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衝撃の出会い






港町ヴエルニットには、迷宮への入口がある。


メロフィエーモ大迷宮。


ふたつの大陸を繋ぐ地下迷宮である。


迷宮内は魔素が濃く、貴重な薬草や魔鉱石など、素材が豊富である。

しかし同時に、危険な魔物の巣窟でもあるため、気軽に踏み入る事はできない。



一般人は近寄りもしないこの地は、それでも一部冒険者にとっては宝の湧く泉のようなもの。

魔物さえも、輝く金塊なのだ。



ただひとつ、忘れてはならない教えがある。



"人間が生きて立ち入って良いのは中層入口付近まで"


"それ以上踏み込めば、生きて帰る事は叶わない"






メロフィエーモ大迷宮の中層手前。



今まさに、二人の冒険者が教えを破ろうとしていた。


「おい!早くしろ!見失うぞ!」


先頭を走る重剣士が、後ろでもたついているリザードマンを急かす。

二人とも身長は二メートルを超え、体つきも逞しい。


「ちょっと!今まで採取した素材を置き去りにするつもりですか?!」

「後で取りに戻れば良いだろう!今は討伐が優先だ!」


二人はお互い別々の依頼を目的にやって来た為、口論する事がしばしばあった。

重剣士は大胆で大雑把。リザードマンは理知的な慎重派。

性格も真反対のため、なかなか反りが合わない。


「ああもう!分かりましたよ!後で絶対取りに戻りますからね!」

「ああ!急ぐぞ!」


一気にペースを上げて目的の魔物を追う。


「いた!」


標的を視界に捉え、足音を潜める。


「攻撃しますか?」

「いや...ここじゃ狭すぎる」


重剣士の得物は大剣。

狭い洞窟では、真価を発揮するどころかロクに動かすことも出来ない。


「このまま距離を保って、少し開けた場所で攻撃する」

「開けた場所って、ここは洞窟ですよ?そう簡単に...」


リザードマンの言葉に、重剣士はニヤリと笑った。


「ここは中層手前だ」

「ッ!」

「あと少しで出るんだ...開けた場所に」


中層の入口はいくつかある。今彼らが居る場所から一番近い入口、そこから中層に入ればすぐ、開けた空間に出る。


「貴方まさか中層に入る気ですか!?」

「なぁに、少しだけだ!」

「無茶も大概にしてください!危ないにも程がある!無鉄砲と勇気は別物ですよ!」


中層には入らない。それが身を守るための最低限のルール。

ただでさえ命の保証の無いこの迷宮で、破れば確実に命を落とす危険なルール。

「この世に確実なんて無い」とは良く言うが、実際に中層に入って戻った者がいないのも事実。


「勇気ねぇ。それは今重要か?」

「重要じゃないですよ!今重要なのは冷静な判断です。」

「じゃあ問題ないな、私は冷静だ」

「余計問題ですよ!」


このまま水掛け論をしている場合では無いのだが、リザードマンはややムキになってしまっている。

重剣士も毛頭諦めるつもりは無く、ついに、中層入口に辿りついてしまった。


その事で、リザードマンの頭が幾分か冷静さを取り戻す。


「...本当に行く気ですか?」


二人は一度足を止め、真剣な顔で視線を交わす。

これから入る中層という場所は、完全な未知の領域。一瞬の判断ミスで命を落とす危険性がある。


そしてここは、数ある入口の中でも最も有名で、最も危険と言われる入口。

まことしやかに語られる、厄介な噂のある場所。


「私は冒険者だ。危険を冒すのが冒険者の仕事だからな」

「その解釈、絶対間違ってますよ...」


重剣士はフッと笑った。


「ああ、これは持論だ。...無理強いをするつもりは無い」

「...私が行かないと言えば、諦めてくれるんですか?」

「ひとりで行く」


迷いない即答に、リザードマンは深いため息を吐く。


「...分かりました。手を組んだ以上、ひとりで行かせる訳には行きませんからね」

「ありがとう」


二人は強く頷き合い、大きく息を吸うと、一気に獲物との距離を詰めて中層の広場に出る。



[エピメタロスィバジリスク]

体長十メートルにのぼる、大きな蛇型の魔物

胸には腕が二本付いていて、爪と牙には強い毒がある。毒に触れると石化する。

額から王冠のように生えた美しい魔石は、個体によって色あいが異なり、王侯貴族の間で宝飾品として流行している。



「はああああ!」


高く飛び上がり、勢いを乗せて首の後ろから重剣士が大剣で切りかかる。

しかし鱗が硬く、簡単に弾き返されてしまう。

こちらに完全に気づいたバジリスクが、逞しい腕を振り回し反撃してくる。


「クッ!」


後方に仰け反って紙一重で爪をかわし、そのまま一回転して着地する。

その間、前方に回り込んでいたリザードマンが起き上がっている腹側に向かって銃弾を打ち込んでいく。


ギィァアアアアッ


柔らかい皮膚を撃たれ、バジリスクが痛みに悶えながら、リザードマンに噛み付こうとする。

その顎を下から、重剣士が剣を上に向かって突き刺した。


「あああああッ!!」


雄叫びを上げ、凄まじい怪力でバジリスクの両顎を串刺しにすると、そのまま大剣を振り抜き、洞窟の壁にその巨体をぶつけながら頭を起点にバジリスクが百八十度反転した。轟音とともにバジリスクを地面に叩きつけ、そのまま釘付けにする。

十メートルはある巨体が、全力でもがいているのにびくともしない。


「あなた...本当にめちゃくちゃですね」

「トドメを頼む」

「はぁ...はいはい」


いつも地面につけている腹に、バジリスクの急所がある。

リザードマンは、急所目掛けて弾丸を打ち込んだ。


バジリスクは少しの間、苦しそうに暴れて、くたりと動かなくなった。


「...終わったか」


重剣士が大剣を抜き、軽く振って血を落とす。


「ふぅ、長居は危険です。使える素材を採取して、さっさとここを出ましょう」


二人が、ほんの少しだけ緊張を解いたその時。

まるで、最期に一矢報いる機会を狙っていたかのように、バジリスクがしっぽを振り上げリザードマンを吹っ飛ばした。


宙に投げ出されたリザードマンは咄嗟に腕を伸ばし、バジリスクの尾を掴んで引っ張る。

重剣士が噛みつかれるのを懸念してか、はたまた採取家としての素材への執着か。

本人でさえ定かでは無い。



しかし、最悪な偶然はいつも突然やってくる。


リザードマンの降りた先に、着地する地面はなかった。


そして、落ちる。


「ビリウス!」


急速に遠ざかる叫び声を聞きながら、リザードマン、ビリウスは落ちて行った。





とある中層の入口には、まことしやかにに囁かれる悪い噂がある。





"中層入口の広場には、最下層に通じる大きな穴があるらしい"









...身体が、優しく揺すられている。


「......おい」


それに、何か柔らかいものが腕に当たっているような...。


「...おい、起きろ」


サラリと何かが頬に流れ落ちる。

はは、くすぐったい。


「...すぅ...起きろッ!!!!」

「うわ!」


急に耳元で大きな声がして、ビリウスは覚醒する。


ぼんやりとした視界に、美しい少女がいた。


橙のような明るい茶髪をサラリと長く伸ばし、若草色の涼しげな瞳に長い睫毛がいたずらに影を落とす。眩しい白皙の頬に、すっと通った鼻梁、コーラルの艶やかな薄い唇...


「......ここは...............ッ!?」


視界が徐々にクリアになってくると、ビリウスに衝撃が走った。

自分は、十五、六くらいの美少女に所謂姫抱きにされていた。

華奢な少女が、その細腕で、ふた周り以上大きい自分を、軽々と抱えていた。

しかし驚いたのはそこではない、その少女の姿だ。


真っ白な素肌を無防備に晒し、ビリウスの助骨の辺りに豊かな膨らみが乗って、わずかな動きに合わせてぷるんと揺れている。

そう、少女は一糸まとわぬ姿だったのだ。

リザードマン以外の女性は対象外とはいえ、こんなあまりにもあんまりな状態で、動揺しない方が難しい。


ビリウスは慌てて少女の腕から降りる。


「っき、君!どうしてそんな格好を!」

「ん...?あっ!」


そこで初めて、少女は服を着ていないことに気づいたようだった。

普通そんな事あるか...?


すると、いつの間に現れたのか、白い毛並みの大きな狼が彼女の身体を隠すように、ビリウスとの間に立った。


ぐるるるる


警戒するように、喉を鳴らす鋭い目の獣に、ビリウスも身構える。

目の前の狼は、明らかに尋常ではなく強い。

混乱していたとは言え、いつからいたのか、全く分からなかった。

もし戦闘になれば、大怪我くらいでは済まないかもしれない。

両者の間に、一触即発の危険な空気が漂っていた。


そんな彼らの緊張を他所に、少女は狼を抱きしめると、豪快に撫で回した。


キャウゥッ


打って変わって甘えたような声を出す狼に、拍子抜けする。

ひとしきりじゃれ合うと、少女はおもむろにこちらを向いた。



「服、持ってたりします?」









誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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