登録会
翌朝、午前十時。俺はシアンとアサヒを連れてサウスエンドに来ていた。
受付前にはたくさんの人が集まっている。だいたい百人くらい居そうだな。もしかして同じように登録会に参加するのだろうか。
「本日は登録会にお集まりいただき、ありがとうございます」
カウンターの中から、凛とした声がエントランスに響く。
「私はサウス・エンドのギルドマスター、ルーシュと申します」
堂々と話す女性は、緩くウェーブのかかった濃緑の髪を片方に流して、ブラウンのパンツスーツのような服を着こなしている。
ルーシュはスラリと背が高く、スタイル抜群のスーパーモデルのようだ。かきあげた髪から覗く顔は、つり気味の目にぽってりした唇が、野性的な魅力を放っている。
あれ...耳が尖ってる......もしかしてエルフなのかな?外にいるのが珍しい種族だと聞く割に、よく会うなあ。
「それでは、受験料を頂いた方から順次会場へご案内致しますので、職員の案内にそって一例にお並びください。また、順番は合否には関係ありませんので、押し合わないようお願いします」
気性の荒そうないかつい男たちが多いにも関わらず、皆、素直に指示に従っている。
意外だな…もしかして皆緊張してるのか?
ああ、でも入社試験みたいなもんだと思うと、なんか俺も緊張してきたな...。
「なんだか、緊張するのです...」
「ソウですね...」
俺たちは列に並んで、受験料を握り締めた。受験料は銀貨三枚と消して安くはない。また、一度落ちると一年は受けられないということもあって、皆緊張しているのだ。
これからの生活を考えると、なんとか一発合格したいところ。
順番が来て、受験料を渡して番号札を渡される。
「あっ!すみません、わんちゃんの同伴はちょっと...」
ストロベリーブロンドにくりくりの目をした、可愛い系の受付嬢に注意されてしまう。
「こちらでお預かりしますね」
「あ、ハイ...」
アサヒがしょんぼりしているのが、ちょっと可哀想だ。シアンとの買い物の時もそうだったが、アサヒを待たせてばかりで、なんだか申し訳ない。
「...チッ。早くしろよ」
後ろに並んでいた男性が苛立たしげに舌打ちした。
あーこれ、改札の直前にICカードが中々見つからなくなってもたついてたら、めっちゃ後ろ詰まっててサラリーマンに舌打ちされる感覚に似てるなー。懐かしい。
俺はアサヒを預けて、急いで前に進んだ。
階段を降りて、地下へと移動する。着いた先はドームのようになっていて、運動場みたいな開けた空間が広がっている。
「これから、二十人ずつグループ分けしまーす。職員が整理しますので、そのままお待ちくださーい」
金髪に緩く着崩した制服が、ギャルっぽい感じの職員は、テキパキと人数分けしていく。
「あなたから.........あなたまでは、あそこに立ってる職員のとこまで移動してください」
刺された方向を見ると、ミチバが立っていた。
グループ分けが完了すると、二十人の縦列が五列完成する。
ちょうど百人だったのか。俺たちは四番目のグループみたいだな。
「魔力を測ったグループから、身体能力テストを行います。まずは一番目の列から、魔力計を配ります」
先頭の列に一人ひとつ魔力計が配られる。
「魔力を測ったら、数値が自動送信で番号札に記録されますので、そのまま隣の列の人に魔力計渡してください」
へえー、結構ハイテクなんだな。この番号札が記録媒体になってるなんて。
「番号札は無くさなようお持ちください。それでは、一列目移動します」
うわー!なんか緊張してきた。魔力計足にはそう時間がかからないようで、次々と魔力計が渡ってくる。
魔力計は半透明の棒状で、数字の振られたメモリが刻んである。
どうやって使うんだ?とキョロキョロしていると、シアンが魔力計を握って魔力を込めていた。するとピシッと魔力計にヒビが入る。
魔力計全体が、澄んだ緑色に輝いていた。
「す、すごい...限界突破...!」
魔力計を見たミチバが、驚愕している。
まあシアンの魔力量なら、当たり前だろうな。他の受験者達も冷や汗をかいてシアンを見ていた。
俺も図るか。俺は訳あって、今全力の一割程度の魔力しか出せない。まあそれでも常人よりは高い方だし、シアンの魔力の半分くらいはあるから大丈夫だろう。
えーと魔力をまとって、魔力計を握るんだよな。普段はほぼゼロにしている魔力を解放すると、シアンが弾かれたように俺を見た。
...?どうしたんだ?
シアンの怯えるような表情を、怪訝に思った瞬間、魔力計が粉々に砕け散った。
......え?
その音に驚いようにミチバが振り向く。
シアンに向いていた周囲の目も、俺の方に集中した。
「どうしました...?え、コレ、魔力計ですか?」
「え、あ、ハイ...」
粉々に散った魔力計を見て、ミチバが目をむく。
え、確かに今ある魔力の全力だったけど、今の俺はシアンより魔力低いはず...。
え、まさかシアン加減してた?
あー、なるほど。俺はこの魔力計の限界を見誤ってしまったらしい。
「まさか魔力で...?」
その言葉に畏れを含んだ視線が集まる。
うう、しまった。変に目立ってる。なんか誤魔化した方が良さそげ...?
「いや、エーット...握力で」
「握力!?なんでそんなことするんですか!結構高いんですよ!」
「す、スミマセン...ぼーっとして、力、入りすぎちゃったミタイデ」
「ぼーっとって...試験中ですよ!ていうか、どんな握力ですか!」
俺も言葉に、ミチバがぷりぷりと怒り出してしまった。落ち着いた雰囲気の昨日とは大違いだ。たぶんこっちが素なんだろう...。
「もう、気をつけてくださいね!」
「スミマセン...」
「はい。予備の魔力計です。今度は壊さないでくださいね」
「ハイ...」
とは言っても、シアンがどのくらいで加減したのか分からない。うーんあんまり出しすぎてまた壊しても困るしな...。
今度はゼロに限りなく近い1を目指して、魔力を流す。
すると、魔力計のメモリがしたからふたつだけ色ずいた。
色はシアンと違って赤黒く濁っている。...なんか俺の魔力汚いな。
「ップ、あんだけ騒がせといて、メモリふたつかよ」
「一般人以下じゃねえか」
「とんだ馬鹿力女だな」
俺のメモリを見た後ろの男から、嘲笑の輪が広まる。結局悪目立ちしてしまった。
ため息を吐いて、隣の人に魔力計を渡した。
「フン。鈍臭いわね」
長い黒髪をまっすぐ垂らした美女が、呆れた目を向けてくる。いかつい男たちに囲まれて、冷たい美貌が際立っている。
白くほっそりとした指で、魔力計を握ると、一番上のメモリをひとつ残して、魔力計が透き通った青色に染まる。
「では、四列目移動します」
黒髪の美女に見とれていると、ミチバから声がかかった。
ゾロゾロと移動する中、シアンに声をかける。
「シアンさん、魔力計握る時、魔力抑えてマシタカ?」
「へ?いえ、特に抑えてませんよ?」
シアンは不思議そうに答えた。
あれ?無意識なのかな?
「マサキ様...」
シアンが何か言いかけた時、列が止まった。
「では、身体能力テストを始めます」
ミチバの声に、再び集団に緊張が走った。
誤字脱字、教えていただければありがたいです。
素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。
その際もこっそり教えていただければ^^
できる限り対応致します!