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蟻の巣

 





 ビリウスが穴に落ちたあと、赤髪の重剣士、ライは中層に進む決意をした。

 穴にそのまま飛び込むという手もあったが、もし自分の想像よりも穴が深かった場合、為す術なくミンチになってしまう。

 もしビリウスが生きていた場合、それでは何の助けにもならない。


 そもそもビリウスが生きている可能性も、限りなくゼロに近い。

 それでも、ここに連れて来たのは自分だ。ビリウスひとり残して、自分だけさっさと帰る訳にはいかない。


 バチン!と両頬を叩いて気合いを入れる。


「行こう」


 暗い洞窟の中、奥へ奥へと歩き出す。



 生きててくれよ、ビリウス。







 中層に入ってる、そろそろ三時間が経過する。

 ライはここまで、ほとんど休む事無く歩いていた。

 襲いかかってくる魔物達を切り伏せ、息を整える。

 そこそこ強い魔物が度々出現するが、思ったよりも数は多くない。

 中層より先は危険区域だと、あれほど騒がれていた割になんだか拍子抜けだ。逆に簡単すぎて、恐い。

 嵐の前の静けさでなければいいが...。


 そこから更に半時ほど歩くと、ついに魔物は姿を現さなくなった。

 大きく開けていた道も、狭くは無いのだが、やや入り組んできた。

 中層以下はマッピングもされておらず、分かれ道の度に勘を頼りに進んできたため、正直今進んでいる方向もよく分かっていない。


 うん、ぶっちゃけ迷っていた。


 しかしライは楽観主義なので、躊躇わずに進んで行く。遭難者が一番とってはいけない行動なのだが気にしない。

 しばらく進むと、また開けた場所に出た。


 高さも広さも結構あって、見晴らしもいい。

 ここなら魔物が襲って来ても対応出来るし、今日はここで野営して、少し休息を取るか。

 結界を貼るマジックアイテムを起動させようとして、はたと気づく。


 囲まれている。


 マジックアイテムをポケットに突っ込み、剣を構える。

 これだけの数が気配を消して、一斉に囲んでくるとなると、集団の統率が取れているとみて間違いない。

 そう言う敵はかなり厄介だ。


 ギラッと無数の赤い瞳が現れる。


 上も前後左右もびっしりと囲まれていた。

 ジリジリと迫って来る。


「でかいな...」


 見えてきたのは、巨大な蟻達。

 百匹近くはいるだろうか。厄介だな。

 それにあの赤い目...。


 不安が過ぎったその時、足元に何かが飛んでくる。とっさに後ろに避けると、元いた足場からジュウゥ、と湯気のようなものが出ている。


 強酸。


 嫌な予感が的中する。どうやらここはデーモンアントの巣らしい。こんなところに巣があったとは。

 地上では普通デーモンアントの群れとは出くわすことはない。ごくたまに、おそらく群れから追い出されたであろう個体に遭遇することがあるが、それでも一匹だけである。

 しかしデーモンアントはその一匹でも厄介なのだ。猛毒の牙と強酸を吐き、更には体長十メートルにものぼる巨体だ。

 群れから追い出された個体は気性も荒く、凶悪な魔物として恐れられている。


 それが約百匹...。


「まったく、中層は骨が折れる...」


 ふぅ、と息を吐いて覚悟を決めると、ライはデーモンアントに斬りかかった。

 デーモンアント達も一斉に襲いかかってくる。

 飛び交う酸や猛毒の牙を避けながら、一刀両断に叩き斬っていく。ライは大剣使いとは思えないほど身軽に駆け回った。


「はあああああああ!」


 実際は防具も大剣もかなりの重量があるので、身軽なわけではない。ライの並外れたパワーがあるからこそのスピードだった。

 デーモンアントの体表はそこそこ硬いが、勢いの乗った重い大剣なら簡単に斬れる。

 次々と襲いかかってくるデーモンアントを、一太刀で真っ二つにしていく。


 その間にも遠くから強酸液が飛んでくる。

 飛び散った酸が、鎧や服を溶かして肌を焼いた。


「ッ...っとに、厄介だな...」


 早めに酸攻撃を何とかしないと、足の踏み場がなくなってしまう。このままじゃジリ貧だ。


 剣を盾にしても、数回浴びれば完全に溶けて無くなってしまうだろう。そうなれば攻撃手段も無くなり完全に詰みだ。

 何か盾にできるものがあれば...。


 そう思って戦いつつ周囲を見回すと、大量のデーモンアントの死体が目に入った。

 そういえば、仲間も混戦してるのにどうして容赦なく酸を飛ばせたのか。下手すれば味方の妨害にもなってしまう。

 野生生物あるあるの味方もろともという可能性もあるが...。


「いちかばちか、試してみるか」


 大剣を片手で持ち、切り伏せた死骸から脚を一本拝借する。叩き折って大きさを調節すると、酸を吐いている蟻に向かって走り出した。


 すかさず飛んできた酸を、蟻の脚を使って払う。そのまま利き手に持っていた大剣で斬る。


「イケるな、これ」


 敵味方構わず酸を撒き散らしていたのは、仲間に当たっても溶けないから。デーモンアントは特殊な耐性のある外殻を持っているのだ。

 盾を得てライは勢いに乗る。

 脚を使って上手く酸を避けながら、どんどんデーモンアントを駆除していった。


 数分の戦闘の後、最後の一匹を切り伏せて、辺りを見渡した。


「結局地面はなくなってしまったな...」


 地面は酸の海に覆われてしまったので、デーモンアントの死骸の上を飛び移って移動する。

 壁一面に広がる、デーモンアント達が出てきた無数の穴を見渡す。


「また分かれ道か...」


 戦闘でぐるぐる駆け回ったせいで、正直どっちから入って来たかも覚えてない。

 どの道に進むべきか...。


「迷っても時間の無駄だな」


 持っていた蟻の脚を死骸に軽く突き立てて、手を離す。脚は重力に従ってパタリと倒れた。


「よし。こっちだな」


 ライは脚が倒れた方向に迷う事無く進んでいく。

 そんな適当な...と思うかもしれないが、ここまでずっとこの調子で来たのだから、今更である。

 良くも悪くも即断即決。迷いが無いのだ。

 実際ここに長居するのも危険なので、正しい判断と言えなくもない。


 デーモンアントが一匹通れるくらいの広い道を進んでいくと、急な下り坂が現れた。

 というかほぼ崖だ。

 高さは三、四十メートルくらいか。

 これくらいなら飛び降りられるな。


 ライはそう判断すると、崖を蹴って飛び降り降りる。

 その瞬間、前後左右上下、全方位に無数の赤い点が現れた。


「ッ!!」


 数百はいるであろうデーモンアントの群れ。

 まずい。そう思った時にはもう遅く、逃げ場がないほど大量の酸を吹きかけられる。


 これでは、跡形も...。


「ライ!」


 ふいに、探していた友人の声が聞こえた。

 スローモーションの中、声のした方へ目を動かす。


 生きていたのか、ビリウス...。


 だがすまん...私はここで...、


 そこまで考えた時、後ろから強い力で引っ張られ、そのまま対面の壁にぶつかった。


「グッ」


 衝撃に呻いて、揺れる視界で元いた場所を確認すると、長い髪を揺らす、少女が立っていた。


 酸を浴びたのか、服が所々溶けて白い肌がチラチラと覗いている。

 少女は振り返ると、ライに声をかける。


「ケガ、ない、デスカ?」


 少し拙い人の言葉。


「あぁ...こちらは問題ない」


 が、君こそ大丈夫なのか?と言いたい。

 結構な量の酸を浴びたようだが...。


「ビリウスさん、お仲間さん無事です」

「え、ええ。ありがとうございます...」


 今度は打って変わって流暢な龍語でビリウスに話しかける。

 どこか間の抜けた返事を返すビリウスは、巨大な白い狼に乗っていた。

 状況が飲み込めず、固まっていると、いつの間にか近くまでやってきていた少女が、ライを無造作に持ちあげた。俵みたいに。


「!?何をッ」

「スミマセン、ちょと、急ぐのデ」


 舌、噛まないように、と言うと、次の瞬間、飛ぶように景色が流れた。

 否、彼女が飛ぶように早く走り出したのだ。

 崖をひとっ飛びで登り、先程ライが倒したデーモンアントの骸の山を通り過ぎ、瞬く間に、中層の入口に辿り着いた。

 ライが五時間近くかけて来た道のりがほんの一瞬だ。


「デーモンアントは、中層ノ外ハ、めったに出ない...ココまで来れば安心、デス」


 ライを地面に下ろし、若干カタコトで少女が話しかけてくるが、それどころではない。

 この常識離れした少女は、一体何者なんだ。

ビリウスとはどういう繋がりだ?

 そもそもどうやって迷わずにここまで?


 様々な疑問がライの脳内を駆け巡ったが、とりあえず、正面から見た少女の姿は、





「かわいい...」








誤字脱字、教えていただければありがたいです。

素人文ですので、意味違いや不適切な表現等あるかもしれません。

その際もこっそり教えていただければ^^

できる限り対応致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] ビリウスさんとの出会い で最初はすっぽんぽんだった主人公、話のラストで要求して貰っていたと思われる服、既にボロボロで穴だらけに。 ビリウスさん、何故女の子が着られるサイズの服を持っていたん…
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