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最終話 希望の光

 巨大ロージョンは右足の自由を失ったことにより、自らの身を守ろうと暴れ狂っていた。このまま放っておけば折角傷つけた右足も完治してしまう。そう思った明人は一人突っ走って巨大ロージョンに向かって行った。


「待て明人……!」


 影司が引き留めようとするが、明人はそれを無視して巨大ロージョンの懐に潜り込もうとする。しかしそう簡単に潜り込むことは出来ず、明人はロージョンの攻撃を剣で受け止め、数メートル吹っ飛んだ。


「ぐっ、クソ……」

「立て、明人」

「影司……」

「先走り過ぎだ」

「悪かった」


 明人は影司の手を掴み、そして立ち上がる。


「今大事なのは……。二人で力を合わせることだ」

「あぁ、そうだよな」


 二人は武器を構え直し、暴れているロージョンの前に立つ。そして敵を翻弄するために二手に分かれ、敵をかく乱する。

 挟み撃ちの形となり、巨大ロージョンは出来る限り上半身を翻らせて明人と影司の位置を確認した。


「行くぞ影司!」

「あぁ」


 二人は一斉に斬りかかる。ロージョンは二人同時に対処することを諦めて、目の前にいる影司にターゲットを絞り、そして左腕を伸ばす。


「……これだ」


 影司はジャンプをしてパンチを躱した。すると影司を狙って伸びた腕はそのまま地面に激突し、影司はその腕の上に着地するとそのまま腕の上を走り始める。そして勢い良く駆け上がり、左肩に到達すると右手に持っている刀をそこへ突き刺した。


【グガァァァァ!】


 巨大なロージョンは更に暴れた。それによって影司は肩から振り落とされ、明人が影司を受け止めた。


「ナイス影司」

「あぁ、たたみかけるぞ」


 明人と影司はすぐに体勢を整え、痛みに悶えているロージョンに追撃を仕掛ける。

 影司はナイフを口に咥えると、地面を凍らせてそのまま巨大ロージョンの足までも凍らせる。それを視認した明人は、ロージョンの背中によじ登り、影司の刀を抜いて影司に投げ渡す。そして背中に何回か斬撃を加えてから離脱した。


【グルアァァァァ!】


 巨大ロージョンは激怒し、痛みを無視して明人たちに攻撃を仕掛ける。

 連続で繰り出されたパンチは広場に無数の穴を生み、流石にまずいと思った平刃は車に戻って広場から少し離れた位置に移動した。

 明人と影司はロージョンのパンチを躱しながら、足元に注意も払って戦わなくてはならず、徐々にロージョンが有利な環境になり始めていた。


「はぁはぁ、足が動かないだけマシだな」

「……このままでは共倒れだ。俺が囮になる」

「おい、影司!」


 影司は明人の返事も聞かず、ロージョンの周囲を凍らせる。


「隙は俺が生む。後は任せたぞ」


 影司はそう言うと、自らが作り出した氷上を滑り始め、敵の攻撃を躱しながら標的を自分に集中させる。

 巨大ロージョンは影司を狙って何度も何度もパンチを繰り出すが、それは全て空振りに終わり、地面に穴が増えるだけであった。

 影司はひたすらに巨大ロージョンの周りをぐるぐると滑り続け、巨大ロージョンはそれを追って地面を殴り続ける。すると巨大ロージョンが殴って出来た穴が繋がっていき、円型の大きな亀裂が入る。


「……そろそろか」


 影司はその亀裂を確認すると、巨大ロージョンに攻撃を仕掛ける。

 ――地面に突き刺さっている腕に再び飛び乗り、その上を駆けて巨大ロージョンの頭部に向かっていく。


「はぁあっ!」


 影司は手に持っているナイフと刀を巨体ロージョンの両目に突き刺す。

 ――巨大ロージョンは影司を捕まえようと両手を顔に持ってくる。影司は掴まれないように逃げ出そうとするが、飛び出した瞬間に足を掴まれてしまう。


「なにっ!」


 足を掴まれた影司は、そのまま地面に叩きつけられてしまう。


「ぐはっ……!」

「影司!」


 明人は剣を構え、叩きつけられたロージョンの腕に斬りかかる。

 巨大ロージョンはがっちりと影司の足を掴んでおり、再び持ち上げようと腕を動かし始めたので、明人は大きくジャンプして巨大ロージョンの手に乗り、剣を手首に突き刺した。


【グガァァァァ!】


 巨大ロージョンは影司の足から手を放し、雄たけびを上げた。明人はそれと同時にロージョンの手から降り、倒れている影司に駆け寄った。


「大丈夫か影司!」


 影司は突っ伏したまま返事をしない。明人は影司を抱き起し、巨大ロージョンが憤怒で暴れている間に影司を安全な場所まで運んだ。


「……これでコアに届くだろ」


 影司は呟くようにそう言った。

 明人はその言葉を受けて振り返り、巨大ロージョンを見た。すると影司が作った複数の穴により巨大ロージョンの足元が沈下し始めていた。


「……そんなに時間は残されていない。早くしないと奴の体重で完全に沈下する」


 明人は微かな声で話し続ける影司の声に集中した。


「行け、明人。俺は少し休む」


 影司はそう言うと、震える右手で左胸の器械を回し、変異を解いた。


「影司。ありがとな」


 明人はそっと影司を寝かせ、剣を持って立ち上がった。


「もう誰も傷つけさせない……。朝美を返してもらうぞ!」


 沈みゆく巨大ロージョンに向かって明人は走り出す。巨大ロージョンも足場の沈下に気が付いたようだが、右足は瑠璃のボルトによってドロドロに溶け始めており、影司が両目を塞いだことによって明人の位置も分からなくなっていた。

 明人は心の中で影司と瑠璃に感謝をしながら、暴れている巨大ロージョンの腕を剣で受け、直ぐに振り払ってどんどん直進していく。

 ――大きな揺れと共に巨大ロージョンがまた一段と沈んでいく。明人はその揺れに耐えながら、巨大ロージョンの攻撃を剣で防ぎながら、ついに巨大ロージョンの懐に潜り込む。


「朝美、待ってろよ。今すぐそこから出してやる……!」


 明人は剣を連続で振るい、巨大ロージョンの胸部装甲をどんどん削って行く。

 ――すると、明人の体内に生存している寄生体と明人の想いが共鳴し、オレンジ色の装甲が眩いオレンジ色の光を放つ。しかしその光に痛みは無く、温かい光となって辺りを包んでいく。


「あき……と……」


 巨大ロージョンの装甲も相当薄くなり、朝美の声が微かに明人に届く。明人は叫びながら剣を振るい続ける。するとオレンジ色の刃も光りだし、ロージョンの黒い装甲をじわじわと柔らかく溶かしていく。


「うおぉぉぉぉおっ!」


 明人は雄たけびと共に渾身の一撃を胸部に打ち込む。すると胸部に大きなひびが入り、そして巨大ロージョンの中心部で眠っていた朝美がゆっくりと目を開いた。


「明人……」

「朝美!」


 明人は剣を左手に持ち替え、黒い装甲に右手を添える。


「私……何、してたの……?」

「お前は、利用されてただけだ」


 朝美が目覚めたことにより、巨大ロージョンは動きを止めた。


「私、皆を傷付けたの……?」


 朝美は黒く薄い膜を透かして見える、海林社前広場の惨状を目にしてそう呟いた。


「お前は何もしてない……。だから出て来い」


 明人は黒い装甲の向こう側にいる朝美に向かってそう言った。


「みんなを守る力が欲しかっただけなの……。私、何も出来なかったから……」

「そんなことない。朝美は十分すぎるほど俺たちのサポートをしてくれた」

「……私、ここから出たい」

「あぁ、今すぐに出してやる」


 明人がそう言って剣を持ち直した瞬間、朝美と意志が完全に分離した巨大ロージョンが再び暴れ始めた。


「ぐわぁっ!」

「明人っ!」


 巨大ロージョンが暴れだしたことにより、明人は吹っ飛ばされた。しかしすぐに立ち上がり、剣を構え直す。


「明人、ごめん……」

「……謝罪何ていらねーよ。俺が欲しいのは、朝美の笑顔と、ありがとうって言葉だ!」


 明人は勇猛果敢に走り出し、まずはロージョンのパンチを躱す。そしてその手首を狙って剣を振るう。すると手首から下は切れ落ち、巨大ロージョンは痛みでさらに憤った。そして残っているもう片方の腕で攻撃を仕掛ける。しかし明人はそれを易々と躱し、天に向かって、太陽に向かって剣を掲げる。

 ――すると剣は更に光を増し、巨大ロージョンを両断できそうなほど大きな光の刃となる。


「はぁぁぁぁあっ!」


 明人は残っているありったけの力で大きな光の刃を振るう。それは真っすぐに振り下ろされ、巨大ロージョンの右肩に直撃する。


【ガァァァァッ! グガァァァァッ!】

「喰らえぇぇぇぇえ!」


 明人は目一杯光の刃を振り下ろす。

 ――眩く温かい光が巨大ロージョンを包み込む。光の刃は徐々に徐々に巨大ロージョンの右肩を断っていく。そしてついに、光の刃は地面まで振り下ろされる。


【グガ……ガ、ガ……】


 右半身が崩れ落ち、巨大ロージョンは動きを止める。


「朝美!」


 明人は剣を投げ捨て、淡い煙を上げている巨大ロージョンに、朝美のもとに駆け寄る。


「朝美、大丈夫か!?」

「うん。でも……」


 朝美の周りには尚も黒い装甲が纏わりついており、助け出すことが出来ない。


「今出してやるからな!」


 明人はぴくりとも動かなくなった巨大ロージョンの装甲を殴りまくる。ひびは入っているものの、それ以降何ら進展が無い。


「私が間違ってた。私は私のするべきことを見失ってた……。私、もう力なんていらない。ここから出たい……」


 朝美が黒い装甲に手を添えながらそう言うと、ピキピキ。という音と共にひびが少し大きくなる。


「ひびが……。朝美、殻を破るんだ。自分の殻を破るんだ!」

「まだみんなと一緒にいたい! またみんなで笑い合いたい!」


 朝美の言葉と共にひびはどんどんと大きくなっていく。


「私、死にたくない……!」


 ――朝美がそう言った瞬間、二人を隔てていた最後の装甲が割れた。そしてようやく朝美は巨大ロージョンから解放され、明人の胸に零れ落ちた。明人はそれをしっかりと受け止め、巨大ロージョンから離れる。


「神馬!」


 すると離れた場所から戦闘を見守っていた平刃が駆けつけてきた。


「教授、終わりましたよ」


 明人は朝美を抱えたまま影司が倒れているところまで戻り、そしてそこで平刃と合流した。


「あぁ、終わったようだな……」


 平刃は先ほどまで巨大ロージョンがいた場所を眺めてそう言った。

 黒い装甲はドロドロに溶け、そして溶け切ったかと思えば元の黒い岩に戻ってその場に転がった。


「アレは回収しておくべきだな」


 平刃はそう呟くと、明人たちから離れて広場に転がっている二つの黒い岩を回収した。そして明人たちの下へ戻ってきて、明人、朝美、影司、三人の笑顔を見た。


「良い笑顔だな」


 平刃は全員の顔を見回しながらそう言うと、影司の横に寝転がった。


「はい、瑠璃さんは大丈夫ですか?」

「あぁ、今は気を失ってぐっすり眠っているよ」

「そうですか……。全員無事で良かったです」


 明人はそう言いながら朝美を地面に下ろし、自分も平刃の横に腰を下ろして地寝っ転がる。


「少し暴れ過ぎた奴が一人いるがな」


 一番右側に寝転がっている影司は、冗談交じりにそう言った。


「別に私のせいじゃ……! あ、えっと、その……。ごめんなさい……」


 一番左側で寝ている朝美は顔を真っ赤にしながら謝った。それに対して明人たちは大いに笑い合い、雲一つ無い晴天に向かって笑い声を轟かせた。

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