地獄の幕開け
痛い......暗い......いたい......
何だ、これ............
静かで、真っ暗な世界。
寝ているのか起きているのかも分からない暗闇の中、激しい痛みだけを感じる。
時間が経つにつれて、鉄臭いにおいと不快な味がして.........
遠くでグツグツと何かが煮えるような音がして......
オレンジが少し滲んだ、薄暗い景色...
少しずつ五感が戻ってくるような感覚。
裏腹に、痛みが和らいでいく。
「あぁ...」
掠れた声が出る。
なんだか身体がベタベタして、酷く喉が乾いている。
水...、いや、飯...。
ぐぅううう、と腹がなる。
なんか、めっちゃ腹減った...。
肉食いたい...て、そういえば今赤子なんだっけ...。
「ふん、やっと起きたか」
声のした方を見ると、暗くて気づかなかったが、黒い鱗のドラゴンが傍らで寛いでいた。
「三日か...最初だしまあこんなものか...」
何かひとりでブツブツ喋っている。
あれ、そういえば俺コイツにめっちゃ高い所から落っことされたような。
そう、それこそ他界しそうなくらい...
なんつって。
言うてる場合かっ!
そうだ、ふざけてる場合じゃない。
あれが夢じゃなければ、俺はこのドラゴンに落とされて、粉々になったはず...。
慌てて腕を動かすと、暗い視界にぼんやりと小さな手が映る。
まさか夢だったのか?
......いや、あれは夢じゃない。それくらいは分かる。
なぜ、と上手く説明できないけど、そう確信していた。
でも、だったらなぜ生きてるんだ?
目を凝らして手をじっと見てみると、逆光では無く手自体が黒ずんでいる事に気づく。
......血?!
手や腕全体にベッタリと血がついていた。
どうやら、身体がベタベタするのはこの血が原因みたいだ。
しかしどうも様子がおかしい。
これだけ大量の血がついていながら、どこにも傷が見当たらないし、痛みも無い。
俺の血じゃないのか...?
そう考えたところで、ふと思い出す。
いや、痛みならあったはずだ。
それもついさっきまで。意識が曖昧だったせいか忘れかけていたが、かなりの激痛を味わったのだ。
だというのに、今は少しも痛まないどころか、おそらく傷ひとつない。
つまり俺は、一度ミンチになって、そこから完璧に再生したって事か...?
.........いやいや、さすがにそんなワケ...
一御明答ー
不意に、頭の中で声が聞こえた。
また?ってか、この声、
ーそうですよ、私です私ー
なんかオレオレ詐欺みたいになってるけど...
この声......社長の声だ!
ー...いや、私、社長じゃなくて神なんですが...ー
神って(笑)
そりゃ確かに、神々しい感じのイケメンでしたけど...自分で神とか言っちゃうのはちょっと(笑)
.........アレ?何も聞こえない。通話切れた?
おーい!......電波悪いのかな。
ーお前は......ハァ...ー
社長が盛大に溜め息を吐く。
なんか今ちょっとバカにされてる気がする。
あから様に溜め息を吐くなんて、まったく失礼な人だな。
ーお前にだけは言われたくありませんねー
ゲッ!くっそー!頭の中で喋ると、考えてること全部バレちゃうんだよなー。
社長の方はそんなことないっぽいのに...受信側だからか?
ーそんなことより。新しい身体は気に入ってくれましたか?ー
え?からだ?
............!そうだ!身体!!
ちょっと社長!聞いてくださいよ!
すごい不思議なことがあって!
めっちゃ高いところから落ちて、あ、そこのドラゴンにやられたんですよ!初対面で人をミンチにするなんて...まったく!親の顔が見てみたいですよ!
で!そう!俺、ミンチになったはずなのに、ピンピンしてるんすよ!
やばくないですか?!
ーええ。お前の望み通り、不死身の身体にして上げましたからね。それにしても、もう少し言う事を整理してから話しなさい。アホ丸出しですよー
失敬な!
............ん?
んんんん??
ふじみ...?
...ふじみって富士山見るってことじゃないよね?
もしかして、不死の身体って意味の不死身だったりする......?
......あははっ!いやいやマサカね!
一何を惚けているのです。お前が死なない身体にしろと言ったのでしょう?ー
え......あー...うん、なるほど。
"すぐ死なないような丈夫な身体にして欲しい"
...確かに、言ったと言えば言ったと言えなくもないけどもさ?
それは、あくまで、すぐに病気とか怪我とかでまた死なないような、健康で丈夫な身体って意味で!
どんな大怪我を負っても、例えミンチになろうとも、絶対に死なない身体って意味じゃないんですよね!
てかそんなスプラッタホラーな世界観想定して無いっていうかね!
どうやら大いにすれ違ってしまったようだ。
ー......まあまあ、些細な事は良いではありませんか。死なないのだから問題ないでしょうー
うーん!決して些細な事ではないし、問題ないわけないんだが......。
いくら嘆いても今更なんだろうな。
ま!そう生まれてしまったわけだし、しょーがない!怪我とか気にしなくていいしお得だよね!ってコトで。
ーお前のその人間離れした切り替え、とても好きですよー
そりゃどーも。男に言われても一ミリも嬉しかないけどね。
ー身体について他に気になることはありませんか?一
いや、特には。強いて言うなら顔どーなってんだろう。一回ミンチになったわけだし、顔面崩壊とかしてないよな?
一大丈夫、将来爆モテ確定の美形にしておきましたよ。怪我の治癒も完璧です一
なんと!それは誠ですか!?
社長!ありがとうございます!!やったァ!!
コレでモテモテは確約されたと言っても過言ではない。
このまま成長すれば俺はイケメンになって、女子にモテモテのスイートライフを送る事ができるんだ!
ああ!なんて待ち遠しい未来!
「まあ、その前にお前には修行を受けて貰うがな」
ひとり期待に胸を膨らませて、ウハウハしていると、急に低い声が割り込んでくる。
...修行って、俺は坊主になるつもりは無いぞ?ったく、誰だよ。せっかく良いところだったのに...。
ドラゴンだった。
意外にも影が薄く、すっかり存在を忘れていたドラゴン。
まだいたんだ...。
あれ、そういえばなんでドラゴンがいるんだろ?地球ってドラゴンいたんだ?
一ここは地球ではありませんよ一
今度は社長の声が、脳内に直接響く。
ほぇ?地球じゃない?何言ってるの?
「ここはラル・ブランテ。地球とは違う宇宙にある惑星だ」
違う、宇宙...?
そんなの本当に存在するのか?
でも地球でドラゴンが見つかったなんて聞いた事ないしな。ドラゴンって言ったら、ゲームや御伽噺の住人だ。
俺にこんな荒唐無稽な嘘をついて、得があるとも思えない。
ってことは本当の事なのか...?
一事実です。ここは、お前がもといた宇宙とは、丸ごと別の宇宙ですよー
そうなんだ...。
そこで俺はハッとした。
大変な事に気づいてしまったのだ。
もっとも重要と言っても過言では無い。
女子の見た目ってちゃんと俺の知ってる人間だろうな...?
さすがにプ○デター的な女の子とランデブーする勇気は俺にはない。
そこまで美醜にうるさいつもりは無いが、最低限人間の原型を留めてくれているとありがたい。
口から触手が生えている子は、ちょっと好みじゃ無い。
脳内で、なんだか呆れたような社長の気配を感じた。
一気になるのはそこですか...獣人やエルフなんかもいますが、大多数はお前の知る普通の人間ですよ一
おっ!なんだ、良かったー!
これで俺のスイートライフは安泰だ。
「お前と言うやつは......、さっきも言ったが修行を終えるまではここから出さないからな」
「あぅ?」
ちょっと待て、出さないとは聞いてないぞ。
というかここはどこなんだ?見た感じ薄暗い洞窟みたいだが...。それに妙に蒸し暑い。
確か...穴に落とされる時、迷宮って言ってたたような...。
「そう、ここはメロフィエーモ大迷宮、最下層だ」
ほーん。大迷宮とはまた大層な。
それで、そのメロ...なんちゃら大迷宮とやらに俺を閉じ込めて、どうしたいってんだ?
修行って......阿闍梨でも目指すのか?
ー否。お前が目指すのは神です一
ゥヌン。
......神って...もしかして、教祖的なアレか?
新興宗教でも始めるつもり?
一そのような象徴的なものではなく、このセカイにおける役割としての神です一
ゴメンナサイ。ちょっと難しくて理解が追いつかないデス。
一国家公務員みたいなものです一
めっちゃ分かりやすい!
なるほど、国家公務員なら安定した収入が見込めるだろうし、目指すのも悪くないかもしれない。合コンでのウケも悪く無さそうだ。
いやぁ、働き口まで紹介して貰えるなんて、社長には頭が上がりませんな。
「こやつは何か勘違いしておらぬか?」
ー目指す気になったのなら、それで良いのですー
「お前は本当に...まあ良い。おい、お前。名はなんと言う」
いつの間にか社長と二人で会話をしていたドラゴンが俺に向かって問いかける。
コイツ、いちいち仰々しい話し方するな。
偉そうで高圧的だし、人のことミンチにするし、あんまし好きくないっ!
ー...ふっ一
脳内で、堪えきれなかったような笑い声が漏れる。
やっぱり社長もそう思いますよねー。
「貴様、また肉塊にされたいのか」
おっと。ハイハイ答えますよー。
俺は真堂蒔沙樹。マサキでいいっすよ。
「フン......我が名は闇黒龍ジルフォギア、お前を神へと導く者。師匠と呼ぶが良い」
あん笑こく笑りゅう笑とな笑笑
いやあ!師匠の名前はかっこいいなあー!
まるで中学生が考えたみたい!
ーんふっー
社長って意外とツボが浅いな。
「ふむ。この名の良さが解るとは、なかなか見どころがある...特別に名を呼ぶ事を許してやっても良いぞ」
あっ、や、いいです。
......このドラゴン意外と純粋なのか?そんなに素直に喜ばれると心が痛むじゃないか。
ちくしょう......ちょっとだけ、優しくしよう...。
ーとにかく、ここを出てモテたければ、修行を積んで神を目指すのです。人の時は有限。早く外に出たければ、一心に励みなさいー
はっ!そうだ!ここを出なければ俺のモテモテライフはない。
社長の言う通り、一刻も早くこの薄暗い洞窟から出るため、今すぐにでも修行を始めて貰わなければ。
師匠!早速修行を開始しましょう!
「うむ。良い心意気だ......では最初の試練を課すとしよう」
ついに、本格的に始まる二回目の人生。
スイートライフに辿り着くための、最初の試練。
「初めの訓練は」
なんとなく緊張して、ごくり、と少ししかない唾を飲み込んだ。
「断食だ」
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!