歌声
本日、2話更新予定です
お昼12時頃、もう1話投稿致しますのでお見逃しなく!
「なんだこの狭くてホコリっぽい部屋は」
ホントにこいつは文句しか言えねえのか。
ホンリンが案内してくれた部屋に入った途端、グレンが眉をしかめて言い放った。ホンリンの目の前で。
「彼はなんと?」
「お、趣のあるいい部屋ですね、と」
「そうですか!じゃあ、ここは好きに使ってもらっていいので、ごゆっくりどうぞ!」
「はい!ありがとうございます」
パタンと扉を閉めて、ホンリンの足音が遠ざかっていく。
あー!良かった!こいつが精霊語しか話せなくて!
部屋は確かに長く使ってなかったのか、少しホコリが溜まっている。寝台がひとつ置いてあり、それ以外は何も無い。
「あんた風魔術とか使えないの?」
「...使えるが」
「じゃあそれで、綺麗にすれば」
シアンがやっていたように、自分で掃除すればいいのだ。風でホコリを巻きとって外に出すことができると、シアンが言っていた。
「あ、もしかして、魔術は苦手だったり」
「フン、できるに決まってるだろう」
いやー、なんか結構チョロい性格だな。
ここはありがたく、利用させてもらおう。
「風よ、清め給え。清風」
グレンがそう唱えた瞬間、部屋の中に強風が巻き起こり、ホコリが舞い上がった。
「ゲホッゲホッ!」
呼吸をしていたグレンが咳き込む。
あー、息止めといて良かった。ていうか、シアンがやってたのと全然違うんだけど...。そもそも、ホコリ巻き上げただけじゃん。むしろ空気悪くなったし、めちゃくちゃホコリ被ったわ。
自分の魔術であんなに咳き込んでいるのかと思うと、なんだかグレンが哀れに感じた。可哀想なものを見る目を向ける。
「わ、私は戦闘の方が得意なのだ!」
「はいはい」
何を言っても哀れに見える。仕方ない、どこかに風呂がないか聞いてみるか。
「どうしました?」
酒場の方に行くと、ホンリンが声をかけてくれた。
「すみません、寝る前に汗を流したいのですが...どこかに湯屋はありますか?」
「ああ!テチュビジュンでは湯に浸かる習慣がなく、水浴びをするのです!」
「そうなんですね。じゃあ、水浴びできる所を教えて頂けますか?」
「じゃあ、簡単に地図描きますね!」
サラサラと描いて、紙を渡してくれる。
「この建物の裏側に回って貰えば、すぐわかると思います」
「ありがとうございます」
地図を見ながら、アサヒとついでにグレンも連れて、水浴び場へと歩く。もう外は完全に日が暮れていて、ちらほら建つ民家からは、柔らかな明かりが漏れている。
「え...まさか、ここじゃないよな...」
地図の通りに歩いて行くと、大きな川に着いた。目隠しも仕切りもない、ただの川だ。
数人のリザードマンが衣服を脱いで、水浴びをしている。
「...ハアー。アサヒちょっと隠してて」
アサヒに、グレンとの間に立ってもらい、しゃがんで服を脱ぐ。
人前でこの服を脱ぐのは久しぶりだな。男避け解けちゃうけど、暗いし、リザードマンばかりだし、大丈夫だよね。
「お、おい!こんな場所で女が脱ぐな!」
「...仕方ないだろ。ここで水浴びするしかないんだから」
「なっ!私もいるんだぞ?」
「じゃあ見なきゃいいだろ?」
暗闇の中でも、グレンがめちゃくちゃ狼狽えているのがわかる。
ハハン、なんだ?お前も実は童貞だったのか?昼間女の子に囲まれてた時無言だったのは、もしかして、どう接していいか分からなかったんじゃないか?
そう思うと、急に仲間意識が芽生えるな。
うん!お互い、これから頑張ろうぜ!
「なんだその顔は」
「別に...あんたも水浴びするなら、早く済ませろよ?どうせ、帰り道も分からないんだろ?」
「...............」
「俺は待たないからな」
それだけ言って、アサヒと一緒に川に入った。水深は、座ると肩が少し出るくらいだ。水はかなり冷たくて、ぶるっとしてしまう。
面倒なので、頭まで浸かって、そのまま水中で髪を洗う。息をしなくていいのは、こういう時に便利だ。
十分に汚れが取れたところで、水面から顔を出した。
肌を手で優しく擦って、身体を洗っていく。際どいところを洗うのは、我ながらドキドキしてしまう。そろそろ慣れたい...というか男になりたい。
「次はアサヒを洗おうね」
身体を洗い終えたら、今度はアサヒの番だ。
この時間は本当に至福だ。ふわふわのアサヒの身体を、わしゃわしゃと洗っていく。
アサヒは全く抵抗せず、気持ち良さそうに目をつぶって、されるがままになってくれる。
この感触が、そしてリラックスしたアサヒの表情が、可愛くてたまらないのだ。
はぁ〜、ホント癒し〜。
冷たい水も、慣れてしまうと心地いい。
「ん?歌声...?」
ふいに、微かな歌声が聞こえた。
かなり遠いところで歌っているのだろうか。
川下の方からだ。歌詞はほぼ聞き取れない。
アサヒがパチと目を開いて、川上を振り返った。
「アサヒ?」
俺もそちらを向くと、服を脱いで水浴びをするグレンが立っていた。
うわー、なんでとは言わないが、暗くて良かった。
しかし、グレンはゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「おい?なんでこっちに来るんだよ」
「声が...」
グレンの様子がおかしい。目は虚ろだし、フラフラと生気のない歩き方をしている。
まるで操られているみたいな。
そう思った時、小さかった歌声が急激に大きくなる。まるで、頭に直接響いているみたいだ。
「なっ」
海の底の 忘れられた都
人間が捨てた 悲しい都
今も水底で生きている
人魚と石が都を守る
石を取ったのは だぁれ だぁれ
海に沈んだ 音楽の都
人魚が拾った 綺麗な都
ずっと水底で待っている
雫の宝は都にねむる
次にならすのは だぁれ だぁれ
高く美しい女性の歌声だ。歌詞はどうやら龍語のようだ。
辺りに、そんな声を出せそうな人はいない。いや、俺はリザードマンの女声がどんなものか知らないけど。
そして、辺りを見渡して気づいた。ここで水浴びをしていたリザードマン全員が、グレンと同じように、虚ろな顔で、川下を目指している。
「この歌声のせいか...?」
でも、俺とアサヒは正気だ。いったいどういうことだろう。
思案している間に、グレンが横を通り過ぎていく。
「あっ、おい!どこ行くんだ」
慌てて腕を掴む。初めての土地で、迷子探しなんてしたくない。
うっかり力を入れすぎて、後ろに倒れ込んでしまった。
「おい!暴れるな」
尚も起き上がろうとするグレンを、膝立ちになって、後ろから羽交い締めにする。
なんとか大人しくさせれれないだろうか。ほかのリザードマンたちも、このまま下流に進み続けたら、どこまで行くか分からないし、放ってはおけない。
うーん、もしこれが念話の類なら。より強い念を送れば、正気に戻せるかもしれない。
確証はないが試してみるか。
ここにいる全員に念話で呼びかけた。
ーその歌を聞くな、起きろー
その瞬間、グレンやリザードマンたちの動きがとまって、ハッとしたように辺りを見回す。良かった、どうやら正気に戻ったみたいだ。念話は念を強くしすぎると、洗脳してしまうこともあるので、加減が結構難しいのだ。師匠みたいに格上なら、そんな気遣いもいらないけど。
まだ呆然としてるグレンを、覗き込む。
「正気に戻ったか?」
「...ッ!おい!離れろ!」
ふたたびじたばたと暴れ出す。
なんだ?まだ正気に戻ってないのか?
さらに腕に力を込める。
ハンッ!力で俺に勝てると思わないことだ!
「おい!......む、...が、当たっている」
「は?」
「胸が当たっている!」
え?むね...?
腕を緩めて、視線を下にやると、なんということでしょう…。
「うわあああ!」
俺は慌ててグレンから離れ、水中に潜った。
すっかり忘れてたけど、俺今、すっぽんぽんでした。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!