剣と弓と短剣と刻まれた文字
ラミアスさんに丁寧に説明を受けている間にクエストを選ぶ為ににごったがえしていた人達が今度は受ける為にカウンターへと移動してきていた。
これ以上は迷惑になると思いお礼を言いその場を移動すると、ラミアスさんの前にはすぐに列が出来上がり、その様子を見ていた俺は邪魔にならないように離れると今日の分のクエストを受ける為に貼っている物の内容に目を通す。
昨日と同じ用にハニービーやキュウのクエストもあるが違う物にしようかと考えていると、すぐ後ろに人の気配があることに気づき、振り返ろうとした俺にその人物は声をかけて来た。
「こんにちは! 何かいいのありました?」
振り返るとそこには一組の男女がいた、背中に弓を持ち、革の防具に身を包んだ人で、先ほどの声は男のものだった事から声の主は彼だろう。
その彼の隣には杖を持ち、白の服にプリーストの紋章を付けている女の子がいた。
なんだろう? 何処かで会ったような気がするな~などと思いなからも初対面の人に対する基本である挨拶を返す。
「こんにちは、まだ見てる途中ですがこれと言ってはないですね、報酬も少ないのばかりですしね」
「あ~ですよね、俺達も昨日ギルドに登録してクエスト受けたんですけど、あんまり稼げなかったんですよ」
昨日登録したと言うのを聞いて駆け出しは皆苦労してるのかな? 俺も稼げなかったしな~と考えながら改めて二人を見ると、やっぱり何処かで会っている気がするが思い出せず、聞いてみた方が早いか、と気になっていた事を聞いてみる。
「すいません、気のせいかもしれないんですが、俺って何処かでお二人にお会いしてませんか?」
そう聞かれた彼等はお互いの顔を見合わせた後、今度は女の子が口を開いた。
「昨日会いましたよ! ハニービーと戦っている時に対象が被っちゃって、謝ってすぐに移動しちゃいましたけどね!」
そう言われて昨日の出来事である、ハニービーに弓矢が刺さっていた時に頭を下げてすぐにいなくなった人達を思いだし、あ~その時か! と何処かで会ったような気がしていた原因がはっきりした。
「その後東側の荒野でも会ってますよ? あの時は逃げるのに必至で声かけれませんでしたけどね」
あの時逃げてたのお前らかよ! と内心ツッコミを入れながらあの時の状況を思いだす。
「あの時も会ってたんですね、そういえばあれ何から逃げてたんです? ヤバそうな雰囲気だったんで俺も逃げて来てるの見て即逃げちゃって」
よほどの事があったのではないかと気になって質問した俺の言葉を聞き、男の方があの時はヤバかったな~と笑いながら話、そんな彼を見て「も~! 笑い事じゃない!!! マジェがあんなことしなかったらああはなってなかったんだよ!」と彼女の方は少し怒りをあらわにした。
「いいじゃん、楽しかったし! あ、そうだ! まだ名前言ってなかった!」
そういえばまだお互いに名前すらも知らない状態で話をしていたなと、マジェと呼ばれていた彼の言葉でようやくお互いに自己紹介を始めていく。
「俺はマジェスティ、マジェでいいですよ!」
「私はカッチェス、私もカッチェで大丈夫です!」
「わかりました、俺の方の名前はコウです! よろしくお願いいたします、マジェさん、カッチェさん!」
「あ、敬語じゃなくていいですよ! こっちも普通にしてもらった方が気が楽なんで! なぁカッチェ?」
「そうだね! 私達も敬語は止めて話したいし、そっちの方が嬉しいしね!」
出会ってからほんの少しの間の会話ではあるが、昨日の様な一人ではなく他の誰かとの会話に心躍らせて、そう言う二人の顔を見ながら俺は……
「わかった、それじゃ二人ともよろしく!」
手を伸ばして握手を交わす。
「それで? 荒野で追われてた理由は結局なんだったの?」
お互いに挨拶をかわし、少し打ち解けることができた俺は流されていた事を再度聞くとカッチェがちょっと聞いてよ! と口を開いた。
「荒野にいるキュウの討伐クエスト受けて行ったんだけど、キュウ事態は強くないし簡単でしょ? それでいきなりマジェが面白くない! とか言い出して、町を出てすぐの所から少し奥の所までの間にいたキュウ全部に一発殴って逃げるってことをやりだして、最終的にはキュウが30匹ぐらいになっててそれがずっと追いかけてきたのよ」
「いや~あれは楽しかったぜ!」笑顔でそう言い放つマジェにカッチェは頭を叩き「楽しくない!!」とお怒りだった。
ってか待てよ! ってことはあれか? 俺が行った時にキュウがいなかったのは全部マジェのせいってことじゃねぇか! 何してくれてんだよ!!
「いや~キュウなら大丈夫だと思って遊んでたんだよ、でも夜になったあいつらがあんなにヤバいとは思わなかったな……」
昼のモンスターは夜になるとその凶暴性が目を覚まし、昼間とは違う姿で襲い掛かる、その知識はあったが実際には見たことはない、夜に外に出ると死ぬ、そうじいちゃんに教わっていたから夜に出歩くことは今までなかったからな。昼のキュウは花の球根に足が生えているような奴がだ夜は……?
「なぁ、夜のキュウってどんな姿してたの?」
昼間にみたキュウの姿を思い出しながら聞いてはみたが、あの外見からだと夜になり、凶暴性が増したとしてもそれ程脅威になる用には思えない。
「えっとね、体から2本生えていた腕のような物が何本にも増えて、全身はトゲトゲで人で例えるとお腹の部分から口が表れて、その口からも大量のうねうねした触手を出し、頭から生えてる茎に花が咲いて、ぼんやり全身が光ながら追いかけてくるの………」
なにそれ怖すぎる! そんなのが30匹とかで襲ってきたら誰でも逃げるわ!
直に見たカッチェからそんな風に説明をされると想像もしてしまうが「うわぁ~……」とそんな言葉しか出せなかった。
「もうやらないでよ! マジェ!」
「わかってるって、ごめんごめん」
ほんとにもう……っとまだ少し怒っているカッチェに対しマジェはもうあれは満足したといわんばかりの笑顔をしていた。仲いいな~と俺が見ていると肝心な話を思い出したようにマジェが口を開いた。
「あ、そうそうカッチェあの話しよう!」
マジェのその言葉でカッチェも肝心な話があったんだというふうに話をきりだす。
「あ、そうだった! えっとね、よかったらなんだけど私たちとクエストに行かないかなって思って声かけたの、私たち二人とも後衛職だから、前衛の人がほしいなって話してて、昨日会った時に同じ様に冒険者になったばかりの人みたいだなって思って、そうゆう人ならお願いしてみようってマジェと言ってたの」
声をかけられたわけを聞き、なるほどね。と納得した、俺が誰かを誘うとしたら同じ様に登録したばかりの人、下級冒険者の中でも一番下の方の人に声をかけただろう、自分の実力以上の人と組んでもその戦いについて行ける自信なんてないのだから。
「話はわかったよ、でも俺見てわかる通りまだ防具とか盾ももってないよ? あるのはこの剣だけ」
そう説明しながら鞘に収まっていた剣を抜き、見せると二人から「ああああ!!」「それって!!」
と同時に声が上がる。
マジェは背中の弓を、カッチェは腰の後ろに付けていた何かを俺の前へと出すので見てみると、マジェの弓は一般的な弓と作りは同じ物だが所々普通の弓とは違う形をしており、その最も異なるものが弓の木の部分だ、いくつかの部分的な名前が付いている所に刻まれている読めない文字、その文字は俺の持つ剣に刻まれているものと同じもののように見える。
そして驚きながらもカッチェが差し出した物にも目をやるとその手には短剣が乗せられており、真っ黒な刀身部分には読めない文字が刻まれていた。
呆然と二人が見せてくれた物に目を奪われている俺を見ながら持ち主である二人は顔を見合わせ、探し物が見つかったような、嬉しそうな顔をして俺を見ていた。