身体能力テスト
「では、身体能力テストを始めます。最初は跳躍力の測定です」
連れてこられたのはドーム中央の大きな柱の前で、それを囲むように、先頭のの五人が間隔をあけて並ばされる。
「この柱全体が測定器になっています。番号を身につけたまま跳躍し、壁にタッチしてください。助走は無しで、魔力も使わないようにお願いします。二回まで測定できます」
柱は天井まで繋がていて五十メートルはある。天井にはどうやら、強度向上の魔術が施されているようだ。
「ここからは、終わった人から次の測定場所に移動してください。特に、測定に決まった順番はないので、各自、人の少ない場所から測定していただくよう協力をお願いします」
どうやら、簡単に測定できる項目を終わらせて、自由行動に切り替わるようだ。
なんか身体測定みたいだな。
一人測定が終われば、空いたスペースに次の一人が入って、スムーズに測定が進んでいった。中には、巨人族と思しき大柄な参加者もいた。
なるほど、巨人族の参加も考えてのこの高さか。まあ身長とかは考慮されるんだろうけど、見た目的には不公平感あるよな。あとやっぱ、獣人は全体的に身体能力高いな。
他の参加者を観察していると、シアンの番がやってきた。シアンは空いたスペースに入ると、上を見上げた。
そういえば、シアンの運動能力ってどんな感じなんだろう。
じっと見ていると、シアンが膝を曲げた。
「えいっ」
シアンがぴょんっと飛ぶと、ペち、と壁にタッチする。着地するともう一度、ぴょんっととんだ。
「ふぅ...結構飛べた気がするのです」
うん...二十センチくらいは飛べてたかな。なんだろう、この守ってあげたい感。とにかく、可愛いからおっけー!
それにシアンは魔力で好成績を出しているから、とりあえず受かりはするだろう。
...っと隣のが空いたな。
空いたスペースに移動して、柱を見る。
俺は魔力測定が芳しくなかったからな...身体能力で頑張らないと。
まあでも、五十メートルくらいなら、軽く飛べるから大丈夫でしょ!
「よっ」
脚に力を込めて、地面を蹴って飛び上がると一瞬で天井付近まで到達した。
ふふん、どうよ?これくらい、俺にかかれば楽勝らくしょッ!
ドゴッと天井にぶつかって落ちてしまう。
そのまま地面にめり込む。
「きゃああああ!」
シアンが悲鳴をあげて駆け寄ってきた。
「マサキ様!死んじゃ嫌です!」
「死なないデス」
「きゃああああ!お化けです!」
「いや、死んで無いデス」
「え!」
ひょっと起き上がると、シアンが涙に滲んだ目を丸くした。
「ほ、本当に、大丈夫なのですか?」
「ハイ、無キズデス」
ヒラヒラと手を振って見せた。遅れてやってきたミチバに、状況を確認される。
「な、なんですか、この地面の窪み」
「スミマセン、着地に失敗して...」
「どんな着地したらこうなるんですか!?怪我ないんですか?」
「だ、大丈夫デス...」
「もう!気をつけてください!」
「ハイ...スミマセン...」
気を取り直して、もう一度飛ぶ。
今度は頭上に気をつけつつ、柱のてっぺんにタッチした。
クルクルと回って衝撃を逃がしつつ着地する。
ヨシ!今回は天井も床も無キズだな!
スペースを譲って柱から離れると、シアンが待っていた。
「マサキ様!凄いです!てっぺんにタッチしてきたのですか?」
「ハイ。二回まで測定できて良かったデス」
「マサキ様は身体能力がとても高いのですね!」
「筋力には自信がありマス!」
死ぬほど鍛えられてますから!そのままの意味で、死ぬほど。
さて、次はどこから回ろうか。どこも結構人が集まってしまっている。
と思ったら、ひとつだけまだひとりも人がいない場所があった。
「あそこ、人が少ないですネ。行ってみますか」
「はい!」
広場の端にある測定場所に行くと、看板に持久力と書いてあった。
なるほど...どおりで人がいないわけだ。ここを一番にするのはどう考えても悪手だ。
「シアンさんは別のとこから回った方が良さそうデス」
「ですね...。マサキ様はここからで良いのですか?」
「ハイ、空いてますから」
「また後で」と別れて、俺は持久力の測定に向かう。
「お!いらっしゃい!お嬢さんが一番乗りっすよ」
看板の近くにたっていたのは、短く整えた茶髪の青年で、若干馴れ馴れしい。よく言えば気さくな感じだ。
「測定は簡単っす。このドームを、壁に沿って四十周走ってください。タイムを図ります。リタイアもできるんで、キツかったら言ってください」
四十周か、結構多い。十キロは超えるかな?
「タイムは俺が測って、この紙に記録します。番号札を見せてもらえますか」
「ハイ」
「七十四番ですね」
青年は時計のような魔導具を取り出した。
「じゃあ、合図をしたらスタートしてください」
「あの...」
「はい?」
「俺、足速いので、ちゃんと見テテくださいネ」
「はあ...」
青年は頭上にハテナを浮かべながらも頷く。
頼りないな、ちょっと加減して走るか...。衝撃波とか出ないように。
「...スタート!」
青年の声を合図に走り出し、一気に加速する。
...一周一秒ちょい...300メートルぐらいかな。
音速を超えないように注意しながら、壁沿いに走っていく。障害物がない場所で走るのは初めてで、とても気持ちい。
四十周ってことは、十二キロくらいか?正直、そんなの迷宮内を駆け回ってきた俺にとっては、短距離走も同然の距離だ。
しかし、あの青年意外とやるな。
最初の二、三週こそ唖然としていたが、今はしっかり俺の動きを捉えている。切り替えも早いし、動体視力も優れている。結構仕事はできるタイプのようだ。
青年を横目で観察しつつ、あっという間に走り切った。
青年が時間をメモし、スタート時間との差を記録する。
「四十三秒...」
うん、まあまあ加減できたんじゃないか?人間としてはめっちゃ早いけど、戦闘機とかは超えてない。それに、こっちの世界には、これくらいできる人は、多くはないだろうが他にもいるだろうし。
「めちゃくちゃ早いっすね…!息も全然上がってないし!」
「ありがとうゴザイマス」
「さっきもめちゃくちゃ飛んでましたし、すごい脚力っすね」
「見てたんデスか...?」
「はい!この種目で一分切る人初めて見ました!」
ということは、一分台の人はいるってことだな...やはり侮れない。
青年が意外とすぐ落ち着いたのも、それが理由かもしれない。
青年から記録用紙を渡される。なんかやたらと空白がでかいな...もっと小さい紙でもいい気がする。
「この紙は筆記テストと一緒に提出してください」
「わかりマシタ」
「なんか、持久力のテストにならなかったっすね...」
「ハハ...でも、あの速度で走り続けるのは五分が限界デスヨ」
「五分も走れるんすか!?すげぇ!」
キラキラと尊敬の眼差しを送られてしまう。
俺はいたたまれず、逃げるように次の測定場所へ向かった。
その後は、上体起こし、反復横跳び、長座体前屈という、体力測定でおなじみの種目に加え、重量上げ、パンチ力測定、投擲、玉乗りなんてのもあった。
いや、玉乗りってなんやねん、と思ったが、たぶんバランス感覚を測っているんだろう。
まあ俺はもちろん?小指で逆立ちしてやったけどね?
最後に残ったのは、反射神経と書かれた種目だった。
「ようこそ...あ!あなたは綺麗なわんちゃんの飼い主さん!」
担当職員は、受験料を回収していた、ストロベリーブロンドの受付嬢だった。
アサヒを綺麗と褒められて、俺は機嫌が良くなる。
うむうむ。アサヒは絶世の美犬だからな。いや、美狼か...?
「わんちゃんにはおやつあげて、待っててもらってますよ〜!大人しくていい子ですね」
「へへっ、自慢の相棒デスカラ」
「いいですね〜。仲良しさんですか」
この子、ほわほわしてて癒されるな...。
「じゃあ、測定方法を説明しますね。この台の前に来てください」
奥から手前に角度の着いた台の前に案内される。台の表面にはたくさんの穴が空いている。
あれ...?この形って...。
「この穴から、魔物を模した人形が出てきますので、このハンマーで叩いてください」
...モグラ叩きやん。いや、うん。確かにあれって、反射神経ゲーだよね。
「魔物が出てくる早さがどんどん上がっていきますので、頑張って食らいついてくださいね。ではスタート」
合図の後、しばらくして出てきた魔物は、ドリルヘッドモウル...。
モグラやんけ。
その後、無心でモグラを叩き続けた俺は、身体能力テストを一番に終えた。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!