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イノシシ狩り







 俺とアサヒは、ビリウス、ライ、シアンとギルドのリクエストボードの前にいた。


「初仕事、ついてきて欲しいのです」


 シアンのキラキラの目で見つめられては、断れるはずもない。

 そんなわけで、みんなで一緒に依頼を受けることになった。


「どんな依頼がいいんだ?」

「討伐依頼がいいのです」

「エ!」


 意外だ。こんな虫も殺せないような顔して。

 それにシアンって運動全然ダメだったよな...討伐なんて、戦闘が主な依頼だけど、大丈夫なんだろうか...?


「報酬がいいので!」

「..................」


 マジで大丈夫か...?

 シアンは楽しそうに依頼書を眺めている。

 まあ...俺たちでサポートすればいいか。

 そう考え直した時、カウンター内がにわかに騒がしくなった。

 しばらくして、拡声器のような物を持った職員が出てくる。持久走を記録していた、ザックという茶髪の青年だ。


「緊急討伐発生です!ロックボアの群れが西の門に向かって移動中との報告が入りました!討伐に参加出来る方はご協力お願いします!ロックボア一頭討伐ごとに金貨一枚の報酬が出ます!」


 緊急討伐?ついこの間もあったよな...。ビリウスとライが連れて行かれたやつ。


「緊急討伐って、こんなに頻繁二発生するんデスか?」

「いや...最近は特に多いみたいだ...」


 このスパンが通常ではないんだな。

 ちょっとホッとする。いや、何らかの異常現象が起こっているわけだから、安心は出来ないんだけど。


「討伐...!」


 しかし、目を輝かせている者が若干一名。

 ちょっとシアンさん...まさかいきなり、こんな危なそうなのに参加するつもりじゃないでしょうね...。


「シアンたちも参加しましょう!」


 俺たちはやっぱり、と顔を見合わせた。

 それとなくビリウスが忠告する。


「緊急討伐って言うのは、Dランクの方が受ける討伐よりずっと危険なんですよ?」

「大丈夫です!だって皆様がついていますから!」


 屈託なく笑うシアンは、失敗など微塵も考えてもいないようだ。

 まあたしかに、今回は俺たちがいるし、危なそうなら守ればいいか。このまま緊急討伐を見過ごすのも、スッキリしないしな。


「しかたない」

「行きマスカ」

「ハァ...まったく、勝手な人ばかりなんですから」


 そう言いつつも、ビリウスもついてきてくれる。

 自分では、討伐は得意じゃないと言っているが、ビリウスだって戦闘能力は低くない。

 そうでなければ、迷宮に入って来ないだろう。


「私たち四人...と一匹も参加するぞ」

「お!ライさん!ありがとうございます!」


 ライがザックに声をかける。ライはこのギルドの中でも戦闘能力が高いのだろう。

 ライの参加を聞いた途端、ザックはありがたそうに表情を緩めた。


「では、準備が整ったら西の門に向かってください」




 カッツェヘルンには、東西南北四つのもんがあり、そのうち、西の門と南の門はエテロペの森に面しているため、魔物出現率が高い。

 ちなみに、俺たちが入領の際に通ったのは南の門だ。


「強そうな方が、たくさんいますね」


 西の門の外には、腕に覚えのある冒険者達が続々と集まっていた。

 やっぱりいかつい男が多いが、細身の女性もいる。

 ...て、あれは、アゼルミリアじゃないか?

 見覚えのある美女が、長い黒髪を風に揺らして立っていた。

 あの子も参加してたのか。


「来たぞ!」


 土煙を立てながら、ロックボアが目視できる距離まで近づいて来る。

 ロックボアはゴツゴツした硬い表皮を持つ、体調三メートルの巨大なイノシシだ。この時期に群れで出現するのは珍しい。

 巨大なイノシシの三十頭程の群れが迫ってくる光景は、すごい迫力だ。

 でも三十か、集まった冒険者は五十人以上はいるか、取り合いになりそうだな。

 まあ、それなら俺は無理に参加はせず、シアンが危なくなったら守れるようにしようか。

 ライはいざ魔物を前にすると血が騒ぐのかうずうずしているし、シアンも相当気合いが入っている。ビリウスは本当に渋々といった感じだが恐怖している様子はない。

 そういえば俺、みんなが戦ってるとこ見たことないな。丁度いい機会だし、多分暇になるだろうから、彼らの戦闘スタイルを観察するのもいいかもしれない。


「行こう」


 ライの声に反応してビリウスが駆け出すと、ほぼ同時にほかの冒険者たちも前に出た。

 ビリウスとライは協力して討伐するのかと思ったが、当たり前のように各個撃破している。


「ハア!!」


 まずはライ。彼女はやはり超肉体派で、いつも背負っている大剣で、ロックボアを力まかせに叩き切る。剣には魔力をほとんど感じないが、彼女自身は気功術で、身体能力を底上げしている。気功は体内の生命エネルギーの巡りを良くし、身体の強度を上げたり、身体能力を向上させたりすることができる。魔力が低く元々の身体能力が高い彼女ならではの戦闘スタイルだ。

 ライは荒々しく大雑把だが無駄のない太刀筋で、ロックボアの巨体を一刀両断してしまった。

 うわぁ、ロックボアがまるで野菜みたいにあっさり真っ二つに...。


「ははは!いい運動だ!」


 ライは返り血を浴びながら、爽やかに笑っている。そんなスポーツみたいに。

 一体くらいでは息も乱さないライは、目に付いたロックボアをバッサバッサと切り裂いていった。完全に血を求める戦闘狂だ。


「本当、下品なんですから...」


 そんなライを横目に見たビリウスは、呆れたように息もを吐く。

 ビリウスはまだ一頭目を相手にしている。

 拳銃の形をした魔道具を両手に構えて、正確に急所を撃ち抜いていく。これは素材として魔物にも造詣の深い、ビリウスにピッタリの戦闘スタイルと言えるだろう。

 白い銃には詠唱省略の術式が刻まれていて、ビリウスの魔力に反応し、銃口から高圧の水弾が放出される仕組みのようだ。

 魔力のこもった高圧水弾は、岩のような硬い表皮を容易く貫通する。

 しかし何故だろう。ビリウスにはまだまだ余裕があるように感じる。魔力だって少しも減る様子がない。


「シアンも頑張るのです!」


 少し訝しく思っていると、すぐ隣でシアンの意気込む声が聞こえた。

 そういえば、シアンはほとんどの冒険者が飛び出す中、ここに残っていた。

 魔法での遠距離攻撃だろうか。...あの運動神経なら、それが懸命だ。

 するとシアンは祈るように、手を組み、魔力を高めた。詠唱に入るのか、すうっと大きく息を吸った。


「森の大精霊、シルフ様!シアンのもとに来てください!」


 思いっきり叫ぶシアンに、ガクッとする。ええ!精霊魔術ってなんかかっこいい詠唱とかじゃなくて、そんなお願いみたいな感じでいいの?

 ちょっと胡乱な目をしてしまった俺だが、刹那、膨大な魔力が強風となってシアンの周囲を吹き抜けた。

 え...まさか...。

 風だった魔力は、淡い緑色の光を放って、次第に実態を露にする。

 シアンの肩に手をかけるようにして宙に浮かぶのは、淡い緑色の長い髪をなびかせ、女神のような格好をした、やや発光する美女。


「シルフ様!お久しぶりです!」


 シアンが挨拶すると、シルフは嬉しそうにシアンの頬を撫でた。

 え...本当にあれで来てくれたの...?大精霊なのに?そんな神秘的な見た目なのに、召喚用のかっこいい詠唱とかないの??

 若干のガッカリ感を覚えるのはしかたないと思う。


「シルフ様、あちらにいるロックボア達を倒して欲しいのです」


 シアンがお願いすると「そうしたらシアンは嬉しい?」とシルフが首を傾げた。


「はい!とっても嬉しいです!」


 シアンの笑顔を見て「わかった」とシルフは駆け抜けた。

 時に風の刃となって切り裂き。時に木々を操って締め上げ次々とロックベアを仕留めていく。

 大精霊と言うだけあって、魔力も魔術も桁違いだ。今の俺では、本気を出してもシルフには勝てないかもしれない。

 それにシアンは、魔力を三割程度しか出していない。


「ふぅ...ロックボアにシルフ様はやりすぎでした......魔力を使いすぎました...」


 いや、出せないのかもしれない。シアン自身には、意図的に加減しているという印象は感じない。現にまだ三割しか魔力を解放していないのに、疲労感を滲ませている。

 魔力が膨大すぎてコントロールが出来ず、無意識にストッパーをかけているのかもしれない。

 強大な魔力は使うとなれば、それだけ集中力がいる。

 うーむ。


「シアンさんは、もっと修行が必要デスね」

「えっ」


 まだまだ伸び白があると思って言ったのだが、シアンはちょっぴり落ち込んでしまった。


「大丈夫!俺と一緒に修行すれバ、すぐにもっと強くなれマス!」

「一緒に...?」


 一緒と言う言葉に、シアンはキラキラと俺を見上げて、嬉しそうに頷いた。


「頑張ります!」


 うんうん。シアンの魔力なら、きっと最強の精霊魔術師だって目指せるはずだ。

 シアンの可能性に、ワクワクしてしまう。

 明日からビシバシ鍛えてやろうと決意した。

 師匠を倒すなら、俺ももっと修行しなきゃだしな。






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] シアンさんが助けを借りた精霊、強い。
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