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始まりの一歩

 晴れ渡る空の下、獣道を歩き、町へと向かう人影があった。


 どこから来たのかもわからないその人影は魔物がうろつくこの世界で武器も持たずにただ前を向き、歩き続け、目的地である町へと向かって行く。


 何かに秀でているわけでもない、何かを持っているわけでもない、そんな人影が。


 そんな自分が。


 歩き出したのはなんとなくだ、貯めていた金を持ち、生まれ育った村を出たのも。


 何かを成そうとしたわけでもない、何か出来ると思ったわけでもない。


 ただ、なんとなく動こう、そう思ったのが始まりで、俺は村を出ることにためらいもせず、町へと向かう為に獣道を歩き始め、ただなんとなくこう思った。


 「冒険者になろう」




 昔から一度決めたことはやる、そう自分で決めているのもあるが、ただなんとなく、自分の退屈な何かが変わるのではないか、変えられるのではないか、そんな思いもあったのだろう、でも動き出すのにそれ以上に必要な物もない、そんな気がするんだ。


 ただ、なんとなく。


 そこからはじまってもいいじゃないか、それがすべての思いであり、意思であり、自分自身なんだから。





 獣道を歩き続け、目的の町が見えて来るとまず目に付いたのは町の出入口であり、防衛拠点でもある門で、町を守る為に門に配置されている人達が常に町の外を警戒し、中の安全を守っているのだろう、町に入る為にはまず彼等に許可をもらう所からだろうか?。


 獣道を抜けた後、町へと続く道を歩きながら入るにはどうすればいいのかを考えていると門へはすぐに着くことになり、とりあえず普通に通ろうとするがすぐに止められる事になった。


 「お~い! 兄ちゃん止まってくれ、あんたどこから来たんだ?」


 そう尋ねて来た人の視線は俺の服装、持ち物を見ている様で、不審というより不思議に思っている、そんな顔を表情に出しながら声をかけてきて、嘘をついても意味がないからと自分がここまで来た経緯を話す。


 「俺はここから南に行った所にある村から歩いて来ました、中に入れてもらえないんでしょうか?」


 「南の村? 確かエルテ村だったか?あそこからきたのか?」


 俺の村、エルテはここの町から一日あれば普通に着く、それぐらいの距離しか離れてはいないんだ、村の名前ぐらい知っている人がいてもおかしくはないだろう。


 「そうです、エルテから来ましたけどどうかしましたか?」


 「いや、そうじゃないんだが、見た所手ぶらの様だが何しにトリーアまで来たんだ? さすがに外に出る時は何か持っていた方がいいぞ?」


 どうやら手ぶらで外から人が歩いて来たという事が町をモンスターから守っている人からすればおかしい事だった様で、言われてみれば確かに考えがなさ過ぎたようだ、棒ぐらい持っていればよかったか。


 「そうですね、少し考えが足りなかったようです、すいません、次からは気を付ける様にします。

それで、この町に来たのは冒険者になる為に村から来ました、ここで登録が出来ると思ったんですが……違いましたか?」


 俺の言葉を聞き、少し驚いた表情を見せたその人は、手で顔を覆い、やれやれと言葉が聞こえてきそうになるほど呆れたように首をなんどか横に振った後、町の中を指さしてギルドはあっちだ、と教えてくれた。


 「ありがとうございます! 早速いってみますね。」


 お礼を言い、中へ入る許可を得た俺はそのまま中に入り、通路の両脇に立ち並ぶ店の多さに思わず足を止め、立ち尽くす様に見渡してしまう。


 門の外から見える景色と中に入ってから見る景色とでは全く見え方が違い、道具屋の店前に並ぶ商品や鍛冶屋から見えている武器や防具、それらの物だけではなく、買い付けに来ているのであろう冒険者達の姿、そういったものすべてが眩しく見え、なんとなくで動き出した俺の気持ちを高ぶらせるような感覚が止まっていた足を動かし、俺の足取りを速め、店が立ち並ぶ道へと歩かせた。



 通路を歩いて進む、ただそれだけの事が立ち並ぶ店によって特別な事に感じ、店の前に並べられている品物に目移りをしながら自分にはまだ早いと言い聞かせる。


 「すごいな………」


 そんな言葉が自然と自分の口から出たのは仕方がないだろう、村では絶対に見れなかった光景を目にしているんだ、無理もない。


 「お~い、そこの兄ちゃん! こっちだこっち!」


 誰かを呼ぶ声が聞こえるが自分の事ではないだろうと、店を見ながら進む事にするが。


 「お~い! そこの手ぶらの兄ちゃん!」


 そう呼ばれ、思わず自分の両手を見た後に今の声は自分を呼ぶものだったのかと気が付く。



 多分自分の事だろうと声がした方を見ると、鍛冶屋の前で仁王立ちをし、腕を組んでいる渋めの顔をした男の人が俺を見ている。


 声を掛けられたからには何か用があるんだろうと店先に行くと、店の店主と思われるその男性は見るからに無理をしている様な笑顔で、怖い。


 「兄ちゃん冒険者になりに来たのか?」


 「確かにそうですけど、なんでわかったんですか? 俺こんな格好ですよ?」


 そう言いながら店の店主に見せた俺の姿は、村の人間が着ているどこにでもあるような普通の服で、とても冒険者になろうとしている人の姿ではないだろうと自分でも思っているのだ。


 「そんなの簡単だ、この町、トリーアに来る人間ってのは外から来た商人か冒険者になる為に来た人間かのどっちかがほとんどなんだよ、冒険者にとっては始まりの町って言われるぐらい駆け出しが集まって来る町だし、あんたは荷物も持ってない手ぶらだ、だからそうなんじゃねぇかって思ってな!」


 自分にその考えがなかったから気づかなかったが、見ている人はちゃんと見抜くんだなと思いしらされた、田舎者って呼ばれたしな。


 「それでな、兄ちゃん何も持ってないんだろ? よかったらうちの店で買っていかないか? 特別に安くするぜ!」


 確かに今の自分は何も持っていない、これから冒険者になるならどっちみち買う事にはなるんだし、安くしてくれるならここで買う約束をするのもいいかもしれない。


 「そうですね、安くしてくれるならここで買います! ちなみに剣を買うとしたら値段はどれぐらいになりそうですか?」


 村でも剣なんて買ったことはない、でもここで安めの値段を聞いておければ後々他の物を買う時にやくにたちそうだ。


 「そうだな、買ってくれるなら剣は銀貨2枚でいいぞ! だが登録はしてるのか?」


 銀貨2枚ぐらいなら買えるなと思ったが、登録という言葉を聞き、なんだそれ?と首をかしげる。


 「なんだやっぱりまだだったのか、冒険者登録のことだよ!」


 そこまで言われてやっと理解した俺はあぁぁとよくわからない声を出してしまう、登録と言われ、買い物をするのに何かに登録をしないとならないのかと思ってしまったのだ。


 「まだ登録はしてないです、ほんとにさっき町についたばかりなんでこれから向かうところなんで」


 「やっぱりそうだったのか、なら先に登録してきた方がいいぞ! 登録にも金かかるが大丈夫か? たしか銀貨1枚だった気がするぞ?」


 登録するだけで銀貨1枚も取られるのかと少し驚いたが、貯めていた金が銀貨4枚ほどある事から登録をした後でも剣を買うぐらいは大丈夫だろう。


 「お金は大丈夫ですが、そうですね、先に登録に行ってからまた来ることにしますね!」


 では後で~! と歩きだした俺に店主は後ろから声をかけて来た。


 「お~い! 兄ちゃん! そういや~あんた名前は?」


 そういえばまだ名乗ってなかったと、顔だけを後ろに向け、店にまで届くようにと少し大きめに声を届ける。


 「俺の名前はコウ! コウ・アストです!」


 歩きながらそう名乗った俺の名前を聞き、店主は微笑みながら組んでいた腕、その手の親指を立て、俺を見送っていた。

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