祭壇に石
ーじゃあマサキ、とりあえず空間術でティアロを地上まで持って行ってくれー
突然そう言われて、俺は首を傾げた。
ー俺、空間術が使えるなんて先生に教えたっけ?ー
ーああ...そういえば言ってなかったな。私は鑑定の眼を持っているんだー
え...?鑑定って、他人の能力まで観れるもんなの...?もしかして、結構凄い鑑定魔術の使い手なのか?
ーていうか、勝手に持ち出していいのか?一
ーこれは私の物だ。私の好きにして何が悪いー
それもそうか。
俺は先生の言う通りに、ティアロを亜空間に収納する。
ーん?お前、龍霊石を持っているのか?ー
ーえ...?ー
ーその中から、龍の魔力を感じるー
どうやら、亜空間が開いた際に、龍霊石の魔力が漏れ出たらしい。
とは言っても、漏れ出た魔力は微々たるもの...先生の鑑定眼は相当ハイスペックなようだ。
ーうん、持ってるー
ーそうか......ー
先生は何かを考えるように、少し沈黙した。
ーマサキ、ついでと言ってはなんだが、頼みたいことがあるー
ー何?ー
自分から頼みたいと言ったくせに、また少し間があく。...言いづらいことだろうか?
ーその......龍霊石をくれないだろうか?ー
ーいいよー
なんだそんなことか。こんな物、さっさとおサラバしたいんだ。いくらでもくれてやる。
ー......え?ー
ーいくつ欲しいの?結構あるから、多分好きな数あげられるよー
なんなら全部持ってってくれ。
ーひっ、ひとつで充分だ!ー
ー...なんだ、もっと持ってっていいのにー
ー...本当にいいのか?貴重な物だぞ?ー
ああ、そういえばゼノンがそんなこと言ってたような...。
師匠の魔力の塊という事実のインパクトが強すぎて、貴重な物だということはすっかり忘れていた。
ーいいよ、俺には必要ないしー
それに、師匠の一部を持っているみたいで、ちょっと気持ち悪...落ち着かないから、ぜひ引き取ってほしい。
ーそうか......ありがとうー
ーうんー
これでまたひとつ石を減らせる!と喜んで、はたと気づく。
ーあれ?でも今、先生は俺の中にいるから、結局俺が持っておくことになるんじゃ...?ー
ーいや、石は私が貰う訳では無いー
え?先生が貰う訳じゃないの?じゃあ先生の知り合いとか...?
ー龍霊石は、この都に置いて行きたいんだー
ー都に?ー
ーああ。龍霊石は都を守る結界の動力源になるー
ああ、結界...。そういえば、ユラがそんなこと言ってたっけ。
てか、ユラが探してた石って、やっぱりコレだったんだ...。
ーユラが盗まれたって言ってたけど、先生は犯人とか知ってるの?ー
ー犯人...と言っていいのかは分からんが、石を持っていったのは魚だー
ーエッッー
SA・KA・NA...??
あんなにリザードマンを騒がせておいて、犯人、魚なのかよ?!
ーてか、今まで取られなかったのに、なんで急に取られちゃったんだ…?ー
ーそれは、石の魔力が尽きかけていたせいだろう。以前は、龍霊石の放つ強烈な魔力のおかげで、生き物が陣に近づくことはなかったが、ここ最近、魔力が弱まったせいで、陣の中に侵入されてしまったー
なるほど、龍霊石の魔力とて、有限という訳か。当たり前と言えば、当たり前だな。
ーじゃあどっちみち、そろそろ石を変えなきゃいけないかったんだなー
ー......ああ、そうだなー
人間嫌いになってしまった人魚。無尽蔵に思えた龍霊石の魔力の枯渇。タイミング悪く現れた厄介な魔物。
今回のもろもろの騒動は、そういう、色んな「仕方ない事」が重なって起きてしまったんだな。
ーよし、じゃあ、コレをどこに置けばいいか教えてくれー
ーああ。ではまず外に出て、この建物の上に上ってくれー
了承の返事をして、白い部屋を出る。
都は、まだ静まり返っていた。
よかった...みんなまだ寝てるみたいだな。
水をかいて、素早く建物の上に登った。
平らな上面には、びっしりと文字が刻まれていて、中心に、直径三十センチほどの丸い窪みがある。
結界を張るための術式だろう。使われているのは、古代文字かな?
ーマサキ、その窪みに石を置いてくれー
ーわかったー
せっかくだし、できるだけ大きいやつがいいよな?
そう思い、俺は亜空間から、窪みにギリギリ入るくらいの大きさの龍霊石を取り出した。
ーなんだそれは!?ー
それを見た途端、先生がぎょっとした声を出した。
ーえ、龍霊石だけど。なんか変なとこある?ー
ーそんな大きさの龍霊石は初めて見たぞー
もっとデカいのがあるとは言えない。
ーあ、デカいとまずかったりする?ー
ー...いや、窪みに入るのであれば問題ないが...そんな大きな龍霊石をここに置いていっていいのか?ー
先生は、心配そうに尋ねてきた。こんなものをポンポン置いていくのは、相当常識から外れているようだ。
ー言っただろ?俺には必要ないってー
ーしかしー
ーいいんだよ。なんたって、ティアロと先生を貰ってくんだからなー
ーなっ......!ー
大好きな楽器と、その天才奏者。俺からしたら、龍霊石なんかとは比べ物にならないほど、価値のあるものだ。
さらにいらない石まで押し付けられるなんて、一石二鳥とはまさにこの事。
ー別に、お前のものになるわけじゃないぞ!?ー
ーわーかってるよ。先生のものなんでしょー
でも、きっと俺にも弾かせてくれるはずだ。
これから、いつでもピ...ティアロが弾けることには変わりない。さらに、先生という優秀なお手本付きだ。
ーとにかく、この石を窪みに置けばいいんだな?ー
ーあ、ああ。石を置けば、自動的に結界が張られるー
石を窪みにはめこもうとしたその時、はるか遠くから、強大な魔力がこちらに近ずいてくるのを感知した。
キングスクイットの時と似た感覚で、方角も同じだが、今回はもっと遠いところ。キングスクイットより、ずっと大きい力を感じる。
ーこの魔力......ッ!ー
先生が焦ったような声を出した。
何か知っているようだと、先を促そうして、はたと気づく。
...しまった。突然の強烈な魔力に気を取られ、周囲の感知を怠った。
「そこで何をしている、人間」
祭壇を取り囲む、人魚の戦士たちの中、怒気を孕んだ長の声が響いた。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!