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テチュビジュン







 刺身を堪能した俺とアサヒと、ついでにグレンはテチュビジュンへと急いでいた。

 刺身を食べると言うと、グレンにめちゃくちゃ嫌そうな顔をされたので、もちろんグレンの分はなしだ。

 女達から色々持たされていたし、勝手にそれでも食ってりゃいいんだ。くそっ、お前だけ女の子にちやほやされやがって...べ、別に、羨ましくなんてないんだからねっ!

 ...羨ましくなんか...羨ましくなんか......ないわけネーダロガッ!!死ぬほど羨ましいわコンニャロォオ!!

 と、こんな具合に心が大荒れになってしまい、刺身をやけ食いしてしまった。

 次々に行くテチュビジュンも海に面していて海産物が豊富だと聞くし、海鮮尽くしといこうか。

 次は甲殻類が食べたいな。


「おい、この体勢は疲れた。さっきのように横向きに抱け」

「..................」


 それにさっきから、抱えられているだけのこいつがうるさい。

 テチュビジュンまでは、特に森に入ることもなく、まっすぐ街道が続いているため、アサヒを大きくして乗せることが出来ない。なので、俺たちのスピードについて来られないグレンを、仕方なく俺が担いでいる、俵のように。

 意外にもグレンは順応力が高く、自らお姫様抱っこを所望してくる。

 恥ずかしさより快適さの方が大事なようだ。

 はあ...今抱えてるのがせめて、ワガママお嬢様とかだったらなあ。同じワガママでも全然違う。そしたら喜んでお姫様抱っこするのに...。


「おい、はやく抱えなおせ」


 はあ...こんなエルフ拾うんじゃなかった。




 俺たちは、日が暮れる前には、テチュビジュンの国境を超えた。

 入国審査の行列で、マーメイド・ラプスの場所を聞いておく。


「マーメイド・ラプスならバクサと言う海岸沿いの街にあるよ。間に三つ小さな村があるが、馬車で一日もあれば着く。ここに来る人間は、だいたいまずそこに行くから、すぐわかるさ」


 答えてくれたのは、少ししゃがれた声のリザードマン。見た目もビリウスより少し年配に見える。

 テチュビジュンはリザードマンの国で、入国審査に並んでいるのは、国外から帰郷したリザードマンばかりだ。ワンウァレンィアとも国交を開いているので、人間の商人の姿もちらほら見える。


「一番右手側の道を歩けば着く」

「ありがとうございます」


 ここでは皆、龍語を使っているので、俺としてはかなり話しやすい。いいな、リザードマンの国。

 リザードマンは皆、筋骨隆々でたくましく、槍を使った伝統的な武術が有名だ。

 鱗の色は緑や、赤、青、紫と様々だ。

 でも、ビリウスみたいな鮮やかな真っ青はいない。緑がかっていたり、くすんでいたりする。それに、みんなビリウスよりひと回り小さいような...。

 ...ビリウスって、リザードマンの中でもデカい方なのかな?


「娘さん、人間なのに龍語が上手だねえ」

「...小さい頃から、話してますから」

「そうかい...ここは、魚が美味いし、綺麗な音楽もある。楽しんでってくれ」

「はい。ありがとうございます」


 夕暮れのテチュビジュンの街道を行く。まだまだ人通りは多く、今まで見たことないくらい沢山のリザードマンが行き交っている。

 そのほとんどが、チャイナ服に似たデザインの衣服を身にまとっている。民族衣装のようなものだろうか。たまに見かける建物も、どことなく中華風だ。

 日没までには、マーメイド・ラプスに着きたい俺は、少し息切れし出すのにも構わず飛ばし続けた。そのかいもあって、まもなく、バクサに到着した。

 通りには、ポツポツと提灯が吊り下げられていて、中華風の建物がやや間隔を開けて並んでいる。ヴエルニットよりも、広さはあるが、人はずっと少ない。そんなに栄えてない、田舎の町という印象だ。

 それでも、広場で楽器を演奏している人たちがいたり、その音楽に合わせて歌ったり踊ったりする人たちがいたり、はたまた、それを肴に酒を楽しむ人たちもいる。

 ヴエルニットとは違った活気に溢れていて、目にも耳にも楽しい。

 ここは本当に、人々の暮らしに音楽が根付いている。

 道すがら、住人にギルドの場所を訪ねて、無事、マーメイド・ラプスに辿り着いた。

 こちらも中華風の木造建築である。

 両開きの扉に、直接ギルドマークが彫り込まれている。

 中はちょうど酒場として盛況な時間帯で、ここでも楽器を演奏している者がいて、肩を組んで楽しそうに歌っている。

 ランタンが暖かく照らす室内を横切って、奥のカウンターに声をかける。


「すみません」

「いらっしゃい!」


 迎えてたくれたのは、まだ若いリザードマンの男性...?正直、リザードマンの性別の見分けがつかない。声が大きくハツラツとしていて、背丈はグレンより少し小さいが、筋骨隆々で非常にたくましい。

 赤い鱗に茶色の瞳をしている。


「えと、ゼノンのつかいで、カッツェヘルンから、魔法薬の配達に来ました。マサキと言います」

「マサキさんね!俺はホンリン!それじゃあ、薬品保管庫まで案内しますね!」

「お願いします」


 ホンリンに案内され、階段を登って二階へ。

 今度も、アサヒを見張りに命じて、グレンは置いていく。あまり部外者を、保管庫まで入れるのは良くないだろう。


「空いてるスペースに適当に置いて大丈夫ですよ!後で俺が整理しますんで!」

「わかりました」


 正直、量が多いので助かる。お言葉に甘えて、どんどん木箱を出していった。


「すごいですね!一回でこんな運んで来られたのは初めてです!」

「分けた方が良かったでしょうか?」

「いえ!結構消費が早い薬なんで、助かります!」

「良かったです」


 納品を終えると、ホンリンが話しかけてきた。


「今日は泊まって行かれるんですか?」

「はい。そのつもりです」

「良かったら、ここ、空いてる部屋あるんで泊まって行きませんか?」

「いいんですか?」

「はい!どーぞ!」


 これはありがたい。正直、今から宿を探すのが面倒で、もう今日は野宿でいいかなと思っていたのだ。

 このまま泊めてくれるというのなら、ありがたく使わせてもらおう。

 あのワガママエルフとも、一時的にだが、顔を合わせずにすむ。


「では、お願いします。一晩いくらですか?」

「え?ああ!それは全然、ここ宿じゃないし、お代は結構です!」

「えっ」


 そ、そんな感じで大丈夫なのだろうか。親切にしてもらえるのはありがたいが。


「マサキさんは、これから配達でお世話になるでしょうし、特別です!」

「...ありがとうございます」

「いいえ!こんな時間に、若い女の子を放り出すのも気が引けるしね!」


 そこは全く問題ないのだが。ここは好意に甘えるとしよう。


「あ、今貸せるの一部屋しかないんだけど、大丈夫ですよね?」

「え...」

「ほとんど物置に使っててさ、ごめんね」

「.........はい」


 ここまで良くしてもらって、今更嫌とも言えない。

 はあ、結局あのワガママエルフと一緒にいなきゃいけないのか。


 まあ、もう寝るだけだし、あんまりウザかったら拳で眠らせよう。






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] エルフさんと同室、不安しかないが。
[一言] ちゃんとした街についてるんだしこのエルフ捨てて行ってよくね?これ以上連れ歩くほどの義理もないでしょ
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