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港町



 



 太陽が輝く青い空、潮風の匂いと波の音。

 建ち並ぶ家屋や屋台に、活気溢れる人々の声。

 大陸の端にある港町、ヴエルニットはたくさんの人で賑わっていた。王都から遠く離れた辺境の地ではあるが、かなり栄えている。

 漁師、迷宮目的の冒険者、素材や干物等を買い付けに来た商人、隣国に住むリザードマン...。

 種族も、職業も多種多様な人々が行き交っていた。


 こっちに来て、こんなにたくさんの人や建物を見たのは初めてで、キョロキョロと周りを見回す。

 全体的に大きな建物はなく、高くても三階建てくらいだ。

 街並みは人々の服装も含め中世ヨーロッパに似た雰囲気だが、全く同じという訳ではなく、独自の進化を遂げた感じで地球ではあまり見ないデザインのものも多い。

 特に冒険者らしき人達は、性能や機能重視のためか変わった服装の人ばかりだ。


 船着場に面した通りには、食べ物を売る屋台がたくさん並んでいて、町の中心の方に行けば、行商人等が路上販売をしたりしている。

 色んなところから食べ物のいい匂いがして、皆楽しそうで活気があって、大都市とまでは行かないが、ほどよく栄えていて良い町だ。


「まずはギルドに報告に行きましょうか」


 おーう、ギルド!わくわくする響き!

 町の中心部へ向かって歩く二人の後ろを、ソワソワしながらついていく。

 それにしても、さっきから視線を感じるのだが...。なんかヒソヒソされてる気配もあるし。

 アサヒは大型犬くらいの大きさに化けて貰ってるし、見られてるとしたらやっぱり俺だよな...。

 そう思って改めて自分を見てみると、服はボロボロのぶかぶかで、とにかく色んなところから肌が露出している。おまけに靴も履いてない。


 うん...色々とアレだな。そら見られるわ。


 後で服屋に寄ってもらおうと決意したところで、ギルドに到着した。

 建物は二階建てで、周りの建物と比べても大きい。西部劇で見るようなスイングドアが、正面に三箇所設置されている。真ん中のドアの上には、ギルドの紋章が描かれた木製の看板が掲げられている。


「ここがヴエルニットの冒険者ギルド"ポート ラビリンス"だ」


 スイングドアを押して入ると、中はかなり広く酒場のようになっていた。

 床はなく、むき出しの地面に、丸いテーブルと椅子が一定の間隔で置かれていて、冒険者から一般の人まで様々な人達が入り交じって座っている。

 向かって右手側の壁には大きな掲示板があって、依頼書と思われる紙が所狭しと貼ってあり、冒険者達が物色していた。

 俺達は正面奥のカウンターに向かって歩き出す。

 カウンターの中にはでっぷりとした腹にハゲあがった頭の髭面の爺さんと、金髪碧眼の美少女が立っていた。可愛い。

 この二択なら迷わず後者に飛びつくだろう。

 しかし二人が話しかけたのは爺さんだった。


「こんにちはラージさん」

「ホッホ、久しぶりじゃな。生きて帰って来れたか」

「はははっ、なんとか」


 帰りはアサヒに乗ってあっという間だったが、本来なら片道一月以上もかかる距離らしい。

 だから出口に着いた時、二人とも遠い目をしてたのか。

 色々気をつけないといけない事があるな...ちょっとずつ常識を身につけないと。

 ビリウスが依頼書と一緒に注文の素材を納品している。


灯果(とうか)、ヒールリーフ、真っ黒苔、火蠍(ひさそり)の尻尾...うむ、揃っとるの」


 素材は瓶に詰めてあったり、紐で束ねられていたり、それぞれ的確な方法で提出されているようだった。

 品質も高い評価だし、ビリウスはかなり腕のいい採取家なのかも...。


「マサキ、バジリスクの頭、出してもらえるか?」

「アッ、はい」


 ライに言われて、亜空間から蛇の頭を取り出す。

 頭だけでも一メートル以上もある、このデカい蛇の討伐がライの受けた依頼らしい。

 金髪美少女が目を見開く。


「え、今...?」

「ホゥ...頭丸ごと持って帰って来るとはのぅ」

「問題はないだろう?」

「すみません。大雑把で...」


 胸を張るライと申し訳なさそうなビリウス。

 本当に正反対の二人だ。


「まあ良いさ。頭の石も立派だし、毒の研究にも役立つ。報酬に上乗せしてやるわい」


 二人にはかなり重そうな袋が手渡された。中からはお金っぽい音がする。二人とも袋の中を覗いて頷くと、受け取った。

 ギルドでは盗難防止のため、口頭で金額を伝えることはせず、袋の中に明細の書かれた紙が入っていて、それを確認して納品するか否かを決める。と言っても、基本、条件をクリアしていれば決められた成功報酬は貰える上に、期間をすぎて依頼をキャンセルすれば、罰金がかかったりするので、ほとんどはそのまま納品する。

 明細は報酬の受け取り証明と、今回のように報酬に上乗せ等の変更があった場合の確認用である。


 見るからにずっしりしてるな...いくら貰ったんだろう。

 チラチラと二人を見てしまう。


「して、そこのお嬢ちゃんはどうしたのかね?」


 細く優しそうだった爺さんの目が、鋭く開く。

 うわぁー!怪しまれとる!

 どうしよう、二人ともなんて言うかな...。


「道中、彼女に助けられまして。彼女はかなり腕のいい魔術師なんですよ」


 ビリウスがさらっと誤魔化してくれる。

 俺は思わず目を見開いて、ビリウスを見た。

 イ、イケメンだ...!こんなスマートに人をフォローできるなんて。

 男として見習いたいところだ。

 ライが俺の背中を押して、カウンターの前に連れて来る。


「あ、俺...マサキです。空間術が得意...デス!」

「ホッホッ、そうかそうか。冒険者登録は済んどるのか?」

「?登録...ですか?」


 冒険者って、名乗れば今日から冒険者ってワケじゃ無いのか?

 俺は、ビリウスとライを交互に見る。


「なんじゃ、知らんのか?」

「えと...ずっとヒトザト?から離れて、修行...してたノデ」

「そうじゃったか。エール、説明してやりなさい」

「はい、マスター」

「こら、じぃじと呼ばんか!」


 二人は祖父と孫らしく、二人でこのギルドを運営してるんだとか。

 金髪美少女が俺の近くにやってくる。なんかいい匂い...。エールちゃんって言うのかぁ。

 エールちゃんは肩の長さで切りそろえた金髪を、ブラウンのカチューシャで纏めて、カチューシャに合わせたブラウンと淡いグリーンのラフなドレスを来ている。

 俺はちょっとうっとりエールちゃんを見つめる。エールちゃんは目が合うと、優しそうに微笑んだ。

 うわぁ...かわいいなぁ...。


「では、簡単に説明しますね。まず冒険者にはプロとアマチュアの二種類があって、冒険者組合で登録を行った冒険者をプロ、それ以外をアマチュアと呼びます。アマチュアでもギルドの利用はできますが、一般の方と同じ扱いになるので、立ち入り制限のある場所等、入れない場所も多く、受けられない依頼も多いです。メロフィエーモ大迷宮等がまさに立ち入り制限区域ですね」


 そこまで聞いてギクッとする。え、じゃあ冒険者登録もしてないのにあそこにいた俺って、改めてめちゃくちゃ怪しいんじゃ...。


「一般の方が許可なく立ち入った場合は、高額な罰金が課せられます」


 さらにギクッ!ええ、なにそれ知らない!俺お金持ってないし、そもそも生まれたての頃からずっと居るんだけど!

 かかなくなったはずの冷や汗がドバドバでる。

 は、早くこの話終わってくれ!!


「反対に組合で登録したプロの冒険者は、立ち入り制限区域に入る事ができたり、貢献度によって優先的に仕事が紹介されたり、指名依頼が受けられたりと、かなり有利に活動ができます。」


 そうなんだ。じゃあみんな登録した方がいいじゃん。


「しかし、組合が行っているテストに合格できなければ、プロとして登録はできません。ですので、テストの合格難しい方はプロの方とパーティを組んだりして活動しています。」


 なるほど、誰でもって訳にはいかないのか。

 テスト...どの世界でも立ちはだかってきやがる。


「テスト内容は、身体能力、魔力、算術の三つです。身体能力と魔力は、どちらかが突出していいか、どちらも規定ラインを超えているかすればOKです。算術は取り引きに必要な数字が読めて、足し引きが出来れば大丈夫です。算術については組合で講習も受けられます。」


 そうなんだ。

 ふむ...身体能力と魔力は多分問題ないだろうし...、数学はあまり得意じゃ無かったけど、算数くらいならいける。


「登録って、ココでも出来るんデスカ?」

「いえ、ここでは登録会は行っていません。指定のギルド...ここから近いのは、カッツェヘルンにあるギルド"サウス エンド"か、隣国テチュビジュンのギルド"マーメイド ラプス"ですね。そこで定期的に登録会を行っていいますよ」


 ほぅ...、どっちかで登録した方が、今後生活しやすそうだな。

 さて、どっちに行くべきか...。


「マサキ、少しこの町で休んだら、私達はカッツェヘルンに帰る予定なんだが...よかったら、一緒に来ないか?」

「え...」


 二人を見る。

 ついて行ってもいいのだろうか...。


「マサキがいてくれたらこちらも助かりますし、マサキさえ良ければ、一緒に行きましょう」


 二人とも、俺に向かって頷いてくれた。

 そうか...俺は、二人の役に立てていたのか。

 胸が少しくすぐったい。


「こ、コチラこそ、お願いしマス」


 ぺこっと頭を下げる。

 もしかしたら、この二人となら、前世ではついぞできなかった「友達」になれるかも...。


「うむ。お嬢ちゃんならすぐ合格できるじゃろう」


 爺さんが優しく笑いかけてくる。なんとなくこの爺さんは、くえない感じがする。

 もしかしたら、かなりの実力者なのかも。


 その後俺達は、依頼とは関係ない素材を個別に買い取ってもらって、ギルドを後にした。


 蛍鹿のフンは、ビリウスの見立て通り一粒金貨三枚で買い取ってもらえた。

 あまり現金を持ちすぎるのもソワソワするので、俺は蛍鹿のフンを十粒だけ売って、金貨三十枚を手に入れた。


 物価の低いこの世界では、金貨三十枚をかなりの大金なのだが、この時の俺はまだまだ常識がなく、これだけあれば数日は大丈夫だろ、くらいにしか考えてなかった。


「一旦、宿に行きましょうか...荷物を置いたら服を見に行きましょう」

「!!ありがとう、ございます!」


 三人と一匹、宿へと歩く。


 二人とも、本当に親切でいい人達だ...。

 今まで、散々な人生だったけど、これからがきっと楽しい人生のターンなんだ。


どれだけ続くか分からないけど、めいっぱい楽しもうと、俺は密かに決意したのだった。






誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!



いつも誤字報告ありがとうございます!

注意散漫なので非常に助かっております!

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