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乙女の憧れ

 



 



「兄...?」

「はい。先程皆様を襲った者は、おそらくシアンの兄様なのです」


 予想外の答えに、俺たちは愕然としてしまう。


「そ、それでは、シアンさんは兄君に命を狙われているという事ですか?」

「いえ...兄様は皆様を手にかけるつもりだったのでしょう。きっと、皆様だけを狙い撃ちする予定だったのです」

「あの距離でデスカ?万が一シアンさんにアタッタラ...」

「兄様は弓の名手。絶対に外さない自信があるのです」


 まあ確かに、矢の軌道にシアンは入っていなかったが...。あの距離で俺たちだけを正確に撃ち抜けるとしたら、確かに相当な腕だろう。


「しかし...なぜ私たちを?シアンの兄君とは面識も無いはずですし...誰かと間違えているのでは...?」

「いえ。兄様の標的はシアンに近づくもの全てです。兄様は私が外の方と関わるのを、嫌っているのです」

「外...?」

「はい...エルフの国セ・ラ・ネヴーラは長い間、他の国との国交を絶っていましたが、今の王の代になってから、再び外の世界との交流を許されたのです。...しかし、国の上層部や、大人達には頭が固い方が多く、外へ出ようとすれば、法的には罰せられずとも、白い目で見られたり、酷い嫌がらせを受けたりするのです」


 シアンは淡々と語っているが、エルフの国の事情はかなり複雑そうだ。シアンの話を聞くと、師匠が言っていた話もあながち嘘じゃないのかもしれない。


「それで、お兄さんは君を連れ戻そうと?」

「はい...兄様には、国を出ることをずっと反対されていました...。父や母がシアンの気持ちを汲んでくれて、こっそり国から出してくれたのです。外へ出てしまえば、兄様も諦めてくださると思ったのですが、ずっと追われていて...、隠れながら人間の方が住む街を目指していました」


 もしかして、あの時空腹で倒れていたのもそれが原因なのだろうか。精霊に道を尋ねられるこの子なら、森で迷う事もないだろうし。

 まだこんなに小さいのに、苦労して...。ちょっとうるっと来てしまう。


「しかし、そんなに反対されてまで、どうして国を出ようと思ったのですか...?」

「それは...外の世界を見てみたいというのもありますが...一番の理由は......」


 シアンは何故か、照れくさそうにモジモジしだした。その様子は年相応といった感じで、とても可愛らしい。


「シアンは、人間の方が作るお洋服が、着てみたかったのです...」


 これまた予想外の理由に、一同ポカンと気が抜けてしまう...。


「洋服...デスカ?」

「はい!シアンは人間の方が作るお洋服が大好きなのです!エルフの国にあるのは、どれも似たような服ばかり。でも、人間の国には色んなお洋服があると聞きました!光沢のある革製のかっこいい服、キラキラの小さな珠を散りばめた綺麗な服、フリフリのヒダがたくさんついた可愛い服...シアンは、そんな服に身を包んで見たいのです!」


 シアンは目をキラキラ輝かせて、洋服への憧れを語った。出会ってから一番生き生きしている。シアンがキャピキャピしている様子は、とても少女らしくてほっこりする。

 うん...可愛いなあ...。


「なるほど。シアンさんの熱意はわかりました...となれば」

「ああ、そうだね...」


 ライとビリウスが頷きあって、俺の方を見る。

 え、何?どういうこと...?分からないけど頷いておくか...。

 俺は意味ありげな笑みを作って頷いた。


「シアン、このまま、私たちと一緒に、カッツェヘルンに来ないか?」

「え...?」

「カッツェヘルンは大きな街ですから、シアンの求めるような服があると思いますよ」


 ああ、なるほど、そういう事か。そういう事なら俺に異存はない。可愛いし、いい子そうだし。

 シアンは二人の...いや、一応俺も入っているのか...俺たちの提案に、感激したような表情になる。


「い、いいのですか...?シアンといると、また兄様に狙われてしまうかもしれないのですよ...?」


 まったく、妹にこんなに顔させて、困った兄さんだね...。


「大丈夫!あのくらい、寝ててもかわせマスヨ」

「えっ?」

「トニカク!ひとりでいるよりは安心してご飯が食べられるデショ?」


 つい本音が出てしまったが、勢いで誤魔化す。

 シアンは胸の前でぎゅっと手を組んで、勢いよく頷いた。


「お願いします!シアンも一緒に連れてってください!」


 カッツェヘルンへの旅に、シアンという仲間が加わった。






 それから休憩を挟みつつ、日没までアサヒに揺られ、今夜は森の中で野営することにした。

 ヴエルニットで買っておいた海産物や、残っていたバジリスクの肉、フルーツが並べられる。


「シアンさんは食べられないものは無いですか?」

「特に無いのです!なんでも食べます」

「そうなんですか...?エルフの方は肉を食べないと聞いたことがあるのですが...」

「...確かに、上流階級には肉を食べない方も多いですが、元々エルフは命を無駄にしないように、死んだ動物や殺してしまった動物の肉を食べていました。だから今でも、国民全体では食べる人の方が多いのです」

「へぇ、そうなんですね...エルフと言えば菜食主義者というイメージでした」


 くす、とシアンは困ったように苦笑いした。


「外交官として国の外に出られるのは、上流階級の方ばかりですから...どうしてもエルフの印象が偏ってしまうのです」

「そうでしたか...」


 どこの世界でも、代表者の印象が集団の印象を決めてしまうのだな。ひとりひとりを個として評価するのは大変だ...。だから「こういう人達はこうだ」と、ある程度大まかに分類したくなってしまうのだろう。


「好き嫌いがないのはいいことだな!さ、冷めないうちに食べよう」

「はい!」


 ライのあっけらかんとした性格は、好ましい。色々考えてるのが馬鹿らしく感じるほど、暗い空気や些細な悩みなんか吹っ飛ばしてくれる。

 シアンは、左手を右手で包むようにして胸の真ん中に置き、目を閉じた。


「母なる森よ、大地の父よ、今日の恵みに感謝を...」


 祈りのように独特な文言を口ずさむ。俺たち日本人で言うところの「いただきます」みたいなもんだろうか。

 ビリウスや、ライは特に決まった挨拶や作法はなく、各々パクパクと食べ始めている。

 俺も手を合わせて「いただきます」と挨拶をしてアサヒと一緒に食べ始めた。


「ん、美味い」


 やはりビリウスの作るものはなんでも美味い。簡単な味付けのはずなのに、どれもこれも絶品だ。シアンも美味しそうに色んな皿に手を伸ばしている。本当に好き嫌いはないみたいで、幸せそうに料理を頬張っている。


「美味なのです!こんなに美味なものは初めてなのです!」


 シアンの幸せそうな表情に、ビリウスも満足気だ。



 四人と一匹で美味い料理を囲みながら、和やかに夜はふけていった。







誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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