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AGRI VENTURE  作者: イナババ
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無知ゆえに

種子島 林根(24) 24の時に脱サラして阿久里さんのもとに弟子入りした。今の仕事を楽しんでおり、やりがいを感じている。しかし、彼にはある悪癖がある。今回は出てきません。

「それで、その後どうしたん?」

 彼女は阿久里 美香さん。俺の上司であり師匠でもある。とあることをきっかけに俺が弟子入りしたいと懇願して今がある。ちなみにこの事務所は俺と阿久里さんだけで回している。零細企業どころの話じゃないが、流石は俺の師匠。事務所には常に偉そうな人が出入りしていて、皆彼女には頭が上がらない様子だ。もっとも、それは彼らの弱みを握っているとか、モノ言わせぬ威圧感によるものではなく、彼女の気品と慈悲深さを漂わせる口元に、暖かくも鋭い眼光、全身から溢れ出すオーラによるものなのである。

「山中さんの依頼はスイカ泥棒をひっ捕まえて欲しい、じゃなくて‟スイカ泥棒の人ときちんと話がしたい”でしたからね。逃げられないとわかって観念したのか、普通に同行してくれました。それで、山中さん家ついたらそのおばさんいきなり泣き出しちゃって。この様子じゃあいきなり飛び掛かって乱闘騒ぎなんてこと起きるわけないと思いましたし、一応山中さんに顔写真はおさえていることを伝えて、帰ってきました。ここからは彼らの問題だと思ったんで」

「あんた、もったいないことしたなあ」

「えっ」

阿久里さんは微笑みながら続ける。

「まず乱闘にはならないなんて言うてたけどそんなこと誰が分かるん?自分で追い詰められた人間の怖さはよー分かったハズやったのに。次からは今回みたいな依頼人と加害者が接触するときは同行すること。きーつけえや。でもそんなことはどーでもええねん。あんたが犯した一番の間違いは‟そのおばさんが何故スイカを盗もうと思ったか”を聞かなかったこと。例えばあんたがお金欲しいーゆうていきなり銀行強盗始めますか?」

「いや、しないっすね…」

「それはなんで?お金欲しいやろ。手っ取り早く盗んでまえばええやんか。」

「いやそう簡単にはいかないでしょ、銀行強盗なんて。成功確率はめちゃくちゃ低いし、捕まれば何年も刑務所暮らしですよ」

「そう。人が罪を犯す動機は人の数だけあんねん。でもな、世の中には同じような考えを持ってるのに実行しない、罪を犯さずまっとうに生きてる人がほとんどやねん。罪を犯す人と真人間、違いは‟壁を越えたか”やねん。壁が高ければ高いほど人は越えられないし、超えた先の罪は重くなる。あんたが銀行強盗が出来ないってゆうたのは、そもそも今お金に困ってないからしようとする気概がない、捕まれば当然重い仕打ちが来るとか、ちゃんと壁が高いことを知ってたからやねん。じゃあもう一つ質問やけど、おばさんにとってスイカ泥棒の壁は高いと思う?低いと思う?」

「低い、ですね」

「そう。この場合の壁が低かったゆうのは罪を罪だと知らなかったことによるものやねん。スイカ一つ作るのに接ぎ木して、肥料計算して、敷き藁敷いて、朝早くから人工授粉して、なんていう苦労を知らなかったから罪の壁を軽々と越えてしまったんや。あんたもおばさんと接して根っからの悪人だなーとは思わんかったやろ?」

「そうっすね、山中さんの顔を見て涙流してましたし。さすがに絶望だけじゃなくて後悔の念もあったはずです。」

「うんうん。おばさんはちゃんと山中さんと話して、自分の罪を悔い改めるはず。だからその点に関しては問題ないねん。でも今の世の中子供は切り身のサケが海を泳いでると思ーてるし大人も人様の所有林に入ってタケノコ狩りをしてる。野菜泥棒は無知ゆえの罪、現代の利便性の弊害から生まれたものやねん。うちらがせなあかんことには罪を犯した人を捕まえることだけじゃなくてその原因を知る、そして取り除くことも含まれてんねん。ただ上辺だけの問題が解決しましたはい終わりじぁあないねん。分かってくれた?」

「はい、あざっす!勉強になりました!」

「良かったわー、後継者育成も大切な仕事やからねー。さてじゃあご飯食べたら訓練開始しよかー」

阿久里さんはその真っ白な歯を輝かせニコっと笑った。

会話ばっかです。よろしくお願いします。

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