人魚とリザードマン
「とりあえず、まずは聞きこみでいい?」
「うん...」
とりあえず、二人で、これからの捜索プランを話し合う。
「その時に、リザードマン達に姿を見せることはできる?」
「......大丈夫」
まだ警戒心を緩めない人魚は、憮然としながらも、了承してくれる。
「ちなみにその石の特徴とかわかる?」
「...魔力を帯びていて、青白く光っている特別な石よ」
...なんか、覚えのある特徴だな......。
いやいや、似た感じの別の石かもしれないし...。
うん、まずはリザードマン達に聞き込みだ。
俺は、人魚を伴って海岸へと泳いだ。
「そういえば、人魚って陸に上がって平気なの?」
「......少しの間なら」
「そっか」
そこで、人魚を抱えて崖を登る気でいた俺はハッとした。
そういえばこの子、上半身裸だった。
俺は今から、裸の女の子を抱っこするのか...?なんだそれ、ちょっと響きがエッッ...すぎるんだが。
待て待て、それ以前に衆人環視に裸の女の子を晒すのは、ダメなんじゃないか...?
いやでも、抱っこ......うーん............。
「...これ、着といて」
俺は結局、寝巻きに使っている紺色のシャツを亜空間から出して、人魚に渡した。
はあ、紳士な自分が憎い。
「きる、とはどう言う意味?」
「え...?」
「これはなに?海藻か何か?」
え...まさか、服を知らないのか?
「服だよ...ほら、俺も今布を身につけているだろう?」
「ふく?ぬの...?それは人間の鱗では無いの?」
「人間に鱗はないよ」
ほら、とそれをまくって腕を見せる。
人魚は一瞬ぎょっとして、恐る恐る腕を見た。
俺の腕に怪我がないのを確認すると、服と腕を不思議そうに見比べた。
自分に手渡された服を、くるくると回して観察している。
「かして」
このままでは、彼女が服を着るまで何時間もかかりそうだったので、一度シャツを返してもらって、人魚の頭から被せた。
「っ!何を!」
「あー、ごめんごめん、ほら、ここに腕を通して」
「......?」
シャツの袖を持ち上げて、人魚に腕を通させる。
うぬ、目のやり場に困るなあ...。
動く度に揺れるそれを、つい目で追ってしまうのは仕方ないと思う。
「これがふくか...」
水中で着せたため、だいぶ濡れてしまったが、人魚は自分の体を覆った布を興味深そうに見ている。
「それじゃあ、行くぞ」
「わっ」
俺は、崖を登るべく人魚を横抱きにした。
人魚は急に距離が近づいたせいで、身体が強ばって閉まっているが、服越しに感じる肌は柔らかく、肩も腰もほっそりしている。
うう、これが女の子...。なんて幸せな感触だろう。
今まで、男しか抱えたことなかったもんな。
ビリウスともグレンとも全然違う!男ってやっぱ硬かったんだな!
「よいしょっ」
近くにあった岩礁を踏み台にして、崖上に向かって飛び上がった。
ストン、と着地する。
人魚はあまりに一瞬の出来事に、ポカンとしていた。
崖上にはアサヒとグレンの他に、歌声によって集められたリザードマン達が立っていた。
リザードマン達は人魚を見るとぎょっとして、「あれはまさか」「もしかして伝説の」などとヒソヒソ話し始める。
「おかえり」と駆け寄ってくるアサヒに、文句を言ってきそうな表情のグレン。
「おい、どこへ行っていた。...というか、それは何だ」
人魚を地面におろし、アサヒを撫でていると、やっぱりグレンが憮然とした声をかけてきた。
「この子は人魚だよ。ちょっと話を聞きに行ってただけ」
「人魚だと...?」
人魚という言葉に、リザードマン達のざわめきが増した。
一斉に向けられる好奇の目に、人魚は縮こまる。そして、訝しげに首を傾げていた。
どうしたんだろう。
気にはなったが、聞きこみが先だと、リザードマンに声をかける。
「すみません。ここにいる人魚なんですが、探しものがあってここに来たみたいです」
「...探しもの?どんなものだ」
「青白く光る魔石だそうです」
リザードマン達はお互いに顔を見合わせて、首を傾げた。
「海底の都にあった、特別な石よ!あれがないと困るの!お願い、返して」
必死に言い募る人魚に、リザードマン達は謎が深まるばかりだ。
「...何の事だ?すまないが、心当たりがない」
「本当に海底に都があったのか...?」
「人魚が実在するとは...」
ハテナを浮かべるリザードマン達に、人魚は焦る。
彼らには、嘘をついている様子は無い。悪意が少しも感じられないのだ。
「そんな...だって......スーヤンを呼んで!彼なら、私の事を知ってるはずよ!」
リザードマン達は、全体的に親切な性質のようで、わけが分からないながらも、バクサの町にいる「スーヤン」を集めてくれる。
騒ぎを聞いて、町長までもがやって来ていた。
夕方までかかって、集められた五人のスーヤンを見て、人魚は首を振った。
「違うわ...みんな知らないひとよ...」
人魚は全員をじっと見て、泣きそうな震え声で言った。
その様子を見ていた町長が、人魚に問いかける。
「つかぬ事をお聞きしますが、貴女が会ったというリザードマンとは、いつ会ったのでしょうか」
「いつ...?」
人魚は何故そんな事聞くのか分からないという顔で、その問に答える。
「たぶん、千年くらい前よ」
それを聞いて、町長は悲しそうな目を人魚へ向けた。
「...リザードマンは、千年を生きることはできません」
「え...」
「恐らく、彼はもう...」
その言葉の続きは要らなかった。
人魚は目を見開いたまま、項垂れてしまう。
そうか...この子はリザードマンと人魚の寿命の差を知らなかったのか。
長命な人魚に比べて、リザードマンの寿命は人間とそれほど変わらない。
彼女は、十代後半に見えても、少なくとも千年は生きているのだ。そのリザードマンが生きているとは思えない。
もちろん、リザードマン達が嘘をついている可能性はゼロでは無い。ここには嘘発見器はないのだから、調べようもない。
でも、ここにいるリザードマン達は、きっと本当の事を言っているのだろう。
人魚見つめる沈痛な目が、それを物語っている。
これが全部嘘だったら、俺はちょっと人間不信、ならぬリザードマン不信になりそうだ。
「う、そ......そんな...スーヤン」
人魚は、顔を塞いで、小さな声で呟いた。
信じられないというより、信じたくないような声だ。
うう、と嗚咽をもらして、人魚は泣き出してしまった。
「うそよ!!」
天に向かって、悲痛な叫びをあげる。
子供のようにわんわんと泣いている姿は、事情を知らない俺達にさえ痛々しく映った。
彼女は、その美しい声が枯れるまで、泣きながら彼の名を呼び続けた。
「また会おうって言ったのに!!」
彼女はもしかすると、石を取り返すことよりも、スーヤンというリザードマンに会いたくて、このテチュビジュンまでやってきたのかもしれない。
そうでなければ、これほど悲しい声で泣いたりしないだろう。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!