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サッカーとお嬢様







「ああ。それじゃあ、エピメタロスィバジリスクの皮の買取代金を用意して来るから、カウンターの外で待っててくれ」


 言われた通り、店内を物色つつ待っていると、ゼノンの袋を持ってやってくる。中には金貨八枚と買取明細が入っていた。


「こ、こんナニ...?」

「これほどの上物なら妥当だぞ?」


 当たり前のように言われるが、相場が分からないので「そうなんですね」としか言えない。


「また、頼む」

「ハイ」


 報酬を亜空間に仕舞って、くすり屋を出る。

 くすり屋のある通りは、ギルドの正面に面している大通りに比べると、若干質素で古びた建物が多い。ちょっと行ったところには屋台が集まっているのが見える。

 もしかして、あの辺は結構な高級通りなのかもしれない。店もしっかりした建物が多い印象だし、値段設定もちょっとお高めな気がする。

 ちょっとこの通り、歩いてみようか。

 とりあえず、美味しそうな匂いがするところを、ちょこちょこ覗いてみる。

 野菜と肉の出汁が効いた麺料理、バターの匂いがする焼きたてのパン、ドライフルーツやナッツを生地に練り込んだ甘い焼き菓子、果物のミックスジュース...気になったものはなんでも食べた。無限とも言える胃袋は、食べ歩きに最適だ。前世なら一軒目で確実に満腹になっていた。

 アサヒも同じメニューを完食している。普通、動物に塩や砂糖を多く使った料理は食べさせてはいけないが、アサヒは普通ではないのでなんでも食べる。


 次は屋台の方へ行ってみよう、と歩いていると、子ども達が遊んでいるような声がする。

 ちょっと気になって、声の方へ行くと、何も無い空地のようなひらけた場所で、数人の子どもが遊んでいた。十歳前後の男子三人に、十四くらいの少女が一人。四人はボールのような物を蹴っている。サッカーのような遊びだろうか。


「リーニャ様は歳上なのにヘタクソだな」

「はは!いっつも変な方向へ玉を飛ばすし」

「空振りして転ぶし」

「もう!皆さん、ひどいですわ」


 ザ・小学生男子と言う感じの三人が、少女をからかう。少女は悔しそうだが、本気で怒っているわけではない。

 三人が庶民的な格好なのに対して、少女は上質な生地の赤いジャケットに、ピッタとした白いパンツスタイルだ。しかも、距離をとって隠れているが、護衛付きだ。少年たちも、気安い態度は取っていても「様」付けは忘れない。

 もしかすると貴族...?いやでも、貴族はこんな場所で無邪気に遊ばないか。商家のお金持ちのお嬢様とかかな...?


「こら!あんたたち、おつかいは終わったのかい?」


 急に背後から大声がして、驚く。振り向くとやや年配の、ぽっちゃりした女性が腕を組んで立っていた。


「か、母ちゃん!!」


 少年たちがガタガタと震えながら、呟いた。母親は子どもに対して敵意がないから、こういう人が多いところでは、近くに来ても気配に気づきにくい。あなどれないな...母の愛。


「いや、その!今から行くところだったんだ」

「そう...!俺たち、サボってた訳じゃないよ」

「じゃあさっさとお行き!!」

「はいいい!!」


 少年たちは尻に火が着いたように走り出した。「じゃあなリーニャ様」「またな」「バイバイ」と口々に挨拶する少年たちぬ、リーニャは小さく手を振った。


「リーニャ様、お騒がせしてすみません」

「いえ、こちらこそ長く引き止めてしまって...」


 リーニャが頭を下げようとすると、女性は慌てて止めた。


「いえいえ!気にしないで。...またパン食べに来てください」


 にっこり笑って帰って行く。リーニャはそれをまた、少し寂しそうに見送ったあと、ボールに向きなおった。

 ひとりで練習するようで、ドリブルを始める。しかし、その動きはひどく拙い。

 ボールが思わぬ方向へ行き、追いかけ回したり、ボールを蹴ろうとして、空振りしたり、ボールに乗り上げてしまい、滑って転んだり、逆につんのめって転んだり...。

 完全にボールに遊ばれていた。

 美しい金髪を揺らしながら、奮闘しているが、お世辞にも上手いとは言えない。それでも彼女は楽しそうにボールを追いかけている。

 微笑ましくて眺めていると、ふいに目があった。


「あなたも、蹴球、やってみたいのですか?」

「え...」

「蹴ってみます?玉、お貸ししますよ」


 ぽけ、としているとボールを渡された。硬さや大きさが、サッカーボールと似ている。

 ボールを地面に置いて足で転がしてみる。

 久しぶりだな...ボールに触るの。

 クイッと、爪先ですくい上げて、足の甲でリフティングする。


「え...!」


 リーニャが小さく声を漏らす。

 足の内側や膝と、パターンを少しずつ増やしてボールをあげる。

 前世では小二になる頃まで、サッカーをやっていた。怪我でできなくなってしまったけど...。前世より身体能力が高いからか、思い通りに身体が動く。ブランクを感じないどころか、前世では出来なかったこともできそうだ。

 高くあげたボールを今度はヘディングする。何度かはね上げたボールを、首から背中へと転がして、落ちてきたボールを足の裏で高くトラップ、前に戻ってきたボールを再びリフティングする。


「すごい!ボールが生きているみたいですわ!」


 リーニャが目を輝かせながら、ぱちぱちと手を叩く。ポン、とボールを彼女の手元に優しく蹴ってやった。

 キャッチしたボールを見つめて、リーニャはしょんぼりした。


「やっぱり、わたくしには才能がないのかしら...」


 中々上達しないところに、ぽっと出の俺が無邪気にリフティングなんかしてしまったから、すっかり自信喪失してしまっていた。

 まずい、と慌てる。


「俺も、最初からこんな風にできたわけじゃナイデスよ」

「え...今が初めてではないのですか?」


 リーニャが少し期待するように顔をあげた。仕方ないかと、ひとつ息を吐き、昔話をする。


「...小さい頃、サッカー...蹴球が大好きで、ずっとボールに触ってマシた。勉強もしナイで、一日中ボールを追いかけて、寝る時まで一緒デシタ」


 最初は、まっすぐ蹴ることも出来なかった。手で触るのとは違って、全く思い通りに行かないボールに俺は夢中になった。プロ選手のスーパープレイの動画を見て、それができるようになるまで練習して...そんな日々を繰り返すうちに、いつの間にか、ボールが思い通りに動いてくれるようになった。ボールと仲良くなれたようで、とても楽しかったのを覚えている。


「才能よりも、どれだけ練習を楽しめるかが大事デス!」

「練習を楽しむ...」

「リーニャ様は、もう出来てマスね」


 リーニャは驚いたように俺を見た。


「スミマセン。さっき男の子たちがそう読んでたノデ...」

「いえ......あなたのお名前も教えていただけますか?」

「俺はマサキ。この子はアサヒデス」


 少し離れたところで様子を見ていたアサヒが、トコトコと近くに来る。


「まあ...すごく綺麗な子ですね!」

「...撫でてみマス?」

「いいのですか?」


 リーニャの白くて柔らかそうな手が、恐る恐るアサヒの毛並みに触れる。「うわ...」とふわふわの毛並みに感嘆の声をもらして、何度もアサヒを撫でた。

 アサヒも気持ちいいのか、目を細めて大人しく撫でられている。ひとしきり撫でると、満足したのか立ち上がった。


「マサキさん...わたくしと一緒に蹴球の練習をしてくださいませ!」


 なにか決意したような表情で、見つめられて思わず頷いてしまう。

 すると、リーニャは、花が咲いたように微笑んだ。その表情があまりに可憐で、ドキ、とする。俺は誤魔化すように、慌てて話し出した。


「じゃ、じゃあ、まずはパス練でもシマしょうカ」

「ぱす、れん?」

「玉を蹴って仲間に渡しタリ、仲間が蹴った玉を足で受け止メタりする練習デス」


 少し距離を取って、まずは立ったままパス練をする。一度ボールをしっかり止めてから、蹴り返すように言ってみると、キレのあるパスが帰ってきた。


「!!」

「その調子です」


 初めてしっかりボールを蹴ることが出来たのか、リーニャは驚いたように目を見開く。どう練習するかを知らないだけで、意外と運動神経は悪くないのかもしれない。

 止まってパスすることに慣れて来たら、今度はゆっくり歩きながら、パスを出し合った。

 動く事で難易度が上がって、リーニャは少し混乱している。


「歩いててモ、まずはしっかり玉を受け止メテください」

「はい!」

「真横ではなく、斜め前の場所に玉を出してくだサイ」

「はい!」


 声をかけながら、慣れるまでゆっくりと歩く。走りながらはまだ当分無理だろうから、今は普通の速度で歩くことを目指そう。

 最後に少しだけ一対一をして終わりにする。


「まずは、俺から玉を弾くのを目標にシマしょう」

「頑張りますわ!」


 たまにフェイクを入れつつ、ボールを転がして、リーニャから逃げ回る。

 もちろんその場から一メートル以上動かない。ボールを空中に逃がさない。という制限付きだ。


「ぅわっ!」


 勢い余って転びそうになる彼女を、抱き止める。


「もふっ」


 自分に胸が結構大きいことを忘れていて、リーニャの顔が思いっきり胸に突っ込んだ。


「だ、大丈夫デスカ?」

「はひ......」


 リーニャが恥ずかしそうに頬を染めるので、なんだか俺まで照れてしまった。

 その後も、今日のところは、リーニャにボールをカットされることはなかった。


「ハァ、ハァ......取れませんでした」

「まだ始めたばかりですカラ......また一緒に練習シマしょう」

「...!はい!!」


 ひとりでできる練習をいくつか教えて、本日の練習は解散となった。


「絶対!また来てくださいね!絶対デスよ!!」

「ハイ。約束です」


 そう素直に懐かれるとくすぐったかったが、悪い気はしない。

 趣味として、たまにサッカーを楽しむのもいいかもしれない。アサヒも「一緒に遊びたい」と見上げて来る。

 アサヒならすぐ上達するだろう。


「今度マイボールでも買ってみようか」






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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https://twitter.com/tamaki_Showsets
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[一言] マサキさん、意外と大きいのか。
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