友鮎
短いアップが続いてすみません。話のキリが中途半端でこうなりました。m(__)m
再三再四、両親、真由子それに田所院長から菱田商事への接触を頼まれて音を上げた大輔は、ダメもとで岩崎に頼んでみることにした。
菱田商事の本社へ電話すると、岩崎は、去年から菱田食品の社長になっていた。
再来週の水曜にアポイントメントをとって、電話を切る。できるだけ早く会いたかったが、忙しくて時間がとれない、と秘書に言われたからだ。
以前は、岩崎もチーフクラスだったせいだろうか、遠山が連絡すると、簡単に駆けつけてくれた。
偉くなると、会うだけでも一苦労だ、と思った。
大輔は知らなかった。
以前も、多忙な岩崎に会うのは大変だったのだ。
遠山だから、簡単に会えたのだ。
約束の当日、大輔は菱田食品の本社ビルへ出かけた。
応接室でしばらく待たされて、現れた男に不思議な懐かしさを感じた。
大輔の他に、こっちに残った唯一の男だ。
対して、岩崎は表情も変えない。
明らかに、含むところがあるのだろう。
挨拶の後で、意を決して、
「折り入ってお願いがあるのですが……」
と言うと、冷たい声が返って来た。
「君は、向こうへ行かなかったんだね」
「ええ、こちらで結婚したんですが、子供が小さかったこともあって、どうしても義父が離してくれなかったのです」
「奥さん、田所病院の院長の娘さんだったね」
「よくご存じですね」
「ああ、知ってる。
どうして、君が向こうへ行かなかったかも。
そのために、君や君のご両親が食料で苦労していることも。
ハルは、君と切れても、君や君のご両親を助けてあげたい、と言っていたが……」
「じゃあ、どうして?」
「他のメンバーが許さなかったんだろう。
AZでハルの希望が通らないのは珍しい。
君のご両親は、みんなの同情を買えるかもしれない。
でも、君のとった態度は、彼らにとって手ひどい裏切りだった。
胸に手を当てて、よく考えるんだね。
君は、あの連中に対して、それだけのことをしたんだ」
「でも、強制されるものじゃないって、ハルも言ってくれました」
「僕が森さんから聞いた話では、君を受け入れるとき、AZでものすごい論争があったそうだ。
ハルは、AZ村には保安官と医者が必要だ、と主張したらしい。
でも、連中にすれば、医者を引き入れれば良いだけだ。
わざわざ、金のかかる医学生を受け入れる必要はなかったんだ」
そんなことがあったなんて。
息ができなくなった。
「でも、連中は、AZが助けないと、君が医者になれないことも知っていた。
だから、情けをかけたんだ。
ただし、保険が要る。
君が同行しない場合を想定して、保険をかけた。
使いたくない保険だったろうがね」
「保険って?」
「それが、小林可奈ちゃんへのレクチャーだ。
あれで、最悪、可奈ちゃんに医者の仕事を任すことができる」
「でも、彼女には医師免許がない!」
「あの連中は、独立国家を作るつもりだ。
日本の法律は適用されない。
それに、医者が近所にいないんだ。
日本の法律だって、緊急避難だと言いくるめることはできる」
背中を冷や汗が流れた。
あのレクチャーは、単に大輔へ小遣いや昼食代を支払う目的で行われたわけじゃなかったのだ。
「ハルのすごいところは、保険が二本立てだったってことだ」
「まだあるんですか?」
「ああ、長田くんを引き込んだことだ」
「あれは、どういうことなんですか?
あれの意味をご存知なんですか?」
「知ってる。
ハルは、君を友釣りの『友鮎』にしたんだ。
つまり、君を囮にして、長田くんを引き込んだんだ。
君がAZにいることで、長田くんや大川くんと親しくなった。
そして、内々に持ちかけて長田くんを釣ったんだ」
大輔は、鮎の友釣りの囮にされたのです。




