表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/56

デジャブな再会







 俺はそれから七日間、シアンがいる時は修行をみたり、時間が開けば、近場で出来る依頼をこなしたり、リーニャとサッカーの練習をしたりして過ごした。

 シアン達を見送って、二日後の朝。俺とアサヒはくすり屋に来ていた。


「おう、来たな。こっちに来てくれ」


 ゼノンに手招かれ、バックヤードの階段を上り、二階へと通される。

 ぎっしりと棚が並べられたそこは、どうやら、素材や魔法薬の保管庫のようだ。


「ここにある箱を、ポート・ラビリンスまで配達を頼む。とりあえず入る分だけで構わない」


 薬ビンの入った平たい木箱が、何段も積まれている。

 亜空間に入る分だけでいいって事か?何言ってるんだ?このくらい、全部入れてもまだまだ余裕があるぞ。

 木箱をさっさと亜空間に詰め込んでいく。


「これダケでいいんデスカ?」

「...まだ入るのか...?」

「ハイ。この部屋にある物くらいなら、全部収納出来マスヨ」


 それを聞いて、ゼノンはあんぐりと口を開ける。


「......じゃあ、もうひとつ配達先を増やしても、良かったりするか...?」

「え...?あー、ハイ。メチャクチャ遠くなければ」


 うむ。と頷いて、ゼノンは別の木箱の山を指す。


「じゃあこの山を、隣国テチュビジュンのギルド、マーメイド・ラプスまで持って行ってくれ」


 テチュビジュンのギルド「マーメイド・ラプス」...確か「ポート・ラビリンス」のエールちゃんが、ヴエルニットから近いギルドとしてあげていた。


「行ったことないので、チョット時間かかるかもしれマセンが...」

「ああ、構わない。そっちはそれほど急ぎでもないからな」

「ソウデスカ」


 続いて、テチュビジュン行きの木箱を収納していく。


「それで、もうひとつ頼みたいんだが」

「?ナンデスカ」

「テチュビジュンで、一番珍しい弦楽器を買ってきてくれないか?」


 なんだそれ、と思わず首を傾げてしまう。


「テチュビジュンは音楽の文化が発達していて、見たこともない楽器があると聞く」

「へー!...それで、珍しい弦楽器ナラ、どんなものでもいいんデスカ?」

「ああ、珍しくて、音色が美しければいい」


 なんか、めんどくさい注文だな。

 ...でも弦楽器か...それはチョット俺も気になる。


「分かりマシタ」

「ではとりあえず、これを渡しておく」


 そう言って渡されたのは、白金貨十枚。

 初めて見た白金貨に目をむく。白金貨が、じゅ、じゅうまい...。

 あまりの大金に、胡乱な目を向けてしまう。

 くすり屋ってそんなに儲かるのか...?


「なんだ?ちょろまかすなよ?」

「しませんヨ、そんなコト」


 とりあえず、怖いのでこれも亜空間にしまっておこう。普通、こんな大金あっさり渡すか?本当にちょろまかされたら、どうする気なんだろう。


「それじゃあ、イッテキマス」

「おう。たのんだ」


 商品を詰め終わった俺は、さっさとくすり屋をでる。

 しかし、少し行ったところで、シマに呼び止められた。


「奥たまぁ!」


 完全に定着してしまっている「奥たま」呼びに、ギクシャクと振り返る。


「...ナンデショウ」

「これ、今朝焼いたので、お昼にどうぞ」

「ワァ...!ありがとうゴザイマス」


 いい香りのする温かいパンを包んで、シマが手渡してくれる。


「道中お気をつけください。奥たま」

「あ...あの、往来で奥たま呼びは、チョット」

「...え?どうしてですか?」


 え、えー?嘘だし、あんまりひとに知られたくないから。とは言えないし...。う、うーん...マジで言いたくないが......これしか、ない、のか...?

 こてんと首を傾げている


「...て、照れてシマウノデ」

「!!そうでしたか!奥た...マサキさんは、とても奥ゆかしい方なのですね...!」


 シマの方が照れたような顔で、呼び方を改めてくれる。どうやら、納得してもらえたようで、ひとまずホッとする。

 俺はもらったパンを、亜空間に入れて今度こそくすり屋を後にした。


「それじゃあ、行ってキマス」

「行ってらっしゃませ!奥たまサキさん!」


 まざってるまざってる。




 いつも通り、行列に並び南の門をくぐって、エテロペの森へ走った。

 森に少し入ったところで、アサヒを元の大きさに戻す。


「ヴエルニットか...」


 ついこの前まで、その遥か先にある迷宮に住んでいた。

 まだひと月も経ってないのに、なんだか懐かしく感じる。

 大きくなったアサヒと、森を駆け抜ける。

 せっかくヴエルニットに行くのだ、港町でしか食べられない海鮮料理でも食べようか。

 着いた時の事を考えながら、若干上の空で走っていると、ふいにアサヒが立ち止まった。


「ん?どうした」


 アサヒを見ると、その視線はまっすぐ一点に固定されている。

 その視線をおって行くと、草むらから、白い手が伸びていた。


「!!」


 まさか、シアンじゃないよな、と焦って駆け寄るが、近づくとその手はかなり大きい。

 シアンでないことに少しホッとして、いやいや、まずは人命救助だと草むらをかき分けた。


「そもそもシアン達は、二日前に森に入ったんだから、こんな浅い場所にいるわけないよね」


 それに、彼女達が入ったのは、西の門に面した森だ。

 草むらをかき分けると、うつ伏せになっているらしい肩が見えて来た。

 まずは肩に軽く叩いて声をかける。


「大丈夫ですか...?」

「.........う、」


 どうやら、意識はあるようだ。ぷるぷると震えながら腕に力を入れ、ゆっくりとあげたその顔は。


「...て、あんたこの前の」


 なんとこの前、森で遭遇した迷子のエルフ、グレンであった。

 なぜまた森に...?この前ちゃんと外まで連れてったよな?


「は...」

「は?」

「はらが、へった...」


 そう言って、今度は仰向けに倒れてしまう。

 なんだこのデジャブ。

 どこかでやったようなやり取りに、若干呆れつつ食べものを出してやる。

 エルフっていったい...。

 エルフには、動物性のものが食べられない者もいると聞いたので、俺は一応、シアンにあげたように、紅桃を力尽きたグレンの口元に持って行ってみる。

 すると突然、グレンの目がカッと見開き、紅桃にかぶりついてきた。


「うわっ」


 ワニか。俺はあまりの勢いにびっくりして、思わず手を引っ込める。

 もうそんなに残っていない紅桃を、木箱ごと出して渡すと、次々に手を伸ばした。

 グレンは丸呑みにするような勢いで、紅桃を完食すると、こちらを見た。


「もっとくれ」


 なんだこいつ、ふてぶてしッ!

 むっつりとして、図々しくも催促の手を出してくる。

 しかし今回は、俺とアサヒだけだと思って、ほとんど食料を持って来なかった。

 いま他に出せる食べ物と言ったら...。

 しかたなくシマにもらったパンを差し出す。

 いや、まあ動物性の材料も使ってるだろうし?食べられないなら無理しなくていいからね??ホンットにマジで無理だけはしないようにね!!

 しかしグレンはなんの躊躇いも無く、温かいパンがを頬張る。

 俺はガックリとうなだれた。


「うむ。美味だったぞ」


 そりゃあ、よかったですね。

 結局全てのパンを食べ尽くされ、俺とアサヒはガッカリした。

 一緒に食べたかったよね...。

 それとは裏腹に、グレンはすっかり元気になっている。


「それで...なんでまた森にいるんですか...?」

「それは...」


 グレンは少し口ごもる。


「街道を歩いていたはずなのだが...いつの間にか、また森の中に...」

「は?」


 え、ちょっと待って?あのシンプルな街道を歩いてて、どうやったら、いつの間にか森にいた、なんてことになるの...?ただ、道にそって歩くだけだよ??


「それで...持参した食料が尽きてしまい...」

「..................」


 それで、俺が気づかないほど、瀕死になっていたと...。

 もしかしてこの人、とんでもない方向音痴なのか...。


「はァ、いったいどこかに行きたいんですか?」

「カッツェヘルンという街まで...」


 まさか、こんな近場で何日も迷子になるやつがいるなんて。


「...今は、仕事の途中なので、帰りで良ければ送りますよ」

「本当か...!」


 放置して野垂れ死なれても、後味悪いからな。


「じゃあ、俺たちヴエルニットまで配達に行って来るので、ここで待っててくださ」

「私も行く」


 食い気味に言って、グレンはすくっと立ち上がった。


「...いや、急いでるので」

「そこの獣に運ばせれば良い」


 こいつ...。むちゃくちゃ図々しいやつだな。

 アサヒを獣呼ばわりとは、ふてー奴だ。

 よーし。一度、男としてのプライドをへし折ってやろう。


「わかりました...特別に俺が運んであげます」

「...?」


 訝しげな目をしているグレンの膝に、腕を差し入れ横抱きにして持ち上げる。


「なっ」

「さあ、参りましょうか。お姫様サマ」


 秘技!女の子にお姫様抱っこされる成人男性の図!

 どうだ〜?これはかなり屈辱的だろう?男ととしてのプライドがズタズタだろう?


「おい、おろっ」

「行こうかアサヒ」

「ぶべらっ」


 屈辱に顔を赤らめるグレンが抵抗できないように、一気に加速する。

 無理に飛び降りようものなら、常人は一発でミンチだ。

 正面を向いていたグレンの美しい顔が、風圧でリアクション芸人ばりに崩れる。

 もちろん俺は、鍛え抜かれた表情筋で踏ん張っているので、そんな無様な姿は晒さない。


「あっひゃっひゃっ!変な顔ぼろばらばば」


 あっしまった、笑うと表情筋が!!

 表情筋の踏ん張りがきかなくなった俺は、あっさり顔面崩壊してしまった。


「ハッ!ほまぇの方が酷いかばばば」


 負けじと言い返して来るが、正直面白いだけだ。ダメだ、ツボに入った。

 イケメンの顔が崩壊してるのって、すっごい気分いい!

 結局俺は、森を抜けるまで笑いを止めることができず、頬の肉をびらびらさせ続けることになった。


 それにしても、森で迷って風に翻弄されるなんて、グレンってエルフとしてどうなんだろう。


 偏見とは思いつつ、つい胡乱な目を向けてしまう俺だった。






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://twitter.com/tamaki_Showsets
― 新着の感想 ―
[一言] 女の子にお姫様抱っこされる成人男性、もといマサキさんにパオーンさせたエルフさん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ