様々な思惑
「はぁ?何言ってるんですか?」
華の発言に、友菜が強めに言葉を返す。
「じゃあさっきの目はなぁに?私にはてっきり『大好きなお兄ちゃんを奪うな!』って言ってるように見えたんだけど」
華は微笑んでいる顔を保っているが、その裏にある怖い顔があった。それをいち早く感じとった友哉と奏音は(実は友菜も感じているが強がっている)
「ここは空気でいよう」「うん」
と、耳打ちで話し合い、傍観を決めた。
そんな2人のことは気にせず、華と友菜の言葉の殴り合いはさらに続く。
「なんでお兄ちゃんが大好きだと?そんなこと言ってる先輩がお兄ちゃんのこと好きなんじゃないんですか?」
「私は好きだよ。友哉くんの人間性がね。・・・お、好きって言った時動揺したね」
華は持ち前の観察眼で、友菜の動揺を見破った。
実はこの観察眼は友哉も勘づいていて、落ち込んだ俺を見つけたのは偶然でも、話を聞いてくれたのはその観察眼のおかげだと考えていた。
「ど、動揺なんて、そんなこと…」
と、ここで流れが止まった。
すると、ここぞを言わんばかりに友哉が口を挟んだ。
「なぁ、飯食わないか」
ーーー変なことを言ったらさらにヒートアップさせる。
それを感じた友哉は、この殴り合いを辞めさせる手段としてこれを選んだ。
弁当を食べないまま昼休みを終えるのはやはり嫌らしく、2人は「そうだね」と言って箸を持ち弁当に手を付け始めた。
そしてまた少し経ち
「ちなみに奏音ちゃんはお兄ちゃんのこと好きなの?」
次は奏音に質した。
「・・・・・・・・・!!」
急に聞かれたからか、びくっと驚いたあと、見る見るうちに顔が紅潮してうつむく。
「奏音は人見知りなんだ。許してやってくれ」
友哉はそうカバーするが、華はすでに察していた。
(この子も大好きなんだなぁ。ほんとに好かれてるんだな)
友菜と違いストレートで正直な奏音の反応に、華は自然に微笑んでしまう。
ーーーーーーーーーー
「そう言えば、前話した時は妹1人って言ってなかったっけ」
弁当タイムが終了し友菜たちと別れ、華と友哉で教室に戻っていた時に疑問を飛ばされる。
「あぁ、あの時はね。実は・・・」
友哉は父の再婚で奏音が妹になったことを説明した。
「へぇ。あんなに可愛い妹が増えて幸せだねぇ」
「そうだな。そして案外直ぐに心を開いてくれて助かったよ」
「ふぅん。で、2人のことはどう思ってるの?」
「ん?普通に可愛い妹だけど?ずっと兄として見守っていたいと思ってるが」
友哉の答えは華の期待通りのものではなく、ついため息をついてしまう。
そして友哉は華の心の中で『友哉は妹大好きなシスコン』という名誉か不名誉か分からない称号をつけられた。
(友哉は恋愛対象として見てないんだ。じゃあ、あっちが気持ち伝える前に勝負を決めないとね)
そう決意した華は、友哉に勇気ある誘いをする。
「ねぇ。今週の土曜日買い物に行かない?」
「買い物?俺になにか手伝って欲しいものがあるのか?」
急に誘ってこの流れになるのは当然といえば当然。ただ何も考えずに反射的に発言した華は慌てた様子で説明を試みる。
「え、えーと。それは・・・」
ーーーキーンコーンカーンコーン
が、ここで昼休み終了の予鈴が鳴る。
「お。予鈴鳴ったな。とりあえず戻ろうか」
華にとっては助かった形になったため、胸を撫で下ろし、教室へ戻った。
ーーーーーーーーーー
「ねぇお兄ちゃん。あの先輩何?」
昨日と同じく一緒に帰っている下校中、友菜が唐突に質問する。
「ん?友達だが」
「嘘だね。お兄ちゃんに女の子の友達なんてできるはずない」
「失礼だな。ちゃんと友達だよ」
「へー、そうなんだ…。どうやって知り合ったの?」
友哉は親しくなった経緯を説明する。
そこで落ち込んだ時期を言われた時、自分のせいだと気づいた友菜は顔を背けて
(私のせいで出会ってるんだ。あの時あんな態度とらなきゃよかった)
と、当時の自分の言動を悔いた。
「まぁ恥ずかしい話だよな」
「でも今はもうその事では悩んでないんでしょ?」
傍観を続けていた奏音が口を開く。
「ああ。ある時からは悩まなくなったな。ありがとう」
急に感謝を述べられ奏音は頭の上にはてなを浮かべる。
そして友菜はどんどん真実がわかっていき顔を背けることしか出来なくなっていた。
ーーー3日後ーーー
「よし。こんな所かな」
金曜日の夜。友哉は明日に控えた華との買い物の準備を一段落終えたところで一息ついていた。
(結局教えてくれなかったな。なんで誘われたんだろう)
あの後何度も接触はあったものの、初日と同じくたぶらかされて理由を教えて貰えないままでいた。
一応多めにお金を入れた財布をバッグに収め、その横に明日着る服を一式畳んでおく。その時、
バタン!
部屋のドアが勢いよく開き、ムスッとした顔の友菜と申し訳なさそうに頭を下げる奏音が現れた。
「ど、どうしたんだ?怖い顔して」
「何その準備。明日どこ行くの」
最後に?もつけないその言い方は、遠回りに「教えろ」と命令されているように感じ、友哉はそれに対抗できずに仕方なく正直に答えることにした。
「へー。あの先輩とねぇ」
「でもなんで気づいたんだ?」
なるべくバレないように行動していた友哉はバレた理由がわからずにいた。
「私が怪しい動きに気がついて、友菜ちゃんに言ったらこんなにことに…。ごめんなさい」
奏音が頭を下げる。
「あぁ大丈夫大丈夫。隠していたのはこっちだから。謝らないでいいよ」
(そうか。服取りに行った時かな)
友哉が外で遊ぶのに準備することはなく、初めてだったので怪しまれたんだろう。友哉はそう考えた。
「で、どこ行くの?何しに行くの?」
「それがまだ聞かされてないんだよ。あのショッピングモールに10時集合としか」
それを聞いた友菜は、忘れないように
「なるほど、10時にあそこね」
と小さな声で復唱し、しっかりと脳に刻んだ。
「まあ楽しんでね。じゃ」
(意外だな。友菜がそんなこと言うなんて。でもそうだな。せっかくだから楽しんでこよう)
(尾行しよう。そしてあの先輩が何考えてるかちゃんと見てこないと)
と、友哉は友菜の思惑に気がつくことなく、その日を迎えた。
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