ハーレムへの道
「疑ってしまって、ごめんなさい」
人魚はかすれた声で、リザードマン達に謝った。
「いいえ。それよりも、行方不明のリザードマン達は、無事なんでしょうか」
「ええ。でも、私は崖を登れないから、東の方の砂浜に運んでおいたわ」
「そうですか、では次期、帰って来ますね」
こんなに迷惑をかけられているのに、リザードマンはなんて寛容なんだろう。
仲間が無事と聞くと、それ以上人魚を責めたり問いただしたりはしなかった。
「なにかお詫びを...」
「いいえ、無事なら良いのです」
「そんな...」
あまりにお人好しなリザードマン達に、人魚は酷く申し訳なさそうにしている。
「でしたら、人魚の都の楽器が見てみたいです!」
その時、人だかりをかき分けて、青緑色の鱗をしたリザードマンが申し出た。
あ、楽器屋の店主だ。もう海岸までやってきてたのか。中々に耳が早い。
「楽器...?」
「はい!リザードマンは音楽が大好きなんです!人魚がどんな楽器を使っているのか、ぜひ、教えてください」
店主がウキウキしながら言うと、他のリザードマン達も「そりゃあいい」「名案だな!」と同意した。
本当に音楽に目がないようだ。
「そんな事でいいの...?」
人魚は恐る恐る町長を見上げる。
「ええ、そうですね。人魚の方々に不都合でなければ、また交流を再開するのはどうでしょう」
「も、もちろん私達は!......あ、」
人魚は快諾しようとしたが、何か思い出したのか、躊躇う。
「......難しいですか?」
「いや、交流するのは大丈夫だけど、すぐには無理...」
「何故です?」
町長が理由を聞くと、人魚は暗い顔で話し出した。
「今、私たちの都は、石の結界がなくなって、恐ろしい魔物に狙われているの...。なんとか守護戦士が応戦しているけど、勝てるかどうか......。だからどうしても、結界を張り直すために、石を取り戻したかったのよ...」
そうか、結構切羽詰まってたんだな。
彼女の肩を持つ訳では無いが、強硬な手段を取ったのもうなずける。
「でも、結局石は見つからなかった...」
「ふむ...」
どうしたものかね。俺の持っている例の石で解決できるかもしれないけど...もし似て非なるものだった場合、ぬか喜びさせてしまうことになるしなあ。
「俺がその魔物、やっつけようか?」
「え...?」
思わぬ提案だったのだろう。人魚はキョトンと俺を見る。
人魚達が総出で戦って苦戦している相手を、なんでもないように「倒してやる」と言ったのだ。そりゃあ、何言ってんだコイツ的な目になる。
「ふざけてるの...?」
「いやいや、ここだけの話、俺、結構強いんだよ」
ねっ、とアサヒとグレンを見る。アサヒは自分の事のように胸を張って、グレンは渋々頷いた。
相当悔しそうだが、それでも認めるところを見ると、グレンは結構真面目なのだろう。
「それに、戦う人数は多いに越したことはないだろ」
「しかし...」
「わかった、君に泳ぎでついていけたら、その魔物と戦う。途中ではぐれるようなら諦める...それでどう?」
中々に煮えきらない人魚に、俺はまずは一緒に泳いで、水中で戦えることを示そうと考えた。
「......どうして、そこまでしてくれるの?」
あまりにグイグイ来る俺に、人魚は訝しげな目を向けた。
あー、そうよね。怪しいよね。
「...実は俺、どうしてもドラゴンを倒したいんだ...。詳しくは言えないんだけど、大切なものを取り戻すために......。だから、強いやつとは、できるだけ戦っときたいんだ。いつかドラゴンと戦う日のために」
うん。嘘は言ってない。大事なとこはボカしてるけど、決して嘘では無い。
これでなんとか納得してくれないだろうか。
ちら、と人魚を見る。さて、判定やいかに…。
「......そうだったのね...わかった。私と一緒に来て」
俺は人魚の言葉に、真剣に顔で頷いた。
やったーー!!説得成功ーー!!
これで人魚の楽園に行ける!!
え?修行?あーうんやるやる。やりますとも。でも、そんなことより、人魚がいっぱいの海底都市なんて、行ってみたいじゃないか。
いやいや、もちろん、困っている美少女をほっとけないってのもあるよ?
海底で日々魔物に怯えている、美少女達を救いたい!そしてあわよくば、英雄になって美少女人魚達にちやほやされたい!!
そう思うのは男として間違っているか。否、間違っていない。
そんなわけで、人魚達を脅かす魔物を倒すべく、海底都市へ同行することになった。
「あ、グレンはここで待っててね」
「なっ!私も行く!」
「グレンは水中に長くいられないでしょ」
「ぐっ!!」
グレンは何も言い返せない。
ふふん。悪いな、俺だけ楽園に行くことになって!
まあ、俺も出来るだけ急ぐからさ?迷子にならないよう大人しくしとけよ!
「水中で息ができるようにするくらいなら、出来るよ?」
「え、」
「ほんとか!?」
「ええ...これを持っていれば、人間でも水中で活動ができるわ」
人魚はキラキラと輝く、薄い鱗のような飾りがついたペンダントを出した。
「これで私も行けるな」
ペンダントを首から下げたグレンが、ニヤニヤと俺を見る。
「なっ」
なんでそんなもの持ってるんだ!!
グレンなんか付いてきたら、俺の人魚ハーレムが台無しじゃないか!冗談じゃないぞ!
「お前が来たって足手まといだよ」
「戦う人数は、多いに越したことはないんだろう?」
「それはっ...」
戦えるならの話であって。しかし、自分の実力も証明できていない今、不用意なことを言えば、俺の海底行きまでなくなってしまうかもしれない。
「そもそも、着いてこれるのか?」
「泳いだことはないが、なんとかなるだろう」
「まじかよ...ハグれても知らないからな」
「ああ」
なんとか、グレンの同行をやめさせようと、あれこれ忠告してみるが、グレンは全く聞く耳を持たない。
本当に知らんぞ??
「話がまとまったなら、もう行くわよ」
「えっまっ...」
「ああ、行こう」
そう言って、グレンは我先に、崖下の海へ飛び込んだ。
身体能力が高いらしく、さして水しぶきも上げずに着水する。
しばらくすると水面から、顔を出した。
...本当に泳いだことないのか......?
「問題が解決したら、また必ずここに来るわ...」
人魚はリザードマン達を振り返り、そう挨拶すると、身を捻って、崖から飛び降りる。
俺とアサヒも、二人の後を追った。
俺たちが着水したのを確認すると、人魚は勢いよく泳ぎ出した。
人魚の泳ぎはやっぱり、めちゃくちゃ速い。泳いだことも無いグレンが、ついていけるわけが無いとタカをくくっていたのだが...。
「風渦」
そう唱えた瞬間、グレンの足から、風の渦が出現した。
体勢を整えると、その風の勢いを使って、水中を猛スピードで進んでいく。
「え......」
そ、そんなのありかよ...。
え、マジでグレンも来るの?人魚の楽園に??
あんな顔の男が来たら、俺の人魚ハーレムの夢はどうなる...?
脳内に、ヴエルニットの女達がグレンに群がっている光景が蘇った。
そ...そんな、また根こそぎカッ攫われるのか...??
俺は自分の妄想に絶望した。
「ううっ、イケメンコノヤローーー!!」
目尻に浮かんだ涙を誤魔化すように、海へと潜った。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!