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【短編】迷子とおいかけっこ【朗読】

作者: 赤堀堂馬

お題:感情の域をこえる/「負けでもいいよ」/迷子とおいかけっこ


3つのお題を組み合わせて、朗読用にさっと書いたものです。

よかったら使ってみてね。



人気のない旧校舎、明日になれば私達がここに訪れることはない。


「卒業、か」


皆で写真を取って、大はしゃぎした後、トイレに行くと言って教室を出た私はふと感慨深くなって旧校舎へと足を向けた。


「志保ちゃん」


 振り返ると、そこには幼馴染の美奈子がいた。ちゃんと姿を視界に入れたのは三年ぶりのような気がする。


「志保ちゃん、今日で最後だね」


 私が黙っていても、美奈子はニコニコと話しかけてくる。


(あぁ、吐き気がする。美奈子が悪いんじゃないってわかっていても、顔を見るのが辛い)


 美奈子と私は幼馴染だった。家も隣同士で、一緒に遊んでいた。

 美奈子ちゃんは何でもできるわねぇ、美奈子ちゃんを見習いなさいこれが母の口癖だった。何をしてもいつだって美奈子ばかりを褒める。


「今更何の用? 三年間、ずっと無視してたのに」


 私は私、美奈子の模倣品ではないのだ。賢い美奈子は私の醜い感情まで読み取ったらしく、中学3年間私の無視に付き合ってくれていた。


(最後だから、話しかけてきたか)


 母の話では、美奈子は東京の全寮制の学校へ行くという事だった。


「し、志保ちゃん! かくれんぼしようよ」

「は?」

「志保ちゃんが鬼ね!」

 唐突にそういうと、美奈子は階段を駆け足で降りて行った。

「意味わかんない……」


 もし私がかくれんぼに付き合わずこのまま帰ってしまったら、とは考えないのだろうか。賢い美奈子のことだ、それくらいわかっているはずだ。わかっていてこういう事をするのは、本当に会うのが最後になるかもしれないからだろう。


(……最後だし、つきあってやるか)


 大きくため息を吐くと、十数えてやる。


「もーいーかい?」

「もーいーよ」


 声は籠っていたがすぐ近くに聞こえた。私はゆっくりと階段を降りて、隅っこにある掃除用具用のロッカーをノックする。


「……何があったの?」

「だって、今日が最後だから」

「卒業式だもんね。東京の方の学校に行くんでしょ? 全寮制だっけ? 美奈子は昔から賢いもんね、私と違って」

「私ね、ずっと待ってた。志保ちゃんが許してくれるのを」


 そういう美奈子の声は震えていた。美奈子が悪いのではない、美奈子を誉めそやす私の両親、そしてそれに嫉妬した私が悪いのだ。だからいくら美奈子が許されたくても、そもそも許される罪すら彼女は犯していない。永遠に許される日が来ないとわかっていて、そう口にしているのだ。


「志保ちゃんが私と一緒にいたくないんだなって気づいたから、がんばって話しかけないようにしてたんだ。他の子に喧嘩したの?って言われてもあいまいに笑ってた。でもね、今日は卒業式だよ?もう我慢できないよ、このままさよならなんてやだよ」


 ロッカーの中で美奈子は泣いているのだろう。感情の域を越え、震える声で溜まっていた言葉を私に投げつける。


(あぁ、許されないのは私のほうだ)


 美奈子が賢いのをわかっていて、無視をさせ続けた。それでも私は母に美奈子と私は違うんだと認めてほしかった。だが、美奈子と離れても母は別の事私を比べるだけで、結局私を認めてくれる事はなかった。


(母に認めてほしいのに、それが叶わない私はまるで迷子を捜しているようだ)


 終わらない迷子とのおいかけっこ、それに決着をつけるには、自分から踏み出さないといけないことなんて、ずっと前からわかっていたのに。


「……美奈子、私の負けでいいよ。私が悪かった、だから出てきて」


 私の声に、美奈子はずずぅっと鼻水を大きくすするときぃっと小さく扉を開ける。その隙間に手を入れ、ばぁんと開けてやると鼻の頭を真っ赤にして泣いている美奈子が入っていた。


「……みぃーつけた」

「志保ちゃん、やっと見つけてくれたね」


 そう言って美奈子は私に抱き着いたのだった。



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