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くすり屋






「コンニチハー!納品に来まシタ」


 採取を終えた俺とアサヒは、素材を納品するため、ギルドへ来ていた。今日もギルドは賑わっていて受付も大忙しだ。カウンターには最大五人まで人が立てるようになっていて、今はフル稼働している状態だ。

 ミチバの姿が見えない。休憩に行っているか、今日は休みなのかもしれない。


「は〜い!お疲れ様です。依頼書拝見しますね〜」


 そんなわけで、今日の担当は、ストロベリーブロンドの癒し系受付嬢、ルンカだ。


「では、素材を確認致します。ここじゃ狭いので、こちらの部屋へどうぞ〜」


 ルンカはカウンターの自分のスペースに「対応中」の札を置いた。ルンカに案内され、素材の保管庫らしき部屋へ通される。不用心では?聞いてみたが、希少価値の高い素材は別で保管しているそうで、ここにも許可なく立ち入れないよう、結界が張られているそうだ。


「それに、ここで盗みを行えば、二度と依頼を受けられなくなりますから」


 なるほど、そんなリスクを負ってまで、わざわざここで盗みを働くバカはいないと言うことか。


「ここで品質を見て、規定に達していれば、そのまま仕舞っていきます」


 俺は鑑定台の上に、素材を出していく。

 青苺四カゴ、睡眠草一ビン、雨降草の水十ビンと根っこ二十本、泡蜜花五十株。傷つけないよう慎重に並べて行く。


「マサキさん、空間術が使えるんですね!」

「ハイ。得意なんです」

「では、鑑定していきますね」


 そう言って、ルンカは大きな虫眼鏡のような物を出し、素材へとかざした。


「鑑定」


 ルンカが唱えると、虫眼鏡が光りだした。

 これは鑑定のマジックアイテムだ。品質の善し悪しを見れる物もあれば、人の善悪を見抜く物もある。後者は、入領手続きなんかでも使われる。この街に悪さをしに来たものを入れないためだ。

 俺は実際に使った事がないから、どんな風に見えているのかは分からない。

 世の中には、この鑑定のマジックアイテムを凌駕するような鑑定魔術の使い手がいるらしい。そういったスペシャリストは、だいたい国王に仕えるらしい。


「すごい!どれも新鮮で、高品質です」

「はは、良かったデス」

「泡蜜花をこれだけの量、無キズで納品される方はなかなかいませんよ」


 そりゃあ、俺には空間術がありますから。


「このまま納品で大丈夫です。報酬をお渡ししますのでカウンターでお待ちください」


 そう言われて、先程ルンカが札を立てたスペースに戻る。程なくして、報酬の入った袋を持ってルンカがやって来る。


「報酬です。金額をご確認ください」

「ハイ」


 袋の中を覗いてみる。銀貨が七枚と明細書が入っていた。元々の報酬が銀貨五枚と大銅貨五枚だったので、上乗せがあったのだろう。明細を確認すると「泡蜜花追加納品分上乗せ 千五百ラルフ」と書いてある。

 こういうことでも上乗せしてくれるんだな。それが分かればやる気も出るということだ。


「ありがとうゴザイマス」


 了承の意味でお礼を言って報酬を受け取る。


「あの、このギルドでも依頼以外の素材の買取ってヤッテマスカ?」

「はい。やってますよ〜。ただ買取窓口が別にありますので、良ければ案内しましょうか?」

「お願いシマス」


 一度外へ出て、建物の裏側に連れて行かれる。裏側は別の通りに面していて、店や民家が建ち並んでいる。店や民家に紛れて、一軒だけギルドと繋がった建物があった。木製の片開きの扉の上の看板には「くすり屋」と書かれている。


「こちらで買取しますので、中にいる職員にお声がけください」

「わかりまシタ」


 店内は客が一人もおらず、とても静かだった。何らかの粉末や液体、肉や植物の干物などが陳列棚に並んでいる。店の奥には二階へ登る階段と、カウンターがある。


「いらっしゃい」


 カウンターから声をかけられる。たっているのは若干癖のある紺色の短髪の男だ。目がほとんど隠れるほど前髪が長く、立ち姿はくたびれている。


「素材の買取をお願いシマス」

「...拝見します」


 受け答えには、あまり生気が感じられない。大丈夫かこの人、とは思いつつも、俺は亜空間に収納していたエピ...なんたらバジリスクの皮を出す。ライに返そうとしたのだが、頭を運んでくれた礼にやると言われてしまった。それからずっと使い道がなく、亜空間で無駄に嵩張っていたのだ。

 そんなワケで、ライにはちょっと悪いが、ここで売る事にした。

 俺が持ち腐れにするよりはいいだろう。

 どさ、とカウンターに置いた。


  「これは!」


 バジリスクの皮を見た途端、急に男がシャキッとした。テキパキと状態を確認していく。

 あちこち見たり触ったりしたあと、鑑定のマジックアイテムをかざして、レンズを覗き込んだ。


「こんな状態のいいエピメタロスィバジリスクの皮は初めてだ...!これをどこで?」

「め、迷宮デ...」

「メロ・フィエーモ大迷宮か!?」

「は、ハイ」


 男のあまりの勢いに押されて、正直に答えてしまう。


「他に!なにかないか?」

「エ...」


 グイグイ顔を近づけてくる男に、後退る。なんかあったっけ……。


「あ!」

「なんだ?」


 そうだと思い出して、ビリウスにあげた石と同じ物を出す。たくさん取っておいたのでまだまだあるのだ。試しにひとつ売ってみよう。今回はビリウスに渡したのよりやや小さめの物にした。


「これなんですけど...」

「な...!!」


 青白く発光する石を見せた瞬間、ギョッとされる。


「バッ...あんた何てもんを...!」

「え?」

「いいから、一旦中に来い...!」


 男は、盗難防止のバリアマジックアイテムを起動し、カウンターに呼び出しベルを置くと、カウンター奥の部屋へ入るように言った。

 なにかまずい事でもしてしまっただろうかとドギマギしながらも、大人しく言う通りにする。

 中は雑然と紙やビンが置かれた部屋だった。一応イスと机もある。

 男はソワソワ落ち着かないように店内を見渡したあと、扉を閉めてイスに座った。


「とりあえず座ってくれ」

「はァ...」


 すすめられるまま、イスに座る。


「本題に入る前に、まず簡単に自己紹介しよう。俺はゼノン。この店の店主で、薬師(くすし)をやっている」

「マサキと言いマス。Dランク冒険者デス。この子はアサヒ。」

「Dランク...?」


 ゼノンは怪訝な顔で俺をじっと見る。

 ミスったー!ランクふせときゃ良かった!

 ゼノンは色々聞きたそうにしていたが、結局「まあいい」と言って追及を控えた。


「...さっきの石、もう一度見せて貰えるか?」

「ドウゾ...」


 俺の手の平の石をじっと観察したあと、鑑定のマジックアイテムを恐る恐るかざした。

 すると、虫眼鏡のようなレンズに、ビキ、とヒビが入った。


「やはり、この鑑定機では観られないか...」


 ゼノンは納得したように言うと、前髪を少し避けて、右目を露出させた。

 紺色の瞳に魔力が集中して、青く光る。


「鑑定...!」


 そう唱えて、青い右目で手のひらの石をじっと観る。

 ゼノンは鑑定魔術が使えるのか。

 鑑定魔術は生まれ持っての素質が大きく、使えない者には一生使えない。また、どのくらい詳細に観られるかも、最初から決まっていて、こればかりは才能と言うしかない。

 鑑定師になるものは、皆特殊な目を持って生まれて来ると言うが、こんな感じなんだな。実際に人間が鑑定魔術を使っているのは、初めて見た。


「ぐぅっ...!」


 じっと石を鑑定していたゼノンが、右目目を抑えて苦しみ出す。


「大丈夫デスカ...?」

「ああ...俺には少し、強すぎただけだ...」


 少しじっとしたら落ち着いたみたいだ。俺には何を言っているのか分からないが、受け答えはハッキリしている。

 再び前髪で目隠し、石に落としていた視線をあげる。


「これは龍霊石(ドラゴナイト)だ」

「龍霊石...?」


 聞いた事のない石だ。ビリウスに借りた本にも載っていなかった。


「龍霊石は純粋な龍の魔力が結晶化した鉱石で、強大な魔力を持つ古代龍の巣にあるといわれる、伝説級の代物だ」

「え...」


 龍の魔力...つまりこれは、師匠が垂れ流しにした魔力の固まりって事か。

 そうとわかると、さっきまで綺麗だと思っていた石が、なんとなくどんよりして見える。

 これ...師匠の魔力の固まりなのか...。


「コレ、売れますカ?」

「......正直無理だな」

「じゃあ、タダでいいのでもらってくれますか?」


 何故とは言わないが、持ち歩くのが嫌で、ヤケクソで聞いてみると、慌てたように石を押し返された。


「待て待て...勘違いしてないか?それひとつで白金貨一万枚以上の価値があるから、とても買い取れないって言ってるんだぞ...?」

「え」


 白金貨一万枚...??えーと、白金貨一枚が十万ラルフで...それが一万枚だから......えっと...うん.........いっぱい!!


「コレ、そんなにするんですか...?」

「ああ......これ、どこで見つけたんだ」

「............ソノ...たまたま拾っテ」

「ど、こ、で?」

「う.........迷宮デ...」


 圧に負けて(ゲロ)ってしまう。


「迷宮!?......それじゃ、迷宮には古代龍がいるということか...!」


 ゼノンは独り言のように呟いて、興奮したように口角をあげている。

 うーん、今は居ないと思う...とはさすがに言えない。


「とにかく、それはとんでもない価値の物だ。今後は簡単に人前で出すな」

「はあ...。それで、ゼノンさんは結局コレいらないって事ですか?」

「いや、待て...いらないとは言っていない」


 肩を落とすと、意外な答えが帰ってきた。


「...研究者としては、未知の素材を放っておく訳にもいかないしな」


 言い訳のようなことを言いながら、顔を逸らしつつ「くれ」と言うように手を出している。

 誠実なのかちゃっかりしてるのか分からない人だ。

 まあくれと言うのなら、喜んでやるのだが。しかし先程の反応を見ると、亜空間に大量にある龍霊石を全部出したりしたら、卒倒しかねない。

 さっさと手放したいのだが、仕方ないか...。

 ゼノンの手に、ぽんと龍霊石を乗せてやると、光にかざしたり回したりしながら、嬉しそうに観察した。

 大変喜んでくれているようで、良いことした気分だ。


「ありがとう、マサキ。魔法薬や素材で欲しい物があったら俺に言え。お前は特別にタダにしてやる」

「え!いいんでスカ?」

「こんな貴重な物を貰ったんだ。それくらいは奢ってやるさ」


 思わぬ提案だが、ありがたい。今まで使ったことがないから、どんな物かは詳しく知らないけど。回復薬とか、色々便利な薬があるらしいし、誰かと一緒に行動する時に使うかもしれない。


「ありがとうゴザイマス。助かりマス」


 嬉しいお返しに、俺もにっこりだ。






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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