牢屋再び
ちょっとさ〜、話くらい聞こうぜ〜?
俺とアサヒは再び牢に捕まっていた。
ビックリして、龍霊石を反射的に亜空間に隠してしまったのが良くなかった。
ーなぜ石を隠したんだー
ーいやあ、うっかりー
長に見つかったことで、パニクってキョドってしまった俺は、あれよあれよと牢屋に逆戻りしてしまった。
ちなみにグレンは、建物によっかかってぐっすり寝ている。
この騒動で起きないとは、図太いというか、鈍いというか...。
まあ、その状況のおかげで、俺たちとは完全に無関係と判断されて、捕まらなかっった訳だが。
ていうかさ、ちょっとヤバいのが来てるわけじゃん?
こんな事してる場合じゃないんだけど。
「あのさ、」
「黙れ」
見張りの男に危機を知らせようとするが、全く聞く気はないようだ。
なんだよ、もう。俺は良かれと思って言ってるのに。
「いや、ヤバい魔物が」
「黙れ!」
槍の切っ先が喉元に向けられる。
もちろん、そんなもので怯んだりはしないが、さすがにちょっとカチンとくる。
ーまったく愚かな...。大人しく話を聞いていれば、今頃強固な結界が張られていただろうにー
ー結界があれば、今こっちに向かってきてる奴から都を守れるのか?ー
都の結界がそんなに強力なものだとは思っていなかった。
ー以前ならそれほどの力はなかったが、マサキが持っている龍霊石なら、そのくらい強い結界が張れるはずだー
なるほど、石の持つ魔力に比例するのか。
ーどうする?檻を壊して、祭壇に石をはめようか?ー
ーそうだな...お前ならそれも可能か...ー
強行突破に移ろうかと先生と話し合っていたのだが...。
「マサキ!」
声の方を見ればユラがとミラがやってきていた。
「お前達、何をしに来た」
「お願い、マサキと話をさせて!」
どうやら、二人は講義に来てくれたらしかった。
ここでは誰も俺たちを信用してくれなかったから、ちょっと嬉しい。
「駄目だ。それ以上は近づくな」
「何か誤解があると思うの!」
「石を盗った犯人なら、もう一度石を持って祭壇に近づくなんておかしいわ!」
そうそう!そうなんです!誤解なんですよ!
「黙りなさい!お前たちは人間の卑劣さを知らないから、そんな甘いことが言えるんだ」
「じゃあ、マサキが祭壇で何をしていたかわかってるの?」
「良からぬ事に決まっている」
「どうしてそう言い切れるの?」
二人の見張りと、双子の少女が大声で口論を繰り広げている。
いいぞ、ユラ、ミラ、頑張れ!!
希望を込めて、応援する俺を他所に、見張り達はにべも無く言い放った。
「それは、この者が人間だからだ」
人間だから...。
過去、人間が人魚を差別し、虐殺という最悪の仕打ちをした。
その結果、今、人魚の人間への警戒心と恨みが極限まで高まり、都を訪れた、無関係の人間を差別している。
過去の人間と俺は、まったくの別物で、なんの関係もない。それでも人魚にとっては、人間は人間なのだ。
差別や争いの連鎖は、恨みが続く限り、終わることはない。
「そんなの、思考停止よ!」
しかし、過去を直接知らない者なら、その鎖を断ち切ることが出来る。
「子供に何がわかる!」
必死に食い下がるが、もうそんな言葉で、未来を生きる者達を縛ることは出来ない。
「ええ、分からないわ!私達はその卑劣な人間に会ったことがないから!」
「それはもう、既に死んでしまった人間よ!私たちは、今目の前にいる人間をちゃんと見るべきじゃないの?」
ユラとミラは、見張り達にまくし立てた。
いや、見張りたちだけじゃない、周りの人魚全員に聞かせるように、大声張り上げた。
「今私たちがやっているのは、人魚だからと決めつけて虐げた、大嫌いな人間と同じじゃないの!?」
その気迫に、誰もが口を噤んだ。
当たりが静まり返る。
誰も反論の言葉を、口に出すことが出来なかった。
「言いたいことはそれだけか」
ただ一人を除いては。
「長...」
「ユラ、ミラ。お前達の言いたいことはわかる。だが、今まで、お前たちのような考えを持った人魚はどうなったと思う?」
さすが長年、人魚をまとめてきた男は、覇気が違かった。
静かに話しているだけで、相手を萎縮させることさえ容易い。
「皆、殺された。信じようとした人間の手で」
ゾクリとするような目で、長がハッキリと告げる。
この人は相当頑固だ。
それは種族の長として、至極当然で、正しい対応だろう。
最後まで疑う者がいなくては、誰のことも信じることは出来ない。
一番辛い役割をになってくれてる訳だ。
「しかし...長、この者は」
「今までの人間と違うと、言い切れるのか」
そう言われれば、二人は口を噤むしか無かった。
「いやさ、言いきれないから、話を聞こうってことでしょ」
凍りつく空気の中、俺は呑気に長に話しかけた。
「発言を許可した覚えは無いが」
「あんたに発言を制限される筋合いもないね」
「人間!口を慎め!」
「長に向かって無礼だぞ!」
見張り達に、槍をグイグイと押し付けられる。
鬱陶しいなあ!
「そんなに信じられないならさ、あんたが俺の話を聞けばいいじゃん」
「なんだと?」
「あんたなら、俺の卑劣な嘘とやらにも惑わされないんだろう?」
「黙れと言っている!」
肩の辺りを槍で思い切り突かれたが、もちろん刺さることは無い。
むしろ槍の方がバッキリ折れてしまう。
「なっ...?!」
「俺さ、めちゃくちゃ強いんだよね」
向かってきたもう一方の槍もの刃も、粉々に砕ける。
ちょっともう、ゴチャゴチャうるさい。
「君たちになんか、卑劣な手を使うまでもないって意味なんだけど、わかる?」
怯んだように、見張り達が後退る。
それでも長だけは、顔色を変えずに凛と俺を見ていた。
「...わかった。話を聞こう」
「そう来なくっちゃ!」
ー印象悪くなってないか…?ー
ー気にしない、気にしないー
長は勇敢にも人払いをして、俺とアサヒと長だけが、檻を挟んで向き合っていた。
「私の質問にだけ答えろ」
「わかった」
自分で筋道立てて説明するのは苦手なので、その方が助かる。
「祭壇で何をしていた」
「ある人物に頼まれて、結界を張るために、龍霊石を持っていっただけだ」
「ある人物とは誰だ」
「祭壇の中にいた、リューナという幽霊だ」
「幽霊だと...?」
長はあからさまに、訝しげな顔をした。
だよね。フツウ信じられないよね。
「お前は、祭壇の石を盗んだ犯人か」
「違う」
「ならば、なぜ石を持っていた」
「メロ・フィエーモ大迷宮で拾ったから」
真偽を確かめるように、じろ、と長は俺の目を見た。
嘘なんかついてないぞ、と負けじと見返す。
「違う石だという証拠はあるのか」
「元々あった石より、俺の持ってる石の方が大きい」
「なぜ、石の大き祭壇を知っている」
「知らないよ。ただ、幽霊が俺の石の方が大きいと言っていた」
「...では、祭壇にあった石はどこにある」
「さあ、知らないけど、魚が持ってったらしいよ」
「それも幽霊が言っていたのか」
「うん」
やり取りを終えると、長は一呼吸置いて、再び問うた。
「それを、信じろと?」
「さあ。お好きにどうぞ」
長は口を噤むと、少し俯いて考え込んでいるようだった。
まあ、俺としても荒唐無稽な話だと思う。
ふいに、顔を上げる。
「見張りに何を言おうとしていた」
「ん?...ああ、強い魔力が都に近づいて来てるって、教えてあげようと...」
「強い魔力...?キングスクイットなら、既に倒したではないか」
何を馬鹿な、とでも言いたいような顔をしている。
「キングスクイットとは比べ物にならないくらい、強い魔力だよ」
「なんだと...?」
「これも、信じる信じないは自由だけど...もうすぐそこまで来てる」
ドオォ.........ッン!と轟音とともに地面が微かに揺れた。
これは、かなりデカそうだな...。
「なんだ...今のは」
ーやはり、龍霊石から漏れ出た強烈な魔力で、奴が目覚めたようだなー
ーそういえば、先生はこのでっかい魔力が何か知ってるの?ー
ーああ、この地には古代に暴れた、強力な魔物が眠っていたのだー
その魔物は、海を住処としながら、時として陸に住む種族をも屠殺していた。
その暴虐ぶりを見兼ね、当時海に住んでいた古代龍に深手を負わされて、逃げおおせたこの海で、回復のため、永い眠りに着いていたという。
地響きとともに、都へと巨大な影が近づいてくる。
巨大生物というより、もはや城が動いているかのような...。
蠢く十本の脚で、地面を這って猛スピードでこちらへ突進してきていた。
ーあの魔物の名は......ー
「エンペラースクイット」
先生の言葉を繰り返す。
「...エンペラースクイットだと?そんな、古代の伝説の魔物が来ると言うのか!?」
その顔には、信じられない、信じたくないとありありと書かれていた。
しかし、さすがは今まで人魚を守ってきた長と言うべきか、すぐに切り替えると、最悪を想定して動き始める。
見張りを呼びつけると、片方だけをここに残して、方々に指示を飛ばしなから、牢の前を立ち去る。
「おいっ!結局出さないのかよ!」
「こんな緊急時に、危険人物を出す訳にはいかない」
「自分たちでなんとかできると思ってるのか?」
「...こちらには、キングスクイットを一撃で倒したグレン様がいる。...お前のことは奴を追い払ってからだ」
そこまで言うと、もう振り返ることは無く、長は泳ぎ去ってしまう。
はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!またグレンかよ!
グレンがコテンパンにやられて泣きついても、もう知らないからな。
ードヤ顔で交渉に臨んだ割にあっさり撃沈してるでは無いかー
ー...先生うるさいー
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!