最強ドラゴンレオナは惰眠したい
「よし! 今日こそは朝まで寝るぞ!」
夜の帳が下りた時間帯、ドラゴンが山の頂上で寝ようとしていた。
頂上では、土が四方八方隆起しているため、ドラゴンには他の山より寝やすい環境であった。
付近には、一切植物などは生えていないのが確認できる。
「小汚い人間が! 我がドラゴンのレオナと知って、どうして夜襲をしかけてくる? 我は、九十年ほど熟睡できておらず眠いのだ。寝かせよ!」
ドラゴンレオナは寝ようとしていたが、人間のようなにおいを嗅ぎ起き上がる。
人間たちは、山の主であるドラゴンの言葉を無視して矢を放ってくる。
レオナは、面倒くさそうに口から火球を人間の元に飛ばした。
器用に火球で矢を燃やし、攻撃も避ける。
けれども、人間たちは怖めず臆せずに武器を持ってレオナに向かってきた。
レオナは大きな溜め息をつくと、弱い人間たちが再び雄叫びを上げる。
ドラゴンは上に前足をゆっくり上げ、勢いよく地面に叩きつけた。
土煙とともに衝撃波が生まれ、大勢の人間たちを吹き飛ばしていく。
レオナは、人間たちが剣を杖にして立ち上がる姿を眺めた。
翼のある大きなトカゲは溜め息をつくと、人間たちに話しかけた。
「さっさと人の国に戻るがよい。我は、お主たちと争うつもりも命を取るつもりもない。我は眠いのだ。先ほども言ったが、寝かせよ」
圧倒的な力を見せれば、帰っていった種族がほとんどであった。
にもかかわらず、人間の主導者が声を荒上げ兵士たちの士気を上げた。
「この強さだ。きっと、財宝は物凄いに違いない。行くぞ!」
レオナは眠たそうに欠伸をする。
次の瞬間、レオナの目元に槍が飛んできた。
命の危険を感じ、咄嗟に顔の周りに手で覆う。
刹那、更に眠気が襲ってきたから鬱陶しくなった。
次の瞬間、人間たちを風魔法で遠くまで吹き飛ばすことに成功する。
レオナは辺りの炎を消し、確認のためににおいを嗅ぐ。
山の頂上付近には、誰もいないことが解った。
レオナは安心して寝ようとしたが、朝日が昇っていくのが見えた。
レオナは深い溜め息をつき、独り言を呟いく。
「なんで、九十年もず~~と寝かしてくれない! 我は、ただ寝ていたいだけなのだ!」
レオナは、住み始めたときはよかったなと思い返す。
なにせ、レオナ自身がドラゴンの中では有名でもなかったからだ。
今の山に住んでから百年が経った頃、自称世界最強のドラゴンと住処のことで喧嘩をした。
結果的に、レオナが自称世界最強のドラゴンに余裕で勝ってしまう。
後に知ったことであるが、レオナが勝ったドラゴンは本当に世界最強で有名だったのだ。
なので、レオナの元に世界最強の称号はある。
レオナが世界最強の称号を得てからは、毎日のように奇襲を受けることに。
レオナは九十年ほど襲撃を受けたので、転移魔法で逃げるべきか迷っていた。
彼女の転移魔法は、世界を横断できるほどの力がある。
しかも彼女自身が使うと制御できないので、どこの世界に行くのか分からない。
故に、レオナは最終手段として考えている。
しかし、最終手段はすぐに使う羽目になってしまった。
なにせ、人間たちが九十年以上も昼夜問わずに襲ってきたのだ。
レオナは追い払うのも面倒になり、早く抜け出したいという勢いで転移魔法を使う。
レオナは転移魔法を使ってみたら、見知らぬ場所の空にいた。
――ここはどこ?
――いや、それよりも飛ばないと……ってあれ?
――翼がない……?
――ヤバい、このままだと死ぬ。
レオナは後ろを見てみるが、翼などは存在しない。
存在しているのは、“人間の手”のような小さな手。
パニック状態に入ってしまい必死に手を動かすも、飛ぶことはできないので落下した。
レオナが地面にぶつかる瞬間、“死”を覚悟したが――。
「危なっ~~!」
レオナは、地上に落ちた寸前のところで体が宙に浮いた。
安堵する間もなく、体が地面に落ちた。
レオナは腕の力で仰向けになる。
横を見てみる何もない殺風景な平原にいた。
しかし、脚を動かそうとすると動かない。
上半身を逸らして見てみると、脚がなかった。
「ギャ~――! あ、脚が。我の脚が!」
レオナは急に痛みを感じ始めたのか、上半身だけで暴れ始める。
消えるのが嫌で死ぬのが怖い。
なので、治癒魔法を使って治そうとするが発動しなかった。
「え? なんでなんでなんで、魔法が発動しないのよ? 魔力の元であるマナを感じれば……って感じられない。どういうこと」
レオナは、自問していたが答えは出ていないので、何度も同じ問いを繰り返していた。
しばらく頭が働かないでいると、彼女の耳に人間の声らしき声が聞こえてくる。
「今日はこれで何件目なんだ? 俺はもう寝たいのに……」
レオナは身を隠そうとするが、すぐに人間に見つかってしまう。
人間がレオナを見て驚いた顔をした。
「意識は……あるみたいだな。上半身は動けるか?」
レオナは、人間に心配されているのが判ったので頷いた。
人間を睨みながら訊いた。
「何故、人間が我を助けるようとする?」
「喋れるのか。だったら話が早いな。俺の背中に乗れ。俺の家で説明してやる」
レオナがなかなか乗らなかった影響か、人間が背中に担ぐ。
――え?
――人間が我を持ち上げることはできないはずなのに、どうしてできる?
レオナは、現実が認められずことができないのか、空いた口が塞がらないでいた。
レオナは人間の家の前に連れていかれると、現実に戻り叫び始めた。
「人間! 我がドラゴン、レオナと知っての愚弄か?」
「俺の名前は人間ではない。俺には樹という名前がある。第一、助けてもらっておいてその態度は何だ? 今すぐに落としてもいいんだぞ?」
レオナは、ぐうの音も出ない正論を言われ深呼吸をした。
しばらくすると、樹という人間に訊いた。
「樹とやら、貴様は我が怖くないのか?」
「怖いって何が? そっちこそ、俺のことが怖くないのか?」
「我がなぜ貴様を怖がる必要がある?」
レオナは、“怖い”という感情は湧いてこない。
なので、続けて訊いた。
「貴様は何者なのだ? どうして、我を運ぶことができる?」
「ああ、そのことか。答える前に、今のアンタはどんな姿になっているのか、解っているのか?」
レオナは自身の腕を見る。
レオナは、腕が“人間”のものになっていたことを自覚した。
にわかには信じられず、自身の頬を何度も強く抓っていた。
けれども、今まで見られた腕にはならない。
「人間の姿になっていることに気付いたみたいだな。これから家の中に入るけど、何かやり残したことはあるか?」
「どういう意味だ?」
「この家の中に入ると後戻りができないからだ。……と言っても、何もなさそうだな」
レオナは黙ってしまう。
樹はレオナの沈黙が肯定と受け取ったのか、家の中に入ろうとする。
「ま、待ってくれ。入る前に、我はどうなったのか説明をしてくれ。我は何処の世界に転移をしたんだ?」
「入ってから説明しようと思ったのだが、今がいいのか?」
「ああ」
レオナが肯定すると、樹は少し間を取って説明し出した。
「ドラゴンのレオナ、アンタは睡眠不足が原因で魂だけ転移したんだ。本来なら、肉体も転移するはずだったが、何処かで詠唱を間違えたのだろう」
「エッ! じゃあ、どうして人間の姿なのだ?」
「恐らく神が来世を人間にしたからだろう。あの方は気紛れで前世と来世の種族を変えるからな」
レオナは、再び自身の身体を見る。
首を大きく振って訊いた。
「じゃあ、我はもうドラゴンには戻れないのか?」
「まだ死んではいない。だが、もうすぐ心の臓が止まるだろう」
「ま、待ってくれ。我はまだ死にたくない。どうすれば、戻れる?」
樹は重い溜め息をつく。
レオナは樹の態度が気に食わなかったのか、彼の背で暴れながら訊いた。
「戻る方法があるのだな。早く述べよ!」
「あるにはあるが、心の臓が止まっていれば、アンタの魂が別の生き物に取り付くかもしれない。いいのか?」
「現在、心の臓が止まりかけているのだろう? だったら、迷っている暇はない。さっさとやってくれ」
樹がレオナを下ろした。
すると、樹が確認のために口を開いた。
「解っていると思うが、ここは冥府だ。楽に死ねるのは今回だけだと思う。それでもいいのか?」
「構わない。人間たちは、地位などで醜い争いをしていると聞く。その代わり、ドラゴンは縄張り争いしかない。だから、種族的に人間よりドラゴンの方が気に入っているのでな」
樹は軽く息を吐くと、詠唱を始めた。
レオナは詠唱が終わったと感じて、瞼を開けみると山の頂上にいた。
周りには、鬱陶しい人間共がいる。
レオナが目の前を見てみると、人間に担がれていた。
手を動かしてみると、人間の手から変わっていない。
「えっ~~!」
レオナが叫ぶと、財宝が人間共の手に渡っているのが彼女の目には映る。
レオナは残念などという思考にはなさそうに、今はただ眠たいのか大きな欠伸をした。
人間の身体を手に入れた彼女は、数秒の間に抱かれている人の温もりで寝てしまった。