表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/56

ティアロ







 なにこれ...幽霊?

 少女の顔に向かって、そっと手を突き刺す。


「ほぎゃああああっ!」


 ああ、やっぱり触れないや。幽霊か。


「いきなり人の顔をぶっ刺すやつがあるか!ばかもの!!」


 少女はピシッと俺の頭に、手刀を振り下ろすが、やっぱり触れることはなく、すうっとすり抜けた。


「うひぃっ」


 なんだこれ、めっちゃゾワゾワする。悪寒がスゴい。これは完全に幽霊だわ。根拠はないけど、多分絶対に幽霊。


「ほぅ...お前、なかなかいい器だな」

「...器?」


 なんだろう...。なんか、嫌な予感。


「さあ、私を受け入れ傀儡となるがいい!!」


 少女が、俺に向かって勢いよく飛んでくる。

 やっぱりそう来るか...。

 俺はそれをひらりと躱した。受け入れる義理はない。


「くっ!なぜ避ける!?」

「いやいや、避けるって普通」

「大人しく身体を明け渡せ!!」


 突進してくる少女を、ひらひらと躱し続ける。

 うーん、動きもさして速くないし、瀕死にでもならない限り、この子に捕まることはないぞ。


「このっ!ちょこまかと!」

「無理だって。諦めなよ」


 数分間全力で突進し続けた少女は、ゼェハァと息を切らして項垂れた。

 幽霊って、息切れするんだ。


「ハァ...あんた、俺の身体乗っ取って何するつもりなんだ?」


 なんだかちょっと哀れに思って、訳くらいは聞いてやることにした。


「フンッ!この天才ティアロ奏者、リューナ様が身体を欲する理由など決まっているだろう!」


 ドヤ顔で指さしてくるが、全く分からない。

 そもそもティアロ奏者って何...?

 ティアロ...古代の龍語にあったような...確か......雫...?


「なんだ?察しが悪いな…超有名な音楽家の私を知らないわけもあるまいし...」

「いや、全然知らないけど」

「ナニィ!?」


 ガビーン!とオーバーに仰け反ってリアクションした。話し方といい、リアクションといい、いちいち大袈裟だな。

 そんなに有名人なのか?うーむ、俺って常識ないからなあ...。実はみんな知ってる人なのかもしれない。


「あー、俺あんま常識無いみたいだし、有名人とかもよく知らないんだよね」

「な、なるほどな!!そう言うことか!!」


 リューナはホッとしたように肩をおろした。


「えーっと、それで、なんで身体乗っ取りたいんだ?」

「むむ、そうだったな!...ズバリ!地上の人間達に、私のティアロを聞かせるためだ!」


 再びビシッと指さしをキメて、リューナ高らかに言い放った。


「あの...」

「なんだ?」

「ティアロってなんですか?」


 リューナはズコーッと、コケる。

 なんて言うか…リアクションが一昔前のヤツだな...。少女の姿をしてるけど、実は結構歳いってる?


「お前、あれだけ達者に弾いておいて、名前も知らないのか...?」

「え...?」

「この楽器のことだ!さっき弾いていただろう?」


 ポンポンと、ピアノを叩いて示される。

 どうやらこちらの世界では、ピアノのことをティアロと呼んでいるらしい。


「しかし、私以外にティアロ奏者がいるとはな」

「え?ピ...ティアロってメジャーな楽器じゃないの?」


 そう聞くと、リューナは難しそうに首を捻った。


「うーむ。私も長らく海底にいるからな。今、地上でどのくらいティアロが認知されているかは分からんが、私が死ぬ直前に父が完成させた楽器だったから...当時は、私と父以外に知る者はいなかったぞ」


 あ、やっぱこの子死んでるんだ。ていうか、お父さんが作ったの、コレ?凄いな!


「でも、完成してすぐ死んじゃったんだろ?ちゃんと弾けるのか?」

「なんだと...?」


 俺の何気ない一言が、彼女のプライドに引っかかったらしい。

 空気がピリッと引き締まって、リューナが静かにティアロの前に座った。


「舐めるなよ、小娘」


 振り返らずに一言放つと、鍵盤にそっと指をかけた。

 弾き始めた瞬間、リューナの世界に惹き込まれる。

 力強いのに、なんて繊細なんだろう。

 複雑な音程を、正確な指運びで奏でながら、感情表現までも抜かりない。

 彼女が何を伝えたいのか、言葉などなくともハッキリと伝わってくる。

 滑らかで重厚。こんな演奏、間近で聴けるなんて...なんて贅沢なんだろう。

 三分ほどの短い曲だと言うのに、胸がいっぱいになる満足感だった。

 俺は、言葉さえ忘れて、涙を流しながら、夢中で手を叩いた。


「フンッ、わかったか?」

「ああ...こんな演奏、初めて聴きいた…...」

「そ、そうか?わかったなら大人しく身体を」

「いいよ」

「なんだと?まだ私の凄さが...」


 断られる前提で言っていたのだろう。リューナは、言葉を途切らせて、はたと、俺を振り返った。


「...え?」

「だから、身体、貸してもいいよ」


 相変わらず表情は見えないが、きっとキョトンとしているのだろう。まじまじと、視線を感じる。


「いいのか...?」

「うん。あ、でも、貸すだけだぞ?」

「ああ......」


 なんだか反応が鈍いリューナに、俺は手を差し出した。


「ほら、よろしく」

「...よろしく」


 おずおずと出された手と握手する。

 もちろん握れないが、今度はすり抜けるんじゃなくて、手を伝って俺の中に入ってきた。

 俺が受け入れたからだろうか?


「う、んっ...」


 一瞬ゾワゾワしたが、すぐに馴染んだ。


「アレ...?普通に意識ある?」


 なんの変化も無いことに、思わず辺りをキョロキョロしてしまった。


 ー別に意識が無くなるわけじゃないぞ?ー


 頭の中で話かけられる。あ、ちゃんと入ってはいるんだ。


 ー正確には乗っ取る、じゃなく乗り移る、だからなー

 ー...なんか違うの?ー

 ー必ずしも意識を奪うわけじゃないということだー


 そういうことは、先に説明して欲しい。ちゃんと言ってくれれば、そんなに抵抗しなかったのに。


 ーそういえば、俺の考えてる事って筒抜けだったりするの?ー

 ーいや...お前の場合は勝手には覗けないなー


 そっか、良かった...。ていうか、覗ける場合もあるのか...。

 どういう場合は覗けるのか、気にならないでもないが...まあ、今はいいや。


 ー俺の事はマサキって呼んでくれ、一緒にる白いワンちゃんはアサヒねー

 ーわかった。じゃあ私のことはー

 ー先生で!!ー


 ここはちょっと譲れない。こんなにピアノ...もといティアロが上手い人だ。ぜひこの敬称で呼ばせて欲しい。


 ーう、うむ!悪くないなっ!ー

 ーじゃあよろしく!先生!ー

 ーああ!よろしく、マサキ!ー


 この時から、俺の身体に、天才ティアロ奏者が居候し始めた。






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://twitter.com/tamaki_Showsets
― 新着の感想 ―
[一言] マサキの体、天才音楽家の幽霊さんが居候になる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ