戦闘能力テスト
大勢の参加者が、持久力測定になだれ込む中、いち早く身体能力テストを終えた俺は、職員の案内で修練場を後にする。
しかし、連れて行かれたのは、入ってきた扉とは別の扉だった。
「こちらの部屋にてお待ちください」
言われた通りに扉を空けると、十メートル四方の、何も無い部屋に繋がっていた。六面全てに、防御障壁がはられている。正面の壁には同じような扉がある。
この部屋で待ってればいいのか?
ぼんやりと部屋を眺めていると、入って来たのとは逆側の扉が開いた。
「おや、ずいぶん早いね」
入って来たのは、ギルドマスターのルーシュだった。
ルーシュは先程とは違い、ジャケットを脱いで、ブラウスの袖を肘下まで捲っている。
幅広の襟元は、ボタンをひとつ外していて、そこからくっきりした鎖骨が覗いている。
控えめな露出が逆にセクシーだ。
「持久力もちゃんと測った?」
「ハイ」
「ここでは、参加者に一対一で戦ってもらって、戦闘能力を見るんだけど......ふむ...」
大勢の前では無いからか、俺が年下だからか、砕けた口調で話しかけてくる。
ルーシュは顎に指を添えて考えたあと、ニコッと笑って俺を見た。
「君は大分待つだろうから、特別に私が相手をしてあげる」
「えっ」
「魔法も武器の使用もオーケーよ、いつでもかかってきて」
ギルマス直々に手合わせだと?なんかすごいことになってないか?
というか、女の人と手合わせって、ちょっとやりづらい。やっぱりちょっと気を使う。自分より強ければ考えるが、女性を殴るのは気が引ける。そもそも、師匠以外と手合わせなんてした事なかったな。魔物との殺し合いなら日常茶飯事だったけど...。
「どうした...?来ないなら私から行くぞ」
まずは様子見というように、拳を放ってくる。それを軽く躱すと、今度は連打に切り替わる。俺はその場から動くことなく、拳をいなしていった。
「ほう...やるな、じゃあ!」
ルーシュは一旦距離を取って、詠唱する。
「風よ、切り裂け...風刃」
圧縮された空気が、刃となって放たれる。
しかし、この程度の魔術は避けるまでもなかったりする。風の刃を腕で跳ね返す。
そして、しまったと思った。
ヤバい!洋服破れ...てない!
あれ!すごいこれめっちゃ頑丈だ!!
「良い装備ね。じゃあ、これならどう」
「え、いや...」
装備に助けられたと思っているらしい。違うけど...まあいっか。
「風の刃たちよ、踊り狂え...風刃乱舞!」
風刃の応用魔術のようで、放たれた無数の風刃がランダムに攻撃してくる。
これはちょっと服がもつか心配だな...。
うん!避けよう!
縦横無尽に飛んでくる風の刃を避けながら、ルーシュとの距離を一瞬で詰める。
「えっ」
急に目の前に現れた俺に、ルーシュは目を見開いた。
しかし、こんな美女に直接拳を叩き込むのは気が引けるので、少し驚いてもらうことにした。
俺はルーシュの顔の横に、拳を切り拳を突き出す。拳圧が空気を伝い、防御障壁を突き破って貫通する。
ルーシュの背後の壁には、暗く、先が見えないほど深い穴が空いていた。
やべ、やりすぎた...。弁償になったらどうしよう...。
「...まいった」
ポカンとして背後を振り向いたルーシュは、ひとつ息を吐いて、降参した。
「まさか、私の方が降参させられるとはね」
「エ、勝たなきゃ合格できナイんじゃ」
「いや、この試験は戦闘能力を見るだけで、実力も勝ち負けも合否にはほぼ関係ないよ」
「え...?」
「ある程度魔力か、身体能力があれば戦闘についてはこちらで訓練することもできるしね」
そういうのは先に言って欲しかった。
知ってたら...
「知ってれば適当に負けたのに?」
「エッ!?」
この人も心読めるの!?俺油断してた??
「顔に出てたよ」
「あァ...」
顔か、とホッとする。いや、表情で感情読まれるのも良かないんだけど。
「まあ君みたいな人がちゃんとやるように、初めは黙ってるんだけどね」
「ナルホド...」
「しかし君はちょっとやりすぎよ!他にも何か壊したりしてないだろうね?」
「う...」
じと、と見られる。俺は小さくなりながら、壊した物を白状する。
「エット...修練場の床と...天井と...あと、魔力計を......」
「そんなに色々壊してたの...?」
「スミマセン...」
はあ、とルーシュが盛大にため息を吐く。
「仕方ないな…君には色々と規格が会わなかったのね......」
呆れたように笑いながら、その一言でルーシュは許してくれた。
うう、優しくて惚れる...。
「そのかわり、これからいっぱい働いてもらうよ」
「はい!」
「何か質問はある?」
「あ...エット......ルーシュさんはエルフなんですか?」
気になっていたことを聞くと、ルーシュはキョトンとして、くすっと笑った。
「一番に聞く質問、それでいいの?」
「え...う、スミマセン...」
「ふふふ、怒ってるわけじゃない...ただ、あんまり直球だったから、おかしくて」
「はぁ...」
何がツボに入ったのか、くすくすと笑い続けている。まあ、気に障ったんじゃないなら良いか。
ルーシュはひとしきり笑うと、俺をまっすぐ見た。
「私はハーフエルフ、純粋なエルフじゃないよ」
ハーフエルフ。エルフと人の混血なのか。確か人間とエルフの両方の特徴を受け継ぐと、ハーフエルフと呼ばれると聞いた。普通はどちらかに寄ってしまうから、ハーフエルフは珍しいと聞いた。
「他には何かある?」
「いえ...」
「じゃあ、持久力測定の記録用紙出して」
言われるままに、紙を差し出すと、ポケットからペンを出して、何かを書き込み、すぐに返してくれた。見ると、用紙の左下に「SS」と書いてある。
...なんだコレ?
「ヨシ!じゃあこの扉から階段を登って。上に行けば職員がいるから」
ルーシュの指示通り、部屋から出て階段を登り1階へ戻ると、階段からほど近い場所に女性職員が立っていた。
金髪のギャルっぽい職員だ。
「実技試験お疲れ様でーす。こちらの部屋にお進みくださーい」
ギャルっぽい職員は、自分のすぐ横にある部屋を指して、間延びした声で案内した。
部屋は扉が開けっ放しになっていて、入ると机と椅子が等間隔に並べられていた。
教室みたいだ。
「好きな席へどーぞ。席に着いたら、机の上の筆記テストを解いてくださーい」
俺なんとなく、奥側の一番前の席に座って、筆記テストを解く。
内容は、完全に小学生の算数のテストだった。簡単な文章問題と、計算問題が十問ほど並んでいる。
本当に文字が読めて足し引きが出来ればいいんだな。
そんなわけで、三分もかからず解いてしまう。
「終わりマシタ」
「おー、早いですね。じゃあそれを持って、この道をまっすぐ進んでください。受付に出るので、職員に声掛けてくださーい」
なんだか気が抜ける喋り方だ。
受付に行くと、眼鏡をかけた真面目そうな青年がいる。
「あの...筆記テストオワッテ、ココに来るように言われたんデスが」
「はい。では、番号札と持久力測定の記録用紙、筆記テストの解答用紙を提出してください」
「はい」
言われた提出物を、青年に渡す。
青年が、持久力測定の記録用紙を、黒い箱状の装置の上に裏返して起き、側面のくぼみに、番号札を差し込む。
すると装置の上面が、青く光った。
光が消えてから紙をめくると、記録らしきものが書き記されている。
すげ...!めちゃくちゃハイテクだ!記録用紙にやけに余白が多かったのは、そう言う事だったのか。
結果を確認すると、青年は驚いたようにこちらを見て、首を傾げた。
しばらく考え込んだあと、何かを書き込みと、大きな判子を押した。
「七十四番マサキ様、合格です。本日からDランク冒険者として登録致します」
俺は若干問題を起こしつつも、無事、冒険者デビューを果たしたのだった。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!