくるか読みづらく、穴だらけになった地面は崩れやすくなっていることが多い。

 また、回転する角は貫通力が高く、一撃でもまともに喰らえば、致命傷になりえた。


「足を取られたら終わりだ!足場に注意しつつ確実討伐開始!」

「「「はい!!」」」


 ライの注意喚起に応じて、戦闘が開始した。

 ビリウスは、近場の木の上に登って、穴から顔を出したドリルヘッドモウルを、遠距離から銃で撃ち抜いていく。

 ライは、その場に仁王立ちして、地面から勢いよく飛びかかってくるドリルヘッドモウルを、その優れた反射神経で次々と切り裂いていった。

 二人とも、少しの動揺も見せず、厄介と言える魔物達を冷静に討伐していた。


「さすが、Aランク冒険者ね...!」


 前回の討伐の時から、アゼルミリアは二人に一目置いていた。

 ほとんど魔力も消費せず、最低限の手数で、確実に魔物を仕留めていく手際は、鮮やかとしか言いようがない。

 二人とも魔物の急所を熟知し、戦闘技能にしても、かなりの研鑽を積んでいるだろう。


「負けてられないわね」


 アゼルミリアは、足元を分厚い氷で覆うと、得意とする氷の魔術を使って、遠距離にいるドリルヘッドモウル氷漬けにし、飛びかかって来るのものは、レイピアで串刺しにした。


「風渦」


 すぐ隣で、シアンが軽やかに唱えた。

 足元に風の渦が発生して、シアンの身体を宙に浮かせる。シアンはそのまま、地面から一メートルほども場所で留まり、時折襲いかかってくるドリルヘッドモウルの角を避けている。

 アゼルミリアは、シアンに着いてもまた、注目していた。

 シアンは高い魔力を有し、いとも簡単に大精霊を召喚する。シルフなど、存在は知っていても、そうそう拝めるものではない。

 また、強力な精霊を呼び出すのかと、アゼルミリアはシアンをチラリと見た。


「え?」


 アゼルミリアが思わず声を上げてしまったのも無理はない。

 シアンはなんと、目を瞑っていたのだ。そのうえで、的確に攻撃を避けている。


「風刃」


 スパッと、ドリルヘッドモウルの首が落ちる。

 シアンが選んだのは、得意の精霊魔術ではなく、初歩的な風魔術だった。

 目を閉じたまま、シアンは、次々とドリルヘッドモウルの首を落としていった。

 アゼルミリアは、シアンのその様子に驚愕を隠せなかった。

 アゼルミリアにとってのシアンの印象は「魔力は強大だが、戦闘については粗削り」というものだった。前回の討伐の時も、今回の調査中の今までの戦闘でも、それは変わらなかった。

 しかし、今のシアンの戦い方は、これまでのシアンの印象を大きく覆すものだった。


「...!一体、明らかに強い個体がいます!」


 目を閉じていたシアンの肩が、ピク、と揺れ、焦ったように声を上げた。

 刹那、ライに向かって、他の個体とは大人と子供ほど大きさの違う、ドリルヘッドモウルが突っ込んできた。

 体長は二メートルほどあるだろうか。


「くっ!」


 ライが大剣でドリルヘッドモウルの角を受け止める。

 ギイィィイインッ!と金属が擦れる音と共に、火花が散る。


「ヘッド・ドリルヘッドモウル...!」


 ドリルヘッドモウルには、稀に、大きく強い個体が現れる。

 普段は、群れを成さず単独で行動する魔物だが、強い個体、ヘッド・ドリルヘッドモウルが現れると、ドリルヘッドモウルは群れを形成する。


「やはりいましたか!」


 ビリウスが声を上げた。同時に何度も複数匹ドリルヘッドモウルが現れたことから、ヘッド・ドリルヘッドモウルがいるでいるであろうことは予測していた。

 地中に潜ったり、飛び出たりしながら、ヘッド・ドリルヘッドモウルはライに襲いかかる。ライは大剣を振り回して、そのことごとくを弾いて行く。

 ヘッド・ドリルヘッドモウルは、獲物を一匹づつなぶり殺しにする習性があり、執拗にライを狙っている。


「ライ様!!」

「ああ!」


 シアンの声に、分かっていると言うようにライは頷く。ライが地面を蹴って飛び上がるのと同時に、地面から鋭い角が勢いよく突き出した。

 そのまま伸び上がるように身体を露出させるヘッド・ドリルヘッドモウルの角を、ライは宙返りしながら身体を捻り、横から思い切り弾いた。

 バランスを崩し、腹を見せながら後ろに倒れ込むヘッド・ドリルヘッドモウルに着地すると、すかさず喉元を切り裂いた。

 断末魔さえあげることも叶わず、ヘッド・ドリルヘッドモウルの巨体が力なく倒れる。


「悪いな。デカい魔物のが得意なんだ」


 ヘッド・ドリルヘッドモウルの骸の上で、ライは大剣についた血を軽く払う。


「さすがライ様です!かっこいいです!」

「ありがとう」


 シアンが頬を紅潮させながら、ライに称賛の声をかける。

 アゼルミリアは、じっと二人を見つめた。

 ライがいとも簡単に仕留めてしまったため、さして強くは見えないだろうが、ヘッド・ドリルヘッドモウルは決して弱い魔物ではない。

 どこから来るか分からない攻撃は脅威であるし、その威力は普通のドリルヘッドモウルとは比べ物にならない。また、身体も通常の個体に比べて硬く、そう簡単に切り裂けるものではない。

 ライは獣人特有の鋭い五感でヘッド・ドリルヘッドモウルの攻撃を読み、的確な方向に角を弾いて急所を露出させ、硬い表皮を一閃に切り裂いた。

 この一連の動作を当たり前のようにやってのけたのだ。


(...なんて戦闘センス)


 そして、シアン。彼女はライのような優れた五感もなしに、ヘッド・ドリルヘッドモウルの攻撃を予測していた。

 そもそも、シアンはずっと目を瞑っていたのだ。


(まさか...魔力感知を使えるの...?)


 魔力感知とは、特別な修行を積んだ魔術師のみが使えると言われている。

 魔力感知を修得すれば、目に見えなかったり遠くにいる仲間や敵を魔力で観ることができる。

 彼女がやっていたのは、どうもそれらしかった。


(幼く見えても、やはりエルフというわけね)


 アゼルミリアはシアンに対する評価を一段上げた。


「もう少し調査して、今日は引き上げましょうか」

「ああ。そうだな」


 ドリルヘッドモウルの討伐を終えて、一息ついた一同は、ビリウスの声に応じて、調査を再開しようとした。


「!!」


 にわかに、地面が揺れる。


「地震?!」


 体勢を低くして耐えつつ、当たりを見渡し、目を見張る。

 岩山が、否、岩山に見えていたものが動いていた。

 伏せの体勢を取っていたらしい、その巨大な魔物は、ゆっくりと首をもたげ、真っ赤な双眸でこちらを見た。






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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