表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤツ等はみんな恋をする  作者: 椿 雅香
42/44

食料危機

 大輔の心配は、秋になって現実のものとなった。



 田所院長は、家族の食料だけじゃなく、入院患者や施設入所者の食料が手に入らないことに慌てた。

 いくら立派な入院設備や施設があっても、食料がなければ患者や入所者を受け入れることができないからだ。



 この秋、食料不足のため栄養失調になる人が増えた。


 大輔の勤める外科でも栄養失調のせいで転倒して骨折する患者が増えた。

 食料を巡る争いによる怪我人も増えた。



 実家の両親は、大丈夫だろうか?

 

 嫌な予感がした。



 ある日、実家の両親から電話があった。


 何事だろうかと受話器を取ると、両親はのんびりした様子で訴えた。


 今年はいつもの業者から連絡がなかったので気にしなかったんだけど、ここへ来て問い合わせたら、食料が売り切れていた。何とかならないだろうか。というのだ。


 いつも業者とは、菱田食品のことだ。

 AZ関係者の親族が登録されていて、優先的に食料を売ってもらえたのだ。


 一般の店では、例年の倍から三倍の値段になっている米や野菜が、AZ関係者に限ってリーズナブルに買えた。

 ここ数年、食料が不足しそうなときは、菱田食品から事前に連絡があって、代替食料の予約をしていたのだ。




 事務的なことは、大滝たちに任せっきりになっていた。

 だから、AZが、メンバーの活動を支えるため、親たちの生活までサポートしていたことを、今の今まで忘れていた。




 大輔がAZを離れたので、両親の登録が抹消されたのだ。

 

 食料の総量も限られている。袂を分かった元メンバーの両親の面倒まで見られないのだ。



 お前は、もっと計算高いと思ってたんだ。移住することで得られる利益より、恋や夢を選ぶと思わなかった。



 遠山の台詞が頭の中を駆けめぐった。





 田所院長は、入院患者や施設入所者の食料の心配をしていた。

 何とか食料を手に入れようと、事務長が東奔西走した。


 だが、田所院長や事務長がどんなに頑張っても、必要な食料の半分も入手することができなかった。




 工藤は焦った。


 仮に、病院や施設に必要な食料が十分あれば、その一部を両親に回してもらえる。

 それなのに、その必要分さえ足りないのだ。


 何とか、食料を両親に回して欲しい、と院長に頼んだが拒まれた。

 

 院長にすれば、入院患者や入所者を減らすことは、病院経営や施設経営に影響が出るのだ。

 ひいては、病院や施設の存続に関わる大問題になる。


 逆に、菱田商事や菱田食品に顔が利く大輔に、何とか食料を回してもらえるよう頼んでくれないか、と頼まれた。



 AZと決別した大輔に、菱田商事や菱田食品、特に岩崎が良い印象を持っているはずがない。



 

 大輔は、頭を抱えた。




 近い将来、世界的な規模で食料不足が起きる。そのとき、食料自給率の低い日本は、大きなダメージを受ける。


 AZで聞いた話を思い出した。


 

 遠山のシミュレーションがそうはじき出していた。


 大輔は、真由子との結婚話に舞い上がって、軽く考えていた。



 後悔しても始まらない。

 

 病院や施設のことはさておき、田所家や両親の食料を何とかしなければならない。


 世間知らずの両親は、あの分不相応な豪邸の庭に畑を作って農作業に励んでいた。

 だが、慣れないせいで効率も悪く、労力の割には収量が少ない。


 何とかしなければならない。




 AZと決別した経緯を知っている岩崎が、頼みを聞いてくれるとは、到底思えなかった。

 



 家付き娘の妻の真由子は、この冬、二人目の赤ちゃんを産んだ。

 折からの食料不足の影響で、二千グラムしかない女の子だ。


 食料不足のあおりで新生児の死亡率も増えている。

 粉ミルクも品薄で入手できない。育つかどうか微妙だった。


 今年だけじゃない。ここ数年の異常気象で米や野菜の収量がおちていた。

 子供たちのためにも、食料を確保しなければならなかった。




 AZ村には、米も野菜も肉もミルクもあるというのに、ここには何もないのだ。


 大輔は、妻の真由子に田所家の庭にイモや南瓜を植えるよう提案した。

 

 真由子は、ヒステリーを起こした。


「乳飲み子を抱えてるのよ。農作業なんかできるはずがないじゃない。

 そもそも、あなた、AZにいたんでしょ?

 菱田商事とAZの仲は有名だったじゃない。どっかにコネがない?」


 確かに、乳飲み子を抱えて農作業なんかできないだろう。

 しかも、上の子だって、まだ三歳で手がかかる。


 だが、言うに事欠いて、菱田商事に口をきけというのは無茶だった。


 俺とAZを喧嘩別れさせたのは、お前とお前の父親だ。

 

 そう言いたいのを必死でこらえた。


 何と言っても、お嬢さま育ちの家付き娘(この場合、病院付き娘)だし、自分で望んだ結果なのだ。

 

 平和なときには可愛い我が儘も、非常時にはわずらわしいだけだ。


 黙って書斎に籠もって食料確保の方策を検討した。

 

 とりあえず、庭に畑を作ることにした。

 大輔だって、元AZだ。見様見真似で、やれないことはないだろう。

 



大輔の嫌な予感が当たり、食料危機になります。AZと別れた今、どうやって生き抜くか、大輔は苦悩します。

頑張れ、大輔!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ