海底都市
「見えて来たわ」
人魚が前方を指して、俺たちに声をかけてきた。暗い深海の中で、そこだけがぼんやりと光を発している。
信じられないだろうが、俺たちは、半日ぶっ通しで泳ぎ続けた。もちろん、スピードを弛めることなど許されない。
グレンは魔力が尽きかけているし、さしもの俺とアサヒも泳ぎ疲れた。動けないと言うほどでは無いが、正直もう飯食って寝たい。
「...今は、魔物はいないみたいね」
人魚は危険が無いことを確認して、光の方へと近づいていった。
俺達も後に続く。
「わ...」
近寄ると、なんとも神秘的な美しい都だ。
建物は、うっすらと光る白い石で出来ていて、町と言うより、古代遺跡のようだ。
石造りの建物には、フジツボや見たこともない海藻なんかが生えていて、より一層幻想的に感じる。
「ん...?」
都の真ん中にポツリと建っている正方形の建物から、強い魔力を感じる。
他の建物と比べて、かなり小さいが、あの中に何かあるのだろうか...?
「ユラ!!」
都へ向かって泳いでいると、こちらに向かって、俺達と一緒にいる人魚にそっくりな少女が勢い良く泳いで来た。
もちろん、服は着ていない。見えそうで見えないのがまた、良いんだよな。
少女はそのまま、人魚にぶつかるように抱きついた。
「ミラ!」
「もう、どこに行ってたのよ!!」
「い、石を探しに...」
彼女は人魚にしがみついたまま、泣き出してしまう。
「無茶しないでって、いつも言ってるでしょ!?どれだけ心配したと思ってるのよ!!」
「...ごめん」
「もう絶対、勝手に居なくならないで!!」
人魚の血縁者だろうか。
突然現れて、しばらく泣き止みそうにない彼女に、どうしたものかと立ち尽くしていると、都に住んでいるのだろう、ほかの人魚達もわらわらとやって来る。
こちらも一切服を着ていないが、残念なことに、ゴツい男性の人魚しかいない。
そっか、そうだよな。人魚にだって男はいるよな。なんか勝手に女性ばかりのイメージを持っていたが...。
「ユラ...その者達は何だ」
髭を蓄えたガタイのいい人魚の男性が、ギロリと俺達を見た。
男性の前には、護衛らしき人魚が数人構えていて、油断なくこちらを警戒している。
偉い感じの人魚なのかな...?
「長この者達は、親切な人間です。一緒に魔物と戦ってくれると言ってくれました」
長と呼ばれた人魚が、再度、俺達を見やった。
見るというか、ほぼ睨んでる...。
「ユラ、親切な人間などいないと何度言えばわかる。我らが今まで、どれだけ人間に裏切られて来たと思う」
「...っで、でも」
「お前の甘さで、我らの身を危険に晒す気か。人間は欲の為なら卑劣な行いも厭わない、卑しい種族なのだ」
なんとか弁明しようとしてくれた人魚...ユラは、長の覇気に圧されてしまって、何も言い返せなくなる。
「おい、コイツはなんと言っている」
龍語が分からないグレンが、こそっと聞いてくる。言葉の意味は分からずとも、何か良くないことを言われているのが雰囲気でわかっているらしく、苛立たしげな表情をしている。
あー、グレンってプライド高そうだしなー。
そのまま言ったら、ブチ切れそうでめんどくさい。
「うーん、俺達のこと、まだ警戒してる感じ?」
「...助けてやると言っているのに、無礼な奴だ」
「そんなうまい話中々信じられないもんだって」
「フン、臆病者め」
グレンはこういっているが、身を守るためなら、臆病なくらいで丁度いい。
それに、ここまで言うんだから、過去、人間に酷い目にあわされて来たのだろう。
それにしては、ユラは警戒心が薄いな。
「ここを知られた以上、返す訳にもいかぬ」
「......どうするつもりですか...?」
「すぐに殺しても良いが...」
長は、冷ややかな目を向けて、一考する。
「.........牢に入れておけ」
「ハッ!」
「えぇっ」
近くにいる護衛達に命じると、すぐに両脇から腕を掴みあげられる。
「無礼者!何をする」
グレンは伸びてくる腕を払い除け、人魚達を睨む。アサヒも体制を低くして、唸っていた。
「まあ、落ち着きなよ」
「何を呑気なことを」
「俺たちがここで抵抗したら、あの子の立場が悪くなるだろ」
俺は、二人をなだめつつ、ユラを見やった。
ユラはすっかり縮こまって、申し訳なさそうに俺たちを見ている。
グレンには、ユラにペンダントを貸してもらった恩がある。案外義理堅いグレンは、彼女の立場を悪くするような事はしないだろう。
元々俺達は、半ば強引に丸め込んでついてきたようなもんだ。
そのせいで、これ以上彼女に迷惑をかけるのはよろしくない。
「しかし、」
このままでは、自分達だって危ないのではないか。
そう、目で問いかけてくる。
「大丈夫だよ。お前一人くらい、俺とアサヒで守ってやるって」
「余計なお世話だ!」
なんだよ、安心させてやろうと思ったのに。
自分が守られるのが当たり前のように言われて、グレンは癇に障ったようだ。
アサヒは、俺に抵抗の意思がないことがわかると、すぐに大人しくしてくれる。
いいこ!!かしこい!!
心の中で、アサヒを撫でくり回しながら、俺は大人しく石の枷をはめられる。
グレンもムスッとしながらも、抵抗せずに受け入れている。
うん、エラいぞ。
「来い」
枷を引っ張られ、都の中へと泳ぐ。
建物はどれも箱のような形をしていて、屋根も真っ平らだ。白い石の壁に、出入口と思われるものと、窓の役割をするであろう四角い穴が空いている。扉などは一切ついていない。
キラキラと光る建物の隙間に、色素の薄い海藻がゆらゆらと揺れていたり、半透明の小さな魚が泳いでいたり、通りを見回すだけでも楽しい。深海だからか、全体的にに色素が薄く、白や透明、また自ら光を発する生き物なんかもいて、それがまたとても幻想的だ。
建物の中では、人魚達が様子を伺っているようで、たまにチラリと女性の姿も見える。
なるほど、さっき出てきたのは男性の戦士だけで、他は隠れていたわけだ。
俺達はそう広くない都の真ん中に、ぽっかりと空いた広場まで連れてこられる。
先程上から見た、正方形の建物がある広場だ。
「入れ」
建物と同じ材質で出来た、白い檻に入れられる。
さて、どうしたものかな。
ちょっと美女人魚に囲まれてみたいと思っただけなのに。オッサン人魚に閉じ込められてしまうとは。
マジで処刑とかされそうになったらどうしよう。
俺とアサヒだけならそうそう死なないが、グレンはそうは行かないだろう。
参ったねこりゃ。着いて早々、面倒なことになってしまった。何とか彼らの信頼を得ることは、できるのだろうか。
本気でヤバい時は、トンズラしよう。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!