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MYSTERY DIAMOND“LIAR”

作者: 八田硝子

 お一人ですか? 実は僕も一人なのです。しばらくの間話相手になっていただけないでしょうか?長いこと旅をしているので、そこここで見聞きした面白い話をしてさしあげましょう。


 かまわない? それはありがたい。元来話好きなものでして。

 そうですね、どの話にしましょう。


 おや、ずいぶん立派な指輪をしておいでで。宝石はお好きですか? では宝石にまつわる話にしましょう。

 ミステリーダイヤ、というのをご存じでしょうか。その名の通り不思議な力を持っていましてね。人を不幸にするダイヤの話ならお聞きになったことがあるのでは?


 今からする話も、そんなダイヤの話です。




 始まりはとあるダイヤモンド産業の盛んな国。


 ある青年がとてつもなく大きなダイヤの原石を発掘しました。あまり裕福でなかった青年は大喜び。ダイヤを鉱山主に渡すと報酬に大金を得ました。

 調子にのった青年は、同じところにまたダイヤがあるのではと掘り続け、落盤にあって亡くなりました。

 極東の言葉に「柳の下に泥鰌」というのがありますが、まさしくこの青年のしようとしたことがそれでしょう。


 鉱山主はさして気にもとめませんでした。よくある事故ですし、そんなことより大きなダイヤが手にはいったことの方が重要でしたからね。

 鉱山主はさっそくダイヤを研磨することにしました。ものがものですから、国でも一番の研磨加工技師に頼むことに。

 技師は真面目を絵に描いたような男で、その技術は性格の現す通り、きっちりと客の望むものを作り出すのでした。

 そんな技師ですから、この仕事にも全身全霊をかけて挑みました。研磨作業が進む内に、技師はあることに気付きます。

「? これは……なんだ?」

 疑問に思いつつ、技師は仕事を進め、やがて完成しました。そして驚愕しました。こんなダイヤがあるのかと……。

 完成の連絡を受け、鉱山主は技師のもとを訪れました。

「ダイヤの研磨が終わったそうだね」

「ええ、それなんですが……あのダイヤ、とてつもないものでした」

「そんなことは知っている。あの大きさのダイヤなど」

「いえ、そのことではありません。とにかく見てください」

 技師は震える手でダイヤを取り出しました。

「おお、さすがの技術。で、どこがとてつもないと?」

「よーくごらんください。ほら、この部分……」

「こ、これは……!」


 ……宝石にはインクリュージョン(内包物)というのが含まれているものでして。

 その大小で宝石の値打ちは変わるのですが、このダイヤに含まれていたインクリュージョンというのが実に見事なものでした。まるでオパールのように虹色に輝く破片が3つもはいっていたのです。それはダイヤの顔のように見えなくもありません。

「ねえ旦那、すばらしいでしょう! わたくし初めてこんなダイヤを見ましたよ! このような仕事ができまして実に光栄で……」

「……ふざけるな」

「は?」

「こんなダイヤがあるわけないだろう! 貴様も技師ならそのくらいの知識はあるに決まっている!当然ダイヤモンド鉱山主の俺にもな! それをなんだ、こんなインチキダイヤなぞだしてふざけやがって! さっさと本物のダイヤを持って来い! 俺はこんなくだらない冗談が大嫌いなんだ!」

「冗談などではありません! 正真正銘お預かりしたあのダイヤです! たしかに常識ではありえませんが、きっとなにか珍しい現象がおきてできた希少なものですよ!」

 技師は必死で誤解を解こうとしましたが、この鉱山主、かなり頭の固い人物でして。

「ええい、こんな大きさのダイヤであるうえにそんな希少なものだなんて、ありえん! 偽物なんぞを作りおって。俺が騙されると思ったか、このうそつきめ!」

「うそつき!? このわたくしがうそつきですって!?」

「待っていろ! 今信頼できる鑑定士を呼んできてやる。逃げるなよ。貴様の顔はよく知られているのだからな」


 鉱山主は鑑定士を連れてきて技師の所へ戻ってきました。しかし技師はすでにいませんでした。


 ……この世に。

 天井からロープを垂らし、首を吊って死んでいました。

「な、なんと!」

「旦那、ここに遺書のようなものが……」

 床に落ちていた紙切れにはこう書かれていました。


『わたくしはけしてうそつきなどではありません。このような侮辱、とてもでないが耐えられません。死をもってこれに抗議します』


「くっ……馬鹿馬鹿しい。うそがばれるのが恐ろしくてこんなまねを。おい、そのダイヤを鑑定してみろ!」

「は、はい……」

 鑑定士はじっくり慎重に調べて、そして言いました。


「旦那、このインクリュージョンはどうしてはいったのかわかりません。が、これはたしかに本物のダイヤでございます……。」


 噂はたちまち国中に知れ渡りました。ダイヤのことも、技師の死のことも。

 結果、ダイヤは国王が高額で買い取り、鉱山主はお金持ちに。

 しかし数日後、鉱山主は技師と同じに首を吊って死にました。

 それはそうでしょう。技師がとても真面目なことは皆知っているのです。そんな人を侮辱し、死に追いやり、自分は大金を得る。周りの人々がそんな鉱山主を快く思うはずがありません。

 道を歩けば罵られ、石を投げられ、暴行にもあいました。ついに耐えられなくなった鉱山主は……。

 技師と同じ方法を選んだのは、鉱山主なりの贖罪のつもりだったのでしょうか?今となってはわかりませんね。


 その事件から、このダイヤには俗称が付けられました。それは『LIAR』……『うそつき』です。


 さて、ダイヤは国王のものとなりました。

 研磨されたダイヤはさらに加工され、王冠の真ん中に飾られました。なにせ世界唯一の珍しいダイヤです。国王ならずとも自慢に思うでしょう。国王はどんな時でもその王冠を手放しませんでした。国民も王がその王冠をかぶっているのを見ては、我が国にはこんな立派なものがあるんだぞ、と、ちょっと誇らしく思っていました。

 ところでこの国王には、一つ大きな悩みの種がありました。たった一人の息子、次期国王、つまりは王子です。

 この王子、よく言えば親しみやすい、悪く言えば王族としての節度が足りない人物でして。それゆえ国王からは常に、もっと王族らしく威厳を保てと叱られていました。それが面白くない王子は時々簡単に変装をし、城を抜け出して下町の歓楽街へ出掛けました。

 ふらりと入ったとある酒場。王子は運命の出会いをした、と思いました。その酒場で働いていた娘が、実に美しかったのです。話し掛けてみると、娘はこんな場末の酒場にいるのが不思議なくらい聡明で快活で、王子はすぐに恋に落ちました。

「ねえ、君!ぜひ僕とお付き合いしてくれないか!」

「うふふ、お客さんたら酔ってらしてるのね。私たち今日会ったばかりよ」

「年月など関係あるものか! 僕は君を王妃にするぞ!」

「王妃だなんて大げさね」

 くすくすと笑いながらも、娘は情熱的な告白に多少心を動かされました。

「大げさなんかじゃない。ちょっと君、こちらに来てくれ」

 王子は店の影に娘を連れていくと、変装をといてみせました。

「まあ! まあ、なんてこと! あなた本物の王子様!?」

「ね? 嘘や冗談じゃないだろう? 君をきっと幸せにするよ……」

「王子様……」

 娘はまるで童話のヒロインになったような気分でした。


 翌日、王子はさっそく国王に話しました。

「父上、僕は結婚したい相手ができました! 酒場の娘なのですが、とてもすばらしい女性なのです!」

「何!? 息子よ、お前の結婚相手は私が決める。とびきり家柄のよい娘だ。だからお前が選んだ酒場の女など下賤なものは論外だ!」

「彼女は下賤なんかではありません!」

「やかましい! お前は私の言うとおりにしていればいいのだ! そうでなければお前など勘当だ!」

 国王はダイヤの輝く王冠を誇らしげにかぶりながら、厳しく王子に言い放ちました。

「くっ……」

 それ以上何も言えなくなった王子は、部屋を飛び出すとまた変装をし、娘のところへ向かいました。

「王子様!」

「しっ! あまり大きな声で呼んではいけない」

「そ、そうでしたわ。ごめんなさい、私、あなたに会えてうれしくてつい……」

「かわいいことを言ってくれる。だから君が好きなのだ。ああ、しかし……」

「どうなさったの?」

 王子は国王にいわれたことをすべて話しました。

「そう……国王様に反対されたの……当然よね、こんな身分違いですもの」

「身分など! 君以上の女性などいないよ。必ず、どうにかしてみせるから」

 熱い口付けをかわすと、王子は城へ戻り方法を考えようとしました。


 帰路の途中、路地裏から手が伸びて、王子の袖を引きました。

「お兄さん、いいものがありますよ」

「……悪いが女もクスリも買う気はない」

「本当にそうでしょうか? クスリはクスリでも……毒薬、なのですがね」

「……何!?」

「今までにない新しい薬です。けしてバレません。いかがです?王子様」

「! なぜ私が王子だと……」

「ふふ……実は私には国王に恨みがありまして。ですから王子様のように国王に近しい方が暗殺を企まないかとずっと待っていたのです。なので王子様の行動はすべて調べさせていただきました」

「なんと……」

「いかがです?」

「……どのような薬だ?」

「さすが王子様、話のわかる御方だ。まあ御覧になってください」

 そう言うと謎の人物は近くの肉屋でハムを少し買ってきました。

「御覧の通り、買いたてのハムです。まだ毒は入っておりません。ほら」

 ハムの切れ端を投げ付けると、野良猫がおいしそうに食べ始めました。

「そしてこの毒を塗り付けますと」

 懐から出した小瓶の中身をハムに振り掛けると再び投げ付けました。また食らい付いた野良猫は、二口ほど食べると

「ケハッ」

……血を吐いてぴくぴくと痙攣し、絶命しました。

「なるほど……。それで、確かにばれないのだろうな」

「どんな薬を使ったかは、ですね。あとは王子様の首尾次第」

「よくわかった。それで、この薬はいくらだ?」

「お代は結構。私の復讐でもありますし。それでは……」

 謎の人物は去っていきました。


 それから暗殺はうまくいったかですって? ええ、実にうまくいきました。

 王子は何一つ痕跡を残さず国王に毒を盛り、はたして国王は皆の目の前で盛大に血を吐き息絶えました。

 不思議なものですね。普通殺人なんてどんなに隠そうとしてもばれてしまうものなのに、結局王子が犯人だとは誰にもわかりませんでした。まるで何かがそう導いたように……。


 その後王子は王位継承のために何かと忙しくなるのですが、そんな中で一人の家来を呼び出し、

「この王冠のダイヤを指輪へと替えてくれ」

と申し付けました。

 斯くしてダイヤは立派な指輪へと作りかえられました。王子はその指輪を持って、今度は変装することなく堂々と、一人馬にまたがり愛しい娘の元へと駆け付けました。

「まあ王子様! 変装もなさらずこんなところへ! それに今は国王陛下がお亡くなりになって大変な時なのでは?」

「父が亡くなったのだからもうこそこそする必要は無い。そして何よりも早く君にこれを届けたくて」

 王子は指輪を取り出すと娘の手を取り薬指にはめました。

「これで君は僕のものだ」

「うれしい、王子様……」

 娘は目に涙を浮かべて喜びました。


 さて、めでたしめでたし……とお伽話ならいくのですがね。残念ながらお話はまだ続きます。


 実は娘には一人の姉がおりました。容姿はけして悪くは無いのですが、美しい妹と比べると霞んでみえるのです。それが彼女の最大のコンプレックスでした。

 それゆえ彼女は妹を大層憎んでおりました。ただ一つの救いは、いくら美しくともこんな薄汚い酒場などで働いていてはたいした嫁の貰い手もこないだろうということです。姉はその優越感に浸るため、面目上「妹のがんばる姿をみたい」ということにして、この酒場に入り浸っていました。下品な酔っ払いどもばかり相手にする姿を見て、姉は胸が空く想いでした。

 ところがなんということでしょう。今目の前で妹は王子と結婚の約束などしているではありませんか!

 姉の中で何かが壊れました。

 厨房からよく研がれた包丁を持ち出すと、まだ王子と睦言を語り合っている妹の背中にずぶりと刺しました。

 一瞬、王子と妹娘は何が起きたのかわかりませんでした。

「? 姉さ……? ゴボッ!」

「!!! 君! 一体何が……おい君! 返事をしてくれ!」

 王子は混乱し妹娘を揺さ振ったりしましたが、すでに妹娘はこときれていました。

「そんな……なぜ……どうして……報い? ……ああ……」

 王子が混乱を極めている間に姉娘はさっと妹の指から指輪を抜き取ると、そのまま家を飛び出しました。

 計画的な犯行ではありません。姉娘はこれからどうするか一生懸命考えました。

 とりあえず、このダイヤをどこかで売ろう。これほどのものならいい値で売れるはず。そうしたらどこへだって逃げられるわ……そう彼女は考えました。

 もう少し行けば隣町。そこに着きさえすれば……。

 ところが彼女の行く手を遮る者達がいました。警察ではありません。もっとたちの悪いもの……山賊達でした。

「おやおやお嬢さん。こんな場所に一人で来ちゃあいけないねぇひっひっひ」

「……! い、いや……」

「『あるもの』全部いただいていくよ、ひっひっひ……」


 翌日、彼女は隣町で保護されました。逮捕でなく、保護。

 なぜなら彼女はダイヤも衣服も貞操も正気もすべて奪われていたからです。

 その後彼女は一生病院ですごしました。


 そうそう、王子がその後どうなったか話していませんでしたね。彼も正気を無くして一生城の地下に住んでいたそうですよ。


 さて山賊はダイヤを手に入れるとすぐさま故買屋に売りました。その後はようと知れません。まあ山賊なんてろくななくなり方をしないでしょう。

 ダイヤを買った故買屋、実はそんなものを買っている場合ではありませんでした。

 その地方を牛耳っている暗黒街のボスに上納金を納めなければならなかったのです。が、ダイヤのあまりの美しさについその金を注ぎ込んでしまいました。

 そんなことをしたらどうなるかは……まあ想像に易いでしょう。


 さあダイヤはどうなったか? しばらくはボスの元にあったのですが、暗黒街同士の争いが悪化し皆がダイヤから目を離した間に、とある貧しい生まれの、盗みで生活をたてていた姉弟が奪い去りました。

「これはすごいわ……これさえあれば私たち……」

「うん、『幸せ』になれるね!」

 姉弟はそれがもたらすのは幸せだと信じています。しかし……。







 ……おや? 店仕舞いの時間のようです。仕方がありませんね、ではこれで……。

 え? 結末を知りたい? それはそうでしょうね。

 その後もダイヤは各地を回ったそうです。人々を不幸にしながら。そして今は――




……あなたの指にあります。




 ……驚かれましたか? なぜわかるか? なぜなら僕はそのダイヤだからです。化身、とでも言いましょうか。

 いや、実に今まで大変でしたよ。ある時は毒薬を作って王子に渡し、ある時は山賊となり……。

 なぜそんなことをするのか?質問の多い方だ。楽しいからですよ。人々が苦しむ姿も、各地を旅するのも。






 さあ、最後にもう一つだけ質問を受けましょう。




 その話は真実か、ですって? ふふふ、もうお気付きなのでは? なぜならあなたの緊張した表情がゆるんだので。


 ええ、すべて真実です。

 そして

そ の ダ イ ヤ の 名 前 は … 




・MYSTERY DIAMOND“LIAR”・

-END-

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