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ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
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AZの発足(1)

AZができた過程のお話です。

第二章 AZの発足


 昔々、およそ四年前のことです。

 ここに登場する人物は、みな二十歳前後ですから、四年前というと、太古の歴史か日本昔話の世界です。


 あるところに、おじいさんとおばあさんが、もとい、ある田舎の県立高校に二人の生徒がおりました。一人は遠山とやま はる、もう一人は神崎かんざき しゅうといいました。


 二人は、幼稚園の頃からの仲良しでしたが、周りの人たちに言わせると、二人とも顔は良いけど性格は宇宙人でした。

 確かに顔は良いのです。遠山は、宗教画の天使のような容貌でしたし、神崎はトレードマークのビン底眼鏡をはずすと、苦み走ったイケメンでした。


 二人は、ごく普通に幼稚園へ行って、ごく普通に小学校へ通って、ごく普通に中学校に進学しました。でも、たった一つ、普通じゃなかったことがあります。

 

 それは、小学校のとき、ギャングエイジの常として、町中を探検したことです。

 いえ、それは、ごく普通のことです。変わっていたのは、そのとき、町はずれの古屋敷で、偏屈な自称科学者のおじいさんと友達になったことです。


 周りから変人扱いされてすっかり性格がひねくれていたおじいさんは、二人と会って童心を呼びさまされたのでしょうか、本当に仲良くなりました。


 そして、地球環境の悪化を心配して、これからを生きて行く遠山や神崎の行く末を気に掛けてくれました。

 

 二人は、毎日、おじいさんの屋敷へ通い、いろんなことを教えてもらいました。


 二人が中学に進む頃、おじいさんが亡くなり、研究途上の膨大なデータが残されました。

 それは、地球環境の悪化から人類を守るための研究で、中には、気象予知や気象制御装置の研究までありました。


 二人は、おじいさんの遺志を継いで、それらの研究を続行することにしました。

 というのは、遠山は、小さい頃経験した米不足が忘れられない子供でしたし、神崎は遠山のトラウマを何とかしてやりたいと願う発明オタクだったからです。


 おじいさんに教えてもらった気象予知のシミュレーションを進化させて(ハッキングの才がある遠山が、公表されているデータばかりじゃなく、あっちこっちから盗って来た非公開のデータまで使いました)二人は、将来起きるであろう食料危機の対策を講じることにしました。

『将来起きるであろう』というのは、亡くなったおじいさんの計算によれば、今後何年かに一度、大飢饉が発生することになっていたからです。


 そうです。二人は、おじいさんの研究を発展させて、将来起こる異常気象や、それによって引き起こされる農作物の壊滅的な被害(飢饉)に備えようと思ったのです。





 二人は考えました。



 現在の為政者が人類全体を救うのは、無理でしょう。


 毎日のテレビや新聞を見ると、政治家は派閥抗争に終始していますし、経済人は会社の利益追求に目の色を変えています。

 大人たちが社会全体のことを考えて行動しているとは思えなかったのです。


 では、自分で自分の命を救うため、小さなことから始めることは、できないないでしょうか。


 そう、例えば、気のあった友人とどこかで隠れ里のようなものを作って、ともに生き抜くことができないか、ということです。


 そもそも異常気象の原因は、地球温暖化によると言われています。亡くなったおじいさんも、そう言って気象制御装置を研究していました。


 二人が考える気象制御装置は、おじいさんの研究のように地球全体や日本全体をコントロールするものじゃありません。

 シミュレーションで予測されるデータを基にして、隠れ里の気候をコントロールし、効率的な農業を行うことができるようにするだけです。

 

 そのため、里には、気象制御装置と、さまざまな機械を動かしたり生活を営んだりするための動力源が必要です。


 地球上でこれ以上温暖化の原因となる二酸化炭素が増えても困ります。

 動力源は、電気、しかも化石燃料や原子力を使わない再生可能エネルギーが望ましいのです。



 そうして、神崎はおじいさんの研究していた気象制御装置の研究を引き継ぐことにし、遠山は同志を募ることにしました。



 

 桃太郎が吉備団子を配って仲間を集めたように、遠山は一人ずつ同志を集めることから始めました。





 まず、高校入学後友達になった、校内ナンバーワンの美女――森 奈津子に声をかけました。


 森は、長い髪の美しい少女で、清楚で優し気な小顔の持ち主です。ダンスが上手で、抜群のスタイルと長い髪で、圧倒的な存在感がありましたので、遠山たちの学校では、男子の三人に二人は森に熱を上げていると言われるほどでした。

 森は、その容姿とは裏腹に、思ったことをはっきり言ってのける人でした。

 ですから、政治や経済を動かす大人たちが自分の利益だけを追い求め、地域や国をダメにしている現状を面白くないと感じていました。

 政治家の仕事は人々の生活を守ることのはずです。それなのに、現実では選挙に勝つことが仕事だと思っている節があるのです。

 だから、遠山の誘いに簡単に同意しました。

 一つには、遠山が好きだったからからです。森は、遠山の透明な魂というか存在感に惹かれていたのです。

 でも、最大の理由は、遠山の話を聞いて、遠山たちがやろうとしていることこそ、自分のやりたいことだと確信したからでした。


 決め手は、遠山の台詞でした。

「人生って過程なんだ。死ぬまでゴールはない。死ぬとき満足したと思えれば、それで勝ち組なんだ」

 

 そのとおりです。

 人生とは、他の人がどう思おうと、自分で自分が勝ち組だと思えれば、それで十分なのです。


 重ねて、遠山は目を剥くような提案をしました。


「ワタシたちは、信頼できる仲間を募って、国を作ろうと思ってる。つまり、この国から独立するつもりだ。

 別に独立宣言するわけじゃない。誰も知らないところで、我々だけで完結して生活するんだ。

 食料危機が来れば、自給自足で完結した国は地面に足のついた安定した社会だ。

 人々の羨望の的になるだろう。

 そんな安定した社会で、自分たちのやりたいことをするんだ。


 ワタシたちに与えられた時間は、およそ八十年だ。

 ナツ、これからの残りの六十五年間、ワタシ達と共に生きてくれないか?」



 宇宙人遠山の感性は、普通じゃありませんでした。


 でも、その普通じゃない感性に惹かれる森だって、相当なものです。



 親と離れることになるけど。


 そう言われても、どうせ、大学から先は、下宿生活になって、就職先は地元にはないのです。


 森たちの住むような田舎では、大卒者の就職先はありません。大学教育を受けた青年の就職先は、せいぜい役場か農協しかないのです。


 そんな地域で育った森には、遠山とともに廃村へ移住して新たな国を立ち上げるプランが、それはそれは魅力的に思えたのです。






遠山は、天性の誑しです。幼馴染の神崎は当然のこと、北斗高校のアイドル森を引き入れました。

次から次へとAZに巻き込んでいきます。

次の犠牲者は、誰でしょう。

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