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出発

間が空いてすみません。

 



 


「アサヒ...ごめんね......」


 くぅんと鼻を鳴らす、アサヒの尻尾はしょんぼりと元気がない。


 翌朝、変わり果てた俺の服を見た面々は、三者三様の反応を見せた。

 おそろいじゃなくなってしまったことに、露骨に落ち込むアサヒ。


「いいじゃないか。その色も良く似合っている」


 とにかく順応が早いライ。というか適当?


「いったい、何があったんですか?」


 いたって一般的な反応をしめすビリウス。

 うん、一番の常識人だ。

 しかし、ありのまま話すと、色々とややこしくなりそうなので、


「ナンカ...朝起キタラ染マッテマシタ!」


 ちょっと誤魔化させてもらった。


 師匠が染めてしまったローブは、暗い部屋で見た時は真っ黒だと思っていたが、陽の光を当てると緑っぽく見える。限りなく黒に近い濃緑だった。

 いったい何で染めたんだろうか。


 その日は食料など必要な物を町で買い回って、出発に備えた。

 買った物は俺の亜空間にどんどん収納していく。


「マサキ、今まで買った分全部収納してますけど、大丈夫ですか?」

「え、ああ、まだ大丈夫ですよ」

「そうですか。甘えてしまってすみません」

「いえ、お役に立てて嬉しいです」


 ビリウスは元々龍語話者で、第二言語として人語を習得している。そのため、二人で話す時は龍語、ライをいれて三人で話す時は人語で話す。

 俺も人語は聞く分には不自由ないのだが、会話で使った経験が少なすぎて、話すと若干カタコト気味になってしまう。

 今はライがクリーニング済みの防具を取りに行っていて不在のため、話しやすい龍語で会話している。


「登録会の日程もありますし、予定を前倒しして明日には出発しようと思っているのですが、マサキはそれで構いませんか?」

「えっ、そんな...いいんですか?」

「ええ。ライも既に了承済みです」

「...すみません。俺の都合でバタバタさせてしまって」

「いえいえ。マサキのおかげで大分早く迷宮から出られましたからね。ゆっくりするのはホームタウンに帰ってからでも遅くはないですから」

「ありがとうございます...!」


 本当に親切な人達だ。後でライにも礼を言わなくては。

 もう少し外の生活に慣れて落ち着いたら、彼らになにか改めてお礼がしたいな。






 明くる日、朝食を済ませて早朝に宿を出る。

 まだまだ表通りは静かだが、店の準備する人達がちらほらといる。

 生き生きとした話し声や掛け声が、あちこちから聞こえていた。

 良い町だ。皆働くことを楽しんでいる。


 滞在したのはほんの少しの間だったけど、この町がとても好きになった。また今度ゆっくり旅行にでも来よう。


「さて、行こうか」


 ライの声に頷いて、この町に入った時とは反対側にある門へと歩き出す。

 簡単な検問を受けたあと、町の外の道に出る。

 道は意外と整備されているが、両脇には草木が生い茂っている。

 早朝の少し湿った冷たい空気が心地いい。

 一度大きく伸びをして歩き出す。


「そういえば、カッツェヘルンまではドノくらいかかるんデスカ?」

「ああ、えーと馬車でだいたい五日くらいだから...徒歩だともうちょっとかかるかな?」

「いえ、大きな荷物がなければ、近道できる分、徒歩の方が早いかもしれません」


 なるほど。どうやら馬車が通れる街道は、森を迂回する遠回りなルートらしい。

 門を出てすぐの所から乗り合い馬車も出ていたが、今回は利用せず、徒歩でカッツェヘルンを目指すことにした。


「途中まで街道沿いに歩いて、森を突っ切るルートに入りましょう」

「森に入れば、アサヒに乗って行けマスネ」

「えっ」

「いいな!アサヒに乗ればカッツェヘルンまですぐだろう」


 若干嫌そうな顔をするビリウスと、対照的にワクワクしているライ。

 本当に正反対な二人だ。

 しかしビリウスには悪いが、ここはアサヒに乗る方向でいかせてもらう。長旅になるみたいだし、俺と彼らでは体力に差がありすぎる。うっかり早く進みすぎて、二人に気を使わせるかもしれない。

 何より、早く着くに越したことはないないだろう。

 まあでもちょっと可哀想なので、少しゆっくりめに走ってもらおう。



 しばらく街道沿いに歩いて行くと、正面に大きな森が見えてくる。街道はそれを避けるように、緩やかに曲がっている。

 俺達は街道を外れ、森へと近付いた。

 眼前に広がる森、エテロペの森には魔物が多く生息する。それほど危険な魔物がいる訳ではないが、旅人が単独で踏み入ることはほぼない。

 大きな荷物を持って、いつ魔物が襲いかかって来るかも分からない森に入るのは大変危険で、迷えば迂回するより時間がかかる。

 一般の商人や旅行者としては、割に合わないということだろう。

 しかしここも冒険者にとっては素材の宝庫であるため、冒険者たちがパーティを組んで入ることはままあることだそうだ。

 冒険者って、一般人からすれば物好きの変人に見えるんだろうな...。


 と言いつつ、ちょっとワクワクしながら森へと入る。


「うわ......!」


 一歩足を踏み入れると、そこは別世界。

 視界を木々が埋めつくしているから、ではない。そこは今まで感じたことがない、豊かなエネルギーに満ちていた。迷宮に満ちる魔素とは違う、もっと純粋なエネルギー。


「生命エネルギー...」


 植物や動物が自然に発しているエネルギー。

 それは魂の欠片とも呼べるものだと、師匠は言っていた。森は元々生命エネルギーの宝庫だ。森林に癒されたりするのも、これが一因だったりするのだ。

 しかしここまで強くエネルギーを感じるのは、修行したからだろう。前世で森に入っても特段何かを感じることは無かった。

 まあ俺の場合、森なんか入った日には確実に大怪我してたから、それどころじゃなかったってのもあるけど...。


「マサキ?どうした」

「あっ、イエ、空気が良いなっテ」

「そうですねぇ~!気が抜ける場所じゃありませんが、森って癒されますよね!」


 そう相槌をうつビリウスは、やたらに目をキラキラと輝かせている。

 ん?急にどうしたんだ、この人。


「ビリウスは、この森に溢れる素材に癒されてるんだろ? 」

「ええ!いつ来てもここは素晴らしい!」

「あー、はは」


 なるほど。ビリウスは素材オタクだからね...。料理が上手くて紳士的で完璧な男に見えるが、人には意外な面があるものだ。

 まあうん、好きなものがあるってのはいい事だよね。


「馬車に乗らなかったのは、この森で採集したかったのもあるんだろ」

「い、いえ。あくまで近道のためですよ...」


 横目で見るライの瞳から逃げるように、ビリウスの目が泳ぐ。

 別に堂々と採集していいのに。俺のために早く出発して貰っただけでありがたいんだ。

 なんというか...お人好しだな...。

 くすりと笑いが漏れる。


「俺も、素材気になりマス」

「!」

「マサキ、やめといた方が...」

「ぜひ、素材についテ教えてクダさい」

「!!もちろんです!」

「あちゃあ...」


 俺はすっかり忘れていた。

 ビリウスがとんでもなく博識の、早口ウンチクオタクだと言うことを。

 数歩進んでは立ち止まり、延々とウンチクを聞かされる。

 俺としては結構面白いと思うんだけど...ライはちょっとうんざりしてるみたいだ。

 もしかして、何回も同じ話を聞かされてるのかな...?ライには悪いことしたかも。今後は素材について聞くのは二人の時にしよう。


「...おや?」

「ん?どうした?」


 ペラペラと止まらないウンチクを垂れ流していたビリウスが、ふと動きを止める。

 しゃがみこむビリウスの頭の上からひょこっと顔を出すと、鬱蒼と生い茂る草木の合間から、白く小さな手が覗いている。

 女の子らしい華奢な、人間の手だ。

 ビリウスが草をかき分けると、うつ伏せに倒れている小柄な女の子が姿を表した。


「もしもし、大丈夫ですか?」


 ビリウスはトントンと肩を叩いて、意識があるか確認する。しばらくして少女は「うう...」とうめき声をあげた。


「お...」

「...お?」

「お腹が......」

「どうした?お腹が痛いのか?」


 ライが起き上がろうとする少女を、自然に抱き起こす。イケメンだな...、見習いたい。


「お腹が、すきました...」


 きゅるるるぅ〜!と可愛らしいお腹の音が響き、三人してガックリと拍子抜けする。


「体調が悪いわけじゃはなさそうでよかったよ...」

「マサキ、何かすぐに食べられるものはありますか?お腹に優しそうなもので」

「えーと...ああ、コレなんかどうですかネ」


 俺は亜空間からヴエルニットで買っておいた、紅桃を出す。すると、その甘い香りにつられたのか、ぐったりしていた少女の目がカッと開き、俺の手から紅桃を奪い取ると、一心不乱にかじりついた。

 その食いっぷりに、足りないだろうと更に二、三個取り出してやった。


「はむ、んぐっ、むぐ......っぷはぁ!美味なのです!!」


 ものの数分で紅桃を全部平らげた少女は、目を輝かせてにっこり笑った。

 透き通る白い肌に、顎下でボブに切りそろえたサラサラの銀髪。春の空のような柔らかな色の碧眼。天使のように整った顔の少女は、よく見ると耳が長く尖っている。

 顔立ちや、体つきがまだ幼い。歳は十二歳くらいだろうか。

 しかしこの子、すごい魔力量だな。


「美味なる果実をご馳走様でした!シアンは感謝します」


 少女は胸に前で手を組んで、俺達に向かって祈るように軽く目を閉じた。種族特有の挨拶だろうか?日本で言うお辞儀みたいな。なんにせよ、可愛いな。


「いえ、元気になったようで良かったです」

「ここ二日ほど、何も食べていなかったので助かりました!」

「かわいいな...」


 ライはどうも可愛い女の子に弱いらしく、うっとりと少女を見つめている。と、他人事のように言いつつ、俺もちょっとうっとり。


「貴女はもしかして、エルフの方ですか?」

「はい。その通り、シアンはエルフなのです」

「エルフ!ハジメテ会いまシタ!」


 エルフは長命で強い魔力を持ち、美形揃いだと聞いていたが...なるほど、これは誰が見ても美形だわ。完璧過ぎて神秘的ですらある。

 妖精のような独特な服も、エルフ特有の物だろうか。


「シアンは名をシアネリーナと言います。気軽にシアンとお呼びください。皆さんのお名前を伺っても?」

「もちろん。私はライだ。呼び捨てで構わないぞ」

「私はビリウスと申します」

「マサキ、デス。コッチはアサヒ」

「ライ様、ビリウス様、マサキ様とアサヒ様ですね!」


 いや...様付けはちょっと勘弁して欲しいような...。


「シアンは、どうしてここに?」

「エルフの方が国の外にいるなんて、珍しいですよね」

「それは...」



 シアンが答えようとしたその時、後ろから殺気を感じた。









誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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https://twitter.com/tamaki_Showsets
― 新着の感想 ―
[一言] 近道の森で高貴そうな腹ペコエルフ少女を、救助。
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