キュウ
小走りで戻った俺はそのままギルドに直行した、途中カマウリさんが店の前で仁王立ちしているのをまた見かけたが、手で軽く挨拶をするだけに留めた。急がなくてもクエスト自体は夜でも受けることは出来るらしいのだが昼と夜とでは危険度が全く違う。町の外は灯りなんてものはない、夜になってしまうと頼れる灯りは月明かりぐらいなもの、そんな場所に初心者が飛び込むなんて無謀もいいところだ。昼は冒険者の狩場だが夜の外は……モンスターの狩場になるのだから。
小走りで進み続けるとしだいに薄汚くボロっちい扉がオマケていどに付いている建物、ギルドが見えた、そのまま扉をくぐり中に入ると登録した時はあまり居なかったた人が今は大勢いる、目的である報告をするためカウンターを見ると5人ほどいる受付に列が出来るほど人がならんでいたので先に次のクエストを見ることにしよう。
クエストの数は自分が受けた時より少し減っていたがまだ受けれるものがあるようで内容を見ていき自分に出来そうなクエストを探してみる。
「キュウの討伐、数3、報酬銅貨3枚か」
報酬は少ないが数も少ない、1匹につき銅貨1枚がいいのか悪いのかもわからない。なにせ……キュウという名前がどのモンスターをさすのかわからないからだ、先ほどのクエストで外に行き、周辺を見ていたのだが見つけたのはハニービーとお前の身体どうなってんだ? と思うようなコーンに脚が生え、二足歩行をする奴だけだった。
今の夕方より少し明るい時間というのを考えると、次に受けるものはあまり時間がかからない用なものにしたい。
数が少ないこと、時間がかからないような気がすることを優先しこのクエストを受けるか、それとも他の奴にするか考えながら貼り付けられている他の内容も見ると、討伐数もそれなりにあり、時間がかかりそうなものばかりだ。
選択肢はなかったようでキュウのクエストを受ける事を決め、カウンターを見ると並んでいた列はなくなりすぐに対応してもらえるようになっていた。登録をしてくれたラミアスさんを見つけ近付くと向こうもこちらに気ずいてくれたようで軽く頭を下げ挨拶をしてくれる。
良かった~、覚えててくれてる! と内心喜びながら討伐対象であるハニービーの報告をする事にした。
「ラミアスさん、戻りました。報酬させていただいてもいいですか?」
「はい、ハニービー討伐でしたね、針はもって来てくれていますか?」
「はい! これでいいですかね?」と腰にある袋から5個を取り出し渡す。
「5個確認しました、お疲れ様です! こちらが報酬の銅貨5枚です、お受け取り下さい」
差し出された銅貨を受け取り袋に入れ、落ちないようにと袋の口を紐で縛り付け、急ぎぎみで次の話を切り出そう、あまり時間がない。
「このまま次のクエスト受注お願いしてもいいです?」
「大丈夫ですが、今から行くのですか? 夜になっちゃいますよ?」
「そう思って討伐数が少ないやつを選んだんですが相手がどんな奴かわからなくて……キュウって名前のモンスターなんですがわかりますか?」
「キュウは花の球根の用なモンスターで町の東側にだけいるモンスターです、見たことが無くても行ってみればすぐにわかると思いますよ、足があり、二足歩行している球根ですので」
俺の住んでいた村はたしかにモンスターもほとんど居なかったからなんとも言えないのだが本当に変なモンスターがいるな! この町は!!
「ありがとうございます、クエストを見ると討伐数も少ないみたいですし、行っていいですか? 夜迄には戻ります」
「そうですね、この子だとあまり時間もかからないでしょうし大丈夫そうですね、でも必ず夜までに戻ってくださいね!」
真面目な顔でそういうラミアスさんに俺は戻ると約束し、あまり時間がないのですぐに町の東に向かった。
トリーアの東側、そこは人通りも少なく店もない、住人も住んでおらずただただ………墓地が広がる場所だ。
ここを訪れる人といえば仲間や大切な人を失った人、そんな人達が、そんな人達だけが通る道、例外は東に向かう冒険者だけだろう、なにせ東には何もないのだから……死以外は。
ギルドを出た俺は東門に向かった、門にはやっぱり警備をする人がいてモンスターの襲撃に備えている。
門にたどり着いた俺は南側であった警備の人に対する対応と同じ様に軽く頭を下げ挨拶をし門を出た、南側は花や木がはえていたのに対しそこまで離れていないはずの東側には荒野が広がっていた、草や木は枯れ水もなくただ荒野が続く道、全く別の場所に来たような気になるその場所に俺が受けたクエストの対象、キュウがいるらしい。
早速辺りを見渡すが何もなく、しかたがないと荒野の奥へと進みながら周囲を見ると枯れたものだけが目にはいる。
空を見上げるとすでに夕方になっていた事に気づき急いで獲物を探すと1匹のキュウを見つけた、キュウの討伐証明に持ち帰るのは頭から生えた茎とそれに生えている葉っぱだ、ラミアスさんの対応と報酬から考えるとキュウ事態の強さはハニービーより下だと考える、無警戒で荒野をテクテク歩くキュウに剣を抜き、斬りかかった。
剣を縦に振きった後にキュウを見ると当然だが縦に真っ二つになり絶命していた、周囲を警戒しながら茎と葉を取っていると真っ二つになった体の片方に不自然な膨らみを見つけ、不思議に思いゆっくりと葉をめくっていく。
キュウ事態の体は球根と同じようなもので何枚の葉が折笠待っており、その間にあるものへと手を伸ばし掴み取って見ると青い色をした石を見つけた、これが何なのかはわからないし今は時間がない、石を腰に下げている袋へと入れ、もう一度周囲を見渡すと地面に埋まっているキュウらしき物体を見つけた、頭部しか見えてはいないが茎とそれからなる葉っぱから同じ個体だと判断し、剣を構えながら走る。
距離は近く、すぐに剣の届く範囲に来ても獲物は逃げることなく潜ったままだ、俺はそのまま地面に突き刺すようにキュウを刺し、刺した瞬間から少しの間動いていたのが収まってから回収する。
そして改めて周囲を見渡すが何もなく、なにもいない。
空を見上げるともう夕方を過ぎ暗闇が広がりつつあった、あと1匹……だがもう戻らないとまずい、急いで探すか諦めて帰るか……どうしようかと考えていると東の奥から一組の男女が走ってくるのが見える、その表情は必至で焦りを感じさせるものであり、「これは……やばい奴だな」と判断した俺は即逃げた。
走って走って、走り続けて途中何かいた様な気もするが今はどうでもいい! とにかく逃げろ! あの二人、その奥に居る者は間違いなく俺に死を運ぶ者だろう、防具もない、盾もない、あるのはこの剣だけだ、そんな俺がどうこうできる事なら俺より人数で上回っているあの二人は逃げていないのだから。
「はぁ、はぁ、はぁ」心臓の音がうるさい、息が苦しい。
足をもたつかせ走り続けた俺は門まで戻ってきていた、後ろにいたであろう二人の姿はなく、その二人が逃げる原因になったであろう者もいない、フラフラになりながら門までたどりついた俺の様子を見ていた警備が町の外へと警戒の目を向けているが何もいない、いったいなんなんだ?という表情で俺を見ていたのを感じ息を整え、落ち着いてきた俺は恥ずかしくなりその場を後にする。
ギルドに報告しなければ、倒せませんでしたと。
クエストを達成できていないことを思うと足取りが重い、でも報告はしないと……。
走り疲れた体を無理やり動かしながらギルドにたどり着き、扉を開くとそこはもうお祭り状態だった。
ギルドの中では飲食は可能でクエストを終えた冒険者が集まり顔見知りやその場ののりで騒ぎ立てもりあがっているのが今の自分にはそんな元気はなく、それでもせめて見られている姿だけでもかっこ悪くないように疲れて丸めていた背中を伸ばし何もなかったかの様にクエストカウンターに座っているラミアスさんの元にいく。
「ラミアスさん、ただいま~」
「あ、コウさん! よかった~夜になってもまだ戻っていないみたいなんで心配してたんですよ!」
「それが……キュウのクエスト、終わらせることができませんでした、二匹は倒したんですがあと一匹がみつからなくて」
「そうでしたか、仕方ありませんよ、あの時間からでしたしね。クエスト自体は失敗とさせていただきますが倒した二匹分の討伐証明を素材として買い取りさせてもらうことができますがどうしますか?銅貨2枚分になりますよ?」
クエストに失敗していても回収してきた物は買い取りをしてくれる、金銭面で困っている俺にとってはかなりありがたい申し出だ。
「ではそれでお願いします!」
そう返事をした俺は袋から茎と葉を取りだし手渡すと素材代としての2枚を受け取った。
「ラミアスさん、安めで泊まれる宿ってどこかいありますか? まだ決めてなくてこれから探さないとダメなんですよ」
本来なら自分で探そうと思ったことかもしれないが今の俺は疲れ切っていたためそんな余裕はなかった、すぐにでも飯を食い寝たい!今はこれしか考えられなかったのだ。
「それならここを出て北に行くとすぐにありますよ、たぶん向こうから声をかけて来ると思うので迷うこともないと思います!」
「ありがとうございます、兎に角行ってみます! 今日一日ありがとうございました!」
お礼を言い、疲労感に包まれている体を引きずるように扉へと歩きながら手を振りギルドを後にした。